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電光の魔術師(2)

「ぜぇ、はぁ・・・・・・

 九死に一生得たってとこかな」

 

 運河エリアに併設された飾りみたいな煉瓦住宅の死角。

 大量の宝箱型機械との戦いで息切れしてるナーシャが珍しく切羽詰まった様子で壁にもたれる。

 ポリステルタウンで消失した子供達を連れ戻し元凶を調査する為、招待されたエレンを追跡する形で歓喜の国と呼ばれる遊園地に乗り込んだ私達だが、カナの観察力と報告によってすぐさま敵判定にされてしまった。

 その直後に発生した遊園地の装置との戦いは無限増殖する事に気付いたナーシャが埒が明かないと程々に数を減らした後で離脱を指示したのである。

 ナーシャの判断は正しかった。

 実際、逃げる時も運河から現れた大量の宝箱型の機械が蓋に生え揃った鋭い牙を猟犬の様に剥き出しながら追跡して来て振り切るのが大変だった。

 あのまま殲滅を目標に戦っていれば最小限の被害で大幅に戦力が低下、最悪の場合は二人共、物量で押し潰されていた。

 でも収穫は苦労だけじゃない。招待された子供達を護る為、至る所に無尽蔵の防衛システムを忍ばせている遊園地の上澄みをこの戦いを通じて知る事が出来た。

 この遊園地はただの遊び場ではなく子供達に永遠の庇護を与える楽園でもあるのだと。

 そんな場所から招かれざる客と言われた以上、カナの警告通り、園内から出るまで厳しい逆風を浴び続ける事になるのだろう。

 

「悪いね、アリア。

 あたしが成熟した良い女なばかりに潜入がバレちゃって。

 エクソスバレーに自由に偉業を成し遂げた年代の姿に変身出来る制度があったら、あたしも簡単に変装出来るのにねぇ」

 

「ナーシャって子供時代、何してたの?」

 

「気の合う友人に囲まれひたすら勉学に励む至って普通の少女だった!!」

 

「じゃあ無理だと思う」

 

「だよね・・・・・・」

 

 死んだ魂がエクソスバレーに転移される際、ゲームのアバターみたいに形成される姿は生前で充実していた当時の姿だと推測されている。

 それを限りなく正解に近い形で証明しているのかナーシャの場合は通訳を初めてからやり甲斐を感じ始めた一年後の三十三歳の姿、アーテスト地方で出会ったスイはフィギュアスケートの大会で三位入賞した十五歳といった感じ。

 だから霊体の殆どは二十代から三十代の若さを保つ霊体が多く子供や老人の姿を持つ人はあまりみかけない。

 ちなみに子供の姿になっている人は成人になる前に命を落としたから、なんて残酷な理由があるらしい。

 今はタラレバで全ての防衛システムを敵に回してしまった現実を見て見ぬ振りしてる場合じゃない。

 

「見つかったけど潜入は出来た。それは褒めるべき。

 大事なのは自由に歩けなくなった遊園地でどうやって誘拐犯を見つけるか」

 

 カナの様子を見る限り、全ての子供達はマリーナに恩義を感じてたり心酔してたり色んな理由で彼女の味方である事は間違い無い。

 だから子供達を連れ戻すにはまず、マリーナを探し出して説得するか倒すのが先決だろう。

 私がこれからの行動指針を示すとナーシャは遊園地に入れば誰でも手に入れられるパンフレットをチラつかせながら悪童みたく笑う。

 

「決まってんだろ?

 正体がバレた以上、こっちも自由に堂々と片っ端からエリアを探し回る。

 そんで誘拐犯を見つけてとっちめる。

 実にシンプルだ。

 まずは運河エリアを捜索するよ。入口にあたる橋で本を読んで培った洞察力による聡明な少女の鋭い指摘が入って全く調べられてないからね」

 

 物陰から運河エリアの街の大通りを窺うと感情を解放させ行き交う子供達に混じって宝箱型の機械が警備員の役割を全うするかのように鋭く巡回する。

 全ての子供達が敵になったって割には侵入者の存在も気にせず遊んでる子もちらほらいるみたいだ。

 この遊園地を安全だと思い込んでるか、カナの報告を無視してるだけか。

 どちらにせよ巻き込まない為にも出来るだけ戦闘は避けないと。

 そう意気込んで散策しても生身の猟犬よりも研ぎ澄まされた五感を欺く隠密は鎮魂同盟を以てしても苦戦を強いられ、度々、子供達を巻き込みかねない交戦を発生させてしまった。

