表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】スパダリ騎士令嬢ナサニエルは拗らせ殿下の婚約破棄を許さないー今日も私の婚約者はバカワイイー  作者: 空飛ぶひよこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/32

ナサニエルの誤算

 450年前。小国同士が絶えず血を流し合う戦乱の世を、剣で終結させた男がいた。彼の名はライオネル・エリュシア。――エリュシア王国の、初代国王陛下である。

 彼は王になっても騎士であり続け、死の前年まで戦場を駆け抜け続けたと言われている。

 ライオネルの持っていた剣は、最上位の精霊が宿っており、主と認めたライオネルの為にあらゆる魔法属性を剣に宿し、その戦いを支援し続けた。だが、ライオネルの死と共に剣も眠りにつき、今に至るまで見つかっていない。

 これはエリュシア国民ならば、幼子に至るまで知っている建国伝記。もっとも、大規模な戦争が行われなくなってからは、騎士の地位も失墜し、ライオネルの腹心だった初代ドレー家当主、シエル・ドレーの意思を受け継ぐ私達一族だけが、その名残をとどめているのだけど。


「ここだけの話ですが。当時のことを詳細に記した文献が、二十年前に王家の隠し倉庫から見つかったようでして。ここに来る前に見た、東の洞窟。あそこに初代国王の剣が眠っていると記してあったのだとか。まあ、剣は主を選ぶ故に、この二十年間、誰もその剣を見つけられていないようですが」

「……ほお。眉唾の可能性もあるが、なかなか興味深い話ですな。それで、明日はその剣を捜索に、洞窟へ行く、と」

「いえいえ、まさか! 洞窟の中は魔素が濃く、魔物の強さも外の森とは段違いです。グレゴリー辺境伯令息だけならともかく、今日初めて魔物を倒したばかりの他のお二人を連れて行くことなんてできませんよ。そもそも、私の実力では、一人であっても洞窟内の魔物を倒せない可能性が高いですから」

「それは残念ですな。伝説の剣とやらを拝めるものなら、拝んでみたかったのだが」


 したり顔で腕組みをするグレゴリーの脇で、眉を顰める。

 ……ルークは何故、こんな話をした?

 世間話の体で、私が一人で洞窟に行くように誘導しているのか? だとしたら、あまりにも愚かな目論みだ。

 魔物討伐初心者の私が、魔物のレベルも中の構造もわかっていない洞窟に、一人で出向くはずがないだろうに。

 三角鹿の筋張った肉を嚙み締めながら、横目でルークを睨みつける。


「……ただの世間話ですよ。ナサニエル様。そう、いちいち警戒なさらないでください」


 ルークはそんな私に、ひどく胡散臭い笑みを向けた。


「まだ一学生の貴女達が洞窟に入った所で、すぐに魔物に殺されるのがオチです。巷に出回っている創作英雄譚のように、伝説の剣から運命的に主に選ばれるなんてありえませんから」


 ……本当、いちいち癪に障る男だな。このキツネ騎士は。

 だからと言って、挑発に乗せられる気なぞ、毛頭ないけれども。




 夕食の材料を片付けた後は、洗浄魔法が付与されている札で全身を綺麗にして、各テントに分かれて就寝する。

 日が落ちたらすぐに就寝し、薄闇の中起きて支度、日の出と共に出発するのが、騎士の遠征での基本のスケジュール。普段に比べて就寝には早すぎる時間であっても、すぐに眠りにつけるようではなくては、騎士は務まらない。


「おやすみなさい……アレス殿下」


 殿下からもらった結界の魔道具をひと撫でして、寝袋にくるまって目を閉じる。用心の為に、剣は枕元に置いておくことにした。

 初めて魔物を殺した興奮はあったけれど、そういった類の興奮のあしらい方は、刺客との戦闘で慣れている。大きく深呼吸して、心を落ち着かせているうちに、すぐに眠りは訪れた。


