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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
クリスマスの準備
86/222

友達になった友くん

「兄貴、亜美、そろそろ起きた方がいいんじゃない?」

「むにゃ、おはよ、信次」

「やべ、俺も寝てたわ。ありがとな、信次。おはよ」


 どうやら私と一緒に、京平も寝てたみたいだね。

 という事は、ずっと抱きしめてくれてたのか。ちょっと照れるじゃん。かなり嬉しいけど。

 時計を見ると、ちょうど20時。今から寝た分を取り戻さなきゃ!


 私達は部屋を出て、勉強兼晩ご飯を始める。

 信次は私達に気を使ってくれて、勉強しながらでも食べやすいように爪楊枝でおかずを刺してくれていた。

 ご飯もおにぎりにしてくれたみたい。本当出来が良すぎる弟だな、信次。


「さ、まずはレポートだな。書き方のコツを教えるからやってごらん」

「うん、やってみる!」


 私は信次のおにぎりを美味しい! と、言いながら、京平のアドバイスに耳を傾ける。

 私は不器用に全部書いていたけど、要点が入っていればレポートとして成り立つから、時間がない今日はそうやって書いてみるのがいいらしい。


「亜美の事だから、授業はちゃんと聞いていただろう。皆どうせ授業捨てて、レポート書いてただろうに。その亜美の努力、報われるといいな」

「間違ってないよね?」

「うん。1番成長出来るよ。よく頑張ったな。ただ明日以降は、レポートをノート代わりにしてもいいかもな。後で直せばいいんだし」

「え、でも消すの面倒だし、やっぱりノートに取るよ。レポートの点数に響くかもだし」

「そっか。亜美らしいな。うん、良いと思うよ」


 京平は優しい顔をして、私を撫でてくれた。

 私の頑張りを、報われるように祈ってくれる存在がいるだけで、かなり救われるな。

 こうして京平のアドバイスを受けながら、信次の作ってくれたご飯を美味しい、ってしながら、レポートは仕上がった。


「で、出来た!」

「な、出来ただろ。これからは夜更かしせずにちゃんと寝るんだぞ」

「え、気付いてたの?」

「顔見れば解るよ。じゃあ、軽く予習やろうか。でも今日はすぐに寝ろよ」

「復習は?」

「レポートで出来てるから安心しな」


 京平のお陰で、予習の時間も取れて、気が付けば22時。素早く勉強が出来た。


「よし、今日はもう寝ろよ」

「そうする。まだ眠いもん」

「一応、亜美が寝付くまで側にいるよ」

「ありがと。京平がいると安心して眠れるよ」


 これからは自分だけの勉強は、程々にしないとな。夜の2時までは流石にやりすぎちゃった。

 私達は部屋に行って、ごろんと私の布団に寝転がる。

 

「おい亜美、パジャマには着替えとけよ」

「あ、忘れてた。よいしょっと」


 あ、ついつい京平の居る前で着替えちゃった。

 でも、京平は冷静だなあ。

 やっぱり、まだまだ私は妹でしかないんだね。

 愛して貰えるように、頑張らなきゃ。


「着替えたよ」

「よし、じゃあとっとと寝ろよ」


 私が布団に入ると、京平は私を抱きしめて、頭をポンポンしてくれた。

 心地良いな。これが毎日だったらいいのにな。

 でも、そうはいかないから、今日の温かさを噛み締めておかなきゃ。

 温かい。凄く安心出来るよ。ありがとね、京平。


「おやすみ、京平。いつもありがとね」

「おやすみ、亜美。こちらこそ」


 私は京平の腕の中で、気持ち良く眠った。


「やべ、離せない。可愛すぎなんだよ、亜美」


 ◇


「亜美、起きろおおおお!」

「んんー、後5分。すやー」

「おりゃああああ!」

「うわ。信次、おはよ」


 相変わらず朝は起きれないなあ。京平も、自分の寝床に帰ったみたいで寂しいし。


「今日は兄貴中番だけど、無理せず早く寝るんだよ」

「そっか、じゃあ今日は勉強見てもらえないね」

「明日は土曜だし、ゆっくりやればいいよ」

「そうだね。頑張るぞ!」


 私は朝ご飯を食べて、朝の支度をして、信次のお弁当を持って、学校へ向かう。

 レポートはバッチリ出来たし、これなら日比野に負ける事はないだろう。


 朝、学校に着くと、また様子が変わっていた。

 日比野の周りがやたらと静かだ。いつもなら、女子の群れで溢れかえっているのに。

 何でかな? と思い、日比野を見ていると、凄く不機嫌な顔をしている。

 確かにこれじゃあ誰も近寄れないね。

 でも、ちょっとだけ心配になった私は、日比野に話しかけに行った。


「日比野、不機嫌そうじゃん。さてはレポート忘れたな。私の不戦勝だね」

「時任みたいにバカじゃないので、ちゃんと持って来てますからご安心を。今日こそ勝ちますので」

「いつもより不機嫌そうなのは何で?」

「時任も普通に話せるんだね。こっちの事情だから気にしないで下さい」


 そう言えば私達、初めてお互いの名前を呼び合ったね。

 お互い嫌いな相手だから苗字で呼び捨てだったにしても。

 

「そっか。私、負けないからね!」


 不機嫌な事情を話す気は無いみたいなので、私は宣戦布告をして、自分の席に戻った。


「僕、不機嫌だったのか。時任に教えて貰うなんて癪です。でも、今日はいつもの時任ですね」


 私達は地獄のレポートを提出して、一息入れられる、と思ったのも束の間、今日はレポートの他に宿題も出た。何てこったい。

 この看護学校では、金曜日にテキストが出るのが普通らしい。つまり土日も休ませてはくれない。


「全教科のレポートだけでもしんどいのに」

「テキストも結構ギッチリある。バイトあるのに」

「大丈夫、今日から実技も始まるからレポートは」

「田中仲、実技もレポートの対象だからな」


 皆一気に真っ青になった。実技の時はレポートなんて書ける訳がないから、メモ取りを丁寧にしなきゃだろうしね。

 や、皆、それが普通だからね?

