厳しい指導(信次目線)
「さーて、何作ろうかな?」
1人のキッチンって久々だなあ。
いつもは兄貴と一緒に作っているもんね。
兄貴達、最近めちゃ早起きだけど、体調大丈夫なのかな?
亜美を起こさなくて済むのはありがたいけど、心配にはなるよね。
「たまにはトーストでも焼こうかな。この前美味しそうな食パン買えたし」
基本うちではご飯なんだけど、たまに僕が気まぐれでパンにしたりする。
水曜日に買い物した時、ちょうど美味しそうに食パンが焼けてたからついつい買っちゃったんだよね。
えっと、トーストだから、スクランブルエッグにコールスローに、コーンスープかな。
ウインナーも焼いておこっと。
流石にもう家事をやり始めて長いから、朝ご飯程度なら15分もあれば出来る。
魚がある時はちょっと時間掛かっちゃうけどね。
なんかお弁当と被りそうなメニューになっちゃったけど、お弁当の中身を教えてくれない兄貴達が悪いから仕方ない。
よーし、完成っと。
「朝ご飯出来たよー!」
「ありがとな信次。亜美、運ぶぞ」
「ほいやっさ!」
亜美達が朝ご飯を並べてくれたから、後は箸を出せば揃うね。
僕は箸を持って、食卓まで向かう。
「「「いただきまーす」」」
「あ、今日トーストなんだね」
「マーガリンいる?」
「いいや、スクランブルエッグとコールスローをトーストに乗せちゃう!」
「俺はスクランブルエッグにマヨネーズかけよっかな。あ、俺はマーガリン欲しいな」
「はい、兄貴」
「ありがと、信次」
朝からわちゃわちゃする感じも、僕は好きだな。
なんか楽しい気持ちになるから。
でも、長年一緒に暮らしてても、食べ方は似ないもんだなあ。
因みに僕は、トーストにはマーガリン塗って、コールスローを乗せる派。
スクランブルエッグとウインナーは別に食べたいんだよね。
「あー、ヘモグロビンA1c安定した数値だといいなあ」
「大丈夫じゃなかったら、もっと血糖測定細かくしなきゃだな」
「ひー!」
ヘモグロビンA1cは通常の人だと4.6から6.2だけど、それ以上になると糖尿病の可能性が出てくる。
この値は、月で血糖値が安定してたか見る、言わば糖尿病の人の通知表だ。
亜美の先月のヘモグロビンA1c は6.2。
兄貴はかなり厳しいから、正常値じゃないとより徹底した管理を強いるだろうなあ。
先月ギリギリだったから下げたいとこだけど、最近亜美も色々あったから今月はやばいかもなあ。
とは言え、最近低血糖はなさそうだから、僕としては安心なんだけどね。
「ごちそうさまでした。今日も美味しかったぞ。ありがとな、信次」
「どういたしまして。って、兄貴食べるの早」
兄貴、僕達の定期検診の日は何故かちょっと早めに家を出るんだよね。
何かあるのかなあ?
「本当だねー、まだ時間余裕あるからゆっくり食べたらいいのに。あー、今日も美味しい」
「毎度の事だけど、何でだろうね?」
兄貴の考える事は良くわかんないや。
僕も焦る必要はないから、ゆっくり朝食を食べた。
「いってきまーす。また後でな」
「「いってらっしゃーい」」
でも兄貴はちょっと焦っているのか、慌てて家を後にした。
「私もごちそうさま。信次、今日も美味しかったよ!」
「どういたしまして。僕もごちそうさま」
僕達は通常の朝の準備と、病院に持って行く物のし始める。
亜美は使った注射針とかを病院から支給されてるペットボトルみたいなケースに入れて病院で捨てなきゃだから、それを鞄にいれたりしてた。
僕は特に何もないんだけど、兄貴から異能について突っ込まれないか、今月もドキドキしてる。
「よし、準備おわり。まだ時間あるから勉強するか」
「亜美、ライム見なくていいの?」
「今は勉強したい気分なの!」
亜美、ライム滅多に返さないんだよなあ。
大体遅れて、送ってくれた本人に口頭で返事してるし。
またライム溜まってるんだろうな。
結構のばらさんに僕が愚痴られる。
勉強する事は悪い事じゃないんだけどね。
「でも、あと10分くらいだから集中しすぎないようにね」
と、声を掛けたんだけど、返事がない。
やばい、もう亜美、かなり集中してるや。
時間になったら、驚かすしかないな。
◇
「信次、驚かす事ないじゃん!」
「声かけたけど反応なかったもん」
案の定、声は掛けたんだけどやっぱり返事がなかったら、仕方なく亜美を驚かして連れてきた。
集中出来るとこは亜美の良いところだけど、こういう時困るんだよなあ。
「ああ、先月ギリ正常値だったけど、今回はどうなることやら」
「高血糖まあまああったし、僕はギリオーバーしてると思うな」
「ちょ、オーバーはまずいんだってば!」
そう思うんなら、間食控えたらいいのに。
全く計画性のない姉である。
「信次こそ、異能出てないよね?」
「出てたら兄貴に相談してるから、心配しないで」
僕はまた嘘吐きになった。
ごめんね、亜美。異能使える僕で。異能使いたい僕で。
「今日の採血担当誰かなあ。のばらだといいんだけどな」
「のばらさん上手なの?」
「うん、てかのばらは何でも上手だからすごいよ。私もそうなりたいなあ」
やっぱり看護師としてはかなり優秀なんだな、のばらさん。
亜美ものばらさんの存在で、凄いやる気になってるし。
僕が医者になった時迷惑掛けないように、僕も今のうちから頑張らなきゃだね。
「病院に着いてしまった。あー、やばい気がする」
「日頃の不摂生を悔いるしかないね。ドンマイ」
「信次冷たい!!」
病院に着いた僕達は受付を済ませ、まずは血液検査を行う。
正直、血液検査の上手い下手はあるので、なるべく痛くないように祈るばかり。
特に僕は血管が細くて血がとりづらいみたいで、かなり苦労させちゃってる。
毎回腕を温めたり等の小さな努力はしてるんだけどね。
そして、毎回の事なんだけど、血液検査はかなり混み合う。
待ち時間のが普通に診察時間より長いんじゃないかな?
