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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
無理はしないでね
42/221

医者になりたい(信次目線)

「あー、ダメだ。冷静になれない」

「どしたん? 信次?」


 ダメだ。昨日の事が頭をリピートしまくる。

 のばらさんの美味しそうに食べる顔とか、空を飛んだ時の驚いた声とか。

 全部が好きだ。なんだ、この感情は。

 

「なー、海里。海里って恋した事ある?」

「そだなあ、保育園の頃、隣の席に座ってた子とか好きだったなあ」

「大昔すぎる!」

「だってそれ以来、好きな子できた事ねーもん」


 海里に聞いた僕がバカだった。

 何の参考にもなりゃしないよ。保育園の時の恋なんて。

 

「そういう信次はどうなんよ?」

「今、絶賛片思い中。そして多分叶わない」

「え? マジか。誰だよ、気になるじゃん」

「バカにされそうだから言わない」


 亜美の友達であるのばらさんに恋をしただなんて、言える訳ないよ。

 しかも年齢差どんだけあると思ってんの。 

 それも解ってるのに、なんで好きが止まないのだろう。

 諦めちゃえば楽なのにさ。

 ダメだ、考えちゃいけないのに、どんどん考えちゃうよ。


 とは言え、仲は悪くないんだよね。

 火曜日には、ショッピングで買った服をライムで見せてくれたし、昨日はデートだった訳だし。

 少なくとも、気は許してくれてはいるみたい。

 イコール恋愛対象外だから、って悲しい答えも出ちゃうけど。


 初めての恋愛、誰に相談したら良いんだろう?

 

「そいや、またのばらさん勉強見てくれるんだって? 有難さの極みだわ」

「そうだよ、この前修羅場だったのに感謝しろよ」

「勉強しまーす」


 海里なりに頑張ってるのは解ってるんだけど、この前のままだと、飛び級試験はかなり厳しいだろうなあ。

 結局、数Ⅲしか見れずに終わったしね。

 日曜日は満遍なく見る方向性で行こうかな。

 そっちのが、のばらさんの負担も減らせそう。


 てか、それ以前にいい加減僕も飛び級試験の説得しないとなんだよな。

 合格出来る自信しかないけど、兄貴も亜美も反対してるしなあ。

 今日の夜、相談してみようかな。もう一度。

 他にも気になる事があるしね。


「倉灘高校つまらんとこベスト10話すか」

「あ。説得か。がんば!」

「うん、今日もう一度話してみるよ」


 バイトが終わったら、勝負だな。

 のばらさんにまた、元気貰えたらいいな。


 ◇


「ただいまー」

「ああ、信次お帰り」

「兄貴ちゃんと休めた? 大丈夫?」

「念の為、病院の休憩室で少し寝たしな」

「また兄貴は病院でイチャついて」


 わざわざ病院の休憩室って事は、亜美と休憩時間を一緒に過ごしたんだろう。

 でも兄貴にとって、亜美は安心出来る場所なんだね。ずっと前から。


「頭ポンポンしてもらっただけだぞ」

「充分イチャついてるけど、そうかそうか」


 本当にちゃっかりしてるよなあ。

 僕ものばらさんに甘えてみたいよ。

 って、何羨ましがってんの。僕のバカ。


「兄貴、弁当ありがとね。バイト行ってくるよ」

「おう、気をつけてな。後、晩御飯は俺が作っとくからな」

「昨日できなかったから、それは助かる。じゃあ行ってきまーす」

「いってらっしゃい」


 そう、昨日は帰りが遅くなったから、今日の晩御飯作れなかったんだよね。

 兼業主弟としては情けないけど、たまには甘えてもいいよね。

 にしても、兄貴が亜美の為に作る晩御飯って、どうなるんだろうな?


 ◇


「信次くん、大分慣れてきたね」

「はい、小暮さんの指導のお陰です」

「嬉しい事言うね。これからも頑張ってね」


 バイトを始めて1週間くらいになるけど、子供達も懐いてくれてきたし、遊び方も解ってきた。

 そしてもう一つ解った事があって。僕、子供好きだなあって。

 何とかしてあげたいって気持ちだったり、癒される気持ちだったり、色々と。

 バイトしてる時だけは、のばらさんの事を忘れられた。

 何があっても仕事に集中するとこは、兄貴に似たのかな?


