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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
クリスマス事変
99/240

ドキドキするデート(信次目線)

最初から、君の事を愛してた。

「取り敢えず、我が家に行こうか」

「そうですわね。流石に早すぎましたわよね」

「楽しみにしてくれてて嬉しいよ。まだ看病まで時間あるし、ゆっくりしてって」


 愛してる人が、僕とのデートを楽しみにし過ぎて早く来てくれるだなんて、嬉し過ぎて心臓がまろびでそう。

 どうもてなそうかなあ。


「我が家でティータイムしよっか。コーヒーと紅茶、どっちがいい?」

「紅茶が良いですわ」


 我が家に辿り着いた僕は、のばらさんにそんな提案をする。

 というか、それくらいしか出来ないよ。

 僕は紅茶を淹れて、のばらさんに差し出した。


「有難うございますわ。温まりますわ」

「今日も寒いもんね」


 2人きりで緊張するけど、やっぱりのばらさんの顔を見ると安心する僕がいる。

 折角の機会だし、いっぱい話したいな。もっと君の事を知りたいよ。


「そう言えば、どうしてのばらさんのご両親は、のばらさんが看護師になった事に後ろ向きなの?」

「勤務時間がバラバラですし、一般的に言う土日休みじゃないからですわ。両親は、のばらに普通を望んでるんですの」

「のばらさんが頑張ってる事で、救われてる患者様は沢山いるのにね」


 のばらさんが優秀な事は、亜美が居ないとこで兄貴からも聞いている。

 ハッキリ言って冴崎のばらは天才だ。と、兄貴は言っていた。

 周りへの気遣い、看護師スキル、2年目の看護師、いや、看護師にしては出来過ぎてるくらいだ、と。

 そんなのばらさんに、亜美がライバル心を燃やして亜美が無理をしないかを、兄貴は心配していたなあ。


「僕も助けて貰ったもんね」

「あの時はびっくりしましたわ。もうあんな無茶はダメですわよ」

「気をつける。なるべく」

「なるべく、って含みを持たせないでくださいまし!」


 例えば君が倒れてたら、僕は普通に無茶するよ。

 だから、なるべく。君は助けたいから。


「もう、無茶はダメですわよ。こちょこちょ」

「ちょ、のばら、さん! 薔薇でくすぐらないの! あはははは」


 僕が真顔になったから、心配してくれたのかな?

 いつも僕を笑わせてくれてありがとね。愛してるよ、のばらさん。


「信次くんこそ、勉強は捗っていまして?」

「最近全然出来てないや。疲れて寝ちゃったりして」

「まあ、それならのばらが見てさしあげますわ。勉強やりましょ!」


 え、勉強見てくれるの? のばらさんは今日遊びに来たのに、本当に優しいなあ。


「じゃあ、僕の部屋でやろうか。2人だし」

「解りましたわ。ガッツリやりますわよ!」


 僕達は僕の部屋に行って、勉強を始めた。

 とは言っても、僕は海里と違って、ほぼ合格圏内だから、解らないとこはそんなにないけど。

 ただ僕、家族以外を部屋に入れたの、初めてなんだよね。海里ですら、入れた事ないもん。


「あ、信次くん、ここね、こう解くと早いのですわ」

「あ、確かに。無駄が省けるからいいね」


 教えてもらう事は何もない、くらいに思ってたけど、のばらさんは無駄のない解き方を教えてくれる。

 海里の勉強を見て貰った時も思ったけど、頭良いんだなあ、のばらさん。


「あ、もしかして、これも?」

「はい、いけますわね! 流石信次くん」


 のばらさんが効率的な解き方を教えてくれたお陰で、解く速度が格段に上がった。

 そして、あっという間に12時になる。楽しい時間は、早く過ぎ去ってしまうよね。


「じゃあ、そろそろ瀬尾家の看病に行くから、のばらさんは待っててね」

「暇だから嫌ですわ、のばらも手伝いますわ」

「え、寧ろいいの? ありがとね」


 本当に優しいな、のばらさん。この僕が愛してしまう訳だよ。魅力的過ぎるんだ。

 そんな訳で、2人揃って瀬尾家に向かう。


「海里が中々良くならないんだよね」

「あら、深川先生が診察してらっしゃるのに。様子見てみますわね」


 そうだよね、素人の僕と違ってのばらさんはプロだもんね。僕に解らない事も、解るかもしれない。

 のばらさんは素早くマスクを付けて、海里の様子を診る。


「のばらさん、ゴホゴホ。どうしてここに?」

「今日信次くんと遊ぶから、そのついでですわ。中々熱がひかないそうじゃなくて?」

「そうなんすよ、ゴホゴホ」


 海里は相変わらず、咳も酷いし熱も下がらない。

 体温計は、38.0度を指していた。


「夜は眠れてまして?」

「よ、夜は、ね、寝てい、ます」

「じゃあ、この参考書はいつやったんですの?」


 のばらさんは海里の布団から、参考書を取り出した。参考書はビッシリ記入されていた。

 海里のバカ。夜寝ずに勉強していたのか。

 夜なら、僕も兄貴も見張らないのを良い事に。

 

