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【連載版】スパダリ騎士令嬢ナサニエルは拗らせ殿下の婚約破棄を許さないー今日も私の婚約者はバカワイイー  作者: 空飛ぶひよこ


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二人の聖霊

「幻影だったのか? ……それにしては、ずいぶんと攻撃がリアルだったけども」

「いや。攻撃自体は確かに本物だった。これは、恐らく付与魔法の応用だ。木片に全属性の魔法を付与した上で、さらに自身の意思で判断して攻撃ができるような、自律行動回路まで組み込んだんだ。いわば、付与魔法による、疑似生命体の創造だ。人間ではまず不可能な技術だな。……面白いな。何とかこれを人間の技術で、応用することはできないだろうか。対価が必要な召喚術を使わずに済み、さらに普段の世話も餌の供給も必要ない、疑似生命体が使役できたなら。大規模な戦闘において、非常に役に立つぞ。出来上がったのが先ほどの大蜘蛛とは比べ物にならんほどの、劣化版だとしてもだ」


 木片の前にしゃがみこみ、興味深そうに考察を続けているグレゴリーから背を向け、ウィルソンのもとへ向かう。

 ウィルソンは今だ弓を構えた体勢のまま、はあはあと荒い息を整えていた。


「……風魔法で補助、しなかったんだな」

「君の弓を信じているって、言っただろう」


 ……まあ、ちらっとその考えが過ったことは、言わずが花だな。


「ほら。見ろ。やっぱり、私の言う通りだったろう? たとえ家柄を失ったとしても、君には騎士として生きる才能がある。だから、何も嘆く必要なんてないんだ」


 そう言った瞬間、ウィルソンは泣き笑いのような表情を浮かべた。

 ……おやまあ。グレゴリーといい。今日は珍しい表情ばかり見る日だな。


「いつもそう言う顔をしていたら、私も君を可愛いと思えるのに」

「は? お、俺は男だぞ! 可愛いなんて言われても嬉しくもなんともねぇよ!」


 残念ながら、ウィルソンの可愛い顔は一瞬にして霧散し、元のうるさい駄犬に戻ってしまった。

 ……やっぱり、キャンキャン吠えても愛らしいのはアレス殿下だけだな。仕方ない。殿下のあの愛らしさは、神が与えたもうた才能だ。ウィルソンに、再現できるはずもない。


「……何か、お前。すげぇ失礼なことを考えてねぇか」

「世界の真理について、考えていただけだよ」


 ウィルソンも、すっかり元の調子に戻ったようで何よりだ。ハプニングだらけの遠征だったけれど、結果的にはこれで良かったのかもしれない。


「さあ、今度こそ帰ろうか」


 結局高位存在が何を試したかったのかは分からなかったけど、先ほどまであった壁が消えて道が戻っているということは、試し行為は終わったということなのだろう。

 合格なのか、お眼鏡に叶わなかったのか。わからないけど、今はそれよりも早く帰りたい。

 もしかしたら、ルークが戻って来ていて、私とグレゴリーの不在に気づいているかもしれないし。大騒ぎになる前に、生存とグレゴリーとの間には何もなかったことの証明を済ませたい。……朝まで戻らないと、今度は洞窟の中で致したなんて言われかねないからな。いや、さすがに魔物の巣窟でそれは無理があるか。


「グレゴリーも。考察はその辺にして、早く外へ……」


 ――その時、再び耳元で声がした。


『――あの采配に、統率力』

『やっぱりあの子は、あいつ似よ!』

『違うわ、見たでしょ、水魔法』

『あの子はやっぱり、あの人似!』


 ……わ、私が、誰似かで喧嘩している?

 耳元で聞こえる少女たちの声は、さらにヒートアップしていく。


『違うわ、あいつよ。――ライオネル!』

『違うわ、あの人。――シエルだわ!』


 ……正直、騎士王ライオネルのことじゃないかとは、薄々気づいていたけど。

 もう一人が言う、シエルって。ドレー家の初代当主のことじゃないか……!


