一緒に生きていこうね。
ずっと、傍にいるから。
「いってらっしゃーい」
「いってきまーす」
信次もバイトに出かけていって、家には私1人きり。
心がパンパンだから、こうなると余計に悲しくなっちゃう。
ダメ、もうすぐ京平も帰ってくるんだから、笑わなきゃ。
って、洗面台で笑顔を作ってみたけど、すごい変な顔。泣いてるじゃん。私。
泣くつもりは無かったのにな。
京平を守るって決めているのに、私が泣いてちゃ意味ないじゃん。
無理矢理笑顔を作ろうと頑張っていると、ドアのガチャって開く音が聞こえた。
「ただいまー」
「おがえりー」
ああ、声まで泣いちゃった。私のバカ。
んで、めちゃ駆け足が聞こえてくる。心配させちゃってるな。
「亜美、大丈夫か?」
息を切らして、京平が私の所に来てくれた。
いつも私が泣いてる時、真っ先に全力で来てくれるよね。ありがとね。
「何言ってんの、私元気だよ。ほら」
「めっちゃ泣いてるじゃん。無理すんなよ」
京平が後ろから抱きしめてくれた。
結局、私のが京平に守られているんだよなあ。
「部屋に行こう。話も聞かせて欲しいし」
京平はそういうと、私をお姫様抱っこする。
全然歩けるのに、そんなに無理してる顔に見えたかなあ。
京平は私を部屋に運んで、私の布団に下ろしてくれた。
そして、私に布団を掛けながら問いかける。
「んで、診察の前、後、そして今。俺の何を思って泣いてんの?」
あ、私もう3回も泣いてるんだ。泣きすぎでしょバカ。
「京平が、自分に自信持ってないから。京平は最高なのに、素敵なのに、頑張ってるのに。こんなの悲し過ぎるよ」
「亜美……」
京平はちょっと困った顔をした後、何かを決意したような目をして話し始めた。
「ちょっと……いや、かなり怖いんだけど話すな。実はこれでも、強くなった方なんだぞ。俺」
「え。そうなの?」
京平は、強く私を抱きしめた。けど、震えてるのが私にも伝わってきた。
何で震えてるの? 京平?
「亜美と信次のお陰だよ。ただ俺が抱きしめただけで、いつも泣き止んでくれてさ。あ、俺、居るだけでいいんだな、って初めて思えてさ」
「うん、それでいつも安心したんだ。私」
小さい頃、なんなら今でもなんだけど、京平が抱きしめてくれるとすごく安心したんだ。
側にいてくれる事が、すごく嬉しかったんだ。
「それまでは毎日のように、俺なんて生きてる価値ねーよなって泣いてたぞ。あははははは」
笑ったかと思えば、京平は一息いれて。
「弱すぎて幻滅した?」
京平は怯えた顔で私に問いかけた。
私は首を横にぶんぶん振りながら、正直な思いを吐露する。
「頑張ったんだね、京平」
「頑張れてないさ。亜美達がいたから……」
「そうじゃなくて、今こうして、生きてる価値がないとまで思ってたのに、生きてるでしょ?」
私も京平を抱きしめた。ダメだなあ、また涙が出て来たや。
でも、これだけは伝えなくちゃ。
「生きててくれてありがとね。出逢ってくれてありがとね」
あれ、啜り泣く声が聞こえる。京平も泣いてるの?
「俺も亜美に出逢えて良かった。亜美が居たから、少しだけ強くなれたよ」
「これからも一緒に生きていこうね」
「亜美となら、生きていけるよ」
私達はもう一度抱きしめ合った。
私だって、京平が居ないともう生きていけないよ。
そう思えるくらい、京平が必要なんだよ。
弱すぎて、なんて言ってたけど、生きててくれてありがとね。
それだけで、充分京平は頑張ってると思うんだ。
頑張ってたのに、気付けなくてごめんね。京平。
「それに俺が俺に自信ないだけで、こんなに泣く亜美を、置いてはいけないよな」
「私は泣き虫だからね」
「そうだな、亜美は泣き虫だもんな。未だに俺が死んだ夢で泣いてるもんな」
「思い出したら泣けて来た……。うわあああん」
「俺、目の前にいるじゃん。バカ」
そうだよバカだよ。でも、泣けちゃうもんは泣けちゃうんだもん。
この夢を見た時だけは、京平の顔を見るまで安心できなくて泣いちゃう。
何度も夜中、京平と信次を起こしちゃってるし、何度も慰めて貰ってるもんね。
今なんて、傍に京平居るのに泣いてるし。
「でも、ありがとな亜美。俺の為に泣いてくれて。惚れたのが、亜美で良かった」
「私も京平を愛せて良かった」
京平は、私を見つめて笑って言った。
「俺、自信持てるようになるよ。時間は掛かるかもしれないけど、諦めないから」
「京平も頑張っていたのに、気付けなくて泣いちゃってごめんね」
「ちゃんと自分の事、言えてなくてごめんな。付き合う前に言うべきだったよな」
「少しずつでいいよ。少しずつ、京平の事教えてね。思い出したらでいいから」
そう言うと、京平は項垂れて呟く。
「俺、亜美に甘えてんなあ」
「お互い様だよ。いつも、ありがとね」
本当の気持ちだよ。いつも一緒に居てくれて、守ってくれて、慰めてくれてありがとね。
「じゃあ、俺は走ってくるけど、亜美は少し寝てな。沢山泣いてたし」
私は、京平の服を掴んだ。
「やだ、傍にいてよ。じゃなきゃ眠れないよ」
「甘えてくれてありがとな、俺でよければ傍にいるよ」
「京平がいいの」
私がそう言うと、京平はまた私を抱きしめてくれた。
すごく温かい。いつも、本当にありがとね。
京平は頭をポンポンしながら、子守唄も歌ってくれた。
京平の優しい歌声が、私の身体に響く。
トロンと私は、とろけていくの。
「おやすみ、京平。傍にいてね」
「おやすみ、亜美。甘えんぼだな」
パンパンだった心も、少し和らいで、私は京平の腕の中で眠った。
幸せだな、私。
京平が居るからだよ。ありがとね。
一緒に生きていこうね。
作者「私も双極性障害になったばかりの頃は、毎日泣いて旦那を困らせてたな。死んだ方がいいのに死ねない自分をせめたり、ね」
亜美「京平が生きててくれて、本当に良かった」
京平「亜美達が居たからだよ、ありがとな」