お父さんが出来た日(京平目線)
「「ごちそうさまでした」」
「さ、亜美は風呂作って、そのまま入っといで」
「その間に電話するんでしょ?」
「よく解ってるじゃん」
亜美には聞かせたくない事も喋りたいからな。
風呂の準備までさせて申し訳ないけど、亜美達のお父さんも待たせてるし。
「話せるようになったら教えてよ?」
「長くは待たせないようにするよ」
「じゃー、お風呂準備して、入ってくるね」
亜美はお風呂に向かった。よし、そろそろ電話を架けるかな。
俺は近くに置いてた電話の子機を持って、ソファに座り、番号を押した。
「もしもし、深川です」
『ああ、京平くんか。どうせ君の事だから、亜美の居ない所で話したかったんだろ?』
「見抜かれてましたか。はい、その通りです」
亜美達のお父さんにだけ、伝えたい事があったのだけど、バレていたようだ。
「亜美から聞いたと思いますが、俺、亜美と付き合っています」
『君はてっきり、すぐ他の人と結婚すると思っていたから、正直ここまでそういう話が無くてびっくりしたよ』
「俺は、亜美を通じて、初めて人を愛する事を知った人間なんです」
『亜美は君に会った時から、君の事が好きで、愛してたんだ。傷付きやすい子だから、裏切らないでやってくれよ』
「絶対守り抜きます。この身を全て賭けて」
亜美にそれを言うと、無理しないでって泣いちゃうから言わないんだけど、俺はそのつもりで亜美と信次を守っているよ。
自分の全てを賭けてボロボロになったって、亜美と信次が守れたらそれでいい。そう誓ってる。
命すら惜しくはないんだけど、亜美が泣きそうだから、ちょっとだけ自分の命も大切にしながら、だけど。
「それと実は亜美が入院したのは、元はと言えば、俺の風邪がうつったからなんです。亜美を苦しめて、申し訳ありませんでした」
『でも、京平くんはすぐに亜美を助けてくれただろう? 京平くんも体調は大丈夫なのか?』
「はい、亜美と信次のお陰で治りました」
『君の事だから、風邪を押して亜美を助けてくれたんじゃないか? ありがとね』
なんか全て見抜かれてるな、お父さんには。
罵ってもいいのに、お礼を言ってくれるだなんて。
その優しさが、俺の胸にトクンと響いてる。
『自分も大切にしてくれよ。私にとって君はもう、息子みたいなものだから』
「俺、親居ないので、凄く嬉しいです」
『だから、敬語も抜いてくれると嬉しいな。もう11年目になるのだしね』
「じゃあ、普通に話そうかな。亜美の事は、実は9年前から愛してたんだ」
流石に引かれるかなあ。麻生にもこれは引かれたもんなあ。
なんなら、自分でも自分に引いたし、最初は信じられなかった。けど、愛したもんは仕方ない。
時が来たら伝えようとして、9年も待たせてしまったけど。
『亜美なら仕方ないね。あの子の魅力は父親の私でも、びっくりするくらい素晴らしいから』
「いつも受け止めてくれたんだ。気付いたら愛してたんだ」
『亜美は否定しないで、いつも肯定してくれるからね。我が娘ながら凄いと思うよ』
「何度も助けてくれたんだ」
お父さん、否定しないで肯定してくれた。
そう、亜美は否定したっていい部分さえ、頑張ったねって肯定してくれる。いつも、いつも。
それで何度も頑張ろうって思えたんだ。生きることを。
亜美はお父さんに似たのかもしれないな。
『京平くんも、違ってたら申し訳ないけど、精神病だろう?』
「バレてたか。双極性障害なんだ」
『京平くんは優し過ぎるから、そうだと思ってたよ』
「優しいかな? 俺」
『少なくとも私はそう思うよ。亜美と信次を引き取ってくれた時からね』
本当の事を言うと、亜美達と暮らす事にしたのも贖罪でしかなかった。
自分が生きてもいい理由にしてしまった。
でも、一緒に暮らして行くうちに、俺が間違ってたのが解ったんだ。
生きるのに理由なんて、資格なんて要らない。ただ、生きているから生きている。居るだけで良い。
それは、亜美と信次が教えてくれたんだ。
まだ、お父さんに伝える勇気はないけど、いつか伝えられたらいいな。
「そう思って貰えてるなら良かった」
『それと、かなり先の話になるんだけど、亜美の事……そのなんだ、お嫁さんとして考えてはくれてるかな?』
聞かれると思ってた。でも、答えは決まってる。