と、ふと目線を前にやると、会いたかった顔に巡り会えた。のばらさんだ。
どうやら今日は、採血担当みたいだね。
他にも沢山の看護師さんがいらっしゃるから、のばらさんに当たるかは運次第。
これは当たって欲しいぞ。頑張れ、僕の運。
「のばら採血担当みたいだね。当たるといいんだけど」
「宝くじみたいだね、なんか」
亜美ものばらさんを引き当てたいみたいで祈ってるけど、他の看護師さんも顔見知りだろうに、こんな亜美の行動は大丈夫なんだろうか?
友達じゃないにしても、今後仕事とかやりづらくならないといいんだけどな。
僕達の番号は、亜美が20番で、僕が21番。
あともうちょっとで呼ばれるかな。
「20番の方、どうぞー」
「のばらじゃなかったかあ……」
あ、亜美はのばらさんじゃなかったみたいだ。
ちょ、亜美、そんなあからさまにガッカリしちゃダメな気がする。
でも、そこはコミュ障の亜美だからなあ。絶対そう言う事考えてない。
「21番の方、こちらへどうぞ」
「よっしゃ!」
しまった、思わずガッツポーズしてしまった。
天は僕に味方をしてくれ、のばらさんに採血される権を無事にゲットした。
でも、好きな人に腕とは言え触られるのって、なんか緊張するよね。
「あら、信次くんじゃなくて? なるべく痛くないように行いますわね。手をグーにして頂ける?」
のばらさんも僕の存在に気付いてくれたみたい。
僕は若干強張りながら、手をグーにする。
「力抜いてくださいまし。ちょっとチクッとしますわよ」
という言葉と同時に僕の腕に針は刺されて、採血は無事完了した。
すげえや。大体の看護師さんが血管探すのに苦労するのに、血管すぐに見つけてくれたし、何より痛くなかったや。
「ありがと、のばらさん。すげえや、痛くなかった」
「亜美はもっと上手ですわよ。機会があればやってもらうと良いのですわ」
亜美、採血はすごい練習してたもんなあ。
努力の甲斐があって、それが身になってるんだな。良かったね、亜美。
「採血、これからは自分でやろうかな」
「出来るだろうけど、やらせて貰える訳ないじゃん!」
「だよねえ。はあ、若干痛かった……」
亜美の態度が原因なんじゃ? とは思ったんだけど、僕は優しいから黙ってあげる事にした。
あんな態度取られたら、誰だって緊張するもんね。
バカだな、亜美。自分に置き換えて考えれば解りそうな事なのに。
採血の検査結果が出るまでは兄貴から呼ばれる事はないので、しばらく僕達はカフェスペースで休憩をする。
これもいつものルーティンだ。
「京平、無理してないかなあ」
「元気そうだったし、大丈夫じゃないかな」
兄貴が鬱症状で体調を崩してから、亜美は今まで以上に兄貴を心配してる。
落ち込んでるのに気付いていたのに、声を掛けられなかった事を悔やんでるみたいだ。
だとしても、亜美のせいじゃなくて病気のせいなのにな。
僕なんて病気のこと気付いてたのに、兄貴になんも出来なかったんだから。
亜美は何度も兄貴の事、支えているのにね。
「亜美は亜美らしく、兄貴を支えたらいいんだよ。亜美が笑ってると、僕も元気貰えるしね」
「それでいいのかな?」
「亜美はそれでいいんだよ。亜美こそ無理しちゃダメだよ」
「ありがとね、信次。ちょっと勇気持てたよ」
あ、また何か考えてるな? 無茶しないといいんだけどな。
「あ、私達の番号もう出たよ。待合室行こうか」
「うん」
カフェスペースには、次に呼ばれる番号が表示されるテレビも置いてあって、それで番号の確認が出来る。
僕達は45番。採血の時とは別の番号だ。
いつも僕達は纏めて診察されてるからね。
もうすぐ呼ばれるみたいなので、僕達は待合室に向かった。
待合室に向かうと、亜美に話しかける看護師さんがいた。
「あ、亜美じゃん。そっか今日は定期検診の日だもんね」
「あ、朱音! あれ? 定期検診の事言ってたっけ?」
なんだかんだで亜美も話せる人が増えてきたみたいだね。
亜美はコミュ障だけど、仲良くなれば楽しく話せるタイプ。
最初がしどろもどろなだけなのだ。
「だって毎回深川先生が看護師全員に、今日は家族の事を宜しくお願いしますって挨拶に来るもんね。真面目だよね、深川先生」
