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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
恋愛バトル
7/230

意外なバイト内容(信次目線)

「信次、おはよー」

「おはよ、海里」


 朝の家事も終わって、僕は高校へ登校した。

 僕の通う倉灘高校は進学校。……なんだけど、飛び級を意識してる友達はほぼ居ない。

 ほとんどが、お金に余裕があるから働くの早めたくない、とか、高校生活くらい普通に過ごしたい、とか。

 正直、僕は授業とかも退屈だった。今の授業の範囲は、もう中1の時にさらったし覚えてる。兄貴みたいに天才ではないから、早めの復習と予習は必須だけど。


 僕に話しかけたのは、幼馴染の瀬尾海里。黒髪のおかっぱ頭で、目はまんまる。身体はかなり細身だ。因みに一応補足しとくと、倉灘高校は男子校である。

 海里も、僕と同じで飛び級を狙っていた。

 理由としては、海里の家はお金に余裕がないから早く働きたいらしい。飛び級した後も大学進学は考えておらず、早めの高校卒業資格を持って働きたいとのこと。なんだけど……。


「信次、飛び級試験の勉強どうだ?」

「前の模試ではA判定貰えてるし、今年はいけそう」

「マジか。俺D判定。数Ⅲが鬼門すぎる」


 そう、海里は正直飛び級出来るほど、頭は良くなかった。飽くまで、飛び級に限った話だけど。


「今度の土日で、また復習しよっか」

「ありがとう。信次!」


 でも、海里が頑張ってる事は知ってるから、土日は勉強会をするのだ。

 僕が海里に教えるばかりにはなるけど、僕も復習になって有難いので付き合ってるのはある。


「高校の授業は余裕なんだけどなあ」

「飛び級試験はかなりムズいからね。僕も高一の時受かりたかったけど無理だったし」

「範囲まじ広すぎなんだよ、飛び級試験」


 そう、飛び級試験はかなり難しい。兄貴はよく中学生で受かったものだと思う。しかも、大学も同じ年で合格してる訳だし。

 僕も去年チャレンジしたけど、そもそもは大学を受けさせるための措置なのもあり、範囲の広さに負けてしまった感じ。一部、大学から習う範囲もあるし。

 因みにこっそり受けたから、後で亜美達にめちゃ叱られた。


「あ、そだ。僕今日からバイト始めるんだ」

「お、信次も遂に? で。どこで?」

「五十嵐病院で。面接は兄貴のコネでパスした」

「いいなあ。俺も今年飛び級ダメだったら、バイト増やさねえとな」


 正直その方がいいよ。と言いたいけど黙る。

 海里も頑張っているのだ。合格出来るようサポートしなければ。


「でもどうせ信次がバイト始めるの、亜美さん絡みでしょ?」

「あ、解った?」

「無駄な事はしないのが信次だしな」


 と、ここまで話したところで……。


ーーキンコーンカンコーン……。


「あ。予鈴鳴った。信次後でなー」

「うん」


 また、退屈な日々が始まりを告げるのであった。


 ◇


 授業も半分を終えて、お昼休み。僕と海里は、教室でお弁当を食べていた。


 因みに兄貴が作ってくれたお弁当は、卵焼きに唐揚げにパスタとブロッコリーとプチトマト。

 兄貴、いつの間に唐揚げ揚げてたんだろ。最初みた時は冷凍食品かと思って食べたけど、ちゃんと兄貴の味だったし。しかも唐揚げなんて、漬け込む時間も必要なのに。

 兄貴のお弁当スキルがどんどん上がってきて、寧ろ怖いくらいだ。


「京平さん、料理の腕上げすぎでしょ」

「だよね。やっぱり天才なんだろうな」


 毎朝の努力があるにせよ、その成果が出過ぎるのも兄貴らしさなのだ。


「で、飛び級試験は許可もらえた?」

「正直反応は悪かった。普通に高校生活楽しめって言われた」

「京平さん、自分が苦労してるから、信次には無理させたくないんだろな」

「寧ろ高校生活のが退屈すぎて過酷なのになあ」


 進学校である倉灘高校には、体育祭はないし、文化祭も研究発表会があるくらい。それだけ、高校は有名大学の合格実績をあげたいのだ。

 

