表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
クリスマスの準備
85/240

最低最悪な友くん

 こうして、京平と勉強をした私は、最低最悪な日比野の事を頭の中から追い出して、更に自分でも予習復習して、気持ちよく眠りに着いた。

 気持ちよく寝た事によって、日比野の存在も忘れられた。

 翌朝、信次が作ってくれたお弁当をもって、今日も看護学校へ向かう。


 だが、状況は、更に悪化していた。


「時任さん、日比野くんをいじめないでよね」

「え、い、いいじめてないし、むむ、寧ろ私が」

「日比野くん泣いてたよ、可哀想に!」


 何でそうなるん?!

 いじめられたのは寧ろ私だよ! テストで負けたらしもべになれって言われたし!


 日比野のやつ、そうやって味方を増やしているんだな。

 周りからみたら、いじめたお詫びに私がしもべをやってるみたいに見えるし。

 でも、ミニテスト自信あるもん。大丈夫。

 予習復習もバッチリだしね!

 あーん、日比野のこと考えたくなかったのに、朝から最悪だ。

 これじゃあ、友達も出来そうにないや。


 そんな最悪な気持ちの中、授業は始まった。

 今日は、糖尿病の事について勉強するらしい。

 予習もしてきたけど、そもそも私の病気だし、知識はバッチリだもんね。


「では、1型糖尿病について、時任さん」

「はい、1型糖尿病は、先に説明のあった2型と異なりまして、膵臓(すいぞう)のランゲルハンス島と呼ばれる部分にあるβ細胞が障害され、インスリンを産生出来なくなります。その結果、高血糖状態が続き、生存を危うくする為、高血糖を是正する事と生存を目的として、注射によるインスリンを補う治療が必要です。現在ではインスリンポンプ等の治療法もあります」

「か、完璧ね。ありがとう」


 へへん、どんなもんだい! 勉強して来た甲斐があったよ。

 糖尿病に関しては、京平の専門分野だから、凄く丁寧に教えて貰ったしね。


 その直後、誰かの舌打ちが聞こえた気がした。


 ◇


 次の授業では、早くもミニテストの返却がされるらしい。

 負けたら日比野のしもべにされてしまう。そうなりそうだったら、先生に言ってやろう。

 違う違う、私は勝つから、これで日比野とはおさらばするんだから。


「まだ授業前のテストにも関わらず、皆さんよく勉強されてますね。100点が2人いました」


 ほええ。100点2人もいたのかあ。やっぱレベル高いなあ国立だけあって。

 

「日比野友」


 歓声があがった。日比野、100点取りやがった!

 どうしよう、このままじゃ私、日比野のしもべじゃん。今からでも先生に言おうかなあ。

 そう思って、手を挙げた時。


「と、時任亜美」


 (どよ)めきが起きた。良かった、同点ならしもべになる必要はないよね。


「時任さん、100点なの解ってたの? 手挙げてたけど」

「ま、まあそんなもんです、あはははは」


 しもべになる必要がなくなった今、先生に言いつける内容は何もないもんね。

 自信はあったけど、100点取れて良かった。京平になでなでして貰えるかなあ。


 その後はテストの訂正を兼ねての自習となった。

 100点の私は訂正箇所はないけど、教科書をみながら、補足として覚えるべき箇所をノートに書く。

 そんな最中、やっぱりアイツがやってきた。


「同点でしたね。思ったより出来るんですね」

「べ、勉強、し、し、してるも、ん」

「次は授業のレポートですかね。しもべにしてあげるね」

「ま、ま、ま、負けな、い、もん」


 やっぱり、更なる勝負を申し込んできたよ、日比野の奴。

 こんな奴には負けたくない。自習時間に予習復習もしっかりしなきゃ。

 勉強、食事、睡眠で勝つんだから!


 ◇


 そんな訳で、信次の美味しいお弁当を食べた私は、勉強疲れもあって、食堂でゆっくり寝ることにした。

 アラームも掛けたし、次の授業までバッチリ眠るもんね。


 なんて、ね。本当は結構限界近かった。

 昨日も、1人で予習復習しまくったから、あまり眠れてなかったんだ。

 確か、2時に布団へ入ったはず。

 次の授業までに起きれるか、不安だなあ。

 いいや、アラームを信じよう。

 おやすみ、世界。

 

「無理してるじゃないですか。参りましたって言えば許したのに」


 誰かが、上着を被せてくれた感覚を抱きながら、私は気持ちよく眠った。

 

 ◇


 やがてアラームが鳴って、まだ眠いけど私は起きることにした。おはよう、世界。

 あれ、見覚えの無い上着が私に掛かってる。誰の上着なんだろう?

 クラスメイトじゃなければ、普通に話して貰えるかな?

 周りの人に聞いてみた。


「すみません、私に上着が掛かってたんですが、誰が掛けたかご存知ですか?」

「ああ、髪の長い男の子が掛けてたの見たよ」


 髪の長い男の子? 思い当たるのは1人しか知らない。日比野だ。

 けど、あの日比野が私に上着なんて掛けるかなあ?

 でも日比野じゃないとしたら、誰なんだろう?

