自覚なき、らしくない
今日は病院が休みの為、巡回勤務となった。
京平の事は心配だけど、勤務に集中しなければ。
大丈夫、まだ予兆だけ。京平は普段とちょっと違うだけだから。
「はい、お熱測りますね」
「あら、今日も看護師さんいらっしゃるのね」
「入院されてる皆様の為に頑張りますよ!」
自分が苦しい中、私達を気遣ってくれる患者様もいらっしゃる。
本当にそんな気持ちが、私の胸を温めてくれた。
そんな患者様達を、少しでも元気付けてあげたいな。
「うん、36.2ですね。平熱で良かった」
「このまま体調が安定するといいわあ」
「何かあったら、ナースコールで呼んでくださいね」
この患者様の体調は安定して来ているし、今日の検査結果と京平か蓮の判断次第で退院になりそうだね。
無事退院出来るといいなあ。
「よ、亜美」
「あ、蓮、おはよ。今巡回?」
「そ。表情見たい患者様もいるしな」
蓮も頑張ってるなあ。
「亜美も無理すんなよ、じゃあまた昼な!」
「お昼合うといいね。じゃあね」
そう言えば土曜日は皆休憩時間バラバラだ。
蓮と昼合わなかったら、お弁当どうしようかな?
いいや、内科部長か京平に渡しといて貰おっと。
そうと決まれば、休憩室に行く前に内科に立ち寄らなきゃ。
京平とは京平の見張り役をする都合上、常に休憩一緒だから嬉しいな。
そうだ、どうせ内科に行くし、今日は迎えに行くね、ってライムしとこ。
因みに京平は、昨日病気の事を初めて内科に話してたらしいんだけど、今日も自分の病気の事を話してた。
その影響で、暫くは早番で時短になるのと、他の医師に協力を仰ぐ可能性がある事とか。
京平は常に無理をしてたけど、意識だけでも誰かを頼ろうとしているのは嬉しかったな。
私の直感はただの杞憂かな? だったら良いんだけどね。
あ、ライム返ってきた。今日は事務仕事なのかな?
『待ってるな』だって。待っててね、京平。
業務に戻ろうとすると、看護師長が私に話しかけてきた。
「時任さん、何だか今日は心配そうな顔してるけど、どうしたの?」
「私の杞憂かもなんですが、深川先生がいつもとちょっと違ってて、心配なんです」
すると看護師長が、深刻そうな顔になる。
「いつも指摘しても、変人な部分を治してくれない深川が? 確かに不安になるわ、それ」
「鬱症状になりかけてないか、心配なんです」
「普段と、どう違ったの?」
「いつもなら私が怒っても、悪戯っ子のように笑うのに、今日は普通に謝ってきて……」
看護師長の顔が、どんどん怖くなってきた。
「解った、愛先生に報告するわ。確かに深川らしくないね。時任さんに謝る深川とか、気持ち悪い」
「深川先生が私に謝るの、気持ち悪いんですか?」
「気持ち悪いし、貴方達を見てれば解るわよ。普段深川が、どう時任さんに接してるかくらいかは」
なるほど。私達がどう接してるかも、看護師長にはお見通しだったんだね。
麻生愛先生なら、そういう時どうすれば良いかも解るはずだし、相談してくれるのは有難い。
でも、ちょっと気になるのが。
「これ、本人に言った方が良かったですか? まだ言えてないんですけど」
「それも含めて相談するわ。私にもあいつに無理させた責任はあるから、今回は任せといて」
こんな時、看護師長は頼りになる。
私はお願いします、と伝えて、巡回勤務に戻った。
どうしよう、すごく不安になる。
側から見ると、相当な違和感だった事に気付いてしまった。
もう、ただの京平の気紛れで謝った、という事にして欲しい。
京平の気持ちが落ちかけてて、なんて考えたくなかった。
落ちてるんであれば、すぐにでも京平の傍に居たい。助けてあげたい。
しかも、京平は自覚なく落ちてるかもしれないだなんて。
私は巡回勤務中も、気持ちを切り替える事が出来なかった。
なんとか笑顔だけは作ってみたけれど、耐えきれなくてトイレで泣いてしまった。
でも、患者様の前では泣かずに済んだよ。
◇
「時任さんお待たせ、愛先生に連絡が取れたわ」
今日麻生愛先生はお休みで、看護師長が電話で確認をしてくれた。
「詳しく深川に話聞きたいらしいから、病院までくるみたい。いわばカウンセリングね」
「休日出勤して下さるなんて……」
「ね、深川も大事にされてるわね。深川の勤務も、愛先生凄く交渉してたし」
京平の為に、沢山の人が動いて下さる。
京平がそれだけ、頑張って生きてきたからだ。
でも、京平の勤務を交渉した、ってどういう事だろう?