「だって、一日でも勉強やらないとか、怖くて……」

「風邪が治ったら、また3人で頑張ればいいのですわ。まずは身体を休ませてあげて」


 そっか、海里怖かったのか。僕が、1月からは自分だけで勉強するように言ってたから、それを重く受け止めたのかもしれない。僕のせいじゃん。

 別に皆で勉強したって、何も変わらないはずなのに。


「ごめんね、僕が海里に無理させたね。1月も僕、海里の勉強みるし、まずは風邪を治して。というか、寝て」

「ダメだろ、ゴホゴホ。信次の勉強が出来なくなっちまう」

「心配いりませんわ! 2人まとめてのばらが見ますわ!」


 のばらさん?! それはのばらさんが、修羅場を超えた更なる修羅場になってしまうのでは?

 海里1人だけでも、あんなにやばい事になったのに。


「のばらさん、無理はダメ。僕は僕で頑張るから、気にしないで」

「信次くん、遠慮はダメですわ。のばらと深川先生がいれば安心でしょ?」

「ん? 兄貴も?」

「深川先生、年末年始休みだから、のばらもそれに合わせて休みを取れば、勉強合宿が出来ますわ!」


 のばらさんの頭の中では、もう僕達の勉強合宿の予定が組まれていたのか。

 絶対兄貴に相談してないよな、のばらさん。大丈夫なのか?