 蓋を限界まで開き俊敏に飛びついてきたり、地中や運河に潜み足を噛みつき強烈な拘束を齎そうとするなど宝箱型の機械との戦いは細部にまで気を遣わないといけないのに最悪なのはこれだけの苦労を重ねても尚、イタリアのヴェネツィアと海賊の拠点を組み合わせたような港町風の世界に収穫は無かった事。

 魚介のレストランにも目玉の船型スライダーにも誘拐犯と思われるマリーナに繋がりそうな手掛かりすらも無かった。

 再び園内を巡る関係者の目に付きにくい場所に身を寄せると宝箱型の機械との戦いで異様に溜まった疲労と運河エリアで何も見つからなかった徒労が押し寄せてきて私は少しだけ落胆を吐いた。

 

「ナーシャ、ちょっと、疲れた」

 

「ちょ、まだ一つしか見てないのにバテるのが早いって。

 まだ三つもエリアがあってこれからまた別の防衛システムと戦わないといけなくなるんだから入社して四か月しか経ってない新米君とはいえ弱音は控えて貰うよ。

 次は運河エリアの西にある都市エリアだ」

 

 ナーシャが隠し持ってた個包装のチョコを口に放り、パンフレットの案内で提示された方角に向かって歩くと小さな滝の音を境に水に囲まれた区画から一変して全てが湾曲で派手な色彩に染まったカートゥーン調の住宅街が現れた。どうやら無事に都市エリアに着いたらしい。

 透き通った運河が主役となるよう落ち着いた正統派のデザインの建物や設備が多かったさっきまでの運河エリアに比べると異なる色を二色以上使った丸みの多い住居や実用性に欠けた遊び心重視のヘンテコなオブジェが点在する普遍的な街とは乖離しているデザインの模倣都市は、言葉にしにくいけどいるだけで常識的な感覚や概念が歪められそうでワンダーランドに迷い込むとこんな感じなのかなと錯覚してしまう程。

 

「気を付けなよ、アリア。

 ゴミ箱代わりのポリバケツに乗り物の見た目したおもちゃ、道路の線ですら奇想天外なオブジェかもしれない。極力触らないようにして」

 

 都市エリアを利用する子供達の様子を観察すればナーシャの警告通りにオブジェを程良い力加減で叩いて住民であるマスコットキャラクター達を交えたコミカルな効果音や奇想天外な仕掛けを見て楽しんでいる。

 無邪気に喜ぶ子供達に対して保護者代わりになっていそうな年長者の女が声を掛ける。

 

「こーら、君達。今はここで遊ぶの我慢しなきゃだよ」

 

「えー、なんでー?」

 

「君達のスマホもマリーナの緊急連絡受け取ったでしょ?

 ドローンカメラで掴んだ痕跡を分析した結果、カナの報告で発覚した歓喜の国を破壊しようとする悪者が都市エリアにいる可能性が高いって。

 だからちょっとだけオブジェの稼働を我慢してそいつを炙り出そうって訳。

 ほんの少し、退屈になっちゃうけど私達を救ってくれた国を護る為と思ってね」

 

「分かった。俺、マリーナの国を壊されたくないから我慢する」

 

「僕もー。

 ・・・・・・望んでもいない勉強を強要されては他の大人や同年代の子供にも見下される息苦しい街には、戻りたくないよ」

 

 聞き分けの良い男達が女の後を追って離れて行く。

 その途中の彼らの会話を私は聞き逃さなかった。

 

「なー、今日ってキャッスルアドベンチャーに乗れるかなー」

 

「都市エリアで一番大きいお城の中にあるアトラクション?

 随分と気に入ってるんだね。毎日乗ってるでしょ?」

 

「乗ってる間も最高の体験なんだけどよ。ストーリーが好きなんだ。

 かつてマリーナがポリステルタウンで経験した過去を題材にしてるって言われてるだけあって懲らしめられるアンガーを偉そうに俺を虐げてた奴と重ねちゃ・・・・・・」

 

 ナーシャと出会ったばかりの頃、共闘したサソリのエッセンゼーレを探知する時と同じように気配を探ると都市エリアに残っているのは私達だけになっていた。

 なるほど。少しの間、エリアを閉鎖して子供を遠ざける事で中に私達しかいない状況を作り出す。

 そうすれば音やアクションを起こす設備全部が防犯センサーの役割を担い、私達の場所を確実に知らせてくれる。

 子供達がやってたのを見る限り、回避しやすい物から必ず踏まないといけない道のオブジェにも客側からシステムに干渉出来る機能は無かった。

 軽く触れて何かを起動させた時点で大音量が防衛システムを一気に呼び寄せ、あっという間に袋叩きだろう。

 完全に追い詰めた。向こうはそう思ってるかもしれない。

 

「おや、休憩ステージかな?

