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壱 結、東京へ行く

「結、東京に行け。」


談笑しつつ夕食を食べていると、じいちゃんから唐突にそう告げられ、一瞬箸が止まる。東京。東京か…一面ガラスのビルや車が沢山あって、ここから遠く離れた街である事は分かるが、逆に言うとそれ以外の知識は殆ど無い。物心ついた時から一度も出雲市より外に出た事がない俺にとっては全く未知の世界であり、興味が湧いてくると同時に疑問も浮かんだ。


「何故東京なんだ?」

「そうじゃな、詳しく言うと結には祓妖學園(ふつようがくえん)に通い、祓妖師になってもらおうと思っておる。」

「祓妖學園?」

「うむ。東京にある祓妖師の学校じゃよ。」


祓妖師(ふつようし)─その身に宿る妖力を用い、妖魔を祓う者。じいちゃんも、その界隈では名を馳せた有名人だったらしい。今は隠居していて、こうして出雲市の端にある神来社(からいと)神社で俺を育ててくれた。ちなみにじいちゃんは昔から見た目が今の俺より少し年上くらいなまま変わってないが、どういう仕組みなのかは一度も説明してくれなかった。そして俺もそれで困るわけじゃないし、追求もしないまま今に至る。


「分かった、なら行ってくる。」

「おおおおお待て待て待て、明日じゃ明日。こんな時間に新幹線があるわけないじゃろ。」


早速行こうと立ち上がったところでじいちゃんに止められてしまった。まあ確かに、荷物も持たずにこの身一つで行こうとしたのは早計だった。反省。


「しかし学校か……一応じいちゃんや望月さんから読み書きとかは習っていたが、大丈夫だろうか?」


ちなみに、望月さんというのは数年前から神来社神社の巫女として働いており、俺の世話もしてくれた女性だ。普段は麓の街で暮らしており、毎回山を登ってここまで働きに来ている。そんな彼女のスタミナには毎回感心させられている。


「便宜上學園を名乗ってるだけで、厳密には祓妖師になる為の訓練をするところ、養成所じゃよ養成所。」

「そうなのか…あ、でも望月さんから学校に入るには試験をしないといけないと昔聞いたが……」

「結は無いぞ。儂がコネで入れさせたからの。」


こね?何か捏ねたのだろうか。まあ、それで學園に入れるなら気にしなくても良いだろう。


「それと、祓妖學園は全寮制じゃからな。持っていく荷物はしっかり考えるんじゃぞ。ま、お主なら着替えが数着あれば大丈夫じゃろ。」

「ああ、分かった。」

「さて、儂は食い終わったから先に寝るぞ。結も早く支度して明日に備えるんじゃぞ。」

「分かった。おやすみ、じいちゃん。」

「うむ、おやすみ。」


じいちゃんは立ち上がって食器を纏めた後、廊下へ出て自室に戻っていく。結も夕食を食べ終え、食器を片付けて自室に向かい、支度を始める。大きめのカバンを引っ張り出して着替えを詰め込んでいき、支度を済ませて布団を敷き、眠りにつく。そして翌朝。着替えて朝食と歯磨きを済ませた結は出発しようとしていた。


「學園までの道のりはこの紙に書いてある。」

「ありがとう。」

「それと、これを。」

「これは……」


じいちゃんから竹刀袋を受け取る。ずしりとしたこの重さ、多分倉庫にしまってあった真剣だろう。


「管理には気を付けるんじゃぞ。あとこれも渡しておく。」


竹刀袋に続き、一冊の小さな手帳のようなものを受け取る。


「それが学生証じゃ。絶対に失くさぬようにな。」

「分かった。」

「気を付けてな。」

「ああ。じいちゃんも元気で。」

「うむ。」


じいちゃんに見送られ、鳥居をくぐって山を下りていく。こうして俺─霧臥結(きりふせ むすぶ)は祓妖師になるべく、祓妖學園を目指して出発したのだった。

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