第3話【誤爆】甘々囁きボイスの正体、よりにもよって体育会系ヒロインだった件【正体バレ②】
文化祭中に起きたまさかの配信事故――VTuber「ドロプレット軍曹」の正体が、まさかの幼馴染!?
……いやいや、驚くのはまだ早い。
次にバレたのは、あの体育会系ヒロイン。
その甘々囁きボイス、耳に覚えがあると思ったら――
俺だけが知ってしまう、裏の顔ラッシュが止まらない。
正体バレ②、はじまるぞ。・・・はじまっちゃう。
観客席がざわついている。
ざわつきというか、もはや笑いと興奮の渦だ。
「マジで配信切れてなかったんだ」「ドロプレット、地声あれ?」「ツンデレ幼馴染属性www」
講堂の巨大スクリーンに映った“ドロプレット軍曹”のアバターは、既に音声が止まり、映像もフリーズしている。
やっと配信が切れたらしい。
でも俺はまだ混乱の中にいた。
全身がじんわりと熱い。
さっきまで画面越しに見ていた推しが、まさか幼馴染で――って、そんなのアリかよ。
「……真中くん」
PA卓の横から声がして、ハッとする。
司会を務めている早乙女ひなたが、スマホを片手に真剣な顔で立っていた。
「今のドロプレットの件で、完全に空気が変わっちゃってる。みんな笑ってるけど、ざわついてて、次の演目の入りとしてはちょっと難しい雰囲気なの」
確かに、客席のテンションは変に高くなっていた。
文化祭の演目とは関係ない“外の話題”で盛り上がっている感じだ。
「次の演奏に入る前の場つなぎで、空気を学校側に引き戻したいの。だから……これ、使って」
そう言って、彼女は自分のスマホを差し出してきた。
「全国大会で勝ったときの短距離走の競技動画。インタビューとかも載ってる。これなら“学校のこと”だから場も戻るし、間も持つ」
俺は深く息を吸って、頷いた。
「わかった。接続する」
スマホを接続し、映像ソースを確認。
ファイル名は「sprint_movie.mp4」。
「準備できた?」
「ああ、すぐ出せる」
「えー皆さん! ちょっと機材にトラブルがあったみたいですね!
盛り上がっているのはいいんですけど……折角の文化祭! 学校の事で盛り上がりましょうよ!」
「という事でなんと私、先日の陸上短距離走の全国大会で優勝しちゃったんです!
次の演目までの間、そんな私のスーパー格好良い優勝した時の動画をご覧くださーい!
しかも優勝インタビューなんかもされちゃってます! そちらの様子もどうぞー!」
「すげー!インタビューとかも受けてるのか~!」
「しかもぶっちぎりの1位だったらしいよ! 格好いいよね~!」
「これは楽しみ!」
……観客の反応も上々だ。
さすがは早乙女ひなた、ナイス判断。
俺自身まだ“ドロプレット”の件は動揺をおさえきれないが……
とりあえずは観客を学校側へ意識を戻させて、空気を変えないとな……
早乙女は自身のスマホを操作し、動画を再生した。
彼女のスマホはPA卓のPCに接続済み。
カモン早乙女の格好いい走り姿……!
……が、その瞬間。
スクリーンに流れ始めたのは、インタビュー映像ではなかった。
『……今日もいっぱいがんばったね〜。えらいね〜。
じゃあ、今日は特別に耳元で……ご褒美、あげちゃおっか♪』
甘ったるい、囁き声。
耳元にささやくような、明らかにASMR音声。
!?!?!?
なんだ!?!?!?
俺は脳内の処理が追い付かない。
なにこれ!?!?!?
一瞬の静寂ののち、観客の反応が爆発した。
「なんで今度は“ささやきメルちゃん”!?」「えっ、“ささやきメルちゃん”流す流れ!?」「文化祭、どうなってんのwww」
その場の誰もが、単なるミスか悪ノリだと思って笑っている。
俺はすぐさま音声を切り、スクリーンとの接続を解除した。
「……やべっ、間違ってたのか、これ……?」
ホッとしかけたその瞬間。
PA卓のPCモニター上で、再生がまだ続いているのに気づく。
ヘッドホンから流れてきたのは、さっきまでの甘い囁き声ではなく、いつも通りの明るくて元気な声だった。
『よし! 今回のASMR、めっちゃ上手く録れた! 保存っと!』
……その声は。
間違いなく、早乙女ひなた本人の声だった。
「……嘘だろ……」
という事は、先程までの“ささやきメルちゃんボイス”での甘々囁きボイスは、
“早乙女ひなた”が囁いていた事になる……
じゃあこのファイルは要するに“ささやきメルちゃん”の甘々囁きボイスの【編集前のもの】という事か……?
は?どういう事!?
その瞬間、足音がビュッと近づいてくる。
ステージ上にいたはずの早乙女ひなたが、ありえないスピードでPA卓まで駆け寄ってきた。
まさに陸上部全国優勝の脚力。
音速の如く、目の前に現れる彼女。
「真中くん、今の……ファイル……最後まで聞いてないよね?」
最後までというのは、
“よし! 今回のASMR、めっちゃ上手く録れた! 保存っと!”
という早乙女の地声の部分の事だろう……
肩で息をしながらも、目だけは鋭く、逃げ場を与えない圧を放ってくる。
「……いや聞いちまった。お前……“ささやきメルちゃん”なのか……?」
「……お願い。絶対、誰にも言わないで」
普段の明るさは消え、声はひどく小さい。
けど、必死だった。
「バラしたら、引きずり回すよ……」
早乙女ひなたは見たこともない赤面具合でそう言い放った。
いや赤面で言い放つセリフじゃねえ……
なにその脅し文句……
陸上短距離走の日本チャンピオンに引きずり回されたら
摩擦とかで一瞬で消滅しちゃうんじゃね……?
怖すぎる。
囁き甘々ボイスの人どこ行った。
俺は無言でうなずくしかなかった。
なにこれ。この短時間で、しかも大勢の人に晒される形で、
“ドロプレット軍曹”に続き“ささやきメルちゃん”まで正体バレしてるんだけど……
しかも2人とも俺の知ってる奴ら……
それを何故か俺だけが知る形に…………。
二人目の“裏の顔”。
しかし文化祭のトラブルは、まだまだ続く――。
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