 ああもう、解らないや。いいや、畳んで椅子に置いとこ。

 一応手紙で、上着ありがとうございました、って添えて。


 昼からはレポートの書き方を習った。

 昨日と今日に行った授業のレポートを、何と明日までに提出しろだって! 看護学校は厳しいなあ。

 でも、ノートは取れてるから、後はそれを纏めるだけだね。

 ただ、レポートの書き方は思った以上に複雑で、1日で出来るか不安が募る。

 これに加えて予習もしたいから、ますます眠れない。でも、夢の為に頑張るぞ。

 私は病気持ちだから、人より出来てなきゃ就職すら怪しいしね。

 一応書く時間は与えられたけど、時間内で書き終わる速記術を持った人は誰も居なかったので、皆絶望感に満ちた顔になる。


 しかし、絶望感は更に続いた。次の授業もレポートの対象になると先生が言ったのである。

 提出期限は明日だって! バカなの?!

 こうなると皆授業そっちのけで、レポート書きに集中し始めた。

 私もそうしたかったけど、折角の授業を無駄にしたくなかったから、先生の話に集中して、走り書きでノートを取る。

 レポートがあるならノートの提出はないだろう、と踏んで、取り方を変えてみた。

 家に帰ったら、綺麗に書き直すんだけどね。

 要領悪いのかな、私。京平にも正しいかどうか、相談してみようっと。


 こうして、地獄の宿題を出された私達の授業は終わった。

 看護学生はバイトする暇ないぞ、って京平が言ってたのは、嘘じゃなかったんだなあ。

 ただ、皆さっきの授業を犠牲にして、粗方レポートは書き終えたらしく、晴々とした顔をしてる人が多く見られた。

 私の目的は勉強が出来る事、じゃなくて、看護師になる事だもん。

 だから、遠回りかもしれないけど、間違ってないよね?


 と、念の為食堂に置き去りにした上着を確認したけど、顔の知らぬ持ち主が持ち帰ったようだ。

 春先とは言え、まだちょっと寒いもんね。

 持ち帰ってくれたなら良かった。

 私も帰ったら、レポート及び予習復習頑張るぞ!


 ◇


「ただいまー」

「おかえり、亜美。って、疲れた顔してるね。大丈夫?」

「看護学生に休む暇など無いのだよ、信次くん」

「今からまた勉強するの? 無理はしないでね」

「ありがとね、頑張るよ!」


 京平が帰ってくるまでに、レポートは終わらせなきゃ。

 今は17時。まだ2時間猶予がある。どこまで出来るかな。

 でも焦りは禁物。自分の身にする事が大事だからね。

 私はノートを見ながら、レポートを少しずつ仕上げていく。

 うう。なんか眠たくなってきたや。でも、我慢。ミントガムを噛んで乗り切るぞ。

 ううう、それでも眠い。ダメだぞ、亜美。レポートで負けたら日比野のしもべだぞ。

 最低限、レポートだけはああああ。


「すやー」

「亜美、寝ちゃダメだよ!」

「は、危ない危ない。起こしてくれてありがとね」

「本当に大丈夫? はい、コーヒー」

「ありがと、信次。ふー、ふー」


 ふおお、温まる。コーヒーを嗜んだら、また勉強頑張らなきゃね。

 とは言うものの、その後の私と来たら、すやーっと寝ては信次に起こされる、を数回繰り返し、もう寝なよ! って何度も言われながら、レポートに取り組んだのだった。


「亜美、軽くでいいから寝ときなよ。顔色も良くないよ?」

「だって、レポート明日提出なんだもん」

「兄貴帰って来たら一緒にやればいいよ。亜美が倒れちゃう」

「それじゃ意味ないでしょ。大丈夫、まだ行けるよ」


 あ、段々信次の顔に心配が灯ってきた。でも、時間を考えたら、レポート終わらせないと予習復習出来ないもん。

 看護師になる為に、気合いで乗り越えなきゃ。

 と、根性で眠気を抑え込もうとした時。


「ただいまー」

「兄貴お帰り。早かったね。てか、亜美を止めて!」

「お帰り、京平」


 あれ、まだ18時6分なのに、もう京平帰ってきたや。

 京平は私の顔をみるなり、全力疾走で私の元へ駆け寄り、お姫様抱っこして私を布団まで運んでくれた。

 が、勿論、私は納得いかない。


「ちょっと! 勉強中なんだけど!」

「2時間寝とけ。今日はご飯食べながら勉強していいから。顔真っ青じゃん」


 京平の顔にも心配が灯る。でも、私にもやらなきゃいけない理由があるんだ。


「レポート、全然出来てないもん……」

「俺が教えるから安心しな。今からも、眠るまで側にいるから」

「珍しいね?」

「寝ずに1人で勉強されても困るからな」

「そう言うことか!」


 京平は私を抱きしめて、頭をポンポンしてくれた。

 ちょっと、子供じゃないんだから緊張するよ。ドキドキする。

 と思ったんだけど、やっぱり京平に抱かれると安心するみたい。

 元々かなり眠かったから、おやすみも言えないまま私は眠ってしまった。


「おやすみ、亜美」

蓮「相変わらず性格悪いな、友」

友「色々あったんですよ、僕も」

京平「しかし、今時の看護学生はこんなに宿題が出るのか」

友「亜美さん、授業中に一切レポートやんなかったですしね」

京平「亜美らしいけど、不安になるな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