不機嫌な京平
「ふー、やっと落ち着いてきた」
「パジャマと下着は持ってきたから着替えろよ」
「ありがとね、京平」
のぼせるとこんなに呼吸が荒くなって、しんどくなるんだなあ。
私の自業自得なんだけどね。
私はパジャマに着替えて、ごろんと寝そべる。
休みだったんだけど、久々にやる事はやれたし、充実してて良かった。
「団扇もありがとね、京平」
「亜美も、次は普通の団扇で煽いでくれよ」
グサッ。気にしてる事をサラッと言うなあ。
でも普通の団扇ないから、買いに行かなきゃ。
京平団扇はもう無いしね。あ、そうだ!
「次は2人で写ったやつを団扇に」
「待て亜美、そういう問題じゃない。止めろ」
「だめ?」
「恥ずかしいから!」
うー、2人のやつも恥ずかしいのかあ。
何が普通で何が恥ずかしいか、良く解んないや。
「あー、今日も頑張った!」
「そうだな。お疲れ、亜美」
「来週は何作ろっかなあ」
「生クリームたっぷりのシフォンケーキがいいな」
「リクエストありがと! じゃあそうするね」
「亜美のお菓子があるから、禁酒頑張れてるよ。ありがとな」
ギュッと京平が抱きしめてくれた。
いつだって、凄い心地良いや。安心出来る。
私は我慢出来なくなって、京平にキスをした。
京平は少し驚いた後、唇と舌で私に応えた。
舌を絡め合って、呼吸を分け合って、キスをする。
愛しいが止まらないよ。どんどん溢れてくる。
京平もそんな気持ちかな? だったら良いな。
次第に指も絡め合って、頬擦りしたりして。
「亜美、疲れてるよな、その……」
「いいよ、私もしたい」
その日の夜は、お互い繋がり合って、愛を感じ合って、お互いの腕の中で眠りに着いた。
幸せって、こんな近くにあるんだね。
「亜美達、風邪引いちゃうじゃん。布団もう一枚掛けといてあげよ」
◇
「うーん、よく寝た。寒っ」
「しまった、着替えずに寝ちまったな」
「寝てる間は温かかったんだけど。あれ、布団が増えてる?」
「て事は、見られたって訳か。恥ずかしい」
信次の優しさで風邪を引かずに済んだけど、やっぱり恥ずかしいよね。
布団で身体は隠れていたにしても。
次からは気をつけなきゃだなあ。
「着替えてリビングに行こうな」
「そうだね。ああ、やらかした!」
私達は今更ながら着替えて、リビングに向かう。
洋服ダンスはリビングにあるから、パジャマに着替えなきゃなのはちょっと面倒だけど。
「おはよ、信次」
「信次、朝からありがとな、おはよ」
「おはよ、亜美、兄貴」
私と京平は、お互いに恥ずかしさを隠せなかった。顔が真っ赤だ。
「どしたの? 別に気にしてないよ。何がとは言わないけど」
「次からは気をつけるわ……」
「風邪引いちゃうからそうしてね」
信次は既に洗濯機を回して、朝ご飯も作ってくれていた。
「お弁当は亜美にお願いしよっかな」
「よーし、久々だけど任せて!」
「兄貴はなんなら、朝ご飯出来るまで寝てたら?」
「俺も作りたい!」
「兄貴は日曜日から!」
「意地悪。んじゃ、洗濯終わるまで寝とくよ。おやすみ」
「おやすみ、京平」
「おやすみ、兄貴」
やる事のない京平は、素直に寝に行くのであった。
可哀想だけど、しゃーないね。
「ね、亜美。僕としてはこれからも、僕と亜美で朝の家事やりたいんだよね」
「ああ、京平、睡眠必要な体質だもんね」
「そ、だから無理させたくないんだよ」
「でも、信次だって受験勉強……」
「夜やればいいだけだから大丈夫」
普段寝れていれば、休みの日に沢山寝なくても済むだろうし、京平だって休みにやりたい事、いっぱいあるはずだもんね。
あの山積みになった医学書の復習とか。
「兄貴が起きたら、伝えよっか」
「そうだね、私達で頑張ろうね」
さーて、そうと決まれば3人分と、信次の2個目のお弁当作りに慣れていかなきゃ。
何作ろっかなあ。京平と信次の好きな物がいいよね。
京平はガッツリしたのが好きだし、信次はヘルシーなのが好きだし……ん? 2人の共通する好きなの無いんじゃね?
あ、そだ、私のも作らなきゃだった。
もういいや、やれるだけやってみるぞ!!
