頑張りすぎんなよ(京平目線)
「よーし、じゃあ着替えて走りに行こうかな」
「休憩ほとんどしてないけど、大丈夫か?」
「大丈夫!」
大丈夫じゃないだろう。明らかに疲れてるじゃん。バカだな。亜美は。
まあ、ここはちょっと演技するかな。
「ごめん、ちょっと怠いから、30分後でもいいかな?」
「え、怠いの? 寝た方がいいんじゃない?」
「や、そこまでは怠くないよ。コーヒーでも淹れるよ」
正直俺は大丈夫なんだけど、亜美はガッツリ勉強してるからな。
コーヒーでも飲んで休憩してくれよ。
「ほい、コーヒー」
「ありがと。ふああ、温まるね」
「ゆっくり休んどけよ」
「京平もね」
ふー。亜美を休憩させるのに成功した。
俺もコーヒー飲もうかな。や、もう俺飲んだしなあ。でも、飲みたいなあ。
いいや、作っちゃお。カフェオレにしたら、コーヒー少なめで済むし。
「京平もう一杯飲むの?」
「なんか飲みたくなってさ」
「夜寝れなくなっても知らないよ?」
「コーヒーで眠れなくなった事ないから大丈夫」
という訳で、俺はカフェオレを作って、ゆっくり飲んだ。
亜美の疲れも少しは取れて来たかな?
でも、ずっと俺を見てる。明らかに心配されてるよ。
変な演技しなきゃ良かったな。
ただ、こうでもしなきゃ、負けず嫌いの亜美は休まないからね。
「ふうー、ちょっと落ち着いてきたよ」
「ずっと勉強見てくれたもんね。そりゃ怠くなるよね」
よし、亜美の顔も疲れが取れて来たな。
亜美を心配させちまって申し訳ないけど、ちゃんと休まない亜美が悪いんだぞ!
たまにこういう嘘つかなきゃな点は、亜美の弱点だよな。そこも可愛いんだけどさ。
「コーヒーありがとね。飲み終わったから、先に着替えてるね」
「おー、俺も飲み終わったら着替えるよ」
おいおい、まだ15分くらいしか経ってないよな?
カフェオレゆっくり飲んどくか。
亜美、コーヒーはゆったり味わうもんだぞ。
おうおう。素早く着替えてるじゃんか。
亜美の今日の下着可愛いな、って何見てんだよ。俺のバカ。
「京平が着替え終わるまで、勉強の復習してよ」
「待て亜美、休んだ意味無くなるだろそれ」
「でも暇だし……」
あー、もう。亜美は頑張り屋すぎるんだよ。
俺は素早くカフェオレを飲み干し、颯爽とジャージに着替えた。
「ほら、もう暇じゃないだろ?」
「ぶー、復習したかったのに!」
「帰ってからやろうな」
予定より早くなっちまったけど、仕方ないな。
亜美、本当に無理すんなよ。
◇
「京平は今日も10km?」
「だな。軽く走るつもり。亜美は亜美のペースで走るんだぞ」
「昨日はすぐバテちゃったから、昨日よりは走れるよう頑張る!」
暫くは10kmで慣らしていきたいからな。
本当はもうちょっと増やしたいけど、無理は良くないし。
今日はコートも持って来たし、亜美がバテたら着せてやるかな。
こうして、俺達は走り始めた。
「ああ、やっぱ京平速いなあ」
「ジョギング程度でしか走ってないぞ?」
「うう、私はやはり鈍足だなあ」
亜美は昔から足が遅いからなあ。
しかも久々に走ってるから、小学生の時より明らかに遅くなったし。
せめてその頃と同じくらいには、走れるようになるんだぞ。
あー、もう亜美が見えなくなった。
亜美、自分のペースだぞ。
って、祈った側から、ペース上げて来てるし。
何でだよ。普通に走れよ、亜美。
「ひー、追いついたもんね」
「だから自分のペースで走れよ。キツそうじゃん」
「だって、京平が見えなくなると寂しいもん」
そっか、寂しかったんだな。亜美。
本当に可愛いやつめ。それなら、亜美に合わせるか。
「あれ、京平、ペースが」
「亜美に合わせて走るから、もう無理すんなよ」
「それじゃあ、京平の練習に」
「亜美が寝たらもっかい走るから、心配すんな」
走る、って言うよりは早歩きだけど、亜美の顔を見ながら歩くのも悪くはないな。
「もー、絶対速くなってやるんだから!」
「いつ走らせてくれるかな? 楽しみにしてるよ」
俺も俺で意地悪だな。でも、頑張って欲しいんだよ。
ちゃんと側にいるから、走れるだけ走るんだぞ。亜美。
「はあはあ、頑張るぞ」
「昨日よりは走れてるぞ。頑張れ」
そろそろ亜美の限界が近いかな?
