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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
恋愛バトル
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蝶よ花よ

 それから深川先生は、私達をずっと守ってくれている。


 因みにそれから割と近い未来に、稼げるようになった深川先生は、養育費は不要です、と父親に告げたのだけど、父親はなんとまだあの女を忘れられないらしく、子供達を育ててくれるなら、と、養育費の支払いを未だに辞めないのだ。

 でも、少しずつ過去には出来てるらしく、数年前から私達と父親は電話が出来るようになった。まだ会う事は叶わないけれど、ちょっとずつだね。


「人を愛する。って難しいよな。片想いでも出来ちゃうからな」

「我が父親ながら、あの女への愛の込め方は絶句しますけどね」

「ストーカー並だよね。完全にあの女クズなのに」


 先程からお気付きだろうが、信次と私は、母親の事をあの女と呼んでいる。これで深川先生に通じてしまうようになったのは、割と早い段階だった。


「亜美って彼氏とか出来たこと……ないのは知ってるけど、異性として人を愛したことあるのか?」

「ん、ないです!」


 はい、またまた嘘ー!お前だよ! ってめちゃくちゃ言いたいよ、でもお前からの愛は家族愛しかねえの解ってんだよこんちきしょう。


「だろうな、洒落っ気とかもないもんな」

「た、卵肌のやつで可愛くなりますもん!」

「買ってきたの僕だけどね」


 うぐ。そもそも洒落っ気ってどうしたらいいんだろうか。

 センスとかなんとかは全然解らないのよこちとら。

 メイクだって出来るようになったのが奇跡なくらい。それだって深川先生の為に頑張ったのに!


「せめて告白とかされたら良いんだけどな」

「無理でしょ、亜美じゃ」

「あーなーたーたーちーいー?!」


 相変わらず家族特有の気遣いゼロの毒舌が炸裂するから、私も負けじと応戦する。負けるけど。


「案外好きになってくれた人がタイプ、ってやつかもな」

「そ、それは流石にないです!」


 だって深川先生を愛してるもん! って、言いたいけど言えないのが辛い。しかし、良い事は聴けた。私は洒落っ気がないと指摘をされた訳だから、それを磨けば、もしかしたらも有り得るかもしれない。解らないが解らない状態だけど。


「と、ごちそうさまでした。あ、兄貴、ちょっと亜美と話したい事あるから先風呂入っといでよ」

「え、俺には内緒なの?」

「うん、内緒」


 深川先生はかなり残念そうな悲しそうな顔をしながら、渋々と食卓の片付けとお風呂にいく準備を始めるのであった。

 でも信次が私に話したい事って、なんなんだろうか? しかも深川先生に内緒だなんて。


「じゃあ話終わったら声かけて。あんまり長湯出来ないから短めにな」

「ん、了解!」


 こうして半強制的に、深川先生はお風呂に閉じ込められたのであった。深川先生のぼせやすい体質だから、あんま長くならんようにしないとな。信次次第なのだけど。


「で、話ってなんなの?」


 私が不思議に思い、信次の顔を覗き込むと、


「まず、アプローチおかしいから! 兄貴が亜美を妹扱いしてんの、そういうんじゃないから!」

「んぐ」

「洒落っ気とかも多分関係ないから。そういうんじゃないから」

「え、頑張ろうと思ってたのに?!」

「この前も頑張った結果、何故か魔女になってたじゃん。ドン引きされるだけだからやめて。亜美にセンスはない!」


 グサッ。何でや、魔女可愛いじゃんかよ?! あれドン引きされてたんかよ。かなりショックだ。


「だから普段着買う時も、信次か深川先生が着いてきたのか……」

「そこは兄貴と同盟組んだからね。亜美が恥ずかしい目に遭わないように、って」

「魔女になった後に、今後一切のアマゾム禁止されたのもその為か」

「アレは迂闊だったなと、2人で反省会したもんね」


 容赦なくズケズケと言われて、逆にスッキリするようなしないような……いや、傷付いただけ!

