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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
恋愛バトル
9/220

思い出の子守唄(信次目線)

 僕は亜美達の元へ戻るけど、のばらさんはもう居なかった。それと入れ違いに兄貴と麻生先生も、オペの準備があるとかで休憩室を後にする。


「じゃあ、この後も頑張れよ。信次」

「我輩も応援しておるぞ。信次殿」

「有難うね、2人とも頑張ってね」


 恐らくは朝までオペだろうなあ。これは僕の憶測だけど、主任部長が2人揃ってのオペとなれば、そんなに簡単にはいかないのだろう。

 さっき麻生先生から、オペ看護師はのばらさんだと聴いていたので、そんな2人につけるのばらさんは相当優秀なんだろうな。


「それよりまさか、信次のバイトが保育士さんなんてね。想像できないなあ」

「僕も予想外だったよ。でも、上手くできたら小児科対応も出来る医師になれるし頑張るよ」

「そこまで考えてたのね。流石信次!」


 兄貴が小児科対応もしてる事を考えると、意識せずにはいられない。まだどの科を優先的に学ぼうかは考えていないからこそ、全ては経験だ。


「まあね」

「じゃあ、私もお腹減ったし、そろそろ帰るね。晩御飯も有難うね。バイト頑張ってね」


 亜美はそう言うと、休憩室を後にした。

 きっと家では、「京平がハグしてくれたー!!」って、小躍りするんだろうな。兄貴にとっては、ただの悪戯なんだけどね。色々と罪な兄貴だ。


 さあ、どう亜美に話そうか。のばらさんの事。上手く立ち回らないと、亜美を傷付けてしまう。それは絶対嫌だ。

 でも、皆でクッキー作るとか久しぶりだからちょっと楽しみかも。意外と個性が出るんだよね。クッキーって。


 って、早くお弁当食べなきゃ。

 夜のお弁当は、タコさんウインナーとミートボールとスクランブルエッグとコールスロー。だから兄貴は、何故あの短時間でミートボールまで手作りしてるんだ。コールスローもいつの間に仕込んだんだ。天才が過ぎる兄貴である。


 ◇


「あ、時任くんおかえり。20時半からも頑張ろうね」

「有難うございます。頑張ります」


 20時半からは、迎えにきた親御さん達の対応に追われた。看護師さんや医師の旦那さんや奥さんが迎えにやって来るのに多い時間らしい。

 大体の子供達は寝ちゃう時間だから、皆さん抱っこしながら家路に向かうようだ。


「君新しい子だね。時任くんかあ、頑張ってね」

「はい、まだ慣れない事も多いですが頑張ります」

「絵梨を有難うね。それでは失礼します」


 えり……絵梨ちゃんのお父さんが迎えに来てくれた。絵梨ちゃんのお母さんは中番なのかな? 17時の時には居なかったから。

 って事は、今たくみくんは1人になってるかもしれない。小暮さんの話によると、19時半から20時半までに来た3〜4歳児は居ないらしいし。

 たくみくんはあの後も、絵梨ちゃんとしか遊んでなかったのだ。あ、正確には僕も遊んでるか。


「じゃあ、後の時間はお迎えの対応をしながら、またりす組に入って貰おうかな」

「かしこまりました」

「信次くんは後ちょいだから頑張ろうね」


 僕はまたりす組の対応になった。たくみくんを気にしつつ、他の子達の様子も見なければ。

 

「あ、しんじきた。ガメオさみしがってたんだぞ」

「たくみくんとガメオくんごめんね。また一緒に遊ぼうね」


 僕はたくみくん、とガメオプラモと遊ぶ事になった。

 たくみくんはまだ3歳だし、そろそろ寝ても良いのだけど、まだまだ元気いっぱいだ。小暮さんから、たくみくんは朝までコースだし、りす組では朝までコースはたくみくんしか居ないらしいから尚の事、らしい。


