ドキドキするデート(信次目線)
最初から、君の事を愛してた。
「取り敢えず、我が家に行こうか」
「そうですわね。流石に早すぎましたわよね」
「楽しみにしてくれてて嬉しいよ。まだ看病まで時間あるし、ゆっくりしてって」
愛してる人が、僕とのデートを楽しみにし過ぎて早く来てくれるだなんて、嬉し過ぎて心臓がまろびでそう。
どうもてなそうかなあ。
「我が家でティータイムしよっか。コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「紅茶が良いですわ」
我が家に辿り着いた僕は、のばらさんにそんな提案をする。
というか、それくらいしか出来ないよ。
僕は紅茶を淹れて、のばらさんに差し出した。
「有難うございますわ。温まりますわ」
「今日も寒いもんね」
2人きりで緊張するけど、やっぱりのばらさんの顔を見ると安心する僕がいる。
折角の機会だし、いっぱい話したいな。もっと君の事を知りたいよ。
「そう言えば、どうしてのばらさんのご両親は、のばらさんが看護師になった事に後ろ向きなの?」
「勤務時間がバラバラですし、一般的に言う土日休みじゃないからですわ。両親は、のばらに普通を望んでるんですの」
「のばらさんが頑張ってる事で、救われてる患者様は沢山いるのにね」
のばらさんが優秀な事は、亜美が居ないとこで兄貴からも聞いている。
ハッキリ言って冴崎のばらは天才だ。と、兄貴は言っていた。
周りへの気遣い、看護師スキル、2年目の看護師、いや、看護師にしては出来過ぎてるくらいだ、と。
そんなのばらさんに、亜美がライバル心を燃やして亜美が無理をしないかを、兄貴は心配していたなあ。
「僕も助けて貰ったもんね」
「あの時はびっくりしましたわ。もうあんな無茶はダメですわよ」
「気をつける。なるべく」
「なるべく、って含みを持たせないでくださいまし!」
例えば君が倒れてたら、僕は普通に無茶するよ。
だから、なるべく。君は助けたいから。
「もう、無茶はダメですわよ。こちょこちょ」
「ちょ、のばら、さん! 薔薇でくすぐらないの! あはははは」
僕が真顔になったから、心配してくれたのかな?
いつも僕を笑わせてくれてありがとね。愛してるよ、のばらさん。
「信次くんこそ、勉強は捗っていまして?」
「最近全然出来てないや。疲れて寝ちゃったりして」
「まあ、それならのばらが見てさしあげますわ。勉強やりましょ!」
え、勉強見てくれるの? のばらさんは今日遊びに来たのに、本当に優しいなあ。
「じゃあ、僕の部屋でやろうか。2人だし」
「解りましたわ。ガッツリやりますわよ!」
僕達は僕の部屋に行って、勉強を始めた。
とは言っても、僕は海里と違って、ほぼ合格圏内だから、解らないとこはそんなにないけど。
ただ僕、家族以外を部屋に入れたの、初めてなんだよね。海里ですら、入れた事ないもん。
「あ、信次くん、ここね、こう解くと早いのですわ」
「あ、確かに。無駄が省けるからいいね」
教えてもらう事は何もない、くらいに思ってたけど、のばらさんは無駄のない解き方を教えてくれる。
海里の勉強を見て貰った時も思ったけど、頭良いんだなあ、のばらさん。
「あ、もしかして、これも?」
「はい、いけますわね! 流石信次くん」
のばらさんが効率的な解き方を教えてくれたお陰で、解く速度が格段に上がった。
そして、あっという間に12時になる。楽しい時間は、早く過ぎ去ってしまうよね。
「じゃあ、そろそろ瀬尾家の看病に行くから、のばらさんは待っててね」
「暇だから嫌ですわ、のばらも手伝いますわ」
「え、寧ろいいの? ありがとね」
本当に優しいな、のばらさん。この僕が愛してしまう訳だよ。魅力的過ぎるんだ。
そんな訳で、2人揃って瀬尾家に向かう。
「海里が中々良くならないんだよね」
「あら、深川先生が診察してらっしゃるのに。様子見てみますわね」
そうだよね、素人の僕と違ってのばらさんはプロだもんね。僕に解らない事も、解るかもしれない。
のばらさんは素早くマスクを付けて、海里の様子を診る。
「のばらさん、ゴホゴホ。どうしてここに?」
「今日信次くんと遊ぶから、そのついでですわ。中々熱がひかないそうじゃなくて?」
「そうなんすよ、ゴホゴホ」
海里は相変わらず、咳も酷いし熱も下がらない。
体温計は、38.0度を指していた。
「夜は眠れてまして?」
「よ、夜は、ね、寝てい、ます」
「じゃあ、この参考書はいつやったんですの?」
のばらさんは海里の布団から、参考書を取り出した。参考書はビッシリ記入されていた。
海里のバカ。夜寝ずに勉強していたのか。
夜なら、僕も兄貴も見張らないのを良い事に。
「だって、一日でも勉強やらないとか、怖くて……」
「風邪が治ったら、また3人で頑張ればいいのですわ。まずは身体を休ませてあげて」
そっか、海里怖かったのか。僕が、1月からは自分だけで勉強するように言ってたから、それを重く受け止めたのかもしれない。僕のせいじゃん。
別に皆で勉強したって、何も変わらないはずなのに。
「ごめんね、僕が海里に無理させたね。1月も僕、海里の勉強みるし、まずは風邪を治して。というか、寝て」
「ダメだろ、ゴホゴホ。信次の勉強が出来なくなっちまう」
「心配いりませんわ! 2人まとめてのばらが見ますわ!」
のばらさん?! それはのばらさんが、修羅場を超えた更なる修羅場になってしまうのでは?
