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【連載版】スパダリ騎士令嬢ナサニエルは拗らせ殿下の婚約破棄を許さないー今日も私の婚約者はバカワイイー  作者: 空飛ぶひよこ


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嫉妬しとしと

「この尻軽女っ! お前のような多情な女は、私の婚約者として相応しくない! やっぱり婚約破棄だ! 婚約破棄!!」

「そんな、アレス殿下。私に会いに教室までいらしてくださっただけでなく、ウィルソンに嫉妬までしてくださっているなんてっ……。ナサニエルはもう、感無量です!」

「な……だ、誰が嫉妬なんてっ」

「ご安心ください。世界中の誰よりも、私にとってはアレス殿下が一番お可愛らしいですよ。ウィルソン如きが、殿下に敵うはずはありません」

「だから、そういう話をしているわけじゃっ」

「……何でここで、俺が貶されなきゃいけねぇんだよ。完全に、もらい事故だろ」


 置いてきた後ろでウィルソンが何か言っているけど、無視だ。無視。今は目の前のアレス殿下との、久しぶりのお話に集中したい。

 ……ああ、こんなお近くで顔を合わせるのなんて、結界の魔道具をもらった時以来じゃないか。少しお痩せになったか? 隈が濃くなっていないか?

 ああ、殿下。第二部隊にまんまと嵌められて、ご心労をおかけした愚かな私をお許しください。もう二度と、同じ過ちは犯しませんので。


「ちょっと、あの男、ナサニエルに対して、態度が悪過ぎない? 髪と血だけはライオネル似だけど、それ以外はさっぱり似ていないし!」

「まさか、あれがナサニエルの主なの⁉ なんでナサニエルは、あんな奴に忠誠を捧げてるのよ!」

「……ディエス。ノクス。君たちがどう思おうと勝手だけど、この方に危害を加えたら、私は絶対君達を許さないからね。私にとっては、誰よりも大切な御方なのだから」


 殿下とのお話に集中したかったけれど、さすがにこれは聞き逃せないので、横目で二人を睨みつけて牽制する。たとえこれが原因で二人から嫌われたとしても、こればっかり譲れない。

 アレス殿下こそが私の指針であり、殿下を幸福に導くことこそが私の使命なのだから。


「ああ! その強い意思が宿った、眼差し! ライオネルにそっくり!」

「たとえ精霊相手でも、臆さず主を守り抜こうとする精神! まさにシエルそのものだわ!」


 ……まあ、当の本人達は嫌うどころか、うっとり蕩けているわけだけど。私のこういう所を気に入ったわけだから、当然だと言えば当然だけど、同調した方が嫌われるとか罠にもほどがあるよね。

 深く考えず、ありのままで接すればいいわけだから、そこまで難しい対応ではないけれども。


「――アレス殿下。そんなことをおっしゃる為に、わざわざ騎士科の教室にいらしたのですか? 王太子様から、放課後まで接触を禁じられているのに? リンゲルを撒いてまで?」


 精霊たちによって中断された、アレス殿下と二人だけの時間は、ゴードンの絶対零度の言葉によって完全に消失してしまった。


「……ち、違……」

「ならちゃんと当初の目的を果たして、自分の教室までお戻りになってください。俺が送っていきますので」

「ちょ、ちょっと、ゴードン。せっかくここまでいらしてくれたアレス殿下に対して、冷た過ぎやしないかい?」

「お前は黙っていろ、ナサニエル。学園生活の間だけだと思って目を瞑っているが、そもそもお前がアレス殿下を甘やかすのが悪いんだ」

「……うっ」


 殿下の側近候補であるゴードンとリンゲルには、いつも迷惑を掛けている自覚があるだけに、ぐうの音も出ない。

 ああ、でも、アレス殿下を見てくれ! ゴードンに冷たく注意されて、しょんぼりされているお姿の、お可愛らしいこと……! 全力で甘やかしてさしあげたくなっても、仕方ないだろう⁉

