表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
違和感のある京平
59/240

回復した内科医(京平目線)

「ふう、寝付いてくれたか」


 俺のせいで、亜美は入院までする事に。

 しかも、不味いご飯を食べる羽目になってる。

 院長に、入院食の改善を求めるライムを送っとこう。

 なんなら、俺が監修してもいいしな。

 カロリー低めで美味しい飯なんていっぱいあるのに、それが出来てないなんて有り得ない。


 亜美も寝付いたし、俺も帰るか。

 風邪を治さないと、亜美を悲しませるし。

 自分だって寂しい癖に、いつだって俺を優先させる。

 亜美が甘えられるように、元気にならないと。


「深川先生、お疲れ様です」

「落合くんお疲れ、今日は遅番か」

「や、中番すけど、亜美が入院したって聞いて」


 そうか、亜美の様子を見に来たのか。


「亜美はもう寝てるから、静かにな」

「了解です。深川先生の風邪がうつったそうですね。そんなやつに、ますます亜美を任せられないです」

「その通りだ。全部俺のせいだよ」


 何も言い返す気はない。事実だし。

 俺が普通に薬飲んで、亜美を別室に移動させて、なるべく風邪を引かないよう配慮していれば、亜美は笑っていられたのに。


「でも、亜美にそれ言うなよ。あの子は優しいから、逆に怒られるぞ。俺には何言ってもいいけど」

「もう言う気はないです。深川先生らしくなくてつまんないぜ」

「はは、風邪引いてるからかな。亜美も風邪引いてるから、マスク付けて病室入るんだぞ」


 確かに俺らしくないな。亜美の病室に入ろうとしている落合くんを、睨みつけるでも叱るでもなく、気遣うなんて。

 でも、今の俺には何も言う資格はないから。

 俺はその場を後にした。


 帰ったら無理矢理晩御飯食べて、さっさと寝よう。 

 それが風邪を治す1番の薬になるしな。


 ◇


「ただいま」

「兄貴、お帰り。亜美、目覚めて良かった……」

「すぐに気づけたから、もうご飯も食べられるらしいし、退院もすぐだな」


 俺が亜美を診ている間に、のばらさんと海里くんは帰ったようだ。

 もう22時45分だし、そりゃそうだよな。


「兄貴、食欲はある?」

「あんまりないけど、亜美に風邪治すって約束したから普通に食べるよ。ありがとな」

「じゃあ、準備しとくね」


 信次が俺の食事を準備してくれてる間に、院長からライムが届いた。

 『君の感想も聞きたいから、明日は糖尿病食を食べて、改善点を教えてくれ』か。

 あー、俺も舌肥えてるからなあ。耐え切れるかな。

 でも、亜美だって食べたんだし、俺も食べなきゃだ。


「兄貴憂鬱そうだね。はい、晩御飯」

「ありがとな、信次。亜美が入院食不味いって言うから、改善するよう院長に言ったら、俺も食う羽目になってな」

「亜美可哀想……」

「だよな、亜美はそうでなくてもシックデイで悪化しやすい身体だから、次の入院もありうるし、早めに改善してやらないとだ」

「僕も協力するよ。うちはご飯にこんにゃく米混ぜてるよ」


 信次の協力は心強いな。しかし、我が家の白飯、こんにゃく混じってたのか。気付かなかった。

 

