早めに来たのばら
「亜美、兄貴、起きれそう? 大丈夫?」
「んん、おはよ、京平、信次」
「おはよ、亜美、信次。起こしてくれてありがとな」
なんか長い夢を見ていた気がする。友くんと出逢った頃の夢。
そうだね、最初は友くんにいじめられたんだよな、私。
それが今や好意を向けられるなんて、友くん変化しすぎだよね。
「ご飯出来てるけど、食べれそう?」
「うん、大丈夫。心配かけてごめんね」
「じゃあ、リビングに行こうか」
私達がリビングに向かうと、美味しそうな匂いがリビング全体に立ちこもっていた。
これだけで、なんか元気が出て来たよ。
信次、ありがとね。
「今日はポトフだよ。いま持ってくね」
「あ、私も手伝う!」
「亜美は座ってな。まだ疲れた顔してるし」
という訳で、信次が盛ったポトフを京平が運んでくれるスタイルになった。
確かにまだ精神的な疲れはあったから、正直ありがたいんだけどね。
「ほい亜美。お待たせ」
「ありがと、京平」
「これで配り終わったかな?」
「そうだね、じゃあ食べよっか」
「「「いただきます」」」
うん、信次のポトフ、凄く優しい。殺伐とした心に、これは本当にありがたいよお。
「うわあああん。信次のポトフ優しくて美味しい。ありがとね」
「亜美、色々あったもんね。お風呂入ったら直ぐ寝るんだよ」
「そうする。明日はのばらとプレゼント買いにいくし」
「やば、僕まだ買ってないや。ちょ、今からデパート行ってくる」
「待て信次、デパートはまだやってるし、ご飯食べてからにしとけ」
「そうだね、無駄に焦る事はないよね」
信次がこういう事に関して、うっかりするなんて珍しいな? 何か考え事でもしてたのかな?
「後、キャッシュカード返しておくな。俺の今月分の小遣いも下ろしといた」
「兄貴最近早く寝るから、タイミング合わなかったもんね」
「ん? キャッシュカード?」
「ああ、亜美の入院費を前借りしようとしたら、信次が、亜美が可哀想だから、普通に払えって言ってくれて。それからキャッシュカードは俺が持ってたんだけど、返すタイミングが無くてな」
成る程、だから私の入院費は普通に払えたのか。あと、ポカルも。
私が弱いばっかりに、皆本当にごめんね。節約してるのにね。
「亜美が責任を感じる事はないぞ。俺が風邪をうつしたのがそもそもの始まりなんだし」
「本当だよ! 9年後は気をつけてよ」
「せめて9年後は、薬飲んでね」
「すみませんでした!!!」
京平ばかりが悪者にされちゃうのは可哀想だけど、元はと言えば、風邪なのに出勤した京平が悪いもんね。
まあ、私も抑えきれずにキスしたり、抱きしめあったりしたから、私の自業自得でもあるけど。
でも9年後も、家族皆で、幸せに暮らしていたいな。
「ごちそうさまでした。プレゼント買いに行かなきゃ!」
「「いってらっしゃーい!」」
「いってきまーす!」
信次が家を出たのを確認した京平が、ニヤリと笑っておねだりしてきた。
「ね、亜美。あーんってやって欲しいんだけど」
「急にどうしたの?」
「亜美がのばらさんにやってるの見て、羨ましくなったの」
「しょうがないなあ。はい、あーん」
京平は口を大きく開けて、私が掬ったポトフを美味しそうに食べていた。
そんな姿をみてると、なんかホッコリするな。
可愛いな、京平。
「もっと」
「もっと欲しいの? はい、あーん」
甘えん坊だなあ、京平ってば。
でも、私には沢山甘えてね。頑張ってるの知ってるから。
「亜美にあーんして貰うと、いつも以上に美味しいや」
「それなら良かった」
「じゃ、次は亜美の番ね。あーん」
ちょっと照れるけど、やっぱり嬉しいな。
私も大きく口を開けて、京平のスプーンからポトフを食べる。うん、確かにいつも以上に美味しいや。
「もう一回」
「しょうがないなあ、ほら、あーん」
もぐもぐ。うん! やっぱり美味しい!
京平の優しい顔と、ポトフの優しさが絡み合って、もう最高過ぎるよ!