まだ走って2日目だし、そんなには走れないよな。
初めからこうすりゃ良かった。亜美の事、まだ解り切ってないな、俺。
「ふひー、もうダメ」
「お疲れ、じゃあ帰ろっか」
俺は亜美にコートを着せた。よく頑張ったな、亜美。
亜美の頭をくしゃくしゃしながら、俺は笑った。
「京平こそ寒いのに、いいの? コート」
「俺は暑がりだから心配すんな」
「ありがとね、京平」
亜美が手を繋いでくれた。亜美の体温が、俺に伝わってくる。俺も、亜美の手を握り返す。
寒い中走ったもんな、冷えてるな、亜美の手。
少しでも温められますように。
「今日は京平が私を寝かし付けてね?」
「おう、沢山寝るんだぞ」
俺達は手を繋ぎながら、家路に向かう。
こんな何気ない日常も、亜美と一緒だと幸せに感じるんだよな。
亜美、ありがとな。傍に居てくれて。
◇
「「ただいまー」」
「あー、腹減った。晩御飯にしよっか」
「京平はお弁当もあるから、しっかり食べなよ」
「勿論、余裕余裕」
今日の晩御飯はオムライス。亜美のテンションがめちゃくちゃ上がってる。
亜美、オムライス好きだもんな。
「「いただきます」」
弁当は、卵焼きと豚の生姜焼きとキャベツとかにさんウインナーに、肉じゃが。
また俺の好きなおかずだ。信次、ありがとな。
シンプルなんだけど、豚の生姜焼き好きなんだ。
信次が作ったのは特に美味しいんだよ。
ふー、サラッと完食してしまった。
次はオムライスっと。
「んー、オムライス美味しい。バターライスとケチャップライスがはんぶんこになってて、二味楽しめるのが楽しい!」
「マジか。信次、手間暇かけてんなあ」
本当だ。俺だったらあの短時間じゃこんな凄いの出来ないぞ。どんどん成長してんな、信次。
俺も料理禁止令が終わったら、ガンガン作っていくぞ。
色々信次に教わりながら、な。
「て、京平食べるの早いね」
「朝ご飯とレモンパイしか食べてないしな。身体が飯を欲してる感じ」
「沢山たべるんだよ」
そんなに身体動かしてないのに、腹はいつも通り減るからなあ。
こりゃ夜はしっかり走らないと。太っちまう。
内科医がデブなんて、説得力なさすぎるし。
特に俺の場合は、内分泌代謝科。糖尿病を診る医者だし。
「ごちそうさまでした」
「京平、早!」
「風呂作っとくから、飯の後入れよ」
「お、ありがと。京平」
俺も走り終わったら風呂入らないとな。
風呂掃除をしながら、そんな事を考えた。
今日は亜美も頑張ったし、入浴剤も入れとこう。
亜美がより可愛くなっちまうな。ライバルがまた増えちまうな。やれやれ。
俺、ずっと亜美に選び続けて貰えるよう頑張るからな。
だから、ずっと愛してくれよ。亜美。
信次「亜美、甘えすぎだぞ!」
亜美「だって寂しかったんだもん」
京平「そんな所も可愛いよ、亜美」
信次「兄貴は亜美に甘いんだから!」
京平「惚れた弱みだ、許せ」