 音も出さずに歩くなんて朝飯前だよね」

 

 ナーシャの言う通り、正々堂々の突破より不意を突いて正体を認識させない戦法の方が得意な鎮魂同盟にとってスニーキングなど息をするように出来る。

 鎮魂同盟の全貌が謎に包まれているからと素人しかいない自警団の様な組織と決め付けていては私達を捕まえる事など出来ない。

 

「運河エリアで宝箱の奴に襲われた方がまだ応えた」

 

 せっかく子供達から有益な情報を得られた事だし、マリーナの過去が苦境の打開に繋がるかもしれないと思った私は城のアトラクションに真っ直ぐ向かおうと提案しナーシャの賛同を得た。

 隙もヘマも晒さずメインアトラクションが内蔵されてるペンキ塗れの城に到着。

 他の建物と比べても桁違いに豪華な城を眺めながらナーシャが聞いてくる。

 

「これに乗るって事はエリア内にあるオブジェよりも目立つ音や仕掛けを作動させて確実にあたし達の存在を晒す事になる。

 どんな障害にも対応出来るだけの休息は取れたかい?」

 

「バッチグー」

 

 待機列を正しく形成する為に用意された順路の柵の向こうの飾り付けやキャラクターの音声案内から得られる情報をまとめるに暴君の王を止めるストーリーを専用の乗り物に乗りながらなぞっていくライド型アトラクションらしい。

 芸術を愛する街で王様を務めるウサギ、アンガーは建物の色を事細かに指定したり気に入らない書籍を破っては作者を投獄するなど、とにかく都合のいい自分好みの街に変える為、色んな圧政を強いてくる。

 それに我慢の限界を迎えたライオンの主人公格、サンタ達が自由を求めて反抗に挑むのでゲストである私達に助けを求める、というのが大まかな筋書き。

 一度、非道の改善を訴えたものの我儘なアンガーの怒りを買い、出禁にされた彼らは歓待に招かれたゲストに紛れて同伴するって設定だ。

 わざわざ乗車せずとも歩いてアトラクション内を探索すれば気になる所をゆっくり観察出来るのではと問いかけたがいざという時に逃走するなら乗り物の方が速い合理性とせっかくのアトラクションを堪能しないのは勿体無いと二つの理由で断られた。

 アンガーの兵士に案内され、謁見の間に続く細い通路に進むと全自動で管理されていた真っ白な車がゲストの乗り口に合わせて停車する。

 ゲートが開いて乗車した後、安全バーに上半身を固定され架空の冒険に出る準備が整うと車が発進。即ち、アトラクションの始まりである。

 恐らく来客に虚栄を誇示する為の赤や金の布で飾った宝物庫の廊下を通り、アンガーが待つ玉座に向かう途中、サンタとガールフレンドのメリーがテンポ重視で語りかけてくる。

 

『自由を求める勇敢な友よ!!

 協力してくれてありがとう!!

 今日は記念すべき日になるかもしれないな!!』

 

『アンガーに反旗を翻すのは楽じゃないわ。

 だから危険を感じたらすぐに逃げて』

 

『大丈夫だ、話せばアンガーだって理解してくれるはず。

 それに暴力で訴え掛けて来たとしても君達に手出しはさせない。私の魔法で護ってみせよう』

 

『さぁ、いよいよご対面よ』

 

 階段付随の巨大なアーチ状の扉の前に着くと同時にサンタ達の会話が終わるとゆっくり扉が開き、アンガーが待つ謁見の間に通される。

 武器を構える兵士達に車から離れた場所に鎮座する玉座。どの城とも変わらない威厳に満ちた場所に甲高い声を上げながらコミカルに玉座に居座るのは王冠を被った球体の白い兎。

 

『わしの招待に応じてくれて感謝じゃ〜、選ばれし客人よぉ。

 メイド達にご馳走を作らせておるから暫し待つが良い。

 ここに来るまでに見たであろう細やかな配色まで拘った自慢の街はさぞ素敵じゃったろう?

