表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
クリスマス事変
95/221

愛してるみたい(信次目線)

 休憩室へ行くと、のばらさんが呼び掛けてくれた。


「あ、信次くん、お疲れ様ですわ」

「のばらさんもお疲れ様」

「あら、少し疲れてるんじゃなくて?」

「海里の家族が皆風邪ひいちゃって、看病してたからね」


 気に掛けてくれてありがとね、のばらさん。

 確かに看病をずっとしてたから、ちょっと疲れてるんだよね。

 兄貴、昨日良く平然とやれたよなあ。


「まあ、大変でしたのね。ご飯食べたらお休みになっては?」

「そうしようかな。子供達に疲れた顔見せらんないし」


 のばらさんの優しさには、本当救われてるな。

 話してて安心するんだよね。

 これをきっと、恋って呼ぶんだろう。

 

「あ、亜美またおかず変えてくれてる。時間ないだろうに」

「お弁当、亜美が作ってるのね」

「そうだよ。しかも、昼と夜でおかず変えてくれてさ」

「亜美の心遣いですわね」


 兄貴もだったんだけど、お弁当を別々のおかずにするの絶対大変なのに、僕が飽きないように作ってくれてる。いつもありがとね。


「のばらさんのお弁当も、明日から作るからね」

「本当に有難うございますわ。実は、両親が看護師勤務に良い顔してなくて……助かりましたわ」

「今日は家で、兄貴の作った晩御飯食べてってね」

「有難うございますわ。8時前と19時半以降は、ご飯家で食べられないから嬉しいですわ」


 そうだったのか。のばらさんも大変だなあ。

 それで栄養失調になるまで頑張って……報われるといいな。


「ごちそうさま、じゃあ少し寝てるね」

「おやすみ、信次くん」

「おやすみ、のばらさん」


 なんでのばらさんの側にいると、こんなに安心出来るんだろう。ホッとするんだよね。

 恥ずかしい寝顔も、君になら見せられちゃうくらい。

 大好きだよ、のばらさん。この気持ちがいつか届きますように。

 おやすみ、のばらさん。


「なんでのばら、信次くんといると、安心できるんでしょうか?」


 ◇


「冴崎さん、イブ遊びに行こうよ」

九久平(くぎゅうだいら)先生、そう言う話を病院でするのは、いかがなものかしら? のばらは嫌いですわ」

「なんだと、医者に向かって歯向かうなよ」

「のばらはのばらとして話してますわ。貴方も貴方として話したらいかが? 九久平(くぎゅうだいら)先生」

「なんだと? いい加減にしろよ!」


 ん、なんか周りが騒がしいな。あ、のばらさん!

 何があったか解らないけど、九久平(くぎゅうだいら)先生に、のばらさんが殴られそうだ。

 九久平(くぎゅうだいら)先生の腕が出るよりも先に、僕は咄嗟に身を乗り出して、のばらさんを庇った。

 うう、やっぱり痛い。


「な、なんだよ、お前」

「時任信次です。内科主任部長の深川先生の弟です。この事は、院長にも報告させて頂きます」

「ちっ、覚えてろよ」


 覚えて貰っても、どうせあんたは首だろうけどね。バーカバーカバーカ。

 のばらさんを殴ろうとするなんて最低過ぎるよ。

 

「信次くん、大丈夫ですの?」

「平気平気。のばらさんこそ、怪我はない?」

「はい。信次くんが庇ってくれましたから」

「それなら良かった。兄貴には今連絡したし、まだ時間あるから寝とくね。おやすみ」

「ちょ、信次くん……お礼くらい言わせて欲しいのですわ」


 本当は寝なくても良かったんだけど、何故か解らないけど、照れくさくて、のばらさんの顔が直視出来なくて。

 でも、助けられて良かった。無事で良かった。

 お礼なんて言わなくていいよ。当たり前の事をしただけだよ。 

 うん、やっぱり照れくさいや。暫く寝た振りしておくか。


 ◇


「信次くん、そろそろ時間ですわよ」


 アラームが鳴る前に、のばらさんが僕を起こしてくれた。寝ては無かったんだけどさ。

 