「改善点は、おおよそ不味い! だろうけど、どうしたら美味しくなるかは意見欲しいし、昼までにライムで送ってくれ」

「了解。なんなら兄貴が寝てる間に送っとく。ご飯食べたらお風呂入ってすぐ寝るんだよ」

「おう、早目に寝るよ」


 ああ、信次のご飯は美味いなあ。

 食欲なかったはずなんだけど、バクバク食える。

 栄養も考えられてるし、風邪もこれで治りそう。


「ごちそうさま。美味かったぞ、信次」

「それなら良かった。はい、薬と水ね」

「ありがとな」


 俺は薬を水で流し込んで、すぐ風呂に入る。

 信次が俺の為に沸かし直してくれてたようで、温かい湯船に浸かる事が出来た。

 本当にしっかりしてるよな、信次。


 俺、めちゃくちゃ家族に支えられてるわ。

 亜美の存在、信次の存在。

 何があっても、俺は絶対守り切るからな。

 お前達に逢えて、本当に良かった。

 俺のが救われてるよ、いつも。


 って、考え事してたら、また長湯しちまった。

 軽くのぼせちまった。

 まあいっか。あとはもう寝るだけだし。


「信次、風呂ありがとな」

「兄貴またのぼせたの? 部屋で横になったら、すぐ寝るんだよ」

「おう、そうするわ」


 ふー、頭がぼーっとする。

 下着とパジャマを持って部屋に入ると、否が応でも亜美が居ない事を実感した。

 なんだか寂しくなって、亜美の布団にタオルを敷いて寝っ転がる。

 亜美の匂いに、ちょっと癒された。

 火照りが引いたら着替えて、亜美の布団で寝よう。

 そうしなきゃ、眠れそうにないから。


 ◇


「んー。おはよ、亜美……は、居ないんだった」


 アラームで目覚めた俺は、改めて亜美が居ない事に寂しさを覚えた。

 亜美が居なくてダメなのは、俺の方なんだよな。

 信次の弁当作ったら、すぐに出勤して、亜美の所に行こう。

 耐えきれない。亜美に、会いたい。


 あ、風邪……鼻は落ち着いたけど、熱はどうだろう?

 体温計で測ると、36.8度。良かった、平熱だ。

 信次の飯強すぎる。これから風邪引いたらしっかり飯食べよ。


 部屋から出ると、既に信次が起きていた。


「おはよ、信次。早くないか?」

「兄貴おはよ。兄貴は昨日亜美の看病してるからね。しばらくは弁当も僕が作るよ」

「受験生なのに申し訳ないな」

「早起きは苦じゃないから気にしないで。朝ごはん出来てるよ」

「ありがとな、早目に出たかったから助かるよ」

「すぐ持ってくね」


 信次の優しさに有り難さを感じる。

 俺に飯を食わせたら、また勉強するんだろう。

 次の休みは、信次の勉強見てやらないと。

 俺が出来るのはそれ位だしな。


「はい、おまたせ。コーヒーも淹れたよ」

「お、ありがと。コーヒー嬉しいな」


 信次、気が利きすぎだろ、昨日から。

 亜美に風邪を引かせてしまった事を責めたっていいのに、俺をこんなに気遣ってくれて。

 ありがとな、信次の優しさも、俺を強くしてくれてるよ。

 朝ごはんもコーヒーも美味しい。風邪の時は飲めなかったから尚更。

 