 なにせ民達と協力して』

 

 ナーシャが街並みを褒めたらポリステルタウンの町長、ラヴェンヌが満更でも無さそうに自分達の街が一番美しいと思い込んでいた時を彷彿させるアンガーの一人語りを遮るようメリーが口を挟む。

 

『それは個人の意思を塗り潰して作った欺瞞の街よ』

 

『なっ、き、貴様らは!?

 出禁にされたからと招待客に紛れるとは・・・・・・』

 

 大量の署名が突如、積み上がる。

 恐らくアンガーに対する不満の形だろう。

 

『アンガー!!

 今日こそ民の心からの訴えに真摯に向き合って貰おう!!』

 

 サンタの訴えが直接ぶつけられるが結果は以前と変わらない。

 アンガーが脳内に浮かべたデザインを完璧に再現する絵筆を取り出すと署名を塗り潰しながら部屋中に撒き散らす。

 

『えぇい、荒れた地を住みやすくしてここまで発展させたわしに楯突くか!?

 なんの苦労も知らん奴が創作者に批判をするでない!!

 兵士よ、銃を構えよ!! こいつらを追い出すのじゃあ!!』

 

『まずい、また話を聞かない状態になってしまった。

 今は一旦逃げるんだ!!』

 

 兵士達がペイント弾を撃つ銃口をこちらに向けると同時に車が別の出入口を向き急発進。ペイント弾が発射し壁に付着する音を背に受け、車は謁見の間から離れて行った。

 こうしてサンタ達諸共、アンガーに仇なす反逆者の烙印を押された私達は仕事する従者を驚かせ、追跡する兵士達をサンタ達の魔法による手助けを受けて振り切りながら城内を駆け巡って行く。

 しかし大広間に着いた時、急展開を迎える。

 待ち構えていたアンガーが高所から覗き込んでいた時点で嫌な予感がしていたが、的中してしまう。

 

『もう逃がしはせんぞぉ!!

 貴様らも気に食わん作風しか作らん創作者みたく暗く冷たい牢に閉じ込めてやる!!』

 

 アンガーの魔法によって床に穴が空くと車は底の見えない空間に真っ逆さま。

 松明が照らされ僅かに視野を確保出来るようになると落とされた場所が水路が流れる牢屋に辿り着いた事が分かった。

 牢屋と言うからもっと劣悪な環境かと思ったら、ちゃんと清掃は行き届いているし投獄された人達(動物の姿)は好きな服装を許可されてるから現実と違い快適ではありそう。

 それでも絶望的状況に落とされた事に変わりないが同乗してるサンタ達は待機列の途中で動画で説明された作戦が順調に運んで嬉しそうだ。

 

『よぉし、ここまでは計画通りだ。メリー』

 

『えぇ。ハック、聞こえる?』

 

 メリーの呼び掛けによりダウナー気味の男の声が通信越しに聞こえる。

 エリアにあった紹介によればハックは確かヘビの男のハッカーだったはず。

 

『着いたか。作戦通り、牢の扉は既に解錠している』

 

 報告が終わると同時に全ての鉄格子が開かれ、中に閉じ込められていた囚人達が突然与えられた自由に困惑しつつも久しい外へ出て行く。

 

『相変わらず素晴らしい手腕だ。

 さぁ、みんな。今こそ抑制された私達の本心をあの独りよがりの王に叩き付けるんだ!!』

 

 サンタの言葉を受けて虐げられた人達が奮起する良いシーンが繰り広げられているが、私は一つ違和感を感じた。

 灰色の建物の骨格、生い茂る植物の緑、静かに流れる水の青。

 暗い色が中心の地下空間で異色に浮かび上がる赤と黄の風船。

 最初は収監された創作者の誰かが作った作品かと思ったけど、建物内部や周囲の飾り以外は3Dムービーで再現されてるアトラクションの中で異質だし徐々に車に近付いている気がする。

 

「・・・・・・くっ!?