「海里には感謝してるよ。海里居なかったら地獄でしかなかったよ」

「や、俺も信次と同じ高校行きたかったしさ」

「本当、どうやって亜美達説得しよう……」


 肝心の兄貴も僕の飛び級試験には後ろ向きだし、亜美もそこまでしなくていいんじゃないって反応だったしで、これに関しては僕の一方通行でしかないのだ。


「倉灘高校マジ退屈な事ベスト10でも話すとか?」

「そだね、次説得する時やってみるよ。本当色々思いつくよね。海里は」


 柔軟な発想が出来るのも海里の良いところ。かなり助けられてもいる。


「あー、早く医学生になりたい。医学の勉強したいよ。座学だけなら手はつけてるけど」

「俺はもっと働きてええ!! 金ほしいい」


 飛び級試験の合格という目的は一緒であれ、こうもやりたい事が違うのも中々ないよなあ。


「授業も後半分だけど、信次はバイト頑張れよ。バイト体力使うからな」

「毎日の家事で、意外と体力ついてるから大丈夫」

「兼業主弟も大変だなあ」


 体力温存という意味だけなら、この退屈さも有意義ではあるよね。とも思いながら、僕は話を聞くのであった。


 ◇


 退屈な授業はやはり退屈だったけど、集中する必要性もないので、学校終わりでもかなり体力に余裕がある。

 とは言え、今日はバイトも始まる。兼業主弟の体力がいかなるものか、試さなくては。


 家に帰ると、兄貴が仕事の支度を始めていた。


「お、信次お帰りー。朝ご飯今日も美味かったぞ! ありがとな」

「ただいま。それなら良かったあ」


 兄貴曰く、遅番担当は19時半から休憩があるらしいので、僕はその時に兄貴の2個目のお弁当を晩御飯として食べる予定だ。

 兄貴達は夜から朝までだから、0時回ってからご飯食べる事が多いみたい。僕は高校生だから、22時までしかバイト出来ないからなあ。


「そう言えば冴崎さんも遅番だったな。信次もなんか気にしてたし、紹介しよっか?」

「ああ、有難う! 僕、のばらさんの顔とか知らないから助かるよ」


 敵の顔くらい知っとかなきゃ、とっちめる事も出来ないしね。

 亜美を苦しめるくらいだから、どうせ性格の悪さが滲み出た不細工なんだろうけどさ。内面は顔に出るって言うしね。


「ついでに麻生も紹介しとこっかな」

「ん? 麻生さんって?」

「面白いヤツだぞ。同期なんだけどな」


 兄貴の同期かあ。なんとなく興味が湧いてくる。

 兄貴の知り合いとかあんまり知らないからね。大体休みの日ですら、兄貴寝てばっかだし。


「へぇ、会うの楽しみだな」

「さて、そろそろ行こっか。俺からも院長に挨拶しときたいし」

「着替えるからちょっと待っててね」

「あ、わりわり。了解」

「後、兄貴、寝癖やばいよ」

「あ、しまった! 寝癖直し!!」

「は、切れてたから買っといたよ。僕のカバンの中に入ってるよ」

「まじか、サンキュー!」


 そして僕の着替えと、兄貴の寝癖直しが終わって、準備が出来た僕達は、五十嵐病院へと向かう。

 僕達の家は五十嵐病院から徒歩五分。未だにお父さんとあの女と住んでた家に住み続けていて、そこに兄貴が入って来た感じ。

 環境を変えたくなかったのが1番らしいけど、半分くらいは職場から近くなってラッキー! とかは思ってたかもしれないね。

 なんであれ、兄貴にはかなり感謝してるけど。


「院長先生に会うの久しぶりだなあ」

「信次の定期検診の時も、信次と時間合うことなかったからなあ」

「多忙だもんね。院長先生」


 とか話しているうちに、病院の入り口まで着いた。

 入り口では、院長先生、と、その隣にもう1人が僕の事を待っていた。


「院長先生、お久しぶりです」

「信次くんお久しぶり。大きくなったね。信次くんと会うのは、お父さんの病状説明をした時以来だけど、覚えててくれて嬉しいよ」


 院長先生がそう言うのも無理はない。お父さんの病状説明を改めて聴いた時、僕はまだ5歳だったから。

 あの時期の事は色々ありすぎて、忘れられないだけなんだけどね。

 因みに話は、兄貴と亜美と僕に話してもらっていた。僕達が家族になったって事も含めて院長先生には話していた。


「あと、それと……」

「初めまして。採用担当兼指導担当の小暮です。宜しくお願いします」

「宜しくお願いします」


 小暮さんは、最初の面接のやりとりで電話した人だった。

 話しかけて貰えてやっと解った感じだけど。

 ストレートな黒髪は肩まで伸びていて、動きやすい格好をした明るい女性だった。


「院長、小暮さん、お疲れ様です。弟の事、宜しくお願いします」

「あ、深川先生の弟さんだったんですね」

「はい、出来の良い弟ですよ」

「それは有難い。大切に教育させて頂きます」


 兄貴に「出来の良い弟」って言われると、なんかこそばゆいなあ。ちょっと自分に自信が持てた。


「じゃあ時任くん。更衣室案内するからね」


 と、小暮さんが言うのと同時に……。


「あ、俺も更衣室行くんで、ついでに連れてきますよ?」

「説明とかもしたいので大丈夫ですよ。深川先生がついでに着いてきてください」

「なんじゃそりゃ。まあいいや、行こっか!」

「行こうぞ!」

「って、院長も遅番ですか!」


 と、なんやかんやしながら、僕達は皆揃って更衣室に向かうのであった。

 しかし、そこで僕は予想だにしなかったバイト内容だった事を知る。


「な、何ですか? こ、この制服……?!」

「あれ、院長から聴いてなかったの?」

「こいつは予想外だな。でも信次なら大丈夫じゃね?」

「頑張れよ、信次くん。わしも応援してるぞ!」


 僕は制服に着替え、職場を案内される。扉に書かれているのは、「五十嵐病院育児センター」という文字。

そう、僕は見習い保育士のバイトとして、雇われてしまったのだった。

信次「予想外だった。大丈夫かな、僕」

亜美「信次は優しいから大丈夫だと思うけどなあ」

京平「だな。出来の良い弟だし」

院長「わしの目に狂いはないのだ!」

信次「今日会うまでに11年間空いてるよ?!」

作者「ま、高校が退屈なら仕事を楽しめや。信次」

信次「責任重大だよおお」


亜美「次回は、どうなるんだろ。てか、私の出番は?!」

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