半纏で温まろう。
「京平、寝たみたいだね。ぐっすり寝るんだよ」
私は京平のおでこにキスをして、部屋を後にした。
洗い物とかお風呂とか、まだやる事あるしね。
本当は勉強したいんだけどなあ。
まずは洗い物。この時期の洗い物は、お湯出さないと辛いよね。
今日のロールキャベツはコンソメスープだから、汚れがこびりつかなくて助かるな。
これがビーフシチュー仕立てになると、水に漬けてないと、かなりムカつくもん。
ふふ、京平、食欲あって良かった。明日も京平が笑ってくれますように。
次はお風呂。今日はシャワーにしちゃお。
鼻歌混じりで浴びると、本当に気持ち良いんだよね。
石鹸を泡立てて身体を洗ったり、1人で髪の毛を蓮の髪にしたり。
……うん、虚しくなってすぐ流した。
ダメだなあ、京平の居ないお風呂ですら、ちょっと悲しいだなんて。
お風呂が1人で悲しいなんて、今まで無かったのにな。
ふー、さっぱりしたあ。
まだかなり早いな? 何しようかなあ。
こういう時こそ、勉強したいんだけども!
でも、京平にバレたら、また勉強道具隠されちゃうしなあ。
そうだなあ、ライム返してないの返すか。
返してないのが……沢山あるや。
あ、のばらから来てる。『ケーキ、いつ食べにいきますの?』か。
私は食べれないけど、いつでも行けるよ、って返すか。
次は蓮か。『風邪完治したてだから、無理すんなよ』か。優しいね、蓮。
ありがとね。明日は休みだからゆっくり休むよ、って返した。
あ、同期グループライムに友くんが『亜美さんを抱きしめたいです』って送ってるじゃん?!
蓮にも、『バカじゃね? 友!』って、突っ込まれてる。
友くん、せめて個人ライムにしよ!
ダメ! のスタンプ押しとこ。えいや。
あ、朱音からも来てる。
『亜美ー、また合コン外れだったあ。良い人紹介してえ』だと?
私、男友達、友くんと蓮しかいないよ? って返した。
ごめんね朱音、友達少なくて。
と、のばらからまた返信が来た。
『ケーキ食べられないなんて、深川先生から禁止令が出たのかしら? それなら来月行きますわよ。ヘモグロビンA1cを下げるのですわ』か。
のばら、全てお見通しか。凄いなあ。
来月は絶対ヘモグロビンA1cを下げるからね、って返そ。
友達がいなかった私だけど、今は、こんなに私を気にしてくれる人達がいる。嬉しいな。
友くんが最近変態になって来たのはあれだけど。
ライム返し終わっちゃったなあ。次は何しようかな。
と、困っていると、救世主が現れた。
「ただいまー」
「おかえり、信次」
よし、信次が帰ってきた! これで勉強が出来る!
「あれ、兄貴もう寝てるの?」
「京平、今日入院食の改善担当だったんだけど、なんか怒られたみたいで落ち込んでて。立ち直りはしたんだけど、疲れちゃったみたい」
「マジか。初めてやることなのに厳しすぎるよね。兄貴、苦労人だなあ」
本当だよ、初めてやる事が上手く出来ないのは当たり前なのに、嫌な人がいるもんだよ。とっちめなきゃ。
「信次、ご飯は食べた?」
「うん、海里んちで作って食べて来たよ」
「海里家のご飯作ったんだ」
「教えて貰ったお礼に、ね」
ん? 教えて貰ったお礼? なんだろ?
「教えて貰った、って、何を?」
「これを教わったんだ」
「ん? なにこれ?」
「半纏って言うんだって。海里のお母さんに習って、皆で作ったんだ」
信次、何か大きな荷物持ってるなあとは思ってたけど、こんなの作ってたとは。
「亜美も兄貴も、最近風邪引いてるし、温かくした方がいいかなって」
「確かに温かそう! ありがとね、信次」
「亜美のは赤色で、兄貴は青色で、僕のは黄色」
「ん、信号カラーだな?」
「それはちょっと狙った。兄貴も寒いだろうし、兄貴にこれ着せてきて」
「了解!」
よし、半纏を京平に着せてこよう。
これなら京平もより眠れるね。
私はそーっと部屋に入った。
京平は気持ちよさそうに寝ている。
まずは京平の右腕に半纏の右側を通して。
「亜美、側にいてよ。むにゃむにゃ」
ビビった。寝言かあ。
どんな夢見てるのかな? 夢の私が、京平に酷い事してませんように。
続いて、左腕に半纏の左側を通して。
「亜美、ごめん。甘えてばかりで。すーすー」
何してんだ、夢の私!
甘えていいだろうが! 京平に謝らせんなボケが!
京平は頑張ってるからいいんだよ!
全く、夢の私、空気というか京平を読めなすぎてムカつく。
夢の私にブチ切れながらも、半纏を無事京平に着せる事が出来た。
「亜美、キスして。むにゃ」
もー、しょうがないなあ。私は京平の唇に、唇を押し当てた。
すると、京平は夢でもキスをしてるからなのか、舌を私の口の中に入れてくる。
私も舌を絡めて、京平に応えた。
夢の中の私、少しでも京平を幸せにするんだぞ。
「ありがとな、亜美。すやすや」
「どういたしまして。良い夢見てね」
私はそう呟いて、部屋を後にした。
◇
「着せてきたよー」
「ありがと。亜美も着てみてよ」
「どれどれ? お、温かいー」
半纏は、ふっくらしていて、私の上半身を包み込んでくれた。寒い冬にはぴったりだね。
「それなら良かった。じゃあ、お風呂入ってこよ」
「待って、私勉強したいから、まだ入らないで」
「無茶言わないの。僕が出てから勉強してね」
「あー、待ってえええ!」
信次は普通に私を見捨てて、お風呂に行ってしまった。切ない。
信次がお風呂から上がる頃には、私も眠くなってそうだから尚更。
いや、違うな。もう眠いや、私。
暖かくなったからかな?
それなら、もう寝ちゃおうかな?
いやいやいや、明日休みってタイミングで勉強しなきゃいつすんのさ。
まあ、明日もするんだけど、今日もしたいんだよおお!
でも眠い。でも勉強したい。
どっちを優先したらいいんだよおおお!
って、なんかまたライムが来たぞ。蓮からだ。
『勉強は明日やればいいから、早めに寝るんだぜ』って、蓮に私の行動読まれてる!!!
最近色んな人に、私を見抜かれるなあ。そんなに解りやすいのかな?
でも、嫌だ! 勉強する! なんて、子供っぽくて言えないよね。
ありがとね。早めに寝るね。って、送った。
うん。そうだね。素直に寝ようっと。
部屋に入ると、京平がさっきより幸せそうに寝ている。
身体が暖まったお陰かな? 良かった良かった。
私は、良い夢見れますように、って祈りながら、布団に入った。
出来れば、夢でも京平に会いたいな。なんて、ね。
私は京平を抱きしめた。世界で1番愛しい人。
「亜美、ずっと一緒だぞ。すぴー」
あ、京平も抱きしめてくれた。
ずっとずっと、一緒に居れますように。
愛してるよ、京平。おやすみ。
亜美「半纏暖かいや」
信次「頑張って作った甲斐があったよ」
亜美「てことは、信次、勉強は?」
信次「勉強もやったから安心して!」
亜美「私のは誰作なの?」
信次「あ、僕だよ。兄貴のは海里で、僕のは海里のお母さん作」
亜美「皆裁縫うまいなあ」