集中出来ないお年頃(信次目線)
「兄貴の作ったハンバーグが小さかったから、ご飯おかわりしよ」
「だから小さくないからな!」
そんな事言われても、お腹空いてるもんはしょうがないでしょ。
今日は海里が風邪引いちゃったから、2日連続で籠って勉強したし。
海里、明日は出て来れるかなあ? 受験生なのにやっちまったな!
「このご飯に肉汁を掛けて食べるのが、また美味しいんだよね」
「あ、私もやろ!」
「亜美達が必要以上に太りませんように」
兄貴が成長期とか言ってたけど、確かに最近夜に背が伸びてる感覚、成長痛があるんだよね。
お父さんも背高いし、僕も同じくらい伸びたらいいな。のばらさんよりは高くなりたい。
って、なに考えてるんだよ、僕のバカ!
「肉汁ご飯っ! 食べたら走るぞ!」
「亜美、フラフラだから無理だろそれは」
「京平の肩を借りれば大丈夫」
「それ、意味あるのか?」
また亜美は、訳の解らない事をしようとしてるなあ。
素直にお風呂入って寝ればいいのに。
でも、最近亜美、体調崩してて走れてないから、元気なら走りたいのかな? 酔ってるけど。
「解った、少しだけだぞ。キツかったらすぐ帰るんだぞ」
「ありがとね、京平」
何だかんだで、兄貴は亜美に甘いからなあ。
兄貴、亜美が帰ってくるまでに走ったのにね。20km。
まあ、2人が走りにいくなら、僕は先にお風呂入ろうかな。
「ごちそうさまでした! さ、京平行くよ!」
「俺は一般人だから、まだ食べ終わってないぞ!」
「え? 京平のハンバーグ1番小さいのに?」
「普通サイズだってば!」
兄貴も歳だな。年々兄貴のハンバーグだけ、小さくなってってるもんなあ。
肉を食べ過ぎると、胃もたれするとか何とか言ってたし。可哀想に。
「ごちそうさまでした。じゃあ僕は先にお風呂入るね」
「いっそげ! 京平っ!」
「普通に食べさせてくれ、亜美」
こうなった亜美は煩いからなあ。兄貴、頑張ってね。
僕はパジャマと下着を持って、お風呂に向かった。
「にしても、のばらさん普通にイブOKくれたなあ。僕でいいんだろうか」
のばらさん、普通にモテるだろうし、そもそもお嬢様だから交友関係も広いだろうに。
相変わらず僕とのライムも続けてくれて、勉強してたのに気が気じゃなかったよ。だって、のばらさん可愛過ぎるんだもん。
兄貴にも送ったら、亜美可愛い! って言って待ち受けにしてたけど。
鼻の下めちゃ伸ばしてた事は、亜美には内緒にしといてやるか。
さあ、いよいよ告白だぞ。僕。
この告白は、意識して貰う為の告白になる。
絶対今、僕が好きだなんて思ってないもんね。
でも、日を追う毎にのばらさんでいっぱいになるんだ。
勉強出来てるのは、奇跡なんじゃないかな?
告白して、スッキリした気持ちで受験勉強に挑もう。
結末がある程度出たら、勉強の事考えられるかな?
それは告白してみないと解らないけど。
「のばらさんも呑んでたんだよな、体調大丈夫かな?」
やばいな、ちょっとボーっとすると、すぐのばらさんの事考えちゃう。
お風呂から出たら、返信ついでに、体調大丈夫か聞いてみよう。フラついてないと良いな。
ダメだな、さっさと身体と頭を洗って、勉強しよ。
兄貴はこんな気持ちで9年も居たんだよね。化け物すぎるよ。
それを言うなら亜美もだけど。
僕は身体と頭をサッと洗って、お風呂を後にした。
亜美達は、もう出かけていた。
兄貴の食べた跡から、かなり兄貴が急かされていた事が伝わってくるよ。兄貴の座ってた場所の食卓が、めちゃ汚れてる。
勉強の前に掃除と洗い物をしよう。
まずは食卓を台拭きに消毒液を付けて拭いて。
これで食卓は良し。
次は洗い物だね。ただ、僕達は綺麗に食べたからあんまり汚れてないや。
肉汁も含めてハンバーグだからね。
兄貴も次回は、もっと大きなハンバーグを作って欲しいよね。
洗い物も完了。のばらさんにライムしたら、勉強しなきゃ。
えっと、返信来てるな。『帰りもリムジンパーティーしましたわ』か。
あ、帰りはのばらさんがサンタさんになってる。可愛いな。
シャンパンを呑みながら撮ったからか、頬が火照ってるのもまた可愛いや。
待ち受けにしよ。じゃないって! 返信しなきゃ。
『可愛いね! そう言えば、亜美が酔っ払って帰って来たんだけど、のばらさんは大丈夫?』
よし、勉強に集中だ。本腰入れてかなきゃね。
……ダメだ、返信が気になって集中出来ないや。
最近いつもの僕らしくないぞ。集中力とメンタルの強さには自信あったんだけどな。
逆にもう1つライム送ろっかな?