 こんな時に安全バーが牙を剥くとは」

 

 ナーシャもそれに気付いた瞬間、迎撃しようと抜け出そうとするけど厳密なテストに合格してる安全バーが乗車中に外せる訳が無い。

 私も試しに身動ぎするが出せたのは片腕だけ。

 それを見たナーシャが叫ぶ。

 

「アリア、鎌でその風船を遠ざけて!!」

 

 ストーリーが新たな展開に移り、車が発進する前に鎌の柄で弾き飛ばした瞬間。

 急発進した車の加速を後押しするように風船が割れて小規模の爆発が起きた。

 やっぱりあの風船は誘拐犯が仕掛けて来た攻撃だったか。

 

「やばいでしょ、あの爆弾。可愛い見た目装っといて殺戮兵器じゃん」

 

 宝箱型機械と言い、さっきの風船と言い、誘拐犯の扱う武器はユーモラスな物が多いみたい。

 今後、園内を巡る時は興味を惹かれる物にもより一層警戒しないと。

 アトラクションはいよいよ終盤。

 サンタ達と解放された創作者が力を合わせ、兵士達を優しい方法で無力化させてから謁見の場に戻るとアンガーを懲らしめて勝利。

 そしてサンタが代表して総意を伝える。

 

『あなたの努力で築かれた功績は認められるべきであり私達も感謝している。

 だけどそれに甘んじて自由に横暴に振る舞う、ましてや他人を蔑ろにする行為など許してはいけないんだ』

 

 この台詞はまさにポリステルタウンでデカい顔をしてる大人全般に通じる事だった。

 確かに難しい学校や職業に至る事が出来た努力は素晴らしいけど、それは人を見下したり自分が特別扱いされる理由にはならない。

 そんな正論をぶつけられたアンガーは溜め息を吐く。

 

『ならばわしの代わりに別の王を立てるか?』

 

『いや、私達はただ間違いを伝えたかっただけだ。

 あなたから王の資格を剥奪したいのでは無い』

 

『この街を治められるのは開拓し成長させたあなたにしか務められないわ。

 だからこれからは民達のある程度の自由を保証さえしてくれれば、今まで通りの統治を希望したい』

 

 サンタ達の言葉で頑なな心が溶けたのかアンガーの言葉遣いは柔らかくなっていた。

 

『わしはこの街を一番楽しく美しい街にしようと躍起になっていたが、それが大事な民達を苦しめていたとは・・・・・・

 今までの狼藉を詫びよう。これからは心機一転し皆と一緒に一番の街を作る統治を目指そう』

 

『ではその宣誓も兼ねてパーティーの続きと行くか。目の前にいる大事な客人も混じえてな』

 

 いつの間にか生身の姿を現したハックの提案にみんなが嬉しそうに賛同する。

 

『良かろう、今日は無礼講じゃ!! 全員たらふく食うが良い!!』

 

 こうして町民が一丸となって起こした革命はハッピーエンドに終わり、実際にご馳走の匂いを感じられるファンファーレが鳴り響く部屋を通りながらポリステルタウンで起こった歴史をコミカルになぞったアトラクションは終わった。

 安全バーが自動で上がり車から降りようとすると園内放送から演技混じりの女の声が聞こえる。

 

『遥々遠方からお越し戴いた正義の使者の方々。

 僕の体験に基づいた物語はお気に召したかな?』

 

「悪くは無いが途中の風船で全部台無しだよ。

 文句の一つでもぶつけたいのに作者自ら挨拶しないってどういう事?」

 

『今はショーの準備で手が離せないからね。

 僕に会いたいのならサーカスエリアまで来るといい』

 

 ヒントをくれるって事は直接、私達と対面する気分になったと見ていいだろう。

 そろそろ仕事を再開しないとと思ってた頃だから向こうから宣戦布告してくれるのは助かる。

 

『さて、アトラクションを堪能したこの時点で君達に問おう。

 君達が味方するのはサンタ達が演じた僕達かアンガーが演じたポリステル側の大人か』

 

 どちらの実情も把握している私達には重い選択肢を強いられた。

 確かにポリステルタウンの大人達や選ばれた子供達はアンガーみたいに街を一番にするなんて高尚な目的は無いけど、自身の才能や功績に甘んじて他人を見下し反抗を許さないのは一緒だった。

 そんな人達が支配する居心地の悪い環境から解放された子供達はとっても楽しそうに笑っていた。

 仕事(ポリステルタウン)を優先するか正義感(こどもたち)を護るか。

 その答えは即断で出せる物では無かった。

 

「・・・・・・あなたの下に着くまでには、結論を出す」

 

「あたしのパートナーがそう言うなら意向に従おうじゃないか」

 

『良いよ。ま、遊園地を見てたら自ずと分かるはずだよ。

 どちらが力を貸すに相応しい真っ当な存在なのかがね』

 

 電光の魔術師(2) (終)

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