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詩集

開かずの間

作者: ロースト

開かずの間


 心を部屋と考えるとするなら、僕には開かずの間とも言うべき扉がある。

 それがなんなのか、僕は知らない。部屋の奥に何があるのか分からない。

 鍵はかかってるだろうか、かかっていないのだろうか、それすらもわからない。


 それは禁忌の扉。決して開けてはいけない、感情の扉。

 自分で開けることは叶わず、なのに、突発的に容易く開く扉である。

 それを完全制御するものはない。いや、いるはずがないのだ。

 本来、人間とはそのようにつくられている。

 そして、この扉は感情の扉の中でも、本来、本能に近いものを司る扉である。


 そう、本来は。

 本来的にはその扉を故意に開くことは出来ない。が、現代の技術力では、それすら操れる。

 いや、技術力というのは正確ではない。

 どちらかといえば、言霊による、相手の感情の誘導というのが相応しいように思われる。


 しかし、相手の感情の誘導にしたって、必ずしも思ったようにいくわけではない。

 それは当たり前だ。個人というものがあるのだから、人によって、言霊による影響も違う。

 相手がどう受け取るかは多少差異が出てしまう。

 その差異を最小限に失くすとしたら、その人物について詳しく知る必要がある。

 その上、注意深く感情の変化を読み取らなければならない。


 だが、それにしたって、自身でもわからないような感情を他人がわかるはずもない。

 察することは出来ても、詳細や、その奥に隠された感情まで読み取ることは不可能だ。


 そう、限りなく可能に近くても、可能ではなく、不可能であるのだ。

 これは仮定の話で、実際に起こったか、起こるかは、わからない。

 だが、問題定義するとしたら、の話だ。


 もし、もし、完全なまでに他人の感情がわかってしまう人がいたら。

 もし、もし、完全なまでに自分の感情に制御と偽りができる人がいたら。

 そしてもし、そんな二人がどこかで、いつか、出会ってしまったならば、

       ―――それは、どういう事態を引き起こすのだろうか。


 たとえばそれは、世界を巻き込んだ、大事になってしまうとか。

 たとえばそれは、いつまでも平行線な言い合いになってしまうとか。

 たとえばそれは、無意味で空虚な会話をただ純粋に楽しんでしまうとか。

 たとえばそれは、不毛でしかなく、痛々しさを感じるような決定だったり。

 たとえばその話が、もし、現実になってしまったなら、

 そしてあなたが、その当事者の一人だったなら、どうしますか。


       ―――それは、可哀想なことだと思いませんか。


 自分の感情を偽ることしか出来なくて、本心を明かせない。他人に知ってもらえない。

 自分の悲しさも、楽しさも、辛さも、何もかもを偽るしか出来なくて、余計に偽ることをしてしまう。


 相手の感情が伝わってしまって、自分は相手の気持ちを知ってしまう。相手が自分に何を思っているか、何を考えているか、わかってしまう。

 自分に対する絶対的な信頼感だったり、裏切りを含む感情だったり、悲しみを伴っていたりするのを、故意ではなく、わかってしまう。

       ―――そんな二人が会ったなら、どう思う?


 自分の偽った感情を、偽りだと見抜かれて、見透かされて、居心地悪くなるだろう。

 それは皆が思うこと。すごいと思っても、それは一時に限る。すべてがすべて見透かされるのは気分が悪い。だからといって、都合のいいものだけ見透かすというのも無理な話だ。しかも、自分の感情を制御し、偽れるなら、余計に嫌だろう。自分の嘘が、通じない。

 そして見透かすほうも、相手が感情を偽るならば、その感情は嘘なのだから、見透かすわけではないけれど、いつも『嘘をつかれている』とわかっている状態なのだ。気分がいいわけがない。そして、見透かすのを望んでいたわけではないけれど、見えていたものが、わかっていたものが、見えなくなったり、わからなくなったりしたら、不安になる。


 それならば二人とも躍起になるのは当然の事といえよう。

 それは必然である。

 つまり、二人が出会った時点で、それは必然であり、こうなることは予想できる、当然決まっていたことである。


 ならば、この後、二人がどうなるのか。

 それは予想できるだろうか。

 それは否。

 運命なんてものは決まっていないし、

 これまた個人、どう思うかも、どう行動するかも、予測不能である。

 それは感情によって、未来は決まるからである。

 結局、本当に感情を制御することも、偽ることも出来ないのである。

 結局、本当に感情を理解することも、わかることも出来ないのである。


      ―――それが、結局のところの終焉であり、物語の最後である。


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