「深川先生の勤務を交渉した、ってどういう事ですか?」
「院長先生に愛先生が相談した時、院長先生は深川を休職にした方が、って言ってたんだけど、常に人を助けたいって思ってる深川は、働いてた方がいいからって」
確かに。京平は時短だけでも落ち込んでいたから、休職になってしまえば、もっと自分を責めてしまう。
医師として働いてるのは、京平の生きがいでもあるから。
本当は、落ち着くまで休んで欲しいんだけど。
「後、深川が普段と違う事は話していいそうよ。ちょうど良い時間だから、休憩いってらっしゃい」
「有難うございます。今日は内科で待ち合わせなので行ってきます」
「私も内科にいくわ。カウンセリングする事話したいしね」
私達は、2人で内科まで向かった。
今日京平は、シフト作りをしているみたい。
「時任です。深川先生はいらっしゃいますか?」
「あ、亜美」
「あ、朱音。朱音も今日は事務仕事?」
「うん、今日は石田内科部長の補佐でね。いま深川先生呼んでくるね」
石田内科部長、よく看護師に自分の事務作業振るんだよなあ。
そもそも看護師に事務作業を振っていいのかは、前々から疑問だったけど。
「亜美、おつかれ」
「京平、おつかれ」
京平が内科の事務所から出てきた。今のところは元気そうで安心した。
「よ、深川。シフトもう出来た?」
「出来てるので、後でメールで送りますね」
なるほど、シフトの照らし合わせもしているんだね。
確かに医師の勤務が解れば、担当とかも決めやすい。
「後、時任さんから聞いたけど、今日あんたらしくない行動があったみたいだから、愛先生のカウンセリング受けなさい」
「あれ? 愛さん今日休みなんじゃ?」
「連絡取って来てもらう事になったわ」
「俺、元気なのに申し訳ないなあ」
あ、やっぱり普段と違う事を自覚してない。
「京平、なんかいつもと違うもん……」
「何が違うか解らんけど、休憩室で話そうか」
「あ、蓮は休憩合うかな?」
「弁当あるもんな。連絡して休憩取るように言っとくよ」
やっぱり京平らしくない。
いつもなら、蓮の名前を出したら、すごいムスっとするのに。
「じゃあ、愛先生が来たら連絡するからね」
「有難うございます」
看護師長はそう言って、その場を後にした。
私達は、休憩室に向かう。
「亜美、また俺が泣かしちまったか……」
「だって、また京平が鬱症状になったら、って」
あ、ダメだ。また涙が出てきた。
大切な人が苦しむかもしれない、って事は、こんなにも悲しい事なんだね。
「俺、そんなに違うか?」
「だって、私怒っただけなのに、私に謝ってきたじゃん。らしくないよ」
「ネガティブになりつつあんのか、俺。確かに亜美に対して、それは違いすぎるな」
やっぱり自覚なくやってたんだ。
いつも京平は、私に対しては本音で、自分らしく生きてくれてるのに、私をそう言った意味で気にするのはおかしいもん。
あれ、京平あれだな? 私にはドSだな。今更だけど。
「愛さんともカウンセリングするけど、亜美の言う通り休んだ方がいいかも。亜美に俺でいれない俺は嫌だし」
「お弁当食べたらゆっくり寝てね」
「亜美、朝から頑張ってたもんな。楽しみ」
京平が笑ってくれた。この笑顔を、私は守りたい。ずっと、ずっと。
亜美「京平の笑顔を、ずっと守りたいんだ」
作者「愛だな」
京平「最近、俺の事で亜美を泣かせてばかりだな。何やってんだ、俺」
亜美「気にしないで。京平が京平なら、私は大丈夫だよ」
京平「俺だって、亜美には笑ってて欲しいんだぞ」
亜美「ありがとね、京平」