「そうだったんだ、知らなかった……」
そっか、看護師さんに挨拶する為に、毎回早く出勤してたのか。僕達の為に。
あ、亜美が泣いちゃった。もう、しょうがないなあ。
「亜美、泣かないの」
「だって京平が私達の為に。本当に優しさが嬉しくて」
「診察の時にお礼言おうね」
「うん」
そんな事を話している内に、僕達の番号が呼ばれた。
「あ、信次、いくよ」
「待ってよー、亜美」
亜美はすぐにでもお礼が言いたかったんだろうな。
そんな訳で、兄貴の診察が始まった。
「よー、とりあえず皆元気そうで良かった」
「数時間前に会ったばかりだから、そう変わらないってば」
どんだけ心配性なんだよ、兄貴。
朝起きた時、皆元気だったから大丈夫だよ。
「まずは亜美からな」
「うん。後、ありがとね」
「え、何が?」
「毎回、私達の診察前に看護師さん達に挨拶してくれてた事」
「当たり前の事だから気にすんな。ほれ、血液検査の結果な」
当たり前、か。相変わらず兄貴は優しいね。
亜美の結果はどうだったんだろ?
あ、亜美の血の気が引いてる。これはやっぱり。
「お、オーバーしてる……」
「クッキー作った時に、ケーキも食べてたんだって? 俺食ってないのに」
「いやあ、皆で食べたら無くなっちゃって」
「今度俺の分も買ってくること。値は6.7か。高えな」
「原因は解ってる。間食しすぎた」
あちゃあ、かなり上がってんじゃん。
亜美、きっとたまにインスリンサボってたな。
間食してても、インスリンさえ注入すれば、血糖値は安定するはずだしね。
「これからは値改善の為に、3時間ごとに血糖値測ること。で、インスリン忘れんなよ」
「ギクッ」
「という訳でしばらく間食禁止で、俺のランニングにも付き合ってもらおうかな」
ああ、兄貴ランニング復活させるって言ってたもんなあ。
でも亜美、運動音痴だけど大丈夫なんかなあ?
「走りたくない」
「値が高かったからダメ。努力しな」
「はーい……」
「でも低血糖一度もなかったのは安心した。これは今後も維持しろよ。頑張ったな」
「うん、もっと頑張る!」
「はい、亜美は終わりね。信次と交代な」
飴と鞭をうまく使う兄貴だなあ。最終的に亜美から頑張るを引き出したし。
おっと、次は僕の番だ。
「信次は健康体そのものだな。酷い数値もないし。異能は出てないよな?」
「うん。大丈夫だよ」
良かった、数値にはやっぱり出てないようだ。
そして僕は、嘘吐きを続ける。
「後信次、最近ファムグレ飲んでたりする? 亜美は今月低血糖になってないのに、若干減ってたからさ」
「あー、元気貰いたい時に数回」
「一応あれ、亜美の低血糖用だから、信次分別に買い足しとけよ」
ふー、何とか誤魔化せた。
本当は異能対策で何本か持ってってるんだけどね。水曜日も飲んだし。
「今からアマゾムでポチろ」
「おう、そうしとけ」
「私もアマゾムしたい」
「「ダメ!!」」
亜美がアマゾムやると、またやばい服買いかねないからね。
まだ禁止令は解かないよ、亜美。
「あ、亜美、これ今月分のインスリンポンプの医療用品ね」
「ありがとね、朱音」
「お、佐藤さんと仲良くなったんだな」
「緊急外来を戦った仲だから、私から声掛けたんですよ。話してて楽しいし」
「亜美は本当友達少ないから嬉しいよ。ありがとな、佐藤さん」
また兄貴が優しい目になった。
本当に亜美が常に心配だし、愛してるからだろうな。
亜美いい奴なのに、友達作りが下手過ぎるからね。
「はい、2人ともお疲れ様。会計終わったら、しばらく休憩室で待っててな」
「京平はこの後も無理しないでね」
「愛さんに本気モード禁止されてるから大丈夫だよ」
あ、本気モード今禁止令出てるのか。
それなら兄貴が無理する事はないかな。
僕達は診察室を後にし、会計を済ませ、薬を貰って休憩室に向かった。
すると、誰かが亜美に話しかけてきた。
「時任さん、ちょっとお話しいいかしら?」
「あ、麻生愛先生!」
京平「亜美は今日から頑張るんだぞ」
亜美「うう、走りたくないよお」
信次「だったら間食しなきゃよかったのに」
作者「京平厳し過ぎるよなあ、悪い値じゃないのにな」
京平「身内には優しくしないからね」