『どっちに似てるか、確かめましょう』

『直接話して確かましょう』

『『ここに招いて、確かめましょう!!』』

「っ」

「ナサニエルっ!」


 突然足元に出現した穴に、落ちていく私に、ウィルソンが焦った顔で手を伸ばしている。

 異変に気付いたグレゴリーも、必死の形相でこちらに走って来ていた。


「ナサニエルーっっっ!!!」


 ……ああ、本当に。今日は珍しい表情を見る日だな。


「君もそんな表情ができたんだな……グレゴリー」


 呟いた言葉は、闇に溶けて消えた。

 そのまま私は、底のない暗闇の中へと一人、沈んでいった。




『……エル』

『ナサ、ニエル』


 暗い暗い闇の中、誰かが泣いている声が聞こえる。


「……ア、レス殿下……」


 この愛らしい声を、私が聞き間違えるはずがない。

 暗闇をかき分けるようにして、泣いている殿下の姿を必死で探す。

 どうして泣いてらっしゃるのですか?

 何かお辛いことがあったのですか?

 殿下を害すものがいたならば、ナサニエルが仕返ししてさしあげます。

 過去を思い出してお苦しいのなら、ナサニエルがお傍で慰めてさし上げます。

 だから、どうか泣かないでください。

 貴方が悲しんでる姿を見るのは、自分が傷つくよりも、ずっとずっと苦しいのです。


「ああ……殿下。そこにいらっしゃったのですね」


 暗闇の向こうに、おぼろげながらもその姿を見つけて、安堵する。

 だがそのお姿が鮮明になるにつれて、目を見開いた。


『何故、私を残して死んだんだ! ナサニエル!!!』


 アレス殿下が、私の死体にしがみついて泣いてらっしゃったから。

 死んだ?

 私が?

 アレス殿下を残して?


「――そんな現実、私が許すわけないでしょうっっっ!!! もし死んだとしても、幽霊になって必ず殿下のお傍に寄り添い、殿下をお守りしてみせますぅぅぅ!!!」

「「あ、起きた」」

「っ⁉」


 怒声と共に飛び起きるなり、目の前に白と黒の相似の少女の顔があって、ぎょっとする。


「ごめんね。闇魔法で空間を繋げる方法でしか、招けなかったの」

「闇魔法の空間を通ると、人間は悪夢を見るって忘れていたの」


 霧がかった不思議な空間の中で、白銀の髪の少女が気まずそうに眉を八の字にし、漆黒の髪の少女が服の裾をきゅっと握る。

 10歳くらいの見かけの彼女たちは、白と黒の色違いの揃いのデザインのドレスを纏っていた。


「ああでも本当……シエルそっくりの魔力だわ」


 黒髪の少女がうっとりと、私に抱き着いた。


「貴方、シエルの子孫なのね。シエルを奪った女は憎かったけど、貴方に会えたのは良かったわ。この魔力と、この血の気配。とってもとっても懐かしいの」


 黒髪の少女から引きはがすように、白銀の髪の少女が反対側から抱き着いてきた。


「血と魔力より、魂よ! お日様みたいにきらきらで、ライオネルによく似てる! 切れ長な目も、高いお鼻もそっくりよ」

「シエルの主は金髪よ! この黒髪に、この口もと。私の愛するシエル、そっくり! だいたいシエルの主とこの子は、血がつながってないじゃない」

「ドレーの坊やは、もっと女顔! 血のつながりは、関係ない。魂似てれば、見かけも似るもの!」

「……一応初代当主は男の方で、私はこれでも女なんだけどね」


 初代当主の方が女顔だと言われると、非常に複雑な気分だ。

 私の言葉に、少女たちはそろってきょとんとした表情を浮かべた。


「性別なんか、関係ないわ」

「好きか嫌いか、それだけだもの」

「もしかしなくても……君たちは、騎士王が所有していた剣に宿る、高位精霊なのかな?」

「ええ。私はディエス」

「私はノクス。でも、騎士王の剣と言われるのは複雑だわ」

「私はライオネルが一等好きで、ドレーの坊やもまあまあ好き」

「私はシエルが誰より好きで、シエルの主は嫌いじゃない」

「ライオネルが大好きだから、剣として仕えたの」

「シエルが頼むから、仕方なく仕えたの。……本当はシエルが、良かったのに」

「あなたは半分」

「半分ずつ似てる」

「ライオネルと半分」

「シエルと半分」

「好きは半分?」

「それとも二倍?」

「「わからないから、試させて」」

「……もう、試したんじゃないのかい?」

「「似てることしか、わからなかった」」

「それって多分、剣の主になる為の試験なんだよね? 辞退することは……」

「「駄目」」

「駄目、かぁ……」


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