 今から兄貴にこっそりライムしとこ。


「だから、それまでには治すのですわ! さ、寝るのですわ!」

「のばらさん、ご飯食べさせてから、ね」

「ありがと、のばらさん、信次。なんか安心出来たかも。風邪と戦うよ」

「お粥もふやかした野菜入れたりして、栄養面高めてみるね」


 そうと決まれば、お粥も作らなきゃ。

 とは言っても、レンチンで出来るお粥は準備しといたのだけど、これじゃあ栄養つかないもんね。


「ごめんね、のばらさん。時間掛かるかもで」

「海里くんのが大事ですわ。のばらはお料理出来ませんし。何か出来る事はあるかしら?」

「じゃあ、冷蔵庫に入ってる完成済みのご飯を、温めてもらえるかな?」

「かしこまりですわ!」


 海里のお母さんのご飯は出来てるから、温め終わったら持っていこうっと。

 さて、海里のお粥、柔らかめの野菜を一応濾して、野菜の煮汁をそのままお粥に使って、と。

 これなら野菜の栄養も、丸ごと摂れるからね。


「温まりましたわ!」

「あ、じゃあ運ぶね」

「のばらが運びますわ。暇ですもの」

「それなら、"ママ"って看板が掛かってる部屋をノックして、持ってってくれるかな?」

「かしこまりですわ!」


 瀬尾家、もう誰もママ呼びしてないのに、看板はママなんだよなあ。

 海里は、おかんって呼んでるし、(あかり)は母さんって呼んでたし。(ゆかり)ちゃんですら、お母さんだったしなあ。


「こんにちは、のばらですわ」


 未だ嘗て自己紹介をドア越しでやった人はいるのだろうか。少なくとも、僕は今初めて見たけど。


「おや、のばらさんも来てくれたのかい? どうぞ」


 あ、海里、のばらさんの事話していたんだな。

 のばらって誰だよあんた、な反応にならなくて良かったけど。

 と、お粥作り、お粥作りっと。出汁もいい感じに取れたぞ。

 よーし、完成! 海里の部屋に持ってこ。


「海里、ご飯できたぞー」

「すー、すー」


 さっきので安心したのかな、看病し始めてから、初めて海里の寝顔見れたや。

 折角寝付いたとこ申し訳ないけど、薬も飲ませなきゃだし起こさなきゃ。


「海里、ご飯、出来たぞ。起きろー!」

「むにゃ、ああ信次、ありがとな」

「しっかり食べて薬飲んで、寝るんだぞ」

「お粥ありがとな、今までの中で1番美味いや」

「それなら良かった。栄養もこれでバッチリ摂れたな」


 海里はお粥をサラサラと食べると、薬を飲んで、瞬く間に寝てしまった。

 相当無理してたんだろうなあ。のばらさんのお陰で、気付く事が出来て良かった。ごめんね、海里。


 僕が海里の部屋から出ると、のばらさんもちょうど食器を下げているところだった。


「のばらさん、ありがとね。のばらさんのお陰で、海里が何故無理してたか知る事が出来たよ」

「海里くんは頑張り屋さんですわ。だから、もしやと思ったのですわ」

「僕、親友なのに……ダメだな、僕」


 正直、僕は落ち込んでいた。親友を知らず知らずのうちに傷付けてしまった上に、気付く事すら出来なかったから。

 すると、のばらさんが、今度は手でくすぐってきた。


「ちょ、のば、ら、さん。あははははは」

「信次くんも、くすぐりには弱いみたいですわ」


 そして、僕の目をしっかり見て、呟く。


「信次くんは優しいのですわ。普通親友でも、看病なんかしませんことよ。だから、無理してる事を海里くんも言えなかったのですわ」


 優しくなんかないよ、のばらさん。


「僕が無理させたようなもんだよ。1月から1人で頑張れって、判定厳しい海里は、きっと不安だっただろうに……」

「海里くんも、その理由はちゃんと解ってましたわ。仕方ないことですわ。まあ、そこら辺はどーんとのばらにお任せあれですわ」

「頼もしいね。ありがとね、のばらさん」


 あ、兄貴からライムが帰ってきた。「そのつもりだったよ」だって?! 兄貴も兄貴で、のばらさんの了承がないまま、合宿考えてたのか。

 これで合宿は確定か。だから、安心してね。海里。


「じゃあ、遅くなったけど、遊びにいこっか」


 洗い物が終わった僕は、のばらさんに告げた。


「はい、待ってましたわ」


 ああ、笑顔が眩しいよ。のばらさん。

 今日は沢山楽しませるからね。


「まずはどこにいくんですの?」

「お昼も兼ねて、パティスリーイケマエのケーキ食べ放題に行こうかなって」

「え、あれ、予約しないと無理ですわよ?」

「苦労したけど、予約したんだ。13時からだから、もう飛んじゃうね」

「うおお、ですわ!」


 僕はのばらさんを抱きしめて、大空へ舞い上がる。

 のばらさんには悪いけど、もう時間もないし、こっちのが早いからね。

 そういえば、飛ぶ為には仕方ないんだけど、抱きしめているんだよな。

 のばらさん、嫌だったらごめんね。

 亜美はそれで泣いてたもんなあ。

 でも、のばらさんを見る限り、少なくとも泣いてはないから大丈夫かなあ……。

 