「勿論。でも、まだ俺が弱いから。強くなって迎えに行きたい」
『あまり長く亜美を待たせるなよ。あの子はいつまでも待つだろうから』
「解ってる。すぐに迎えにいく」
強くなる、の意味さえ、実を言うと自分でさえよく解ってないんだけど、今のままじゃダメだって事だけは解ってるんだ。
亜美に至りたい。本当の意味での強さが欲しいんだ。
そうしたら、自信持って亜美に並べるから。
『京平くんの思いを聞けて良かったよ。その時までには、亜美達に会えるようになりたいよ』
「焦らないで。でも、結婚式には来て欲しいな」
『亜美のウェディングドレスは絶対見たいからね』
「俺の隣で着てくれたらいいな」
『京平くんが、本当の息子になる日を楽しみにしてるよ』
お父さんから応援して貰えるのは心強いな。
焦らずに、でも急いで、強くなりたい。
亜美も、お父さんも、待たせたくない。
「お互い、病気の治療頑張ろうな」
『寛解してみせるよ。子供達の為に』
「待ってるからな」
『京平くんも安定させろよ』
病気の治療も、手は抜けないな。
亜美を心配させる回数を、少しでも減らしたい。
俺が泣く理由なんか、亜美が居る時点で、そもそも無いんだから。
「今日は話せて良かった。強くなれたよ」
『私が君の力になれたなら良かった』
「また会いにいくからな」
『亜美達に内緒でか?』
「当然」
実は俺、何度かお父さんに会いに行ってる。
亜美達の写真やビデオを渡したり、近況を話したり、俺が来た時はいつも良くして貰ってる。
俺を通じて、亜美達に会えるようになれたら良いな。
『また呑めたらいいな』
「いやあ、それが亜美に酒は禁止されて」
『京平くんを心配してるんだな。まあ、私も禁酒してるけどな』
「お互い辛いよなあ」
『なー、呑みたいよなあ』
お互い呑めない病気持ちだけど、それならそれでノンアルで呑み明かせたらいいな。
「そう言えば、信次の事聞いてるよな?」
『ああ、飛び級試験を受けるんだってな。大学もすぐだし、お金送らなくて大丈夫か?』
「心配すんなよ、俺稼いでるから」
『そうだったな、もう内科主任部長だもんな』
「そ、だから安心して」
信次なら飛び級試験はクリアするし、その後の大学入試も問題ないだろう。
どの大学を選んでも良いように貯蓄してるから、お父さんの力を借りる必要はない。
寧ろ、毎月の20万ですら、多過ぎるくらいだ。
『そう言えば信次、何か隠してるみたいなんだけど、思い当たる節とかあるかな?』
「正直無いし、割と話してくれてると思ってたけど、お父さんが言うなら、なんか隠してるかも」
『私は側に居ないから解らない事もあるしね。信次の事も、頼むね』
「今まで以上に意識して見とくよ」
信次は元々しっかりしてる分、隠し事は亜美の数倍は上手いからなあ。
しかもその隠し事が大体大きいし、見抜けなかったりしてる。
今度は見抜いてあげないとな。とんでもない事になる前に。
『ふわあ、眠くなってきた。久しぶりに普通に寝れそうだ。睡眠薬に頼らなくて済むのは、亜美と京平のお陰だな』
「俺、今、仕事17時までだから、いつでも掛けてこいよ。亜美もいるし」
『そうだな。最近鬱が酷いし、たまには甘えさせて貰うな』
「俺達もまた電話するから、キツくなかったらまた話そう」
『ありがとな。じゃあそろそろ寝るよ。おやすみ、京平』
「おやすみ、お父さん」
お父さん、睡眠薬が無いと眠れない程、鬱がしんどいのに、電話に出てくれたんだな。
話の終わり際には、京平って呼んでくれた。
俺に父親が居たら、こんな感じだったのかな。
本当の息子のように接してくれて有難う。お父さん。
やばい、涙腺崩壊する位泣けて来た。
お父さんが出来るって、こんなに嬉しい事なんだな。
さて、電話は終わったけど、亜美はまだお風呂かな?
「亜美、電話終わったぞー」
「終わった? じゃあ京平もお風呂おいでよ」
「じゃあ、そっち行くよ」
亜美がお風呂に誘うなんて珍しいな。
でも、一緒に過ごせて嬉しいよ。
これからも亜美と信次、そしてお父さんと生きていけたらいいな。
「お待たせ、亜美」
京平「お父さん、ありがとう」
信次「お父さん優しいからね。兄貴の事も気遣っていたんだね」
亜美「いつかまた、お父さんに会えたらいいな」