「ふわあ、おはよ、のばらさん」

「おはようございますわ、それとさっきは助けてくれて有難うございますわ」

「当たり前の事をしただけだよ。気にしないで」


 とは言うものの、やっぱりお礼を言われると改めて照れてしまうのが僕で。格好付かないね。


「あ、兄貴から連絡きた。院長に報告してくれたみたい。さっきの件」

「怖かったですわ……」

「大丈夫、僕が居る時は絶対守るから」

「それは心強いですわ。有難うございますわ」


 こんな事、2度とあって欲しくないけど、もしあったとしても、何度でも守るからね。


「じゃあ、また後でね。帰りは緊急外来で待ち合わせよっか」

「了解ですわ。ではごきげんよう」


 背中に受けた殴られた痕が痛い。

 でも、これは内緒にしなきゃね。君が気にしちゃうから。

 そんなのは、僕も嫌だからさ。


 休憩から戻ると、次々に子ども達は帰っていく。

 絵梨ちゃんもお父さんのお迎えが来て、帰っていった。


「ばいばーい、しんじ、たくみくん」

「絵梨ちゃんまたねー」

「じゃあな、えり」


 そして、相変わらずなんだけど、拓実くん1人になってしまった。

 遅番が多いんだよなあ、拓実くんのお母さん。会った事はないんだけど。

 小暮さんの話だと、お父さんも仕事人間で迎えが遅くなりがちで大変みたい。

 それぞれの家庭に事情ってあるもんね。


 そんな訳で僕は、時間まで拓実くんと遊ぶ……というより、寝かしつける事にした。


「つまんね、えりもいねえし」

「だったら、寝た方がいいよ。早く絵梨ちゃんに会えるからさ」

「でも、とーちゃんのかおもみたいし」


 そっか、拓実くんなりにお父さんとの時間が欲しかったんだね。

 お母さんとは遅番前に遊べてるだろうけど、お父さんはそうは行かないだろうしね。

 でもね、それはお父さんを心配させちゃうんだぞ。

 拓実くんにはちょっと申し訳ないけど、僕は拓実くんを抱きしめて子守唄を歌った。

 寝てる君を見て、お父さんもお母さんも安心するんだよ。

 兄貴と亜美が、僕に対してそうだったみたいに。

 いつものように、拓実くんはぐっすり寝てくれた。

 

「お疲れ、時任くん」

「有難うございます、ようやくひと段落です」

「全く、院長もたまには早く迎えに来て欲しいわよ」


 ん? 院長? と言う事は、まさか……。


「た、拓実くん、院長先生の息子さんなんですか?!」

「そ。3番目のね。奥さんは病院の財務管理で多忙だし、院長もしょっちゅうオペとかしてるしね」


 知らなかった。確かにそれなら、朝までコースになってしまうのも頷ける。

 あれ? でも3番目の息子さんなら、お兄ちゃんやお姉ちゃんは?


「ご兄弟のお迎えは厳しいんですか?」

「2人とも大学の院生で、ほぼ泊まりらしいよ。医学生ではないみたいだけど」

「院生さんも大変なんですね」


 そっか、それは余計に寂しいよね。拓実くん。

 家族にほとんど会えない生活をしているって事だもんね。


「まだ時間あるし、ちょっと話そうか。ひよこ組さんにおいで」

「はい」


 僕達はひよこ組さんに移動して、ようやく腰を下ろす。


「私もここは長いけど、拓実くんを寝かしつけたのは、私を除いて君が初めて」

「そうだったんですか?」

「うん。皆ギブアップしてたもん」

「それは知らなかったけど、寝てくれて良かったです」

「私が居ない時は大体起きちゃってて、院長も心配してたからね」


 誰でも遅くまで子供が起きていると心配になるもんね。僕もめちゃくちゃ心配させたもん。

 結構頑固なとこあるもんなあ、拓実くん。それだけお父さん、院長に会いたかったんだね。


「だから君が続けてくれる事は、院長も嬉しいんじゃないかな」

「そう思って頂けるなら嬉しいです」

「明日は休みだから、後25、26日で長期休みだね。絶対合格してこいよ」

「勿論です。頑張ります」


 皆、僕の事を応援してくれてるし、絶対この飛び級試験と大学入試は落とせないね。

 どっちも掴んでやる。負けたりしない。


「じゃ、今日はこれで終わり。お疲れ様」

「お疲れ様でした」


 小暮さんの優しさに触れて、僕は職場を後にした。

 ロッカールームに行くと、ちょうどのばらさんに出会(でくわ)す。


「あら、信次くんお疲れ様ですわ」

「のばらさんもお疲れ様」

「じゃあ、着替えたら緊急外来前ですわよ」

「うん、了解」


 思えば、僕一目惚れだったな。のばらさんの事。

 初めて会った時から、印象は亜美の事もあったから良くなかったけど、その可愛さに心を持ってかれて、傷付いてる姿を見たら胸がチクッとして。

 そんでもって、次第に仲良くなって。大切な人になったんだ。

 前進出来るかな。僕の気持ちは届くかな。


 と、ボーっとしてた。早く着替えなきゃ。


「お待たせ、のばらさん」

「大丈夫ですわ。今来たとこですわ」

「じゃあ、我が家までいこっか」


 ああ、手を繋ぎたいなあ。告白ごっこじゃないけど、好きです、って言って手を繋いで貰いたいな。

 勿論現実はそんなに甘くないよな。でも、のばらさんはどんな反応をするのかな?

