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▼第七話「血と戦の神」




 ユピテルの号令一下、地を揺るがすような鬨の声が上がり、一万の兵士たちは進軍を開始した。

 兵士たちは、ケラウノスの考案した、新兵器に対応した新しい行軍陣形をとりながら進んだ。斥候兵が前方を警戒し、弓兵隊が左右を固め、中央には歩兵と投石機、衝車が配置された。この陣形により、奇襲を防ぎ、あらゆる方向からの攻撃に対応するのだ。

 ユピテル自身はデミティターンズとともに前線を歩いていた。


 王都までは二週間の行程であったが、その道中には、いくつかのティターンの都市が点在しており、ユピテルはそれらを攻略しながら進むことを選択した。各都市を制圧することで、ティターン王都への補給路を断ち、敵の戦力を分散させる狙いがあった。


 道中、最初のティターンの都市が見えてきた。城壁に囲まれたその都市は、一見堅牢そうに見えた。ユピテルは新兵器の威力を試す、絶好の機会だと捉え、ケラウノスに命じた。


「ケラウノス、都市の守備兵力と城壁の構造を分析しろ」

『了解しました。——守備兵力は約五千。城壁は石造りですが、老朽化が進んでおり、一部に亀裂が見られます。投石機による攻撃で容易に突破可能です』


 ケラウノスの分析を受け、ユピテルは静かに頷き、手を高く掲げた。その合図を待っていたかのように、投石機部隊が鬨の声を上げ、配置につく。巨大な投石機は、幾人もの兵士によって操作され、重々しい軋みを上げながら、その巨大な腕を天に向けて突き上げた。それは、これまで人々が見たことのない、巨大な木と縄と石で組み上げられた異形の機械である。


 ティターンの城塞都市の守備兵たちは、城壁の上からその巨大な機械を見下ろしていた。彼らには、その時代を超越した兵器が何なのか、まるで理解ができなかった。ただ、その異様な姿は、守備兵たちに畏怖の念を抱かせた。


「あれは……一体何だ?」


 ある兵士が不安そうに呟いた。他の兵士たちも口々に疑問を口にするが、誰も解答を持ち得なかった。


 装填手たちが、巨大な岩を投石機の籠に慎重に運び込む。岩は、都市攻略のために特別に選ばれた、重く、硬いものばかりだ。その巨大さに、守備兵たちはさらに驚愕した。あんな巨大な岩を、一体どうやって運んだのか、そして、これから何が起こるのか、想像もつかなかった。


 準備が整うと、投石機部隊の指揮官がユピテルの方を向き、敬礼とともに準備完了を報告する。ユピテルは再び静かに頷き、右手を振り下ろした。


「放て!」


 ユピテルの号令が轟き、投石機の巨大な腕が唸りを上げて振り下ろされる。巨大な岩は、まるで意思を持ったかのように、空へと放り出された。

 最初の岩は、放物線を描き、物凄い勢いで放たれた。守備兵たちは、迫りくる巨大な岩を見て叫び声をあげた。巨大な岩が空を舞うという信じられない光景に、腰を抜かす兵も後を絶たなかった。まるで空から巨大な怪物が落ちてくるようだ。恐怖が、守備兵たちの間に急速に広がっていく。

 そして、ついに巨大な岩が、ティターンの都市を囲む城壁に激突した。轟音と共に、衝撃波が周囲に広がる。土煙と粉塵が舞い上がり、周囲は一時的に視界を遮られた。岩が激突した箇所は、まるで巨大なハンマーで殴られたかのように大きく凹み、ひびが蜘蛛の巣のように広がっていく。城壁の一部は、衝撃に耐えきれず、崩れ落ち、瓦礫となって地面に降り注いだ。


 守備兵たちは、目の前で起こった信じられない光景に、完全に打ちのめされていた。巨大な岩が城壁を破壊する光景、そしてその轟音と衝撃波は、彼らにとってまさに天変地異である。恐怖と絶望が彼らを支配し、戦意は完全に喪失していた。


 二投目、三投目と、投石は続く。岩が城壁に当たるたびに、轟音と衝撃波が周囲を震撼させ、城壁の亀裂はさらに大きくなっていく。崩れ落ちる瓦礫の量は増え、城壁の下には瓦礫の山が築かれていった。守備兵たちの間からは、悲鳴や叫び声が上がり始めた。彼らは、もはや戦うことすら考えていなかった。ただ、この恐ろしい機械が止まることを祈るばかりだった。四投目、巨大な岩は、先ほどまでの投石で弱っていた箇所に命中した。今度は、今までとは違う、一段と大きな音が響き渡る。城壁の一部が大きく崩落し、巨大な穴が開いたのだ。その穴は、兵士たちが突入するのに十分な大きさだった。