海里1人だけでも、あんなにやばい事になったのに。
「のばらさん、無理はダメ。僕は僕で頑張るから、気にしないで」
「信次くん、遠慮はダメですわ。のばらと深川先生がいれば安心でしょ?」
「ん? 兄貴も?」
「深川先生、年末年始休みだから、のばらもそれに合わせて休みを取れば、勉強合宿が出来ますわ!」
のばらさんの頭の中では、もう僕達の勉強合宿の予定が組まれていたのか。
絶対兄貴に相談してないよな、のばらさん。大丈夫なのか?
今から兄貴にこっそりライムしとこ。
「だから、それまでには治すのですわ! さ、寝るのですわ!」
「のばらさん、ご飯食べさせてから、ね」
「ありがと、のばらさん、信次。なんか安心出来たかも。風邪と戦うよ」
「お粥もふやかした野菜入れたりして、栄養面高めてみるね」
そうと決まれば、お粥も作らなきゃ。
とは言っても、レンチンで出来るお粥は準備しといたのだけど、これじゃあ栄養つかないもんね。
「ごめんね、のばらさん。時間掛かるかもで」
「海里くんのが大事ですわ。のばらはお料理出来ませんし。何か出来る事はあるかしら?」
「じゃあ、冷蔵庫に入ってる完成済みのご飯を、温めてもらえるかな?」
「かしこまりですわ!」
海里のお母さんのご飯は出来てるから、温め終わったら持っていこうっと。
さて、海里のお粥、柔らかめの野菜を一応濾して、野菜の煮汁をそのままお粥に使って、と。
これなら野菜の栄養も、丸ごと摂れるからね。
「温まりましたわ!」
「あ、じゃあ運ぶね」
「のばらが運びますわ。暇ですもの」
「それなら、"ママ"って看板が掛かってる部屋をノックして、持ってってくれるかな?」
「かしこまりですわ!」
瀬尾家、もう誰もママ呼びしてないのに、看板はママなんだよなあ。
海里は、おかんって呼んでるし、灯は母さんって呼んでたし。縁ちゃんですら、お母さんだったしなあ。
「こんにちは、のばらですわ」
未だ嘗て自己紹介をドア越しでやった人はいるのだろうか。少なくとも、僕は今初めて見たけど。
「おや、のばらさんも来てくれたのかい? どうぞ」
あ、海里、のばらさんの事話していたんだな。
のばらって誰だよあんた、な反応にならなくて良かったけど。
と、お粥作り、お粥作りっと。出汁もいい感じに取れたぞ。
よーし、完成! 海里の部屋に持ってこ。
「海里、ご飯できたぞー」
「すー、すー」
さっきので安心したのかな、看病し始めてから、初めて海里の寝顔見れたや。
折角寝付いたとこ申し訳ないけど、薬も飲ませなきゃだし起こさなきゃ。
「海里、ご飯、出来たぞ。起きろー!」
「むにゃ、ああ信次、ありがとな」
「しっかり食べて薬飲んで、寝るんだぞ」
「お粥ありがとな、今までの中で1番美味いや」
「それなら良かった。栄養もこれでバッチリ摂れたな」
海里はお粥をサラサラと食べると、薬を飲んで、瞬く間に寝てしまった。
相当無理してたんだろうなあ。のばらさんのお陰で、気付く事が出来て良かった。ごめんね、海里。
僕が海里の部屋から出ると、のばらさんもちょうど食器を下げているところだった。
「のばらさん、ありがとね。のばらさんのお陰で、海里が何故無理してたか知る事が出来たよ」
「海里くんは頑張り屋さんですわ。だから、もしやと思ったのですわ」
「僕、親友なのに……ダメだな、僕」
正直、僕は落ち込んでいた。親友を知らず知らずのうちに傷付けてしまった上に、気付く事すら出来なかったから。
すると、のばらさんが、今度は手でくすぐってきた。
「ちょ、のば、ら、さん。あははははは」
「信次くんも、くすぐりには弱いみたいですわ」
そして、僕の目をしっかり見て、呟く。
「信次くんは優しいのですわ。普通親友でも、看病なんかしませんことよ。だから、無理してる事を海里くんも言えなかったのですわ」
優しくなんかないよ、のばらさん。
「僕が無理させたようなもんだよ。1月から1人で頑張れって、判定厳しい海里は、きっと不安だっただろうに……」
「海里くんも、その理由はちゃんと解ってましたわ。仕方ないことですわ。まあ、そこら辺はどーんとのばらにお任せあれですわ」
