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夢野三杉編・あとがき

 とりあえずこの辺で終了になります。

 「七式探偵七重家綱」という作品の面白さに感銘を受け、『もしも六人の人格が暴走して家綱にも押さえきれなくなったら?』という漠然としたアイデアからスタートした物語でしたが、なんとか一つの落とし所を得て、書いている側はほっと胸を撫で下ろしています。


「通常は前後篇、重要な話は上中下の三部構成」という本編の構成に倣い、当初はこちらも「前後編」で終わらせる予定で話を組んでいたのですが、

 前半分だけでかなり文章が長くなり、本来家綱を読まれている読者の方々が億劫になるのではないかと考え、急遽全編と中編に分割し、残りを全て後半に回すと言う策を取りました。

 まぁ、そのせいで後編で分割が効かず、かなり長丁場になってしまっているのですが。


 非常に悪役のキャラの立った小説を制作するにあたり、”原作に埋もれないような悪役”を創作しなければならず、構想は非常に難航しました。

 ”家綱の人格が暴走する”というアイデアありきでやっていたので、一時期悪役は没個性的でいいよねと考え、当たり障りのないやくざみたいなものを想定していたのですが、作者のシクルさんとツイッター上でお話しているうちに「”殺す”とか”死ね”とかそういうことを一切言わない”セールスマン”が敵に回るのはどうだろう」というアイデアが突然降って出て、そこからばらばらになっていた”やりたいこと”を全部繋げて行きました。

 アイデアや執筆動機こそ家綱の人格の暴走ですが、お話自体は”川瀬(かわせ)違留(たがる)”という馬鹿馬鹿しいキャラクタのための小説ですね、あらゆる意味で。

 彼を立てる関係で依頼人二人についてはほとんど掘り下げないかナレーションで済ませていますし。探偵もの小説なのにこんなのでいいんでしょうか。

 盛り上がりや登場人物のセリフのほとんどに至るまで、家綱というかただの自分の文章だし。

 家綱読者の皆様には申し訳ない気持ちでいっぱいです。


 謎解きの面白さよりもテンポ重視でシナリオを組んでいたので、証拠辺りはあらかた適当です。

 とはいえ、裁判を本筋の中に組み込んでいるのに証拠周りが適当なのはどうなんだ? というご意見もごもっとも。

 いえ、考えていなかったわけじゃあないんです。それなりに理由付けはしていたんです。

 ですが一々表記するとテンポを削いでしまうのではないかと入らぬ心配をしてしまい、結局カットしてしまいました。

 せっかく後書きという体裁を取っているので、後編に挿入する予定だった”動機や証拠の意味”その他の入った台詞部分をここに掲載してみようと思います。

 時系列的には、下・冒頭で夢野と家綱たちが語り合う辺りになるかと思います。


◆◆◆


「ところで……、一つ聞いてもいいですか? 三杉さん」

「はい、なんでしょう」

茉都梨(まつり)さんが殺人罪で裁判にかけられていることは聞きました。ですが、一体どのような経緯で逮捕されたのですか? 」

 恥ずかしいことに、ボクたちは今の今まで″茉都梨さんが何故捕まったのかを聞いていなかった。

 クロスチェンジャーの一件もあったし、ボクも家綱も証拠だけ見付けて引き渡し、後は彼が雇った弁護士に一任しようと思っていたからだ。

 三杉さんは「私こそ今まで説明を省いていてすみません」と頭を下げ、事の次第を説明し始める。


「家内は元気盛森コーポレーションの上級会員でした。それこそ、社長である盛森満と共に他の会員や、一見の客を取り込もうと各所を回るほどに。ある日、家内は「しっくりしくる」と言うテーブルクロスを売りに、昔馴染みの友人の家に行きました。ついで買いをさせるためにいくつかの商品を準備して、です」

 三杉さんは出されたお茶をあまり美味しくなさそうな顔をして飲み干して言葉を続ける。

「家内がテーブルクロスを鞄から出そうと、視線を友人の方から外したその一瞬、ほんの一瞬です。その方の胸に深々と″包丁″が突き刺さり、叫ぶ間すらなく命を落としたのです。周囲には誰もおらず、包丁の柄には家内の指紋がはっきりと」

「それで、断定となったんですね。でもそれって」

 疑い様なくあなたの奥さん、茉都梨さんが悪いじゃないか、と言おうとしてボクは口をつぐんだ。

 まだ″大変なこと″の詳細を聞いていないし、余計なことを口走っていらぬ争いを引き起こすのは無駄だと思ったからだ。

 しかし、言葉にせずとも三杉さんにはボクが言わんとすることが読み取れたらしく、少し苛立った顔で言葉を続けた。

「ついているはずですよ。家内はその日、盛森コーポレーションの実演・体験販売の手伝いで包丁を握っているのですから。それを指紋を拭かずに回収すれば、あるいは」

 実演販売で握った包丁を用い、目にも止まらず気配も感じさせずに人を殺す。普通の人なら何を馬鹿なことをと笑うだろう。法廷じゃあ到底通用するとは思えない言い訳だ。

 だからこそボクには確信が持てた。そんな馬鹿みたいな話で本当に人を殺せるような人物。川瀬違留。あの男以外にあり得ない。

「そこまで分かっているのなら、そのことを警察や弁護士に話すべきです」

「無駄ですよ、あの会社には同じ包丁は何本もある。そんなもの、どうやって証明すればいいんですか」

 なるほど、そうかとボクは声を上げた。あの中で繰り広げられていた会話。あれは盛森と茉都梨さんが実演販売をしていたときの音声だったのか。

「三杉さん、それならなんとかできるかもしれません」

「なんとかできる、とは一体」

「証拠があるんですよ。それを証明できる証拠が。でも、今は盛森組側に奪われていて……」


◆◆◆


 見事に後付けです。後半を書きはじめるまで事件の全貌をほとんど考えていなかったのはクラスのみんなには内緒だよ。


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