「2度目ですけど、飛ぶのって楽しいですわね」

「楽しんで貰えて良かった。ほら、もう着くよ」


 僕達は、食べ放題会場のパティスリーイケマエ本店に辿り着いた。

 お、のばらさん、すごいワクワクしてる。頑張って予約して良かった。


「すみません、予約してた時任ですが」

「時任様いらっしゃいませ、どうぞこちらへ」


 僕達は席に案内されて、お皿を渡された。


「ケーキは90分食べ放題です。ごゆっくりどうぞ」


 と、店員さんに言われたけど、のばらさんは全くゆっくりせずに一目散にケーキに向かっていく。

 そんなに慌てなくても、ケーキは逃げたりしないよ。

 さーて、僕はどれにしようかな? あ、このシャインマスカットのケーキ美味しそう。

 食べ放題で、このレベルのケーキがあるなんて嬉しいな。

 あ、この苺のケーキもいいなあ。よいしょっと。

 まずはこの二つにしよっと。


 僕が席に戻ろうとすると、のばらさんはもう席に着いて僕を待っていた。のばらさん、ケーキ、8個も取ってるじゃん。


「信次くん少ないですわねえ」

「のばらさんは沢山取ったね。でも美味しそうだなあ」

「さ、食べましょ!」

「「いただきます」」


 うん、やっぱり美味しいなあ。甘酸っぱくて、幸せな気持ちになれるよ。

 僕も、このレベルのケーキ、作れるようになりたいなあ。

 そして、のばらさんの美味しい顔、やっぱり好きだなあ。いつまでも眺めていたくなるよ。


「あら、信次くん。のばらばっか見てないで、ケーキ食べましょ! 時間は少ないのですわ」

「ああ、うん、食べるよ」


 僕としたことが、のばらさんをマジマジと見ちゃったよ。ケーキ食べながら見なきゃ。

 幸せだなあ、のばらさんを見てると、そんな気持ちになるんだ。


「おかわりしてこよ」

「あ、のばらも行きますわ!」

「え、もう食べたの?!」


 本当にケーキ好きなんだな、のばらさん。

 うわ、また8個取って来てるよ。

 店員さんも、のばらさんの食欲の素晴らしさに気付き始めてきたぞ。

 僕も負けじと取るけど、5個取ったとこで勇気が理性に負けちゃった。

 普通の食欲の僕が憎いなあ。


「そうそう、最低でもそれくらいは取らなきゃですわ」

「ケーキは美味しいから、出来るだけ食べるぞ!」


 食べながらじゃないとのばらさんを眺められないし、沢山食べなきゃね。沢山君を見たいから。

 あ、このチョコケーキも美味しいな。どんなレシピなんだろうなあ。良いチョコレートなのは間違いないとして。

 あ、のばらさん、口元が汚れてるや。


「のばらさん、口、なんか付いてるよ」

「れ? どこかしら、と、取れました?」

「えっと、ここ」


 僕はのばらさんに付いてたケーキを取って、思わず食べちゃった。

 あ、やっちまった。思わず願望を実行してしまった。


「うん、美味しいね」


 って、誤魔化しておくか。ダメだ、僕、めちゃくちゃ照れてるや。顔隠しとこ。格好つかないな、僕。

 のばらさんは、どんな顔してんのかな? チラッと見てみると、あれ? ちょっと照れてる?


「信次くん、それは反則ですわ」

「ん、何が?」


 そうだよね、反則だよね。付き合ってる訳でもないのに。

 解っているけど、照れ臭さで解ってないフリをした。悪い子だね、僕。


「仕返しですわ」

「ちょ、のばらさん?!」


 のばらさんは、僕の口元に付いてたケーキを取って、むしゃむしゃ食べる。

 やられた。こんなん射抜かれるよ。バカ、バカ、バカ。照れが止まないじゃん。


「これでおあいこですわ」

「確かに照れくさいね」

「でしょ? 照れるのですわ」


 嘘、僕はさっきからめちゃくちゃ照れ臭いよ。

 僕は照れ隠しで、勢いよくケーキを食べるのであった。


 ◇


「満たされましたわ」

「結局ケーキ21個食べたもんね。のばらさんらしいや」

「折角の食べ放題ですもの!」


 のばらさん、食べ放題のケーキ、全種類食べたもんなあ。お店の人もびっくりしてた。

 のばらさんを見たパティシエの池前さんが、「新作が舞い降りたー!」と、突如作ったケーキも食べてたし。


「次は何処へいくんですの?」

「公園でちょっと休もっか」

「賛成ですわ。ゆっくりしましょ」


 僕達は、近くの公園まで歩く。歩くのも、腹ごなしにはなるよね。


「でも、良かったんですの? のばらの分までお金出してくれて」

「遅くなったお詫び。後、手伝ってくれたお礼ね」


 今まで貯めて来たお小遣いは、こう言う時に使わなきゃね。

 公園に着いた僕達は、ベンチに座って休む事にした。


「ふー、座るだけでも違いますわね」

「だね、ちょっと落ち着く」


 僕はのばらさんと居るだけで安心出来るよ。


「この後は、また海里達の看病して、その後、うちでパーティーしようね」

「イブですもんね。招待して貰えて嬉しいですわ」

「兄貴、今日は何作るんだろ?」

「昨日のご飯も美味しかったから、楽しみですわ」


 果たして兄貴の胃は持つのか? って、心配事もあるけど、確かに楽しみだよね。

 何が楽しみって、君の美味しい顔を見るのが、だよ。


「色々ありましたが、何かのばら、信次くんといると安心するんですの。何故かしら?」

「それは嬉しいな。僕も実を言うと、のばらさんといると安心するんだ」

「のばらはこんなの感覚初めてだから、この気持ちの名前が解りませんの」


 のばらさん、誰かといて安心するって感覚初めてなんだ。

 僕は小さい頃から、本人には言えないけど、兄貴や亜美といると、いつも安心してたからな。

 笑われるかもだけど、家族以上に愛せる人なんていなかった。今までは。

 僕は、もう言わずにはいられなかった。


「のばらさん、僕、ずっとのばらさんに言いたい事があったんだ」

「な、なんですの?」


 緊張する。胸が張り裂けそう。でも、伝えたい。


「正直、僕、一目惚れしてた。愛してます、のばらさん」

京平「遂に告白できたな。信次」

信次「言わずには居られなくて」

京平「でも、のばらさんは安心する、の正体を分かってないからなあ」

信次「あー、どうなるんだ!」


作者「次回は番外編です」

信次「ちょ、僕はいつまでドキドキしてたらいいの?!」

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