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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
違和感のある京平
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シックデイ

「兄貴、そろそろ薬飲んだ方が良いよ」

「ん、ふぁあー。信次、おはよ」

「むにゃ、あ、おはよ信次」


 信次が京平に薬を飲ませる為に起こしにきてくれた。

 時計をみると15時半。私達、ぐっすり寝てたね。


「通りで怠さが増してる訳か。ありがとな信次」

「お水ここに置いとくね。食欲はどう?」

「亜美の卵粥なら食べれるかも」

「僕ので我慢してね。作って持ってくるね」


 私も昼ご飯食べに行こうかな、と、身体を動かそうとするんだけど、なんか眩暈がする。

 鼻も苦しいし、身体も少し怠い気がする。あれ? これはもしや。


「信次、私も卵粥欲しい。風邪引いたっぽい」

「亜美も?! 明日病院行くんだよ。薬持ってくるね」

「俺の風邪がうつったみたいだ。ごめんな」

「全くだよ。病人が亜美を抱きしめるんじゃないの」

「いいの、癒されたもん」

「このバカップル!」


 そういうと、信次は部屋から出ていく。

 早くも風邪のウイルスに負けてしまった。もう、軟弱すぎるぞ私。

 なんとか今日中に治さなきゃ。病院に迷惑掛けちゃう。


「亜美、無理に治そうとすんなよ」

「だって、迷惑掛けちゃう……」

「普通にしてな。普通に薬飲んで寝てりゃ治るからさ」

「無理して出勤してた京平に言われても説得力が」

「ほっとけ!」


 そう言いながら、京平は鼻をかんだ。

 昨日から鼻水もたくさん出てて辛そうだったもんね。

 まだ京平も完治とはいかないみたい。

 私も鼻水が垂れる前にかまなきゃ。


「2人して鼻声だね」

「だな。そう言えば、亜美のお父さんとの電話、どうしようか?」

「まだ風邪も軽いし、早くお父さんに話したいから今日するよ」

「そっか、無理するなよ」


 京平は頭をポンポンしてくれた。

 そして、同じタイミングで信次も部屋に入って来る。


「はい、風邪薬ね。お水も持って来たから、ご飯食べたら飲んでね」

「ありがとね、信次」

「すぐ卵粥作るから待っててね」


 信次、勉強で大変な最中、本当に申し訳ない。

 京平が次風邪を引くのは9年後だろうけど、次回は気をつけなきゃ。

 9年後は京平も44歳か。完全におじさんになるね。

 私も30歳。アラサーじゃん。

 その時までには京平と結婚……って、何考えてるの私!

 付き合って、まだ1週間経ってないのに。

 でも、解ってる事もあるよ。


「9年後も看病するし、それから先もずっと傍にいるからね」

「次は亜美が無理しないように、薬飲まなきゃな」

「そうだよ、忘れないでね」

「先の未来も、俺の事考えてくれて、ありがとな」


 そんな事を話していたら、信次が卵粥を持ってやって来た。


「9年後はどうなってるんだろうね。はい、卵粥」

「ありがとな。信次も25歳になるよな。立派な医者になるんだぞ」

「兄貴と出会った時の、兄貴の歳と近いよね。頑張らなきゃ」


信次はそう言いながら、私に卵粥を渡してくれた。


「あ、ありがと信次。私達と同じような家族に出会うかもだしね」

「僕達で最後にして欲しいよ、そんな家族」

「間違いないな?」


 私達はずっと仲良く一緒に暮らせたらいいね。

 だって今、すごく幸せだもん。

 9年後には信次も彼女出来てるかな?

 コトメって言われないよう、仲良くしなきゃ。


「じゃあ、食べたら薬飲んで寝るんだよ」

「あ、亜美達のお父さんと電話したいから、20時頃も寝てたら、俺達起こして」

「電話の日だもんね。了解」


 信次はそう言って、ちょっと心配そうな顔をして部屋を出た。

 

「ふーふー、信次の卵粥も好きなんだけど、やっぱ亜美のが好きだな」

「そりゃ私のはこだわってますから。ふーふー」


 なんていうけど、信次の卵粥も負けないくらい美味しいんだよ?

 京平は何を持って、私の卵粥が好きなんだろうな?


「あ、しまった。後追いになったけど、インスリン注入しなきゃ」

「いつもより多めにな。シックデイで既に高くなってそうだけど」

「うん、血糖値300いってる。ケトアシドーシスにならないようにしなきゃ」

「もうなりかけてんな。無事下がればいいけど」


 シックデイとは体調不良時の事で、糖尿病の人はこれが原因でインスリンが効きづらくなったりする。

 私もシックデイの影響で、久々に300超えちゃった。

 これでおさまってくれよ、私の血糖値!