 信次は、さらに続けた。


「兄貴、最初に、僕たちの事お兄さんとして守る。って、約束してくれたじゃんか。それがあるんだから、そもそも亜美が兄貴を異性として愛してるだなんて、思いもしないんだよ。大体鈍感だし」

「それは解ってるけど、じゃあどうしたら良いの……」


 信次は、これしかないだろ、って顔をして続ける。


「今の亜美のままで、告白するしかないよ」

「え?! 妹扱いしかされてないから家族が壊れるだけなんじゃないの?」


 私だって家族を壊したい訳じゃない。だからこそ、確実に仕留めたいからこそ今まで告白しなかった訳だし。


「家族を壊したくない、これは僕達以上に兄貴が思ってると思うんだ。だからそれを利用するのさ」

「え。利用するって?」


 確かに深川先生が家族を大切にしているのは解っている。でも利用とは? 信次は話し続けた。


「だから亜美の事が対象外だったとしても、壊れるのを恐れて付き合うんじゃないかな? って」

「それって、深川先生が苦しむって事なんじゃあ……」


 それだけは嫌だ、と、私は首をぶんぶん振る。だって私は、深川先生を愛している。だから、深川先生を傷つけるのは自分だって許せないよ。


「そっか、相変わらず優しいね。亜美は」

「そんなの当たり前でしょ?」

「でも告白しなきゃ、兄貴は気付きたくても気付けないのは確かなんだよなあ」


 それなんだ。それは私も解ってる。

 でも、告白自体が深川先生を傷付ける事になるのであれば、最早告白なんて出来る訳がない。幸せでいて欲しいから。


「じゃあ、もう腹を括れ亜美。「私が対象外でも家族ではいようね」って付け加えたらいいよ。兄貴素直だし」

「確かにそれなら、傷付くのは私だけだよね。「異性としての愛してる」を、捨てなきゃになるかもではあるもんね」

「自分が傷つく事には無関心だよね、亜美って」


 信次は真顔で続ける。


「兄貴には申し訳ないけど、亜美には傷付いて欲しくないから、普通に兄貴と付き合って欲しいんだけどね。兄貴が苦しむとしても」

「ダメだよ。深川先生も大切にしてあげて」

「解ったよ。変な事言ってごめんね。それと」

「それと?」


 そろそろ深川先生がのぼせる頃だから、話終わった方がいいんじゃないかなあと思ったけど、気になったので話を続ける。


「泣いてたの、体調不良からじゃないでしょ?」

「え、気付いてたの?」


 嘘、信次気付いてたんだ。私の家族、私の事見抜きすぎでしょ?!