 土煙が晴れていく中、城壁に開いた大穴を目の当たりにした守備兵たちからは、絶望のうめき声が漏れた。投石機の圧倒的な威力は、彼らの心を完全にへし折った。


 ユピテルは崩れた城壁を見つめ、投石器の凄まじい威力に目を剝いた。なんという威力だ。これが、未来の兵器の力なのか——。


 そして、音量をサイキックで増幅し、都市に呼びかけた。


「武器を捨て、投降せよ!! 無駄に死ぬことはない!!」


 念動力によって拡張された音声が、雷鳴のように都市全体に響き渡った。それは、人々の心に直接語りかけるような、力強い響きだった。城壁の上では、守備兵たちが顔を見合わせ、戸惑っていた。彼らの多くは、まだ若い兵士たちで、実際の戦闘経験はほとんどなかった。目の前で起こった光景は、彼らにとってあまりにも衝撃的で、戦意を完全に喪失させていた。


 都市の中では、ユピテルの声を聞いた人々が、家から出てきて空を見上げていた。彼らは、崩れた城壁と、そこに立つユピテルの軍勢を見て、恐怖に震えていた。今まで見たこともない兵器によって、自分たちの街が破壊されたのだ。抵抗しても無駄だという絶望感が、彼らを包み込んでいた。


 しばらくの沈黙の後、城壁の上で、一人の兵士がゆっくりと剣を地面に置いた。それを合図に、他の兵士たちも次々と武器を捨てていく。やがて、城門が開かれ、都市の長老たちが白い旗を持って出てきた。彼らは、ユピテルの前にひざまずき、降伏を申し出た。


「我々は降伏します。どうか、市民たちを助けてください」


 長老の一人が、震える声で言った。ユピテルは、彼らを見下ろし、静かに言った。


「無抵抗の者には危害を加えない。約束しよう」


 ユピテルの言葉に、長老たちは安堵の表情を浮かべた。


 こうして城塞都市は、無駄な流血もなく、ユピテルの軍門に下った。ユピテルは都市の武器の一切を収奪し、武装解除したうえで、幾人かの人質を取った。そして、都市の占領後、略奪行為などを厳しく禁じた。

 この寛大な処置は、他の都市にも伝わり、その後の攻略戦を有利に進める要因となった。



 最初の都市を陥落させた後、ユピテルの軍勢は再び進軍を開始した。道中には、いくつかの都市が点在しており、ユピテルはそれらを一つ一つ攻略していった。


 二番目の都市は、最初の都市よりもいくらか規模が大きく、守備兵の数も多かった。しかし、投石器の破壊力の前には、無力であった。ユピテルは降伏勧告をしたが、この都市の首長は頑迷であり、ティターン兵に玉砕を命じた。ユピテルはその愚かさに顔をしかめた。失われる命の量を思い、心が揺らいだ。だが、結局は、後顧の憂いを断つために、容赦なく攻撃を行った。ここで慈悲を与えれば、背後から襲われかねないのだ。

 ユピテルの軍勢は、投石機と手榴弾の圧倒的な破壊力、そして進化した弓矢と戦術を駆使し、難なく攻略に成功した。その容赦のなさは、ティターン兵たちの間に恐怖を植え付けた。


 三番目の都市は、山岳地帯に位置しており、天然の要害となっていた。しかし、ユピテルはケラウノスの分析に基づき、迂回路を発見し、背後から奇襲をかけることに成功した。手榴弾を用いた奇襲攻撃は、敵兵に大混乱をもたらし、抵抗らしい抵抗を受けることなく、容易に都市を制圧することができた。


 各都市を陥落させるたびに、ユピテルの名はティターン領内に轟き渡った。「神の矢を持つ少年」「血と戦の神」など、様々な異名で呼ばれ、恐れられた。

 降伏を勧告された都市は、無駄な抵抗をせずに開城するようになり、ユピテルの進軍速度はさらに加速していった。



 一方、ティターン王都では、王ハイペリオンが、次々と届く敗報に苛立ちを募らせていた。


「またか! また都市が落ちたというのか!」


 ハイペリオンの激しい怒りが念動力を暴走させ、王宮全体が揺れた。部屋の調度品の一切が空を舞い、壁に叩きつけられ、無残に割れた。床に、数々の名品の残骸が散らばる。


 伝令兵は、震えながら報告を続けた。


「は、はい……次は都市エウリュケが……信じられないことに、城壁が、巨大な岩によって破壊されたそうで……」

「巨大な岩だと? 一体何のことだ!?」


 ハイペリオンは眉をひそめた。巨大な岩で城壁を破壊するなど、聞いたことがなかった。


「そ、それが……見たこともない巨大な機械で……空から岩を……」


 伝令兵は、言葉を濁しながら、見たこともない機械、という言葉を繰り返した。ハイペリオンは、その報告にますます不信感を募らせた。


「機械だと? 戯言を!!」


 ハイペリオンは、いい加減な報告をした伝令兵を、サイキックで宙に浮かべた。伝令兵は頭が爆ぜ、血をまき散らしながら死んだ。


 しかし、次々と届く報告は、同じ内容を伝えていた。巨大な岩が空から降ってきて城壁を破壊し、その後、見たこともない兵器で攻撃を受けた、と。


 ハイペリオンは、ついに事の重大さを認識した。これは、単なる反乱ではない。今まで経験したことのない、未知の脅威が迫ってきている——。

 そして重臣たちを集めると、重大な決定を伝えるために、その重々しい口を開いた。


「気は進まぬが、やむをえまい。『あれ』らを解放する」


(つづく)

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