 さもなくば、入院もあり得るし……。


「俺が居るから安心しな。入院になっても」

「よくなーい!」


 全く。冗談としても(たち)が悪すぎるよ。


「俺は体調大分良くなって来たし、血糖値の管理は俺がやるから亜美は寝とくんだぞ」

「ダメだよ、京平だって風邪完治してないでしょ。ちゃんと寝て?」

「バカ。主治医として放っておける訳ないだろ。素直に任せとけ」

「解った。素直に甘えとくね」

「さ、卵粥食べて、薬飲んどけよ」


 私達は、信次の作ってくれた卵粥を食べて、薬を飲んだ。

 京平に無理させるのは申し訳ないけど、私の身体も正直限界近い。

 風邪が悪化する未来しか見えなかった。

 シックデイ時のケトアシドーシスを防ぐ為には、こまめな管理が必要なのに、それをする体力が無かった。


「1時間ごとに血糖値測定と、場合によってはインスリン注入するからな」

「ありがとね京平、おやすみ」

「おやすみ、亜美」


 かなり不安は残るけど、私は風邪を治す事を考えなきゃ。

 京平が側にいてくれて良かった。ありがとね。

 元気になあれ、私の身体。


 ◇


「やべえな、452か」

「え、そんなに上がったの?」

「俺、亜美を病院に連れていくから、後は頼んだぞ」

「兄貴だって、風邪引いてるじゃん!」

「亜美がピンチの時に、寝てられっかよ!」


 あれ、私、そんなにヤバいのかな?

 京平の声が、凄く慌ててる感じがする。

 喉、乾いたな。あれ、意識も段々薄れてきた。

 

「京平、助……」

「亜美、絶対助けるからな!」


 ◇


 気がつくと、私は病院のベッドに寝かされて、点滴を刺されていた。

 あれ、確か私、意識を失って……。


「亜美、目覚めたか。良かった……」


 京平の声が部屋中に響き渡った。と、思ったら、京平は私のベッドにうつ伏せになってしまった。


「きょ、京平!」

「寝かせといてあげな。こいつ風邪引いてんのに、休日返上で時任さんを付きっきりで診てたのよ。指示も的確だったしね」

「あ、看護師長」

「深川がすぐ貴方を連れて来てくれて良かったわ。風邪が治るまでは経過観察で、入院だからね」


 そっか、意識が朦朧とする中、京平に助けてって言い掛けたんだけど、助けてくれたんだね。

 ありがとね、京平。風邪引いてたのに、ごめんね。


「信次くんにも、時任さんが目覚めたって連絡いれとくわね」

「有難うございます」

「風邪薬もそこにあるから、晩御飯食べ終わったら飲むのよ。今、インスリン打つからね」

「あの、今何時なんですか?」

「22時よ。晩御飯のお皿は、朝一緒に片付けるから置いといてね」


 看護師長はそう言って、部屋を出て行った。

 京平が早く助けてくれたお陰で、もうご飯は食べてもいいみたい。

 持続インスリンの点滴も繋がってて、今血糖値は213。うーん、まだ高いなあ。

 

 それと、お父さんも心配してるだろうなあ。

 こんなに早い段階で意識障害まで起きて、入院だなんて。

 退院したら、すぐに電話しなきゃ。

 信次はお父さんに、何て伝えたのかな?

 これからは、ちゃんとマスクして看病する事。

 薬も、問答無用で飲ませる事。

 キス……は、勢いでしちゃったから、防ぎようがなかったけども!


「やべ、俺寝てたわ。亜美、大丈夫か?」

「うん、喉の渇きも無くなったし、もうご飯食べてもいいって」

「しっかり食べろよ。風邪を治さないとだしな」

「ありがとね。私もう大丈夫だし、京平はもう帰ったら?」


 危ない段階は脱したし、今は持続インスリンも繋がってる。

 京平が付きっきりで診る必要は、もうないしね。


「亜美の側にいる。そもそも俺が風邪をうつしたせいだし」

「ダメ。風邪悪化しちゃうでしょ。風邪治ったら、また顔を見せてね」

「明日には会いにいくよ」

「うん、そうして」

「主治医として、亜美がご飯食べたの確認してから帰るな」

「じゃあ、いただきます」


 うー、見られながら食べるの恥ずかしいんだけどな。

 でも、これも経過観察だもんね。

 だけど、病院のご飯って美味しくないんだよ。

 いつも信次と京平が、美味しいご飯を作ってくれるから、舌が肥えちゃってるし。

 よし、無心で食べよう。無の境地だ。食べなきゃ、治るもんも治らないしね。


「無にならなきゃならんほど不味いか、病院食」

「糖尿病用だから、尚更ね」

「俺、最悪だわ。亜美に風邪をうつすだけじゃなく、こんな苦行まで」

「入院食を美味しくしてください、って要望書書こ?」

「患者様の為にもなるしな。院長に直談判するわ」

「ちょ、話が飛躍しすぎ!」


 でもそれが1番早いし確実なんだろうなあ。

 院長先生、何だかんだで京平の事、評価して下さってるし。


「ごちそうさまでした。家帰りたい」


 私は薬を飲みながら、本音を漏らした。


「焦らないこと。ちゃんと身体治してな」

「明日、会いに来てね」

「バッチリ治して会いにいくから、心配すんなよ」

「ありがとね。それじゃあ、おやすみ。京平」


 私が目を閉じると、京平は頭をポンポンしてくれ続けた。

 もう、ご飯食べたら帰るって言った癖に、寝付くまで見守る気だな?

 でも、京平のポンポン、やっぱり落ち着くな。

 段々、眠たくなってきたよ。

 おやすみ、京平。また明日ね。


「おやすみ、亜美」

のばら「深川先生のおバカ! 亜美を苦しめるなんて!」

信次「亜美にマスクさせとけば良かった」

京平「亜美はシックデイに弱い身体なのに、俺のバカ」

信次「って、兄貴も自分を叩かないの!」

作者「亜美、どうなるんやろな」

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