「兄貴誤魔化す為に薬の話出したんだから感謝してよね。で、何があったの?」

「実は、恋のライバルが可愛すぎて女の子らしすぎて、心ぐちゃぐちゃになっちゃって……」


 深川先生が鈍感なのはいつもの事だから良いとして、大きな原因は、やはり冴崎のばら。彼女の存在だった。


「成る程。そいつとっちめるしかないね。明日、亜美の病院にバイトの面接いくよ」

「え。バイトって学校もあるでしょ? それにのばらは何も悪くないし」

「ずっと前から亜美のが兄貴の事愛してんのに、そこに割って入ろうだなんて泥棒猫でしかないじゃん。許せない」

「だから、とっちめちゃダメだってばああ」


 しかし、信次は私の静止を振り切る。


「兄貴ー、話終わったよー」

「あ、ちょ、バイトなんてお姉ちゃん許しませんよ!」


 深川先生をお風呂から出してあげるのは良いとして、学校もある信次が私の為にバイトするのは申し訳なさすぎたし、のばらをとっちめられるのはとても困る。

 勝手に傷付いた私が悪いのであって、のばらは悪くないし。


 信次にその事を説明するよりも先に、深川先生からお風呂から出てきた。が。


「信次、遅いよ……ふらふらする……」


 あ。やっぱり深川先生のぼせてた。


「兄貴どうせ先に身体と頭ちゃちゃっと洗って、それからずっとお風呂に入ってたでしょ。のぼせたくないなら普通逆にするでしょ」

「うぐ、何で風呂での俺の行動が読まれてるん……だ」

「やっぱりね、このド天然」


 確かに少しお風呂に入って、髪とかを後で洗えば、のぼせるのは防げる。

 けど、天然な深川先生がそんなうまいことやる訳ないのは解っていた。本当におドジである。


「すまん信次、ちょっと横になりたいから部屋いくわ。と、亜美。ちょっと経ったら話したいことあるから宜しく」

「タオル敷いて床で横になるんでしょ。了解」

「って、深川先生も話したい事あるんですか?」


 実は信次と深川先生は、同じ部屋を使っているので、一応深川先生は信次に横になることを告げている。

 因みにタオル敷いて横になる時は真っ裸らしいし、その状態で部屋に入られると頭ごっちんするらしいし。

 それはともかく、深川先生も私に話? 皆心配症だなあ。や、またズケズケ言われるかもだけど。


「おう……とりあえず横になるわ」

「お大事にー」


 深川先生はそう言うと、自分と信次の部屋へと入っていった。


「って、とにかくバイトはするからね。そろそろ大学資金貯めたいのもあるし、僕も飛び級考えてるから。じゃ、お風呂入ってくるー」

「え、うちお金に困ってはな、ちょ、信次ー!」


 私の言葉も聞かずに、逃げるように信次はお風呂に行ってしまった。

 まあ、信次の説得は後でもう一度するとして、食器を洗うか。

 因みに洗い物は基本私の仕事だ。朝だけは信次にやらせちゃってるけど。

 あ、深川先生にやらせたら、お皿がかなり割れてしまったから、深川先生には任せられない。天然だし。


 と、洗い物をせっせと片付けていると、深川先生が部屋から出てきた。パジャマも着れたみたい。良かった、のぼせてたの治って。


「亜美ー、いま大丈夫か?」

「今洗い物終わったので大丈夫ですよ。深川先生こそ、落ち着きましたか?」

「おう、心配ありがとな」


 私は手をタオルで拭きながら、深川先生の元へ向かう。


「で、話って何ですか?」

「や、なんか最近俺に隠し事多くない?」

「そ、そんな事な」


 私が言い終わるのより先に、


「嘘付いてるのだけはバレバレなんだぞー、うりゃあー」

「痛たたた、顔を引っ張らないでください!」

「どうだ! 白状する気になったか!」

「白状って何ですか?!」


 やっぱり嘘付いたのは信次のフォローも虚しくバレてたか……。じゃあ、嘘にはならないように伝えてみるか。


「確かに体調不良じゃなくて、気持ちの問題で泣いちゃいました」

「気持ちの問題? 誰かにいじめられてないよな?」

「ある意味、誰かさんに心ぐちゃぐちゃにされてますから」

「心ぐちゃぐちゃって、信次じゃないけどそいつとっちめる! 誰なんだ?」


 深川先生だよ!!! って、私の家族は、皆とっちめたがるから困るなあ。どうぞ深川先生、自分をとっちめて下さい。と、言いたくなる。

 まあ、嘘じゃないように話すか、と、私は続けた。


「上手く行ってない同僚がいるんです。お互い目指す場所が同じだからこそ、上手くいかないというかライバルというか」


 のばらとライバルになって、より心ぐちゃぐちゃになったのは確かだから嘘ではないのだ。


「亜美に、遂にライバルが現れたのか。ある意味仲良くなれそうだな」

「いや、絶対負けたくないので、隙なんて見せられません!」


 のばらの気高さや女の子らしさは憧れているけど、恋のライバルだもん。仲良くなんてなれる訳ない。する気もないし。


「確かにライバルがいると、心穏やかにはいかないよな。でも、悪いもんでもないぞ」

「深川先生のような天才にも、ライバルっているんですか?」


 まさか深川先生の口から「ライバルは悪いもんじゃない」と、聴けるとは思わなかった。向かうところ敵なしってタイプだと思っていたから。


「うん。大学の時からこいつには負けられねえな、ってライバルがいるよ」

「え。大学時代からのライバルなんですか?」


 てっきり五十嵐病院の先輩医師とかだと思ってた。まさか、天才深川を穏やかにさせない力を持つ者が大学から居ただなんて。


「しかも、今五十嵐病院の同僚だしな。外科医だから中々シフト合わないけど、今度紹介するよ」

「はい、機会があれば、会ってはみたいかもです」

「面白いやつだぞー」


 しかも面白いんだ。ますます、深川先生のライバルが謎になってくる。会うのが楽しみだ。


「と、これはずっと前からの疑問なんだけど」

「な、なんですか?!」


 疑問ってどういうこっちゃ?!