「あー、今日も美味しい。昼が憂鬱になってくる」

「亜美のが可哀想だよ。朝も不味いご飯なんだし」

「そりゃそうだ。俺が頑張らなきゃだな」

「糖尿病は入院食しか食べられないしね」


 亜美、そして俺が担当している患者様に、少しでも快適に入院生活を送って貰えるように、すぐ改善しなければ。

 回診の時に聴けば良かったな。でも、患者様も不味いとは言い辛いか。

 亜美だから正直に教えてくれたのはある。


「ごちそうさまでした」

「食欲も戻ったようで良かった」

「信次と亜美のお陰で、風邪もバッチリ回復したぞ」

「今日は診察の日だもんね。頑張ってね」

「ありがとな」


 俺は朝の支度をして、すぐに病院に向かう。

 向かう前に信次から、寝癖がひどい! って怒られたけど。


「いってきまーす」

「いってらっしゃーい」


 ◇


「亜美、お待たせ」


 そう言って亜美の病室に入ったんだけど、まだ亜美は気持ちよさそうに寝ていた。

 風邪も引いてるしな。それならそれで、時間になるまで亜美を眺めるか。


 可哀想に、氷枕が微温(ぬる)くなってる。念の為、替えの氷枕持って来て良かった。

 特早番の看護師居なかったのかな? 後で聞くか。

 今日は診察の日だから、昼休憩にまた会いに行こう。

 俺も糖尿病食を食べなきゃで、こっちの病棟には来なきゃだし。


 でも、亜美が辛そうな顔してなくて良かった。

 亜美、愛してるよ。また、会いに来るからな。

 う、キスしたいけど、ここは病室だから我慢我慢。


 ◇


「深川先生、宜しくお願いいたしますわ」

「担当はのばらさんか。宜しくな」

「今日は珍しくミーティングいらっしゃらなかったですもんね」

「時が経つのを忘れててな」


 亜美の病室を出たのは7時。出勤出来てるから良いんだけど、まさかこんなに時間が経ってたなんて。

 亜美はいくら見てても、飽きないよ。


「マスクしてらっしゃいますし、亜美に逢いにいったんですね」

「流石にバレたか。亜美は寝てたけどな」

「私も勤務終わったら、亜美のお見舞い行きますわ」

「ありがとな、亜美も喜ぶよ」


 亜美も良い友達が出来て良かったな。

 今までは亜美が入院しても、友達がお見舞いに来る事なんてなかったし。


「のばらさんならちょい早でも行けるね。キツかったら教えて」

「問題ありませんわ。今日も頑張りますわ」


 さあ、診察の始まりだ。


 ◇


「昨日から急にウサギの耳が生えて来まして。しかも勝手に出て来て、フラフラするんです」

「明らかに異能ですね。止める方向で宜しいですか?」

「はい、こんなの要りません」

「こちらはぶどう糖です。今すぐ飲んでください。血液検査の結果も出てますから、身体に合わせて薬を処方しますね。また来月お越しください」

「有難うございます」

「薬を飲んでも異能が止まない場合は、すぐに来てください。異能が出てしまった場合は、甘い物を摂取してください」


 一発目から異能、しかもコントロール不可か。

 この人の体重、血液検査の結果を踏まえたら、通常の停止薬で大丈夫。

 異能が出てしまう可能性も考慮して、今月分は異能をコントロールしやすくなる成分も入れておこう。


「お大事にしてくださいね」

「また来月宜しくお願いします」


 よし、俺も問題なく回せているな。風邪の影響はもう無い。

 亜美はそろそろ朝ごはんの時間かな?

 辛いだろうけど、ちゃんと食べるんだぞ。


「よし、次の患者様呼ぶからね」

「かしこまりましたわ」


 ◇


「よし。午前中の診察完了。休憩行っといで」

「お疲れ様ですわ。深川先生は亜美の所に行くんですの?」

「ああ、顔も見たいし、今日は院長の指示で入院食食べなきゃだし」

「あれ不味いらしいから、可哀想ですわね」

「それを知ってたなら、早く教えて欲しかったぞ。亜美はそのせいで不味いご飯を……」

「看護師は皆知ってるから、医師も知ってるかと思ってましたわ。意外と患者様、言わないものなんですわね」


 そうか、巡回する看護師にとっては周知の事実だったのか。

 俺達が見逃している点も、まだまだあるかもしれないな。

 こういった情報共有ができる場も、設けていかないとだ。

 それも院長に伝えておこう。


「じゃあ、また午後宜しくな」

「後で亜美の様子、教えてくださいまし」


 ◇


「よ、亜美」

「京平! 朝に引き続き、昼もありがとね」

「あれ? 朝来たの知ってたのか」


 あれ、起こさないように行動したんだけどな。

 

