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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
無理はしないでね
48/222

一緒に生きていこうね。

ずっと、傍にいるから。

「いってらっしゃーい」

「いってきまーす」


 信次もバイトに出かけていって、家には私1人きり。

 心がパンパンだから、こうなると余計に悲しくなっちゃう。

 ダメ、もうすぐ京平も帰ってくるんだから、笑わなきゃ。

 って、洗面台で笑顔を作ってみたけど、すごい変な顔。泣いてるじゃん。私。

 泣くつもりは無かったのにな。

 京平を守るって決めているのに、私が泣いてちゃ意味ないじゃん。


 無理矢理笑顔を作ろうと頑張っていると、ドアのガチャって開く音が聞こえた。


「ただいまー」

「おがえりー」


 ああ、声まで泣いちゃった。私のバカ。

 んで、めちゃ駆け足が聞こえてくる。心配させちゃってるな。


「亜美、大丈夫か?」


 息を切らして、京平が私の所に来てくれた。

 いつも私が泣いてる時、真っ先に全力で来てくれるよね。ありがとね。


「何言ってんの、私元気だよ。ほら」

「めっちゃ泣いてるじゃん。無理すんなよ」


 京平が後ろから抱きしめてくれた。

 結局、私のが京平に守られているんだよなあ。


「部屋に行こう。話も聞かせて欲しいし」


 京平はそういうと、私をお姫様抱っこする。

 全然歩けるのに、そんなに無理してる顔に見えたかなあ。

 京平は私を部屋に運んで、私の布団に下ろしてくれた。

 そして、私に布団を掛けながら問いかける。


「んで、診察の前、後、そして今。俺の何を思って泣いてんの?」


 あ、私もう3回も泣いてるんだ。泣きすぎでしょバカ。

 

「京平が、自分に自信持ってないから。京平は最高なのに、素敵なのに、頑張ってるのに。こんなの悲し過ぎるよ」

「亜美……」


 京平はちょっと困った顔をした後、何かを決意したような目をして話し始めた。


「ちょっと……いや、かなり怖いんだけど話すな。実はこれでも、強くなった方なんだぞ。俺」

「え。そうなの?」


 京平は、強く私を抱きしめた。けど、震えてるのが私にも伝わってきた。

 何で震えてるの? 京平?


「亜美と信次のお陰だよ。ただ俺が抱きしめただけで、いつも泣き止んでくれてさ。あ、俺、居るだけでいいんだな、って初めて思えてさ」

「うん、それでいつも安心したんだ。私」


 小さい頃、なんなら今でもなんだけど、京平が抱きしめてくれるとすごく安心したんだ。

 側にいてくれる事が、すごく嬉しかったんだ。


「それまでは毎日のように、俺なんて生きてる価値ねーよなって泣いてたぞ。あははははは」


 笑ったかと思えば、京平は一息いれて。


「弱すぎて幻滅した?」


 京平は怯えた顔で私に問いかけた。

 私は首を横にぶんぶん振りながら、正直な思いを吐露する。


「頑張ったんだね、京平」

「頑張れてないさ。亜美達がいたから……」

「そうじゃなくて、今こうして、生きてる価値がないとまで思ってたのに、生きてるでしょ?」


 私も京平を抱きしめた。ダメだなあ、また涙が出て来たや。

 でも、これだけは伝えなくちゃ。


「生きててくれてありがとね。出逢ってくれてありがとね」


 あれ、啜り泣く声が聞こえる。京平も泣いてるの?


「俺も亜美に出逢えて良かった。亜美が居たから、少しだけ強くなれたよ」

「これからも一緒に生きていこうね」

「亜美となら、生きていけるよ」


 私達はもう一度抱きしめ合った。

 私だって、京平が居ないともう生きていけないよ。

 そう思えるくらい、京平が必要なんだよ。

 弱すぎて、なんて言ってたけど、生きててくれてありがとね。

 それだけで、充分京平は頑張ってると思うんだ。

 頑張ってたのに、気付けなくてごめんね。京平。


「それに俺が俺に自信ないだけで、こんなに泣く亜美を、置いてはいけないよな」

「私は泣き虫だからね」

「そうだな、亜美は泣き虫だもんな。未だに俺が死んだ夢で泣いてるもんな」

「思い出したら泣けて来た……。うわあああん」

「俺、目の前にいるじゃん。バカ」


 そうだよバカだよ。でも、泣けちゃうもんは泣けちゃうんだもん。

 この夢を見た時だけは、京平の顔を見るまで安心できなくて泣いちゃう。  

 何度も夜中、京平と信次を起こしちゃってるし、何度も慰めて貰ってるもんね。

 今なんて、傍に京平居るのに泣いてるし。

 

「でも、ありがとな亜美。俺の為に泣いてくれて。惚れたのが、亜美で良かった」

「私も京平を愛せて良かった」


 京平は、私を見つめて笑って言った。


「俺、自信持てるようになるよ。時間は掛かるかもしれないけど、諦めないから」

「京平も頑張っていたのに、気付けなくて泣いちゃってごめんね」

「ちゃんと自分の事、言えてなくてごめんな。付き合う前に言うべきだったよな」

「少しずつでいいよ。少しずつ、京平の事教えてね。思い出したらでいいから」


 そう言うと、京平は項垂れて呟く。


「俺、亜美に甘えてんなあ」

「お互い様だよ。いつも、ありがとね」

 

 本当の気持ちだよ。いつも一緒に居てくれて、守ってくれて、慰めてくれてありがとね。


「じゃあ、俺は走ってくるけど、亜美は少し寝てな。沢山泣いてたし」


 私は、京平の服を掴んだ。


「やだ、傍にいてよ。じゃなきゃ眠れないよ」

「甘えてくれてありがとな、俺でよければ傍にいるよ」

「京平がいいの」


 私がそう言うと、京平はまた私を抱きしめてくれた。

 すごく温かい。いつも、本当にありがとね。

 京平は頭をポンポンしながら、子守唄も歌ってくれた。

 京平の優しい歌声が、私の身体に響く。

 トロンと私は、とろけていくの。


「おやすみ、京平。傍にいてね」

「おやすみ、亜美。甘えんぼだな」


 パンパンだった心も、少し和らいで、私は京平の腕の中で眠った。

 幸せだな、私。

 京平が居るからだよ。ありがとね。

 一緒に生きていこうね。

作者「私も双極性障害になったばかりの頃は、毎日泣いて旦那を困らせてたな。死んだ方がいいのに死ねない自分をせめたり、ね」

亜美「京平が生きててくれて、本当に良かった」

京平「亜美達が居たからだよ、ありがとな」


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