「頼もしいね。ありがとね、のばらさん」
あ、兄貴からライムが帰ってきた。「そのつもりだったよ」だって?! 兄貴も兄貴で、のばらさんの了承がないまま、合宿考えてたのか。
これで合宿は確定か。だから、安心してね。海里。
「じゃあ、遅くなったけど、遊びにいこっか」
洗い物が終わった僕は、のばらさんに告げた。
「はい、待ってましたわ」
ああ、笑顔が眩しいよ。のばらさん。
今日は沢山楽しませるからね。
「まずはどこにいくんですの?」
「お昼も兼ねて、パティスリーイケマエのケーキ食べ放題に行こうかなって」
「え、あれ、予約しないと無理ですわよ?」
「苦労したけど、予約したんだ。13時からだから、もう飛んじゃうね」
「うおお、ですわ!」
僕はのばらさんを抱きしめて、大空へ舞い上がる。
のばらさんには悪いけど、もう時間もないし、こっちのが早いからね。
そういえば、飛ぶ為には仕方ないんだけど、抱きしめているんだよな。
のばらさん、嫌だったらごめんね。
亜美はそれで泣いてたもんなあ。
でも、のばらさんを見る限り、少なくとも泣いてはないから大丈夫かなあ……。
「2度目ですけど、飛ぶのって楽しいですわね」
「楽しんで貰えて良かった。ほら、もう着くよ」
僕達は、食べ放題会場のパティスリーイケマエ本店に辿り着いた。
お、のばらさん、すごいワクワクしてる。頑張って予約して良かった。
「すみません、予約してた時任ですが」
「時任様いらっしゃいませ、どうぞこちらへ」
僕達は席に案内されて、お皿を渡された。
「ケーキは90分食べ放題です。ごゆっくりどうぞ」
と、店員さんに言われたけど、のばらさんは全くゆっくりせずに一目散にケーキに向かっていく。
そんなに慌てなくても、ケーキは逃げたりしないよ。
さーて、僕はどれにしようかな? あ、このシャインマスカットのケーキ美味しそう。
食べ放題で、このレベルのケーキがあるなんて嬉しいな。
あ、この苺のケーキもいいなあ。よいしょっと。
まずはこの二つにしよっと。
僕が席に戻ろうとすると、のばらさんはもう席に着いて僕を待っていた。のばらさん、ケーキ、8個も取ってるじゃん。
「信次くん少ないですわねえ」
「のばらさんは沢山取ったね。でも美味しそうだなあ」
「さ、食べましょ!」
「「いただきます」」
うん、やっぱり美味しいなあ。甘酸っぱくて、幸せな気持ちになれるよ。
僕も、このレベルのケーキ、作れるようになりたいなあ。
そして、のばらさんの美味しい顔、やっぱり好きだなあ。いつまでも眺めていたくなるよ。
「あら、信次くん。のばらばっか見てないで、ケーキ食べましょ! 時間は少ないのですわ」
「ああ、うん、食べるよ」
僕としたことが、のばらさんをマジマジと見ちゃったよ。ケーキ食べながら見なきゃ。
幸せだなあ、のばらさんを見てると、そんな気持ちになるんだ。
「おかわりしてこよ」
「あ、のばらも行きますわ!」
「え、もう食べたの?!」
本当にケーキ好きなんだな、のばらさん。
うわ、また8個取って来てるよ。
店員さんも、のばらさんの食欲の素晴らしさに気付き始めてきたぞ。
僕も負けじと取るけど、5個取ったとこで勇気が理性に負けちゃった。
普通の食欲の僕が憎いなあ。
「そうそう、最低でもそれくらいは取らなきゃですわ」
「ケーキは美味しいから、出来るだけ食べるぞ!」
食べながらじゃないとのばらさんを眺められないし、沢山食べなきゃね。沢山君を見たいから。
あ、このチョコケーキも美味しいな。どんなレシピなんだろうなあ。良いチョコレートなのは間違いないとして。
あ、のばらさん、口元が汚れてるや。
「のばらさん、口、なんか付いてるよ」
「れ? どこかしら、と、取れました?」
「えっと、ここ」
僕はのばらさんに付いてたケーキを取って、思わず食べちゃった。
あ、やっちまった。思わず願望を実行してしまった。
「うん、美味しいね」
って、誤魔化しておくか。ダメだ、僕、めちゃくちゃ照れてるや。顔隠しとこ。格好つかないな、僕。
のばらさんは、どんな顔してんのかな? チラッと見てみると、あれ? ちょっと照れてる?