 その為、他の子達も徐々に帰ってゆき、気が付けば、たくみくんだけになっていた。

 今は21時半。僕も後30分で、たくみくんとバイバイしなきゃいけない。

 だから、寝てほしいのが本音なんだけど、寝かしつけようとしても、中々たくみくんは寝てくれなかった。


「時任くん苦労してるねぇ、拓実くん中々寝ないでしょ?」

「あ。小暮さん」

「拓実くんには子守唄を歌ってあげるといいよ。時任くん歌はお上手?」


 子守唄かあ。いつも亜美と兄貴が歌ってくれてたなあ。僕はいつも聞く立場だったから、歌うのは初めてだった。ので。


「聞く事はあっても歌った事ないので、上手いかは解りません」

「時任さんと深川先生の子守唄とか、凄い気になる。聞いて育ったんなら、歌えるんじゃないかな?」


 それなら、歌うだけ歌ってみようかな。


「拓実くん、ちょっとおいで」

「ん、なんだ?しんじ」

「膝枕してあげるね」

「へんなことすんな、しんじ。いいけどよ」


 僕は、拓実くんを膝枕すると、息を吸い込んで歌い始めた。

 なんか見られながら歌うって緊張するな。

 でも、少しでも拓実くんが寂しくないように、僕なりに歌ってみよう。

 よく聞かされた子守唄を。


「よぉかぜが〜♫

 ふんわり

 髪をくすぐって

 いつもの君が

 優しく笑ってる


 穏やかな

 その眼差しに

 何度も救われてる

 ありがとう


 全て在るがままでいい

 1番素敵な事だから

 そんな君を私は

 絶対1人にはしないから

 でもね、無理はしないでね。

 大切な人だから。

 おやすみ」


「すぅー、すぅー」

「よ、良かったあ。寝てくれた……」


 僕は一気に肩の力が抜けた。


「うん、いいじゃない時任くん。そうか、この歌を深川先生と時任さんが歌ってたのかあ」

「はい、2人によく歌って貰ってたんです……緊張しましたけど」


 そんなこんなをしている内に、もう22時になったので、僕は職場を後にした。

 拓実くんが、朝まで眠れますように。


 ◇


「ただいまー」

「あ、お帰り信次! オムライスありがとね。美味しかったよ」


 兄貴もそうなんだけど、亜美もこうやってお礼を言ってくれるから張り切っちゃうんだよね。


「それなら良かった」

「あ、お風呂沸かしといたから、入っといでよ」

「有難う亜美。じゃあ入ってくるー」


 バイトで精神的にも体力的にも疲れていたので、本当に有難い。お風呂だけは、冷めちゃうし、どうしてもバイト前には準備出来ないからね。


 僕はリビングから下着とパジャマを取って、お風呂にいく。

 亜美もいるのに、僕らの下着ダンスがリビングにあるのは、兄貴がよくのぼせて部屋に入れなくなる事があるからだ。リビングに下着ダンスを置くのも、むしろ亜美からの提案だったしね。


「ふいー、癒される……」


 仕事後のお風呂って、こんなに気持ち良いんだなあ。

 兼業主弟で頑張ってきたから体力には自信あったけど、まだまだ体力が足りないや。筋トレとかもしなくちゃなあ。授業中、こっそりやろうかな?


「にしても、のばらさん不細工ではなかったなあ。寧ろ……って、何考えてるんだ、僕」


 のばらさんも明らかに恋する乙女って感じだったなあ。容姿も、ふんわりとした金髪、輝いている瞳、プルプルとした肌と唇。本当に可愛かったなあ。

 って、僕は本当に何を考えているんだ。のばらさんはとっちめる対象だというのに。

 僕は、自分の事が解らなくなりつつあるな、と思いながら、お風呂からあがるのであった。


 ◇


「亜美、お風呂有難うね」

「いえいえ、いつも家事有難うね」


 不意に目を机にやると、僕の席に何か置いてあるのに気付いた。


「あ、蜂蜜レモン作ってみたの。信次も京平も遅くまで働いてるしね。お湯で溶いてあるよん」

「疲れてたから助かるなあ、有難う。亜美は明日中番だったよね?」


 僕は亜美の作ってくれた蜂蜜レモンに癒されながら、亜美に聞いてみる。


「うん、入院してる患者様を中心に外回り」

「蜂蜜レモンは冷蔵庫の中かな? 兄貴が帰ってきたら、この事伝えとくね」

「え、私が伝えたいんだけど……」

「夜更かしは駄目だよ、亜美。兄貴からも亜美が夜更かししないように見張っとけって言われてるんだから」

「はーい……」


 本当は兄貴の顔を見てから寝たいんだろうなあ。でも、中番は12時からだし、遅番の兄貴に合わせられるほど遅い勤務じゃないからね。

 ただでさえ、昨日は眠れなかっただろうに、本当に兄貴の事愛してるんだよなあ、亜美は。


「後、かなり今更になるんだけど、小さい頃僕が眠れなかった時、子守唄歌ってくれて有難うね」

「あ、信次覚えてたんだ。ちょっと恥ずかしいなあ」


 亜美は照れくさそうに笑った。兄貴が歌ってるのを聴いて、必死に覚えてくれた子守唄は、忘れないよ。亜美。


「今日それを思い出して、拓実くんって子に歌ってあげたんだ。寝てくれて良かったよ」

「信次の声、なんか落ち着くもんね。良かったね」

「明日もバイト休みだけど、亜美達がしてくれた事を思い出しながらこれからも頑張るよ」

「ふふ、有難うね。京平もそんな事聞いたら喜ぶだろうなあ」


 そうだろうな、って、僕も頷きながら、思い出に浸るのだった。

作者「因みに思い出の子守唄は、私、九條リ音がリリースしている楽曲です。九條リ音で検索してみて、良かったら聴いてくださいね」

信次「バリバリ宣伝してるね、作者」

京平「欲望に満ち溢れてるんだな、可哀想に」

亜美「きっと疲れてるのよ」

作者「そうそう、慣れない体力仕事で身体中が、ってこらー!」


亜美「次回からは、また私の語りに戻るよん」

作者「中番頑張ってね、亜美」

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