初めてのお弁当
「ふー、さっぱりしたあ」
「やっと出てきたか。信次はもう寝たよ」
「疲れてたもんね」
私はついつい長湯してしまうタイプで、そこら辺は京平とは真逆。
今日は信次も疲れていたし、短めにって思ってたんだけどなあ。
申し訳ない事しちゃったなあ。
「じゃあ、俺も風呂入ってくるよ」
「うん、さっぱりしといで」
「あ、勉強すんなよ?」
「ギクッ」
何で私が勉強しようとしてた事、見抜いてくるのかなあ。
勉強用具を買い直したことも、多分バレてるなこれは。
また没収されかねないし、言う事聞かなきゃだな。
「何で私がやろうとすること見抜くかなあ」
「亜美の事はお見通しだからな」
京平はそう笑いながら、お風呂に入っていった。
昔からなんだけど、京平には隠し事出来ないなあ。
してたとしても、すぐバレちゃうし。
んー、じゃあ何しようかなあ。
とりあえずのばらに、信次が無理してない事だけライムで送っとこうかな。心配してたし。
よし、送信完了、っと。
うーん、暇だなあ。どうしようかなあ。
そうだ、蓮が何で不機嫌だったか聞いてみよう。
結局あの後、聞きそびれちゃったしね。
えっと、これでいいかな。送信!
あ、のばらからもう返信が来た。
『それなら良かったですわ、お大事にですわ』
いま2回目の休憩中なのかな?
"のばら、信次を見つけてくれてありがとね。
お陰で信次も、晩御飯の時笑っていたよ"
って、ライムを送った。
あ、蓮からも返信きた。皆早いなあ。
『別に普通だったけど、不機嫌に見えてたならごめんな。明日昼に弁当箱渡すぜ』
え、絶対普通じゃなかったけど?!
明らかにムスっとしてたし、最終的に不機嫌そうに休憩室出てったような気がする。
理由を言いたくないのかな。それなら触れないでおくか。
"それならいいけど、何かあったら無理しないでね"って、返信した。
ここまでライムしたところで……。
「ふー、わりい、ちょいのぼせた」
「京平大丈夫? 部屋で横になってたら?」
京平がお風呂から出てきた。
けど、ちょっとのぼせたみたい。身体全体がほんのり赤くなってる。
「亜美と居たいから、ソファーで横になるよ」
「しょうがないなあ。じゃあ私もそっち行くね」
変なところで甘えんぼだな、京平って。
そんな京平も可愛いから愛しいけど、ね。
でも、もう見た事があるとは言え、真っ裸か。
正直、まだ見慣れないからドキドキする。
京平は呼吸を整えながら、目を瞑って横になっていた。
本当に天然だなあ。どうしたらのぼせちゃうか、そろそろ解ってもいいのにね。
でも、そんな京平も愛しい私は、もっとおかしいかもしれない。
「亜美、何してんの?」
「ん、のばらと蓮とライムしてるー」
京平が、ちょっと荒い呼吸で聞いてきた。
そんなに気にしなくてもいいのになあ。
そう言うと、あれ? 京平がまたムスっとしてる。
「お昼もそうだったけど、何でムスっとしてんの?」
すると京平は、私を後ろから抱きしめてくる。
「嫉妬くらいするよ」
「ただの友達だよ、安心して」
「俺が不安なの。亜美は可愛いから」
まだのぼせてるみたいだし、無理しなくていいのにな。
そんなに心配しなくても、私はモテない女だし。
まあ、友くんという例外はあったけど。
「ほら、まだ呼吸荒いから横になってて」
「ちゃんと伝えたかったから」
「後でゆっくりお喋りしよ」
「傍にいろよ」
私はすぐ近くにいるから安心してね。
私だって、京平の傍にいたいんだからね。
「ふー、やっと落ち着いてきた」
「それなら良かった」
京平はゆっくりと起き上がって、着替え始めた。
そう言えば京平のパジャマ、私が16歳の時にプレゼントしたんだけど、未だに着てくれてるなあ。
私が選んだし、きっとセンスもないだろうに。
そんな優しい京平だから、愛しいんだろうな。
「亜美、こっちおいで」
「うん」
着替えてソファーに座り直した京平が、私を誘う。
私もソファーに座ると、京平は私をぐっと引き寄せた。
「亜美に出会えて良かった。勤務時間が減るって聞いた時、しかも亜美を巻き込んじまって、俺って役立たずだよなって思ったんだけど、亜美がシフト一緒で嬉しいって笑ってくれたから、俺も笑えてるよ」
「必要とされてるから、少し休むように言われてるんだよ京平は。そんな事考えてたなんて……」
「亜美がいつも俺を持ち直してくれてるんだぞ」
「何もしてないんだけど、それなら良かった」
京平が落ち込んだ時に支える、って決めてるから、力になれてるなら良かった。
大丈夫だよ、京平はちゃんと必要とされてるからね。勿論、私も必要としているし。
「そう言えば信次も成長したよね。あんなに真剣な目をして、1秒でも早く医者になりたいだなんて」
「よっぽど、助けられない立場なのが悔しかったんだろうな」
悔しい、かあ。
私が看護師になりたいって思った時は、そんな感情じゃなかったから、不思議だなあ。
助けたいって気持ちが強いからこそ、生まれた感情なんだろうな。
「私は悔しいとかじゃなくて、頑張る患者様をサポートしたいなってとこから始まったからなあ」
「それも亜美らしくて良いと思うよ。糖尿病があるから心配はしたけど、反対する気はなかったしな」
「京平に初めて話した時も、応援してくれたもんね。勉強もみて貰ったし」
