乙女ゲームを始めない
短編です、暇つぶしにどうぞ。
「やだ、私悪役令嬢になってる……」
鏡を見て茫然としていた。
えぇ、所謂異世界転生という奴です。
自分がやっていたとある乙女ゲームに登場する悪役令嬢に転生してしまった様です。
ふと鏡で自分の顔を見て『あれ?私こんな顔してたっけ?』という違和感を持ったら一気に前世の記憶がなだれ込んできた。
ちょっと立ち眩みをしてしまったけど意識はある。
この悪役令嬢ことマーガレット・シフォンは公爵令嬢であり王太子の婚約者、そして主人公であるヒロインを徹底的にいじめ抜く悪役令嬢だ。
「まぁ、気持ちはわからない訳でも無いけどね、ヒロインは父親が手を付けた平民の娘なんだし、私や母を裏切っていた訳だし」
ゲームやっていた時はやりすぎなんじゃないかな、とは思っていたけど、自分の身に置き換えたら同情するしか無い。
「さて、どうしようかしら……」
時間軸で言えばまだゲームが始まる前、舞台となっている貴族学院に入学するのは1年後の事だ。
当然だが私はまだヒロインには会っていない、お母様は父親の浮気に気づいていない。
「確か父親の浮気に気づいてショックで体を壊して亡くなっちゃうのよね……」
なんせお母様は生粋の貴族令嬢の為、ある意味世間知らずなのだ。
だから悪意という物に免疫が無くて精神的ストレスで亡くなってしまう。
そりゃあ間接的に母親を殺されたら憎むしか無いよね。
ただ、私は平和主義者である、出来ればバッドエンドは避けたい。
まぁ、元凶である父親はどうでもいい。
「よし、この1年でなんとかしよう」
私はそう決意し早速行動に移す事にした。
まず私はヒロインについて調査をした。
ヒロインは母親と共に街のパン屋で働いている。
私はそのパン屋さんに通う事にした。
「いらっしゃいませ、あ!マーガレットさん、今日も来てくれたんですね」
「こんにちは、エミリーさん。 美味しくてまた買いに来ちゃった」
「マーガレット様、またお一人で来られたんですか? 貴族のお嬢様がお一人で来られるのは危ないですよ」
「たまには抜け出したくなるんです、私だって人間ですからね」
通った結果、私はヒロイン親子と顔なじみになり仲良しになった。
最初は身分を隠していたんだけど仕草とかで貴族である事はバレた。
それで身分を明かしたんだけど私が余り貴族らしくない喋り方をしていたので今では身分とか気にする事は無くなった。
まぁ勿論父親が犯した事に関しては謝罪しましたよ。
エミリーは一応母親から聞いてはいたみたいだけど『私は私』みたいに気にはしていなかった。
そうそうヒロインってこんな性格だったよね、て思い出した。
あと、エミリーは転生者では無かったので一安心した。
「今度、お母様を連れてきても良いかしら?」
「えっ!? 奥様がですか?」
「安心してください、お母様には既に事情を話してあります、会って謝らせてほしい、と」
私がパン屋に通っているのをなんとなく察していたお母様、ある時遂に事情を聞かれた。
その時に私はお父様が浮気をしてしかも子供までいる事を話した。
情報源はメイドがヒソヒソとしていた噂話から、にしといた。
勿論、お母様はショックを受けたけど私はフォローした。
「悪いのはお父様です、お母様が気にする事は何もありません」
「でも、私に魅力が無いから……」
「お母様、お父様は自分にしか興味が無い方です。 このままお父様と一緒にいても何も良い事はありません」
母上げ父下げ発言をしたらお母様もだいぶ落ち着いた。
それで一度エミリー親子に会いたい、という話になった。
そして、私はお母様を連れてパン屋にやって来た。
勿論エミリーの母はお母様に会うのは初めて。
「申し訳ありません! ご家庭を壊そうなんて思ってはいなくて……」
「頭を上げてください、マーガレットと話して詳細を調べました。 貴女は被害者です、謝る事なんて1つもありません」
「あ、ありがとうございます……」
エミリーの母は涙ぐんでいた。
お母様も泣きそうになっていたし、とりあえず良かった。
私達は家族ぐるみで付き合うようになった。
とりあえずヒロインとはこれで敵対する事は無くなったのでこれで第一段階は終わった。
次の段階は父親への断罪だ。
「貴方、離婚してください。 貴方が私達親子を裏切っていた事は既にわかっています。 しかも何も援助もしないで放置していたんですよね? 人として最低です。 そんな方と今後の人生を歩みたくありません」
お母様はお父様に離婚届を突きつけた。
お父様は色々言ってきたがこちらには証拠もあるし証言もある。
程なくして離婚は成立し私とお母様は家を出て行った。
勿論、慰謝料は容赦無く搾り取りついでにエミリー親子への慰謝料も容赦無く取った。
おかげで公爵家の財政は傾き火の車になったけど知らん。
ついでに話が広まり貴族社会でも肩身が狭くなったらしいけど知らん。
私とお母様は一時期お母様の実家である侯爵家にいたけどお母様は職業婦人として自立する事を決意。
そこで頼ったのがエミリー親子のパン屋だ。
パン作りを1から学び将来的には自分の店を持つ予定だ。
パン屋も慰謝料のおかげで設備を改装してより美味しいパンを作る事が出来て繁盛している。
「そういえばマーガレットさんは王太子様と婚約していたんだよね?」
「その話なら無くなったわ、そもそも王太子様は乗り気じゃ無かったし」
まぁあっさりと別れたのはちょっと悲しかったけど。
結局最後まで私という人間に見向きもしなかったなぁ。
そして、貴族学院に入学する年になったけど私はエミリーと一緒に平民が通う学園に入学した。
平民でも試験を受けて合格すれば貴族学院に入学できるけどそんな面倒な事はしなかった。
で、結論からすれば王太子様、王太子を剥奪されて王位継承権も最下位まで落ちたそうだ。
成績も悪いし態度も悪い、有力な貴族からクレームが王家に届いて王様は容赦無く切り捨てたらしい。
学院も退学処分となり何処か厳しい修道院に入れられ再教育を受けているそうだ。
貴族時代に親しく今でも仲が良いとある貴族令嬢からの情報だ。
……なんであんな人好きだったんだろうなぁ。
まぁ、貴族ではなくなったけど破滅は回避出来たし周囲は幸せになれたし私的にはハッピーエンドである。