 ただでさえきゅんきゅんとうるさい心臓は、追い打ちの殿下の一言で、鷲掴みにされた。


「……ナサニエル。お前が無事な姿を、この目で確かめておきたかったんだ」

「⁉」

「お前が……無事で、良かった」


 ……ちょ、ちょ、ちょっと待ってください……幸せ過ぎて、失神してしまいそうなのですが⁉


「ちょっと、ナサニエル! そんな幸せそうな貴方のお顔、初めて見たわ!」

「ずるいわ、ずるいわ! あの人ばっかり! ……でもそれくらい主への想いが強い、ナサニエルが好き!」

「そんな風にまっすぐに人を想える、心の強さが好き!」


 ……もう君達は、私だったら何でもいい域に入っているよね。私もアレス殿下だったら何でもいいから、気持ちはわかるけれど。

 呆れたような視線を精霊たちに向けると、何故か殿下は切なそうに顔を歪めて、私の視線の先を見た。


「……そこに、初代騎士王の精霊がいるのか」

「あ、はい。私にしか見えませんが」

「初代騎士王の聖霊じゃないわ。シエルの聖霊よ!」


 頬を膨らませてぷんぷんと怒っているノクスの頭を撫でて宥め、当然の如く反対の手の下にいたディエスの頭も撫でていると、何故か一層アレス殿下の顔は暗くなった。


「……本当にお前は、伝説の剣の主に選ばれたのだな」

「え?」

「なんでもない。……お前の元気そうな顔を見たから、教室へ戻る。ゴードン。すまないが、ついて来てくれるか」

「もちろんです。俺は貴方の護衛騎士ですから」

「あ、なら私も一緒に……」

「お前は残れ。ナサニエル。殿下との接触を、これ以上人目に晒すな」

「……そうだね。ごめんよ。考えが浅かった」


 殿下の暗い顔が気になったけど、この件はどう考えてもゴードンの方が正しいので、謝罪と共に引き下がる。

 殿下との接触が放課後まで禁じられていたのは、王太子様との面会で今後の方針を決める前に私と殿下が顔を合わせることで、学園の生徒に要らぬ憶測が広がるのを防ぐため。  

 学業や学園の規則を優先すべきという王太子様の配慮で、面会は今日の放課後に決まったが、本来ならば停学処分より先にご報告に上がるべきことなのだ。伝説の剣の主に選ばれたという立場は、それだけ政治的に重い。

 先ほど殿下とのやり取りはいつも通りの戯れだったし、そもそも騎士科には政治に深く関わる家の者もいない為ギリギリセーフではあるけれど、これ以上の接触はアウトだ。久しぶりにアレス殿下の顔を見られたことで、浮かれすぎていた。

 ゴードンと共に殿下が去って行くのを切ない気持ちで眺めていると、いつの間にか近くに来ていたグレゴリーが深々とため息を吐いた。


「……第三王子のお前への態度も大概だが、お前もお前だな。ナサニエル。ゴードンの言う通り、男を甘やかして駄目にする女の典型だ」

「うるさいな。グレゴリー。これでも、甘やかして良い範囲は、見極めているつもりだ。本気でアレス殿下が道を踏み外しそうなら、私は命がけで止める」

「だからこそ、第三王子はお前限定で拗らせているんだろうが。気づけ」

「気づいているけど、学生時代だけなら構わないだろう。卒業後はちゃんと改めるさ。……というか、何か君、やたら不機嫌じゃないか。さっきまではいつも通りだったのに」

「第三王子を前にすると、途端にお前がつまらん女になるからだ」

「私の人生は君を楽しませるためのものじゃないから、放っておいてくれ」


 グレゴリーは不満げに鼻を鳴らして、そのまま席へと戻って行った。

 ……気のせいかな。グレゴリーの態度が、玩具を取られて拗ねている子どものように見えるのは。いやいやいや、相手はあのサイコパスグリズリーだぞ? さすがにそれはないだろう。

 ちらりとグレゴリーの行った方に視線をやると、ウィルソンの姿が目に入った。陰口を言われてもさして堪えている様子もなかったウィルソンは、入学初日の時のように、否、もしかしたらそれ以上に不機嫌そうな表情を浮かべて、そっぽを向いていた。……アレス殿下の方がずっと愛らしいと言ったのが、そんなにショックだったのかな?


「……もしかして、あの二人って」

「しっ……ナサニエルが気づいていないのだから、黙っていましょう」

「ただでさえ、ナサニエルの心はデンカでいっぱいなのだから、他は入れたくないものね」

「ナサニエルが私達の好きなナサニエルでいる為だから、デンカは仕方ないけれど、残りは全部私達のよ」

「「だってナサニエルは、私達の主だもの」」


 ……敢えて声をこちらに聞こえないようにしているみたいだから、ディエスとノクスが何を言っているかわからないけど、悪だくみはしていないと思いたい。


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