「なんで亜美、五十嵐病院で働きだしてから、俺に敬語なの? 家族なのは皆知ってる事だし、今まで通りでいいじゃん」

「え、だって五十嵐病院では、先輩後輩超えて、上司部下の関係ですし」

「俺が嫌なの。亜美とは普通に話したい」

「周りの目もありますし……」

「ここ家じゃん。家でも敬語じゃん。嫌だよ」


 実は私はオンオフがキッチリ出来ないタイプだから、職場モードに合わせて、五十嵐病院で働き始めた4月から、「深川先生」って呼んで、敬語で話していた。

 それと、もし妹扱いから同僚って扱いになれば、チャンスは広がるかもって思って。

 でも、どうやらそれは逆効果で、深川先生を傷付けてしまっていただけだったみたい。

 それなら、久々だからちょっと緊張するけど……。


「ごめんね……京平」

「ん、それでよし! 病院でもそれを維持しろよ?」

「え、それはちょっと」

「ダメ。敬語禁止ね。はい、俺からの話は終わり」


 深……違う、京平がそう言ったんだけど、ちょっと相談したい事があったから、今度は私から話を切り出した。


「あ、ちょっと待って。私も話したいことあるんだけど」

「ん、どしたん?」


 私は、話し始める。


「信次が五十嵐病院でバイト始めるっていうの。面接なんか受けたらどうせ受かっちゃうだろうけど」

「だな、信次なら受かるだろうね。俺に似て頭良いし」

「うちお金困ってないのに、飛び級も考えてるから学費稼ぎたいって言ってて」


 もう私じゃ信次を止められそうにないから、京平に止めてもらおう。と、話していると……。


「亜美、それは反則なんじゃない?」

「し、信次?! もうお風呂から出てきたの?!」


 京平に援護を頼み切る前に、逃げ出した信次がタイミング悪く戻ってきてしまった。


「お、信次。バイトしたいってマジか?」

「うん、本当だよ。兄貴やお父さんに迷惑かけたくないから、学費稼ぎたくて。今年なら飛び級試験もクリアできそうだし」


 現状の日本では、こちらも数十年前から法律が変わり、飛び級試験が始まっている。早めに大学入試を受けさせ、才能ある人材を幅広く長く使えるようにする為の措置である。

 因みに京平も、この飛び級試験で3年飛び級しており、京平は高校生活をしらないのだ。


「俺は飛び級してるから本当は止める資格ないんだけど、信次には普通の高校生活を楽しんで欲しいんだけどな」

「僕だって、兄貴みたいな医者になりたいから」


 実は信次の夢は、京平のような人を助けられる医師になる事で、その事も私たちは知っていた。


「後、亜美も言ってたけど、お金には困ってないし無理にバイトしなくてもいいんじゃないか? 俺、結構高収入だぞ?」


 自分で言うんかい! とは思ったけど、実際京平はかなり稼いでいる。内科全般をこなし、何故か麻酔科医の資格まであるもんだから、かなり働いている。流石うちの大黒柱だね。


「知ってるよ。……解った、本音言う。亜美を苦しめるヤツを自分の手でとっちめたいだけ!」

「だから、とっちめちゃダメだって言ってるでしょ?!」

「は? 亜美いじめられてるのか?! 嘘は付くなって言っただろ?!」

「いじめられてないよ!」


 なんか話がごちゃごちゃになってきた。お互いに言える事、言えない事が混じり合って、収集がつかなくなってる。嘘は付いてないけど、信次に言える部分と、京平に言えない部分があるから、よりややこしい。

 ……ややこしかったのだが、天才である京平は何かを理解してしまった。


「飛び級の件はまた話すとして、亜美を守る為ならバイトは仕方ないな。俺たち兄弟の使命だからな、亜美を守るのは」

「よっしゃ、ありがとう兄貴!」


 私の家族、私を蝶よ花よと育てすぎじゃない?! 何で、その理由でバイトの許可を与えるんじゃー!! 嘘。めちゃくちゃ与える気がしてたから、そこは黙ってた。


「高校の後からになるだろうし、家事は無理しなくていいからな。俺稼いでるし」

「うん。たまには外食も悪くないしね」

「時間に余裕があったら、俺らもご飯つくるしな」

「火傷しないでよ、兄貴」


 こうして、色々な事が、色々な方向へと突き進み、今日も夜は更けていくのだった。


作者「さあ、核心に触れてきたね。信次」

信次「そもそも亜美がそれに気づかなすぎたから」

亜美「もっと早く教えて欲しかったよ」

作者「亜美、告白がんばれよ」

亜美「でも、いつしたら良いんだろ?」

信次「それは僕がのばらってヤツをとっちめてからじゃね?」

亜美「とっちめちゃだめええ!」


作者「てか、亜美の京平への敬語って、4月からだったのね」

京平「いきなりだったから、指摘するタイミングがわかんなかったよ」

作者「パキパキしてんなー。亜美」

京平「という訳で、敬語禁止だからな」

亜美「はーい」


作者「次回から一旦、語り手が信次に変わるよん」

信次「え? 僕?!」

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