そう、私が自分の夢を話した時、京平は凄く喜んでくれて、私が困らないように看護師の事とか調べて教えてくれたりしたもんね。専門外なのにね。
「亜美の学力だと私立かな? と思ってたけど、国立受かった時はびっくりしたな」
「私、頑張ったもん!」
正直、私は頭の良い方じゃなかったから、学校は選ばないとねって話もしてたんだけど、カリキュラムとかみて、国立の看護学校に魅力を感じたから、死ぬ気で勉強したんだよね。
「今も勉強続けてるから、亜美は成長してるんだろうな」
「頭良くないからこそ、人より頑張らなきゃ勝てないからね」
「相変わらず負けず嫌いだな」
賢くないなりの努力を精一杯して、患者様に尽くしたかった。
そういう自分の限界に、負けたくなかった。
今はのばらっていう目標になる存在もいるし、より頑張ろうって思ってる。
「でも亜美、無理すんなよ」
「京平も無理しないでよ」
私達は視線を合わせた。そして、お互いに目を閉じてキスをする。
京平、もっと自分に自信を持ってね。
それが、私なりに伝えられたらいいな。
指と指と舌を絡め合って、繋がって。
「亜美、いつもありがとな」
「私も、ありがとね。愛してる」
そして、ただただ抱きしめ合った。
大切だから。愛しいから。沢山欲しいから。
「今日、いいかな?」
「いいよ、京平ならいつでも」
「じゃあ、部屋にいこっか」
「うん」
リビングの灯りを消して、部屋で温もりを感じ合う。
必要だって、何度も確かめ合うように。
◇
ーーぶん投げた感情が舞い戻り♫
「んー、気持ちの良い目覚め」
「おはよ、亜美」
「おはよ、京平」
さーて、今日は京平に私の手作り弁当を振る舞うぞ。
でもよくよく考えたら、キッチンに私が入るスペースってあるのかな?
ただでさえ、男2人がギリギリな状態でキッチンに毎日いるというのに。
「ねえ京平、キッチンに私が入るスペースってある?」
「うん、ないね」
ないんかーい!
皆で家事をやる事自体は微笑ましいのだけど、キッチンのスペースが無いのは気付かなかったなあ。
「大丈夫、俺の弁当のおかずはもう下拵え済んでるから、後は焼いたり揚げたりするだけ」
「じゃあ私は材料切る時だけ、食卓のテーブル使おうかな」
「次のボーナスで、キッチン広くしないとだな」
「え、本当?! それは嬉しいな」
それまでは、狭いスペースをうまく使っていかなきゃね。
と、それは兎も角、何作ろうかな?
京平をびっくりさせたいな。
そんな気持ちで、私はお弁当を作り始めた。
「えっと、人参はハート型にくり抜いて。残った人参は細かく切ってご飯と一緒に炒めようかな。卵もいれよ」
後はキャベツとかもいいかもね。
とか何とかやってる間に……。
「おはよー」
「信次おはよ。体調は大丈夫?」
「早目に寝たから結構疲れは取れたよ」
「それなら良かった」
「お、信次おはよ」
昨日はかなり疲れた顔をしてたから心配してたけど、今日は元気そうで良かった。
「そっか、今日は3人がキッチン使うのか。朝ご飯作るにはまだ時間的に余裕あるから、僕は先にお風呂入ってくるね」
「朝ごはん作る時間までには、なんとか完成させるね!」
「大丈夫だよ、兄貴もうお弁当出来そうだよ?」
「ほら、キッチン空いたぞ」
「京平早!!」
本当だ。もうお弁当包み終わってる。
今日は私と信次も病院でご飯食べるんだよね。
私は見張り役があるからあれだけど、信次も付き合ってくれる事になったのだ。
そう言えばのばらも早番だったよなあ。それでかな? 最近仲良いし。
「よし、コンロ使う作業は今のうちにだね」
「お、何作ってるのかな?」
「京平は見ちゃダメ!」
もー、自分の時はあれだけ見るなって言う癖に、私が作ってるのは覗くなんて反則でしょ。
「ケチ!!」
「お昼を楽しみにしていてね」
よしよし、いい感じになって来たぞ。
後は可愛く盛り付けて完成!
お弁当一個作るだけなのに、京平より時間掛かっちゃったや。
「はい、お弁当!」
「ありがとな、亜美の弁当とか初めてだよな」
「うん、初めてだから上手じゃないかもだけど、味は悪くないはず」
「楽しみにしてるよ」
まーたそうやって優しく笑うんだから。
よし、もっとお弁当スキルも磨いていかなきゃ。
少しでも沢山喜んでもらいたいもんね。
と、良いタイミングで……。
「ふー。筋肉痛も和らぐし、お風呂っていいね」
「ナイスタイミング。いまキッチン空いたよ」
「亜美も早! ゆったり朝ご飯出来るから助かるよ」
「今日からお弁当の下拵えもして、もっと早く出来るようにしたいな」
「早速負けず嫌い発動だね。兄貴は8ヶ月で今の実力だから、簡単には越せないだろうけど」
たった8ヶ月であのスキルまでいくなんて、流石京平だなあ。
私も私のペースで、ガンガン成長するぞ!
「すぐ朝ご飯作るから待っててね」
信次は駆け足でキッチンまで向かって、朝ご飯を作り始めた。
私達は、ヒソヒソ声で。
「何だかんだで、最強は信次なんだよな」
「ね、すぐ京平抜いちゃったもんね」
私達はそんな最強の朝ご飯を、笑い合いながら心待ちにするのであった。
作者「亜美はどんな弁当作ったんやろな」
京平「楽しみだな」
亜美「頑張って作ったよん」
信次「朝ご飯何作ろうかな。お弁当と被ったらごめんね」
京平「最近俺達のが早く起きるからなあ」