「信次くん、それは反則ですわ」
「ん、何が?」
そうだよね、反則だよね。付き合ってる訳でもないのに。
解っているけど、照れ臭さで解ってないフリをした。悪い子だね、僕。
「仕返しですわ」
「ちょ、のばらさん?!」
のばらさんは、僕の口元に付いてたケーキを取って、むしゃむしゃ食べる。
やられた。こんなん射抜かれるよ。バカ、バカ、バカ。照れが止まないじゃん。
「これでおあいこですわ」
「確かに照れくさいね」
「でしょ? 照れるのですわ」
嘘、僕はさっきからめちゃくちゃ照れ臭いよ。
僕は照れ隠しで、勢いよくケーキを食べるのであった。
◇
「満たされましたわ」
「結局ケーキ21個食べたもんね。のばらさんらしいや」
「折角の食べ放題ですもの!」
のばらさん、食べ放題のケーキ、全種類食べたもんなあ。お店の人もびっくりしてた。
のばらさんを見たパティシエの池前さんが、「新作が舞い降りたー!」と、突如作ったケーキも食べてたし。
「次は何処へいくんですの?」
「公園でちょっと休もっか」
「賛成ですわ。ゆっくりしましょ」
僕達は、近くの公園まで歩く。歩くのも、腹ごなしにはなるよね。
「でも、良かったんですの? のばらの分までお金出してくれて」
「遅くなったお詫び。後、手伝ってくれたお礼ね」
今まで貯めて来たお小遣いは、こう言う時に使わなきゃね。
公園に着いた僕達は、ベンチに座って休む事にした。
「ふー、座るだけでも違いますわね」
「だね、ちょっと落ち着く」
僕はのばらさんと居るだけで安心出来るよ。
「この後は、また海里達の看病して、その後、うちでパーティーしようね」
「イブですもんね。招待して貰えて嬉しいですわ」
「兄貴、今日は何作るんだろ?」
「昨日のご飯も美味しかったから、楽しみですわ」
果たして兄貴の胃は持つのか? って、心配事もあるけど、確かに楽しみだよね。
何が楽しみって、君の美味しい顔を見るのが、だよ。
「色々ありましたが、何かのばら、信次くんといると安心するんですの。何故かしら?」
「それは嬉しいな。僕も実を言うと、のばらさんといると安心するんだ」
「のばらはこんなの感覚初めてだから、この気持ちの名前が解りませんの」
のばらさん、誰かといて安心するって感覚初めてなんだ。
僕は小さい頃から、本人には言えないけど、兄貴や亜美といると、いつも安心してたからな。
笑われるかもだけど、家族以上に愛せる人なんていなかった。今までは。
僕は、もう言わずにはいられなかった。
「のばらさん、僕、ずっとのばらさんに言いたい事があったんだ」
「な、なんですの?」
緊張する。胸が張り裂けそう。でも、伝えたい。
「正直、僕、一目惚れしてた。愛してます、のばらさん」
京平「遂に告白できたな。信次」
信次「言わずには居られなくて」
京平「でも、のばらさんは安心する、の正体を分かってないからなあ」
信次「あー、どうなるんだ!」
作者「次回は番外編です」
信次「ちょ、僕はいつまでドキドキしてたらいいの?!」