海里に、『風邪大丈夫? 無理しないでね』と。
今日緊急外来にはなるけど、病院には行ったのかな? 友達として素直に心配ではある。
病院行って無かったら、強引に連れてこうかな。なんて。
あー、気になる要因増やしただけじゃん。僕のバカ。
もういい、勉強に集中だ。脇目を振らず、苦手科目を一心不乱にやるのみ。
と、ライム返って来てるかなあ……。じゃないでしょ、あああああ。
最近こんな感じだ。真面目に頑張れてない。
兄貴が帰って来たら相談してみよう。勉強に集中出来る方法とか。
もうスマホ封印するしかないかなあ。
と、半ばヤケになっていた時、ライムが届いた。海里からだ。
「えっと、『熱まだあるけど、緊急外来だと高いから明日いくー』だと?」
バカ海里! 僕は慌てて家を飛び出した。や、正確には飛び出そうとした、だった。
「信次、どうしたんだ? 慌てて」
「兄貴……海里が風邪引いてんのに、病院行かないんだ。だから、連れてこうと思って」
「待て信次、本当にただの風邪なら寝てるしかないぞ。今海里くん、熱何度あるの?」
「あ、聞いてなかったや」
「問診は大事だぞ。ただ、海里くんには世話になってるからな。俺が診にいくよ」
兄貴はマスクを着けて、医療器具をまとめると、瀬尾家に直行し始める。
「信次は亜美を頼む。フラついてんだ」
玄関を見ると、今にも倒れそうな亜美がいる。
僕は亜美を抱えて、部屋まで運ぶ。
亜美、結局こうなったのか。早く帰ってくる訳だ。
「じゃあ、海里くんがやばかったらまた連絡するわ」
「ありがとね兄貴。気をつけて。あと、お金は」
「余程酷くなきゃ要らねえよ。緊急外来行く事になったら、俺が払うよ」
「ごめんね」
「心配すんな、俺は医者だからな」
良かった。僕はまだバイト代入ってないし、海里んちが貧乏なのも知っている。
早く医者行けよ、が、イコール僕の我儘なのは、良く解っていたんだ。
まだ兄貴に頼らなきゃ行けない自分が情けないし、歯がゆい。
兄貴は僕をポンポンして、家を後にした。
勉強、頑張らなきゃ。
友達すら自分の力だけで助けられないなんて、そんな自分が嫌だから。
と、その前に亜美の看病だね。水飲ませとかなきゃ。
「亜美、大丈夫?」
「信次、クラクラするよお」
「お酒呑んで走れば、そりゃそうなるよ。お水飲める?」
「お、ありがと。欲しいー!」
「はい、どうぞ」
このとんでもなくバカな姉を支える為にも、僕も稼げるようにならなくては。
家事だけじゃなく、シンプルに家族を支えられるように。
兄貴と亜美が動けない時に、支えるのは僕なんだから。
僕がそうなれるまで、2人とも無理しないでね。
そんな最中、のばらさんからライムが来た。
『のばらは大丈夫ですわ。信次くんは無理してないかしら? また明日ね』だって。
大丈夫、今は無理しなきゃいけない時だから、って返した。
信次「海里、大丈夫だといいけど」
亜美「京平がいれば大丈夫だよ」
信次「そうだね、それは信じてるよ。で、やっぱ亜美はすぐに立てなくなった、と」
亜美「お酒がより回って、京介に止められた」
信次「やっぱりね。おバカ」