 でも、京平に言われた通り、寝といて良かった。

 寝てなかったら、実技どころじゃなかったしね。


 あれ? なんか日比野の様子が変だ。

 さっきより不機嫌な顔になっている。

 手も震えてる。どうしたんだろう?


 こうして実技の時間が始まった。今回は、採血のやり方を教わった。

 とは言っても、私達は素人同然なので、まずは練習キットを相手に行う。

 ただ、普段自信満々の日比野が、震えていた。

 不機嫌になったり、震えたり、忙しい奴だなあ。

 

 と、思った次の瞬間、日比野が教室から飛び出した。

 

「日比野くん?!」

「私、追いかけます!」


 何があったの? 日比野。いつもと全然違うじゃん。

 堂々と、いけしゃあしゃあと熟すのが日比野でしょ?

 でも追いかけたんだけど、私は足が遅いから、直ぐに日比野の姿は見えなくなった。


「日比野、どうしたの! 日比野!」


 でも、何で私、追いかけてるんだろう。

 私をいじめてる張本人なのに。

 今日も何で気にしたんだろう。全然解らないや。

 解らないけど、今の日比野はなんか変だ。

 捕まえて、聞いてみないと。


 はあはあ、走りまくったら酸欠になってきた。

 意識も朦朧としてくる。

 私はその場で倒れてしまった。


「時任!」


 ◇


 私が目を覚ましたのは、倒れて30分後の事だった。


「あれ、私、確か日比野を追っかけてて、そんで」

「酸欠になって倒れたんですよ。世話が焼けますね」

「日比野!!」

「まさか追いかけてきたのが、時任だとは思いませんでした」


 という事は、私を助けてくれたのは、日比野か。日比野にも優しい気持ちがあったんだね。


「ねえ、どうして教室飛び出したの?」

「起き上がらないで。まだクラクラするはずです。気にしてくれたの時任だけだから、話します」


 あの日比野が、凄く悲しそうな眼をしている。

 何があったんだろう。


「実は僕、医師志望だったんです」

「ほええ、だから頭よかったんだね」

「だけど、大事な入試の時にインフルエンザになってしまって……医学部のある大学、全部受けられなくなってしまったんです」

「え、そんな事が……」

「しかもかなり悪化して、入院までしましたよ。僕はずっと泣いてましたけど」


 日比野にそんな過去があっただなんて。

 私をいじめた事は許せないけど、そうでもしないと落ち着かないくらいに心が悲鳴をあげてたんだ。


「その時お世話になった看護師さんに、看護学校ならまだ間に合うよって慰めてもらって。人を助ける職業には変わりないと思い、ここに入ったんです」

「そうだったんだね。日比野、頑張ったんだね」

「ダメですよ。今日実技あるってだけで、医師になりたかった自分を思い出して、不機嫌になるわ、震えるわ、授業を放棄するわで」

「日比野は医師になりたかったんだもんね。そんな簡単に踏ん切りは付かないよ」


 あれ、あの日比野が泣いてる。そっか、辛かったんだね。


「日比野は今後どうするの? 医師になりたいんなら、今年もう一度受け直してもいいんじゃない? 医学部」

「いえ、看護師になりたかった自分も嘘じゃないので、もう一度頑張ります。時任みたいに頑張ってる人もいる訳ですし」

「そっか、お互い頑張ろうね。負けないから」


 私は少し晴々とした気持ちで、日比野に宣戦布告をした。


「それと、今までいじめてごめんなさい。余裕が無さすぎたんです。僕」

「謝ってくれたんならいいよ。許す。後さ、もし私がレポート勝ったら」

「それはもういいですから」

「日比野とは友達になりたいな」

「勝たなくたっていいです。僕も時任とは友達で居たい」


 日比野が優しい眼になった。なんだ、こんな眼も出来たんだなあ、日比野。

 そっちのがイケメンだぞ、日比野。


「私の事は亜美って呼んでね」

「亜美……さん」

「今まで時任って呼んでたのに!」

「人を下の名前で呼んだ事ないんですよ。僕も、友って呼んでください」

「さん付けが外れるまでは、友くんって呼ぶね」

「何ですか、それ。ちょ、笑えるじゃないですか」


 お、日比野が初めて笑った。笑わせるつもりは無かったんだけど、笑顔になれたなら良かった。

 なんか安心する素敵な笑顔だなあ。


「友くん、その顔で居なよ。なんか安心出来るもん」

「亜美さんを安心させられるなら、そうしようかな。確かに僕、全然笑って無かったです」

「じゃあ、友達になったとこで授業に戻ろっか」

「亜美さん、まだ顔が青いですよ?」

「これ以上サボってらんないもん。平気!」


 と、立とうとしたんだけど、足元がちょっとふらついた。頑張れ、私!


「肩貸しますよ。でも、本当に無理なら早退してくださいね」

「ありがと、友くん。辿り着きさえすれば大丈夫!」


 紆余曲折はあったけど、私達はこうして友達になった。

 因みに青い顔のまま授業を受けきった私は、信次にすぐ寝ろ! って怒られたり、帰ってきた京平にも、無理はするなバカアホドジマヌケって言われたのは、この後の話である。

友「思えば、亜美さんに八つ当たりしまくりでした」

蓮「大人気ないなあ、友」

友「僕、亜美さんを傷つけてばかりだなあ」

蓮「お、なんかあったん?」

友「蓮には、また話しますね」

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