第5話【復活祭】妹とマネージャーの策略で俺の復活祭が始まりそう【全員ガチファン】
「――Z様。まだ皆さんには黙っておくんですか?」
妹の美羽に耳元で囁かれたその言葉に、俺は思わず体を硬直させた。
「……なんでお前、それ知って……」
美羽はにこにこと、小悪魔的な笑みを浮かべながら答える。
わからない。何故・・・?いったいどんな理由で・・・・・・
「兄さんの部屋から、ずっと聞こえてましたよ?
Zの配信。地声と一緒に♪」
「……そんな古典的なバレ方してたの!?!?!?……さすが当時中3の俺……」
そんな俺の狼狽をよそに、美羽は満足そうに鼻歌まで歌っている。
おい、やめろ。どんだけ楽しそうなんだ。
そこに、部屋の奥から三人の声が聞こえた。
「ねえ、さっきから何話してるの?」
美羽が、俺のほうをチラリと見てから、さらっと言った。
「実は兄さん、伝説の配信者“Z様”だったんですよ♪」
「……は?」
しずくがぽかんと口を開ける。
すみれも目を見開き、ひなたに至っては完全にフリーズしていた。
「え? あの“Z”?あの伝説の……?」
「嘘でしょ!? え、でも……声が……」
「間違いないですよ♡」
美羽は得意げに微笑んで、さらに追い打ちをかけてくる。
「私はずっと一緒に暮らしてましたし。
毎晩、部屋から配信の声、聞こえてましたし。
Z様が機材トラブルで叫んでた声も、咳払いしてた音も、ぜーんぶ覚えてます♡
皆さんよりも、Z様のこと――一番近くで見てたんです♡」
……いや、なんだその言い回し。どこでそんな煽り文句覚えた。
ていうか何バラしてんの!?!?!?
なんでこいつ、めちゃくちゃマウント取ってんだよ……!!!!!
頭を抱えている間に、空気は着火した。
「……でも、私だってZが好きだった!!」
先陣を切ったのはしずくだ。
「あの軽快で笑えるゲーム配信スタイル、今でも参考にしてます!
特に“ノーデス縛りで実況しながら雑談する回”、あれ神回でした!!」
「・・・・・・私も好きだったよ」
すみれも負けじと続く。
「Zの声って、マイク越しでも優しくて……
歌の動画、すっごく良かった。」
俺が口を開く間もなく、ひなたも食いついてきた。
「私も……Zの配信きっかけでASMR始めたの!!
“囁きながら鼓膜ぶち抜かれた・・・・・・」
ぶち抜かれないでくれ。
ツッコミも追いつかない。
気づけば、この部屋はZファン同盟の集会所と化していた。
「ちょっと待ってくれ!!」
思わず叫んで立ち上がる。
「今の俺はZじゃない! あれは……中三までの話だ!!」
俺は事の顛末をなんとか言い並べる。
「だってさ!? ほら、あるじゃん?
昔さ〜、下手くそな“歌ってみた”とか上げて、
今見るとマジで爆散したくなる、ああいうやつ!!
Zって、俺にとってはそういう黒歴史なんだよ!!」
「軽っっっっ!!??」
全員から、息ぴったりのツッコミが飛んできた。
「いやいやいや!? そのノリでZを語らないでくれる!?」
「“伝説の配信者Z”が、ただの“中二の黒歴史”だったとか言い出すのおかしいでしょ!?」
「ていうか今、歌ってみたをアップしてる人全員に喧嘩売ったよね!?」
「“爆散したくなる”とか言うな!! 当時めっちゃバズってたんだよ!?!?」
「つーかあの時の編集、普通に今でも教科書だぞ!? どういう自己認識してんの!?」
「いや……あの……ちょっと盛ったっていうか……」
四方八方から飛んでくる“総ツッコミ砲”に、完全に俺は防御不能。
しばらく沈黙が続いたあと、ひなたが口を開く。
「じゃあさ」
「……?」
「じゃあ、せめて……配信の相談とかのってもらえない・・・?Zのアドバイスがあればもっと良い配信になると思うの・・・いや絶対なる。」
と、しずく。
「私も・・・」と、すみれ、ひなたも続く。
「……ちょ、お前ら……」
ふっと、場の空気を支配するように、美羽が口を開いた。
「何を言ってるんですか皆さん、そんなの勿体ないですよ」と美羽。
嫌な予感しかしない。
「だって――」
美羽はスマホを取り出すと、その場でスピーカーモードに切り替えて、通話を始めた。
「――もしもし、岸本マネージャー?
今兄さんが伝説の配信者Zであることを、認めてくれました♡
これで【伝説の配信者Z復活計画】を進められそうです♪」
「ちょ、おい!?!?!?!?は? 岸本って……まさか……」
「私、オルビス所属で担当マネージャーは岸本エリカさんです♪」
・・・そうだった。VTuberゼトはオルビス所属だった。
オルビスプロダクション。最大手の配信者事務所。
・・・そしてかつての俺、「Z」もオルビス所属だった。
しかもその時のマネージャーが「岸本エリカ」だった。
岸本エリカ__
VTuber界隈でその名を知らぬ者はいない、伝説の女軍師。
配信者育成・戦略構築・炎上処理・バズ量産……なんでもござれの鬼マネージャー。
この人の考える企画、戦略はすごいものだが、人を言いくるめるスキルがとんでもない。俺はZを引退する時に相当揉めたものだ。
あれ以来俺はこの人が苦手だ・・・。
何をさせられるかわからない。未だにZ復活の打診を続けてくるし・・・
それがまさか美羽を経由してまでやってくるとは・・・・・・やはり恐ろしい女軍曹だ・・・・・・
「おう、美羽。よくやった」
スマホのスピーカーから、豪快で低めの女性の声が響く。
「――よう、久しぶりだなZ。」
「……お久しぶりです。っていうかあんた何考えてんだ!?
俺は復活する気ないって言ってるじゃないですか!!」
「がははは!
お前みたいな逸材を逃す訳ねーだろ!
美羽を使ってずっとその時を狙ってたんだよ!」
「なに? ハンターなの?ていうかしつこいよ!!!俺はもうZに戻るつもりはないって言ってるでしょ!?!?」
「お前の意見なんて聞いてないが?」
「いや聞けよ!!!」
そんなやりとりをしていると、美羽が口を開く。
「岸本さん?しかも今面白いことに電脳戦線のアイアン・レディ『ゲーム配信者のドロプレット軍曹』、バブみの錬金術師『ASMR配信者のささやきメルちゃん』、蒼炎の歌姫『ANE』」、大人気配信者たちが我が家に集合しているんです♪実は皆さんZ様の同級生だったみたいで。」
「がははははは!なんだそりゃあ!面白いことになってるじゃねーか!!!」
「Z!お前やっぱおもしれーよ。こりゃあ、いい機会だ。
とりあえず今お前の家にいる配信者、全員連れて明日事務所に来い」
「は……は???」
「ドロプレット軍曹、ささやきメルちゃん、ANE――
あいつら全員、オルビスの下部組織の事務所所属だ。
今後は全員こっちで引き取るから、よろしくな」
「オルビスプロダクションこわすぎんだろ……!!
なんなんだよこの人脈囲い込み……マフィアかよ……」
「い・・・一体なにをする気ですか……まさか……」
「想定してたより**盛大な“伝説の配信者Z復活祭”**ができそうだな!!
がはははは!!!!!」
――硬直する俺。
「……俺、どうなっちゃうの!?!?!?」
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