 眠りに落ちてから、どれくらい経った頃だろうか。

 テントの入口が開かれる気配と共に、私は枕元の剣を抜いて飛び起きた。


「――淑女のテントに、許可なく入らないでくれたまえ。グレゴリー」

「なんだ。弱い結界しか張っていないから、てっきり夜這いに誘っているのかと思ったぞ」

「そんなわけないだろう。これは全て、アレス殿下への愛ゆえだ」


 剣先を突きつけられてなお、平然と肩を竦めるグレゴリーに舌打ちをしながら、抜いた剣を鞘に納める。


「それで一体、何の用だ。本当に夜這いに来たわけじゃないんだろう」

「お前が望むのならば本当にしてもいいんだが……って、冗談だ。ナサニエル。ちと困った事態が発生してな」

「困った事態……?」

 その割にはひどく楽しそうなグレゴリーに、嫌な予感がした。

「ウィルソンが一人テントを出て、戻って来ない。どうやら、伝説の剣を探しに洞窟に行ったようだ」

 ――あのばかああああああ!!!!


「ああ、ナサニエル様! 大変なことになってしまいました。私の監督不届きでウィルソン様が……私があんな話をしなければ!」


 頭を抱えて本気で嘆いているように見えるルークを、私は半目で睨みつけた。

 ……あんな話をしなければって、最初からそのつもりで、このキツネ男は伝説の剣の話をしたに決まっている。そんな話に引っ掛かるほど、ウィルソンが愚かだとは思わなかったが。


「……嘆いている時間はありません。すぐに救出に向かいましょう」


 ウィルソンが自発的に洞窟へ向かったのを理由に、救出という名目で私達も洞窟に行かせて、罠にかけるつもりなのはわかっているんだ。

 それでも何もしなければ、ウィルソンは死ぬ。

 だから罠だとわかっていても、ここは乗るしかない。

 そう思っていたのに、ルークから返ってきたのは意外な言葉だった。


「いえ! ウィルソン様だけでなく、お二人まで危険に晒すことはできません! 私は今から森を出て救援隊を呼んで参りますので、お二人は安全なこの場所に留まってください」

「え? しかし……」

「昼間の討伐でお二人の実力は存じていますが、それとこれは別問題。これは引率騎士としての責任問題なのです。どうか救助関係は私に任せて、お二人は安全な結界の中で待機を!」


 そう口にするルークの表情があまりに真剣だったから、私は混乱した。

 ……もしかしたら、策略でも何でもなく、本当に想定外の事態だったのか? 私がうがち過ぎていただけで?

 私が何も言えずにいる間も、ルークは出立の準備を始めていた。


「それでは、私は救援の手配をしてまいります! もし朝になっても私が戻らない時は、お二人で森を脱出してアーノルドと合流してください。くれぐれも危険な夜間には、動かれないようにお願いします。貴方達の御身に何かあれば、私はパウエル副団長や辺境伯様に顔向けができなくなりますので」


 焦ったようにそう言って、一人夜の森を駆けて行くルークの姿は、実直な騎士にしか見えなくて。私はただ唖然と立ちすくむことしかできなかった。

 ……私はルークが第二部隊というだけで、色眼鏡で見てしまっていたのか? だとしたら、もっと人を見る目を養う必要があるな。

 しかしそんな反省は、一拍置いて周囲に響いたグレゴリーの笑い声で、すぐさま打ち消された。


「――はーはっはっは!!! 見事に嵌められたなぁ。ナサニエル。まさかこんな方法を使って来るとは、オレも完全に予想外だったぞ。やっぱり、王都は面白い。辺境では淘汰されかねん弱者が、頭と口先だけで、お前のような強い女を出し抜くのだから」

「……どういう意味だ?」

「明日以降、社交界での話題の主役はオレとお前だということだ」


 その言葉で私は、ようやく何が起きたのか気がついたが、既にもう遅すぎた。


「お前はたとえ男に襲われたとしても撃退できる自信があるから、軽く考えているのだろうが。事実はどうであっても、学生とはいえ成人年齢を迎えた男女が、一晩二人だけで過ごしたことを、世間はどう思うのだろうな? ナサニエル。なるほど、確かにルーク『は』、お前を傷つけるつもりはなかったようだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