「うん。とっても美味しいよ」
「いい笑顔してるもんな。亜美」
お互いに笑い合えるこの時間が、本当に愛おしいな。
京平とだからだよ。愛してるよ。
「「ごちそうさまでした」」
「よし、じゃあ風呂入ろっか」
「一緒なの嬉しいや」
私達は身体を流し合ったり、シャンプーでお互いの髪の毛を作り合ったり、のんびりお風呂に入った。
途中で眠気が襲って来たんだけど、京平が抱きしめて支えてくれた。
「相当眠そうだな、肩支えるから上がりな」
「ふわあ、ありがとね、京平」
私達はお風呂から出て、パジャマに着替えて布団にダイブした。
「京平、抱っこ」
「ふふ、甘えてくれるの嬉しいぞ」
京平と私はお互い抱きしめ合って、温もりを分かち合う。
温かいや。安心出来るや。幸せだな。
「おやすみ、京平」
「おやすみ、亜美」
私は一番安心出来る場所で、眠りに着いた。
いつもありがとね、京平。
◇
朝、私はアラームで目を覚ました。今は11時だね。
「んん、よく寝た」
京平は今日も耳栓をしていて、気持ち良さそうに寝ている。お休みだし、たっぷり寝るんだよ、京平。
と、思っていたんだけど。
「あ、亜美、一瞬兄貴起こして。布団干したいから」
「ああ、そういう事か」
私は京平の耳栓を外して、京平を起こす。
「京平、ソファで寝よ。起きて」
「んん。ふわあ。そっか、布団干すもんな」
私達は布団を干した後、リビングに向かった。
京平は再度耳栓をして、ソファにゴロンと寝転がる。
「ごめん、まだ眠いから寝るわ。おやすみ、亜美、信次」
「おやすみ、京平」
「おやすみ、兄貴」
京平も早く寝たのに、まだ寝足りないみたい。普段頑張ってるもんね。
ソファでゆっくり寝るんだよ。私は京平に布団を掛けた。
「亜美は朝ご飯にするよね?」
「うん、12時にはのばらが来るしね」
「朝兼昼ご飯だね。沢山食べてくんだよ」
「ありがとね、信次。いただきます!」
と、のんびり朝ご飯を食べようとしていたら。
ーーピンポーン。
「亜美、のばらですわ。ちょっと早めに来ちゃいましたわ」
「早! ごめん、全然準備出来てないから、とりあえず上がって」
「お邪魔しますわ」
のばらを家に上げたら、何故か信次が動揺し始めた。
動揺というか、ある意味歓喜、かな?
「のばらさんいらっしゃい。ご飯は食べて来た?」
「お昼は亜美と外で、って思ってたんだけど、亜美は今から朝ご飯ですのね」
「そこら辺話しておけば良かったね、ごめん」
「いいよ、のばらさんもご飯食べてって。今準備するから」
「ありがとうございますわ」
そんな訳で、のばらと朝ご飯を食べる事になった。
何だか信次が嬉しそうなのは、気のせいかな?
「いただきますわ」
「沢山食べてってね」
うひゃ、準備するからとは言ってたけど、サンドイッチにオムレツに卵焼きにお味噌汁に鯵の開きに、色んなご飯が並んだや。
こんなに私達、食べれるかなあ?
と、思ったんだけど、のばらが凄く嬉しそうに箸を進めてる。お腹空いてたんだね。
「僕も早めの昼ご飯にしよっと。いただきます」
ここに信次も加わって、あんなに沢山あったご飯達は、見る見るうちに無くなった。
ふいー、食べ過ぎたなあ。お腹いっぱい。
「ごちそうさまでした」
「沢山食べてくれてありがとね」
「ごちそうさまでしたわ」
「のばらは座って待っててね。直ぐ準備するから」
「じゃあ、ソファーに。って、先客が居ましたわ」
あ、京平の事説明するの忘れてた。
でも、準備しなきゃだから、そっち優先しなきゃ。歯磨きに着替えにやる事いっぱいだ!
「ああ、兄貴ね、いつも休みの日は15時くらいまで起きないから。今布団干してて移動して貰ったの」
「お疲れですのね、深川先生。ぐっすり寝てますわ」
「いつも僕達の為に、頑張ってくれてるからね」
「どんな夢見てるのかしらね?」
「亜美、今日いいかな……むにゃむにゃ」
「変態でしたわ!」
亜美「ひー、のばら待たせてるし、早く準備しなきゃ!」
京平「すやすや」
のばら「深川先生は変態でしたわ。夢でなんて事を」
亜美「京平がどうしたの?」
のばら「亜美は知らなくていいのですわ!」




