三日月のゆめゆめ
夜空に三日月が浮かんでいます。
ある少女はそれを見て思いました。
「あの月を爪の先に着けられたらどんなにか素敵だろう? 大人がやっているような高いネイルアートより、お店で売っているような可愛いネイルシールよりキラキラしていて綺麗に違いない。マニキュアはあんまりできないから、あの三日月を爪に着けたいなぁ」
また、ある少年はこう思いました。
「月ではウサギが餅ついてるって、教えてくれたのは誰だっけ。そういえば最後にお菓子を食べたのはいつだろう。あぁ、あの月は美味しそうだなぁ。あの真ん丸な月のほんの一欠けらでも、食べられたらいいのになぁ」
同じように世界中の子どもたちが、三日月を見上げてはそれぞれ色々なことを考えています。
「昔の人が月に行ったって、本当なのかな。『科学の力ってすげー』って、いうし、ママの言う通りいっぱい勉強すれば俺も宇宙飛行士になって月に行くことができるかなぁ」
「月には裏表があって、裏の方にはきっと宇宙人が潜んでいる。でも三日月の時、彼らは一体どうしているのだろう? ひょっとして地球にこっそり避難しに来ていて、地球人のふりをして生活しているのかも……」
それぞれ、三日月を見上げては子どもたちは思い思いの夢を描きます。
そうして眠りにつくと、その夢の中にみんなが想像していたような三日月の姿が現れてきます。
輝く指先にうっとりする女の子、月を丸かじりする男の子、ロケットに乗る子や宇宙人と会って友達になる子。
たくさんの子どもたちがそれぞれ自由に、思い思いの夢を見るています。
――その様子を、空から三日月が優しく見守っていました。
「私には太陽のような熱や光はない。火星や金星のような、眩しさだって持っていない。けれど地球にいる人々は、みんな私を見てくれている。欠けた姿の私でも、みんながこちらを見上げ色々なことを考えてくれる」
三日月がそんな風に考え、物思いにふけっていることなど世界の人はゆめゆめ思わないのでした。