第1話【開幕】推しVTuberの中身、思ったより真面目だった件【正体バレ①】
今にして思えば――
ぜんぶ、あの配信切り忘れから始まった。
文化祭の講堂。俺の推しVTuberがステージに降臨。
盛り上がる会場。沸き立つコメント欄。
そして――終わるはずだった配信が、終わらなかった。
残されたのは、地声の独り言と、「そろそろ学校行こっかな~」という謎の発言。
……いや、それウチの学校だったんだよね。。。
しかもその声、めっちゃ聞き覚えあるんだけど!?
推しが幼馴染とか、聞いてねぇよ!!!
……で、これで終わりじゃなかった。
そのあとも、俺の知ってる女子たちの“裏の顔”がどんどんバレていく。
配信事故、音声誤爆、謎のファイル、まさかの歌姫降臨、しかもまさか一番身近なあいつまで。
気づけば俺だけが、知ってはいけない秘密に囲まれていた。
これは、そんな俺が、
“身バレした彼女たち”に
次々と巻き込まれていく物語。
笑ってほしい。俺は笑えなかった。
文化祭。
それは青春を謳歌するリア充たちによる、自己肯定感MAXのお祭りイベントである。
──などと、他人事みたいに思っていた文化祭の朝。
俺、真中陽翔は、講堂のPA卓──要するに音響システムを司るPCの前で、モニターとにらめっこしていた。
青春? こっちは汗と配線とエラー音まみれの裏方作業だ。
ここは都内の中高一貫私立校──奏美館学園。
学費がバカみたいに高いぶん、「夢」を応援するという方針で、文化祭や体育祭には容赦なく予算が投入される。
この講堂にあるPA卓だって、プロの現場かよってレベルの装備だ。
私立大学でもここまでの機材を使っているところは、なかなかない。
高校でこのレベルってのは、本当にレアだと思う。
でもこの学校の面白いところは、設備は揃えてくれるけど──使いこなすのは生徒次第ってところだ。
舞台で演奏するバンドやダンス発表も、自分たちで演出や照明を考える。
当然、それを裏で支えるPAも、生徒主体で運営される。
誰もやりたがらないけど、俺は違う。
注目されない仕事かもしれないけど、機械いじりが好きな俺にとって、このPA卓に触れられるってだけでラッキーだ。
こんな環境に通わせてくれてる親にも、まあ感謝してる。……大変だけど。
「……配線チェック完了、マイクA、テスト」
「問題ない」
隣にいるのは、天音すみれ。同じクラスの女子生徒。
小柄で色白、青みがかったロングヘアー。
前髪にかかるメガネからは、切長の目を覗かせる。
氷細工のような繊細さを連想させる不思議な雰囲気だ。
彼女は普段から必要最低限のことしかしゃべらないけど、仕事は速くて正確。
ちなみに俺たち二人は高校2年生。
PA係に志願したというより、押しつけられた側。
でも、天音も俺と同じで機械系は得意っぽい。
無言でキーボードを叩く手つきに、ちょっとした親近感を覚える。
……こいつ自体がちょっと機械っぽい。
さて、観客席は満員だ。
講堂ではステージ発表の真っ最中。
司会を務めているのは、陸上部のエース・早乙女ひなた。
背が高くてショートカット。明るくて活発で声がよく通る。
まさに「健康的な美人」という言葉がぴったりの人物だ。
体育会系のノリで場を回しつつ、段取りもしっかり把握していて、文化祭実行委員としても優秀。
ステージではダンス部の発表が終わり、次の演目の準備に入った。
そして──
今回の文化祭で、俺が一番力を入れて準備した企画が始まる。
VTuber“ドロプレット軍曹”による、文化祭スペシャル配信。
実は、俺が学校に企画書を出して許可を取った案件だ。
「ドロプレット軍曹の配信を、講堂で中継したい」
その理由は、シンプルだった。
今一番勢いのあるVTuberを呼べば、文化祭が盛り上がると思った。
……それに、正直に言えば、俺の“推し”でもあるからだ。
でもこの企画は、俺の個人的な興味で動いたわけじゃない。
奏美館学園は「夢を応援する」校風を掲げている。
やりたいことがあれば、生徒会を通して予算申請ができるし、条件さえ整えば、外部と連携した取り組みだって許可が下りる。
VTuberの学園公認配信なんて、前例はないけど──俺は、あえて提案してみた。
そして、通った。
つまり、今日は奏美館学園史上初の“ネットアイドル公式出演”イベントだ。
配信が始まる。
スクリーンには、軍服姿のアバター“ドロプレット軍曹”が映し出される。
銀髪ツインテールのアバター。
鋭い赤い瞳に、軍服を模した黒と赤の制服。
手には指揮棒を持ち、口元には常に勝ち気な笑みを浮かべている。
その姿は、まるでどこかの軍隊の指揮官。
ドロプレット軍曹は、堂々とカメラを睨みつけながら開口一番こう言い放った。
『は? 文化祭? なにそれおいしいの?』
>【いきなり喧嘩売ってて草】
>【開幕辛辣で安心した】
『リア充どもが青春ごっこでキャッキャしてる横で、私らはな?
日々血反吐吐いて鍛錬積んでんの。今日も心して聞きな?』
『夢とか努力とかいう前に、まず脳筋どもの演目に耐え切る精神力を鍛え直せ!
