不思議な少女(1)
エクソスバレー。
そこは死ぬ瞬間に抱いた心情や願望によって数多の景色や特色を持つ大地で今も形成を続ける壮美の幽谷。生の鼓動を終えた魂が流れ着く死後の世界。
故意か偶然か、どちらの要因にせよ漂流した魂は生前の最盛期で固定された不滅の肉体に宿り、あらゆる時と境遇に縛られずに定着する事になる。
本来、エクソスバレーは荒涼とした風景が広がる過酷な環境だったが先人達の努力によって一部の地域は現世の街並みと同じ発展を築く事に成功し集う人々は依然と変わらない豊かな生活を送っているが、人の手では届かない範囲では恐ろしい怪物も蠢いている。
その名はエッセンゼーレ。
動物や植物、人型から機械といった馴染み深い姿を形作る個体も多いが共通する最悪の実態は人々の負の感情から生まれ、霊体を徒に襲い子供の玩具の様に壊れるまで蹂躙する具現化の悪意。
大抵の霊体は成す術もなく殺され記憶を奪われてしまうので対抗出来る者以外にとっては自然災害と同等の脅威と言っても過言では無い。
それを周知した霊体が取った対策は人工領域と自然領域の二種類の世界で線引きし、立ち入りを禁ずる事だった。
しかし自らの手で天国と地獄に変えたエクソスバレーにはエッセンゼーレにも比肩する、いやそれ以上に凶悪な存在がいる。
あろうことかそれは手を取り合い助け合って第二の生を生きるはずの同じ霊体の集団から外れて生まれる。
窃盗、強姦、行き過ぎれば殺人。彼らは自分が抱いた理想や欲望を叶える為、平気で他人を踏み倒し傷付ける事も厭わない。
いくら法が通じぬあの世にいるからと善人を痛ぶる行為が許されるはずが無い。
そこで正義感に溢れた一部の民が自由過ぎたエクソスバレーの僅かな秩序になろうととある自衛組織を作り、道を踏み外した者達を命がけで止める為に決起した。
これが後に迷魂の保護や地域の大問題の対処など霊体への奉仕を生業とする大企業UNdeadと肩を並べる程に知名度を上げる一大組織 ”鎮魂同盟” の始まりである。
横暴に振る舞う悪人に震撼を走らせ急速な発展を遂げた鎮魂同盟だがエクソスバレー各地で出現し多くの悪人を逮捕しているにも関わらず規模、人数、在籍地は全て不明。
ただ判明しているのは匿名で寄せられた善人の嘆き、涙を調査し断罪すべき悪人を明確に見極め相応の報いを与える狩人である事だけ。
この物語はそんな謎に包まれた正義の組織に属する霊体とそれに同行する少女を中心に綴られるエクソスバレーの側面である。
不思議な少女(1) (終)