「身体が怠くて起きれなかったんだけど、氷枕変えてくれたでしょ。ありがとね」

「なんだ、気づいてたのか。体調はどうだ?」

「風邪薬も効いてるし、今は大丈夫。でも、中々完治とは行かないなあ」


 とは言っても顔色も良くなって来たし、あとちょっとだな。

 血糖値も今朝は少し高かったけど、今は178。

 200切って来た。


「時間の問題だ。昼飯食べたら、また寝とけよ」

「そう言えば中々来ないなあ、お昼ご飯」

「配膳に時間掛かるしな」


 早急に薬を飲まなきゃいけない、検査をしなきゃいけない患者様が優先になるから、亜美のような普通の患者様は、どうしても遅くなりがちなんだよな。

 俺の飯も、亜美の病室に運ぶように言ったけど、すぐには来ないだろう。


「まあいいや、その分京平とお喋り出来るもんね」

「俺も亜美と話せて嬉しいよ」

「病室では1人ぼっちで寂しかった」

「そうか。ごめんな、寂しい思いをさせて」


 俺は亜美をポンポンする。

 本当は抱きしめてやりたいけど、点滴ついてるし、ここは病室だしな。

 退院したら、いっぱい抱きしめるからな。


「あ、でも、今日は朱音が巡回で来てくれたよ。私が入院してるの知らなかったから、びっくりしてたけど」

「そりゃそうだろうな」

「お昼は誰が来るんだろう?」

「知り合いだといいな」


 と、話していたら、亜美のインスリンを打ちに看護師さんがやってきた。

 誰かな? と、覗いてみると。


「亜美さんこんにちは。インスリン打ちに来ましたよ」

「あ、友くん。まだご飯来てないけど打っていいのかな?」

「インスリン打ち終わったら、僕が持ってきますね」

「ありがとね。中々ご飯来なくてさ」


 日比野くんか。俺の事普通に無視してくんの、一周回って笑えるな。

 俺はムカつくんだけど、亜美にとっては友達。気晴らしにはなってるだろう。


「あ、失礼。深川先生もいらしたんですね」

「休憩時間だしな」

「そう言えば深川先生、今日は入院食食べるんですよね。改善お願いします」

「ああ、不味いらしいから、改善点を探すよ」

「2人分持って来ますから、少々お待ちを」


 そう言って爽やかに、日比野くんは去っていった。

 同じ恋敵でも、タイプはそれぞれだ。

 落合くんなら、俺がここにいただけでムッとしそうだしな。


「友くん相変わらず優しいな。気持ちに応えられなかったのに」

「まだ亜美のこと諦めてないしな。気を付けろよ」

「私は京平だけだよ。好きになったのも、愛してるのも」


 このタイミングで言われると思わなかったから、スッと愛してるが入り込んで、身体が反応してしまった。

 本当に亜美は、真っ直ぐに伝えてくれる。


「面と向かって言われると、照れるな」

「ふっふーん」


 しかも満面の笑みを浮かべてる。

 可愛すぎるんだよ、バカ。


「深川先生が照れてるとこ失礼します。ご飯ですよ」

「ありがとね友くん。昼はマシだといいな」

「朝ご飯そんな酷かったのか?!」

「頑張って食べたよ……」


 亜美が遠い目をしてる。嫌な予感しかしない。


「「いただきます」」

「って、日比野くんは他の患者様のとこ行かないのか?」

「亜美さんの経過観察も込みなので、亜美さんがご飯食べ終わったら、次の患者様の所へ行きますよ」


 俺居るから、居なくてもいいんだけど、まあいいか。

 さて、どんなもんかな。まずはこのワカメの味噌和えから頂くか。


 俺達は同じタイミングで、ご飯を食べ始めた。

 亜美もおんなじの食べてる。仲良しだな、俺達。

 そして、仲良しな俺達は同時に狼狽(うろた)えた。


「「不味い……!」」

亜美「京平の風邪が治って良かった」

京平「亜美と信次のお陰だよ。ありがとな」

信次「とりあえず兄貴は、入院食の改善頑張ってね」

京平「味噌和え以外はどうなんだ。震える」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