お前らの耳が腐ってないことを、今から証明してやるッ!』
その一言で、講堂がドッと沸いた。
観客席のあちこちから、抑えきれない笑いと歓声が上がる。
彼女のことを知っている生徒たちは口々に「来た来た!」と盛り上がり、
知らなかった生徒たちも巻き込まれていく。
>【全校生徒が豚になる瞬間】
>【これが文化祭開幕戦争……!】
「……調教されてんな、マジで」
思わず、俺はモニターの前で笑いをこらえた。
『起立、敬礼、絶望。いいかお前ら、今日は全員ボコボコにされる覚悟で臨めよ。
ドロプレット軍曹の訓練場へ、ようこそ。従順な豚ども』
コメント欄が即座に沸騰する。
>【ドロプレット様イエッサー!】
>【ぶひいいいい!しばいてください!!】
>【罵倒がご褒美なんです】
ステージ前の講堂客席もまた、それに呼応するようにざわめいた。
観客席のあちこちから、小さく「イエッサー……」という返答が漏れる。
異様な一体感。
『はーい、そこの味方ァ!その回復のタイミング、遅すぎな?
私の背中でサボってんじゃねえよ、従順な豚。
お前の存在価値は私の壁だって忘れんな』
>【壁になれて光栄です!】
>【もっと言って!お願いだからもっと踏んで!】
>【これが幸福の蹂躙……】
『てかさ、お前ら毎日毎日よくもまあ飽きずに被弾すんな。
“毎回死ぬ豚”としてギネス記録申請しとけっての』
>【死ぬたび好きになるんです】
>【MVP:Most Valuable Pig】
>【今日も無様でごめんなさい!!ぶひ!】
『……ま、そんな豚どもに付き合ってやるあたしは、慈悲深いってこと。
ありがたく泣けよ』
>【うれし泣きしながら土下座してます】
>【本日も心を折っていただき感謝です】
>【罵声がなきゃ始まらない!】
観客席では、ドロプレット軍曹と一緒に叫ぶ声が次第に増え始めていた。
「従順な豚どもー!」
「イエッサーッ!!」
舞台の照明も完全に“ライブ”モード。
スポットライトがアバターの動きに合わせて切り替わり、会場全体がバーチャル配信と一体化していく。
ペンライトを振る生徒、スマホでコメントを打ち込む生徒、歓声をあげて“推し”を叫ぶ声。
まさに、学園全体がネットライブと融合していた。
──そして、配信の終盤。
本来ならエンディング画面に切り替わるはずのタイミングで、画面は止まったままだった。
……なぜか、“ドロプレット軍曹”が残っていた。
>「あれ?終わらない?」
>「バグ?」
>「回線死んだ?」
アバターがぴくりと動き、ほんのわずかに視線を落とす。
マイクが拾う、小さな紙の音と──
「……どこだっけ……ノート……あ、あった……」
まるで誰かの独り言のような、柔らかい声が響く。
>「え?誰の声?」
>「これ、地声……?」
「開幕の挨拶……ちょっとかたかった……。
コールのテンポ、もっと自然に……」
カリカリとペンが紙を走る音。
ドロプレット軍曹のアバターは、まるで考え込むようにうつむいたまま。
コメント欄がざわつく。
>「反省してる……?」
>「何これ、台本?」
>「この人……めっちゃ真面目……?」
「次回は……2分30秒で“訓練足りてねぇぞ!”入れて……」
>「ドロプレットめっちゃ真面目じゃんwwww」
>「軍曹キャラどこ行ったwwwwww」
「よし、配信も終わったし、そろそろ学校行かないと。
自分の学校の文化祭にVの姿でLIVE出演するとか、なんか不思議よね。」
>「え?どゆこと?」
>「ドロプレット軍曹って奏美館の生徒ってこと!?」
コメント欄がざわつく。ものすごい勢いでコメントが流れる。
「ドロプレットこれから学校くんの!?」
「え!? ドロプレット誰だようちの生徒って事だよな!?」
「今日遅刻するやつって誰だ!?」
「係のない生徒は今日は登校時間自由だしわかんねえな……」
会場もざわつく。
……まさか、“ドロプレット軍曹”が、この学校の生徒?
会場も、コメント欄も、ざわつきを隠せなかった。
そんなリアルとネットの反応にも、配信の切り忘れにも気づかず、ドロプレット軍曹は喋り続ける。
俺は──その声と、その真面目さに聞き覚えがあった。
まさか、と思う。
そして次の言動で俺の疑念は確信に変わった。
「……今日のステージ、完璧だったよ。まさに“P.T.O.(ピー・ティー・オー)”だよね……ふふっ」
「P.T.O.──“パンツ・トラップ・オペレーション”。
中学の文化祭で、しずくがスカートで転んでしまったのを俺が瞬時に音響トラブルで隠した…あの時、しずくが感謝の意味で付けた謎の作戦名だ……」
VTuber“ドロプレット軍曹”は俺の幼馴染“音瀬しずく”だ。
俺の推しが幼馴染・・・!?まじかよ!!!
・・・けど今はそんなとんでも事実に加えて、あのバカ配信切り忘れて身バレしかけてやがる!!!
俺は急いで“音瀬しずく”に電話を掛けるのだった。
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