 それは予想が付かないから、ちょっと楽しみでもあるんだよね。

 良くない結果だったとしても。って、ネガティブはいけないぞ、信次。


「今日の晩ご飯は何かしら。楽しみですわ」

「兄貴の事だから、張り切って作ってそうだなあ」

「明日はのばら早番ですから、亜美にお弁当預けてくれると嬉しいですわ」

「了解、明日渡しとくね」


 いずれにしても、これからはお弁当を通じての繋がりもできた事だし、もっともっと仲良くなれるといいな。

 僕だけかもしれないけど、のばらさんの側にいると凄く安心出来るから。僕も安心させてあげたいな。


「来月は深川先生の勤務どうなるのかしら?」

「あれから鬱症状も出てないし、元に戻るのかなあ?」

「でもそうしたら、また無理しそうですわ」

「それなんだよなあ。学習能力が低いよ、兄貴」

「頑張り屋なのは良いところですわ」


 バランスよくやれない人なんだよな、兄貴って。いつも頑張りすぎちゃうから。

 そもそも精神病になると、頑張りきれなくて辛いって声が多くあるのに、兄貴はどうして頑張れているんだろう?

 無理してるだけなんだろうなあ。


「兄貴が無理しなくていいように、僕も頑張らなきゃ」

「信次くんも深川先生に良く似てるから、無理しちゃダメですわよ」

「心配ありがとね。でも、頑張る事は嫌いじゃないからさ」


 後、メンタルには自信あるしね。そう簡単に、僕はやられたりしないから安心して。

 

「あ、着いたね。ただいまー」

「お邪魔しますわ」


 兄貴達は予想通り、もう部屋で寝ているようだった。

 ずっと早番なのも、あんまり眠れないから、それはそれで辛いよなあ。

 食卓にメモが置いてある。「今日は白身魚のムニエルとシーザーサラダとかぼちゃスープだぞ。全部冷蔵庫に入れてあるから、温めてあげてな」か。

 

「ご飯温めるから待っててね」

「楽しみですわ」

「あ、かぼちゃスープあるけど、冷たいのと温かいの、どっちがすき?」

「冷たい方が好きですわ」

「じゃあ、今からサラダと一緒に持ってくね」


 僕はサラダとスープとフォークとスプーンを先に運んで、その後ムニエルをレンジで温めた。兄貴、やっぱ気合い入れて作ってくれたんだなあ。


「はい、メインディッシュはムニエルだよ」


 僕はムニエルとご飯とナイフを運んだ。これで全部揃ったかな?


「いただきますわ」


 のばらさんは、目をキラキラさせながらご飯を食べ始めた。

 この美味しそうに食べる顔が、やっぱり1番すきだなあ。なんか嬉しくなるもん。


「んー、美味しいですわ。深川先生も料理お上手なのね。ムニエルは香ばしくて、サラダはシーザードレッシングが光ってて、かぼちゃスープも甘くて美味しいですの」

「元々は、僕も兄貴から料理教わったしね」

「じゃあ、信次くんにとっての母の味なのね」

「うん、そんな感じ」


 正直、もうあの女の料理の味は忘れちゃったし、お父さんもそんなにレパートリーは無かったからね。

 本当に僕は、兄貴に育てられたようなもんだからなあ。


「ごちそうさまでした」

「え、早。そんなにお腹空いてたの?」

「身体が欲してるんですわ。正直足りないのですわ……」

「じゃあ、僕が炒飯作るから待っててね」

「わーい、信次くんの炒飯好きですわ」


 落ち着け僕、僕の炒飯が好きなんだぞ。

 でも、炒飯でも僕の作ったものを好きって言ってくれるのは嬉しいな。

 そんな訳で、僕はキッチンで炒飯を炒めながらニヤけてしまったんだけど、キッチンでならバレてないよね? 大丈夫だよね?

 のばらさんは、ニンニクマシマシ大盛りで、っと!


「ほい、できたよー!」

「待ってましたわ! いただきます!」


 もう、一口目から最高の顔してくれるもんな、こんなの皆惚れちゃうよね。解るよ、その気持ち。

 これからもこの顔を見続けたいな。もっと近くに寄り添いたいな。

 ふ、薄々勘付いていたけど、僕、いつの間にか、のばらさんの事、愛してたみたいだ。

信次「気持ちがどんどん強くなっていくよ」

京平「惚れたらそんなもんだぞ」

信次「僕の気持ち、多分重たいだろうなあ、でも本音だしなあ」

京平「イブには正直にぶつけてこいよ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