「よーし、こっそりスイッチ切れたぞ。洗濯終わったから、干しにいくね」
「了解。京平も起きて来ないしね」
京平は後で拗ねるかもしれないけど、これも京平の身体を思ってのことだから、悪く思うなよ。
お弁当作りも着実に進んで来たぞ。
後は久々にあれ作ろっかな! 2人ともびっくりするかも。
それと、焼いたり揚げたり茹でたり、っと。
久々にしては動けてるじゃん、私。
あーん。まだまだこだわりたいのに、時間が足りない。
今の時間だと、どこまで妥協出来るかも考えなきゃだな。
「洗濯物干してきたよー」
「ありがと、信次。朝ご飯はもう出来そう?」
「うん、お味噌汁が出来たら完成だから、兄貴起こして来て」
「ほいやっさ!」
私は部屋のドアをゆっくり開けた。
気持ち良さそうに寝てる。少ない時間でも寝れちゃうくらい、睡眠が足りてないんだな、京平。
可哀想だけど、起こすからね。
「京平、朝ご飯出来たよ」
「ん、朝ご飯……え、朝ご飯?! 洗濯物!」
「は、信次がもう干したから安心して」
「信次、洗濯機のスイッチこっそり切りやがったな」
「ついでにお弁当も、もうすぐ出来るよん」
「俺のやる事ないじゃん」
「はいはい、時間ないからリビング行こうね」
うわあ、予想通り、京平拗ねてんなあ。
こうなった京平は、正直ちょっと面倒なんだよね。そこも可愛いんだけどさ。
「俺のやる事……」
「だから時間ないからリビング行くよってば!」
あー、かなり面倒臭いモードになってきた。
もういいや、強引に引っ張って連れて行こう。
連れて、連れて、ダメだ、重い。
「亜美、時間ないよ。兄貴起きた……って、そう言うことか」
事を察した信次が、一緒に京平を引っ張ってくれた。
なす術が無くなった京平は、そのままズルズルと私達に引き摺られていくのであった。
ただ、京平の機嫌は、ハッキリ言って最悪。
「よし、お弁当できた」
「亜美はいいよなー、やる事あって」
いつもならお礼が出るとこなのに、明らかに不機嫌だなあ。
4個作るのはは初めてだったから、私頑張ったのにな。ちょっと悲しいや。
「僕達も悪気があってこうした訳じゃないけど、ごめんね。兄貴は睡眠時間が沢山必要な体質だから、少しでも多く寝て欲しいんだよ」
「俺だって役に立ちたいんだよ」
「でも短時間とはいえ、普通に寝てたじゃん」
「20分そこらじゃそんな変わらないさ」
あああ、京平全然納得してないや。どんどん不機嫌が増してってる。
もっと悲しくなってくるよ。
「とにかく、亜美とも相談して、僕達で朝の家事やる事にしたから」
「大体亜美のアラームめちゃうるさいし、どっちにしろ寝れねえよ」
そっか、私のアラームうるさいもんね。どっちにしろ眠れないよね。家事やる時間に起きちゃうよね。それは辛いよね。
「京平には沢山寝て欲しい。けど私、あのアラームじゃないと起きれないから、今日から信次と寝るね。気付けなくてごめんね」
うう。ここまで堪えて来たけど、もう泣いちゃうよ。
京平に迷惑掛けてばかりじゃん、私。
邪魔してばかりだったね。
「待て、ごめん。俺が悪かった。そんなつもりで言ったんじゃないんだ……」
「ごめんね、京平。うわああああん」
「ごめんな。亜美は何も悪くねえし、亜美と寝れなくなるのは嫌だよ」
「本当に? 迷惑じゃない? えぐえぐ」
「迷惑じゃないし、朝は家事やらずに素直に寝るから」
良かった。私自体が邪魔な訳じゃなかったんだね。
それが聴けただけでも、ちょっと安心したよ。
京平がこれからは、少しでも眠れますように。
「大体兄貴、亜美と僕に言ってない事あるでしょ? 我が家のルール5箇条忘れたの?」
「朝ご飯と洗濯物ありがとな。信次。お弁当ありがとな、亜美」
「宜しい。どういたしまして」
「良かった、いつもの京平だ」
「朝から不機嫌過ぎてごめん。大人気なかったわ」
珍しく京平が土下座までして謝ってきた。
でも、京平が私達に守るように言ってる我が家のルール5箇条を、まさか京平が破るだなんてね。
5箇条を大まかに言うと、ありがとうとごめんねを言う。
いただきますとごちそうさまを言う。
いってきますといってらっしゃいとおかえりとただいまを言う。
おはようとおやすみを言う。
嘘をつかない。の5つ。
小さい頃は言い忘れる事もあって、よく京平に叱られたのにね。不思議なもんだ。
「兄貴は反省してね。じゃ、気を取り直してご飯たべよ」
「「「いただきます」」」
「やばいよ京平、時間ないよ!」
「本当だ、何でだ?!」
「兄貴のせいだよ!!!」
私達は慌ててご飯を食べて、着替えて、歯磨きして、そして京平は私をおんぶして全力疾走で駆け抜けていった。
「これなら亜美は疲れないだろ?」
「疲れないけど、めちゃめちゃ寒い!」
「それは我慢しな! それと、亜美に八つ当たりしてたわ、俺。ごめんな」
「八つ当たりだったの?」
「亜美も自分の事、大事にしろよ。今日は俺が最悪だったんだ」
「じゃあ、これは貸しにしとくね。ちゃんと借りは返してね」
「お安いご用さ」
そもそも家事をやらせて貰えなくて不機嫌になる35歳って、ちょっと笑えるよね。
普通なら、ラッキー! って、なるところなのに。
色々有りすぎたけど、京平が元に戻って良かった。
どんな形で借りを返してくれるか、今から楽しみにしてるからね。
あ、そう言えば、今日は12/19だから、来週はクリスマスだね。
2人には、何プレゼントしようかなあ?
全然準備してなかったよおお。やばいな。
信次「ああ、面倒臭かった……」
亜美「私邪魔だったのかな、って泣いちゃった」
京平「本当にマジごめん。大人気なさすぎた!」
信次「暫くトイレ掃除は兄貴にやらせよ」
京平「何でもする!!!」
信次「亜美に八つ当たりしたのも含めて、部屋の掃除もね」
京平「申し訳ございませんでした! 有難くやらせていただきます!」