「しんじ、またブラジャごっこしようぜ」

「わたし、ピノピやりたい!」

「おれ、ブラックジャッカル!」

「じゃ、僕は患者様役やるね」


 実はこれ、家族が僕の為によくやってくれた遊びなんだ。

 医者アニメのブラックジャッカルに僕がハマって、僕はよく患者様役をやってたなあ。

 だって兄貴がいつもブラックジャッカル役やりたがったから。

 ブラックジャッカル先生は外科医なのになあ。

 今更だけど大人気(おとなげ)ないよな、兄貴。

 で、ブラックジャッカルの嫁さんのピノピは絶対亜美がやるから、消去法で僕は患者様役。

 これをここでもやったら、皆ハマってくれたんだよね。


「うう、お、お腹が! い、痛い……!」

「ふむ、これはもうちょうのかのうせいがたかいな。ピノピ、メス」

「はいさ!」


 お腹が痛い、って言葉だけで手術を始めるなんてヤバい医者だなって思いながらも、僕は患者様役を全うするのであった。

 こうやって、ブラジャごっこをやっていると、次第に。


「わたしはおねつがあるの」

「ぼくはほねがおれました」


 段々と患者様役が増えていくのだ。

 待て、お熱は兄貴に診てもらった方がいいぞ、内科だ。と、突っ込みたくなる時もあるけど。


 ん、待て? お熱?


「早織ちゃん、おでこ触らしてね」

「しんじ、しゅじゅつちゅうだぞ!」


 熱い。これ、普通に熱はある。しかも高熱だ。

 

「お口あーんして」


 早織ちゃんは口を開けてくれた。

 僕は持ってたペンライトで、扁桃腺をみる。

 すると、かなり赤く腫れ上がっている。

 

「喉は痛い?」

「のどもいたい……」


 これはヤバい。アデノウイルスの可能性が高い。

 早急にお医者様に見せないと。

 まずは、小暮さんに伝言しておこう。

 

「小暮さん、早織ちゃんが高熱です」

「今インフル流行ってるしね。すぐお母さんに連絡を」

「それじゃ遅いです。僕、緊急外来まで走ります」

「ちょ、信次くん!」


 呼吸もどんどん荒くなってくる。熱でうなされはじめた。こんな状態で放置なんて出来ない。

 僕は早織ちゃんを抱えて、緊急外来まで全速力で走った。


「しんじ、のどいたいよお」

「待ってて、すぐお医者さんのとこ連れてくから」


 僕の息切れなんか気にするもんか。全力で連れていく。急げ!

 僕は色々な法則を無視しながら、緊急外来に辿り着いた。


「急患です。熱が40度近くあります。早急にお願いします」

「すぐに診察室へ」


 良かった。珍しく緊急外来も空いてて、すぐに診察室へ通して貰えた。

 今日の緊急外来は麻生先生みたいだ。


「信次殿?! その子は」

「バイト先のお子さんです。高熱と扁桃腺のひどい腫れがあります。喉の痛みもあるようです」

「既に診察をしたのじゃな、すぐ我も見よう」

「お願いいたします」


 助かりますように。僕は、それだけ祈っていた。


「はい、お口あーんするのじゃ」

「あーん」

「ありがとな。すぐ検査に回すのじゃ。ほぼアデノウイルスじゃろうがな」


 僕の初見は的中して、麻生先生から見てもアデノウイルスの可能性は高いようだ。

 夏のインフルエンザとも言われてるけど、最近は冬でも罹るらしいからね。

 しかも51種類もタイプがある。

 早織ちゃんはすぐに検査室に運ばれていった。


「この子の母上か父上は?」

「小暮さんに伝えるだけ伝えて走ってきたので解りませんが、こちらで働いてる人なのは確かです」

「医療従事者なら、入院のが良いかもしれんな。感染力が強いからな、アデノウイルスは」

「順序が違いましたが、今から親御さんに連絡してきます」

「や、すぐ連れてきてくれて正解じゃ。子供の高熱は怖いからのお」


 そうやって話しているうちに、小暮さんがお母さんを連れてやってきた。

 どうやら僕が走っている間に、連絡を取ってくれてたみたいだ。


「早織!!!」

「おや、穂波殿のお子さんであったか」

「はい、今日中番で。うちの子は大丈夫ですか?」

「信次殿がすぐに連れてきてくれたから大丈夫じゃ。穂波殿は会計係じゃったの。お子さんの看病は可能か?」

「今日もなんですが、今週は人手が厳しくて」


 会計係も人手不足なのか。この病院。

 その割にこの病院、離職率も低いし評判も良いから不思議だよね。


「それなら入院させた方が良いじゃろな。高熱が長く続くからな。穂波殿はシングルマザーじゃしの」

「お願いいたします」

「ただ念の為、穂波殿も検査をしなければな。アデノウイルスは感染力が強いからの」

「うう、うつってませんように! 息子も明日検査に連れていかなきゃ」


 息子さんもいらっしゃるのか。うつってないといいけど。


「時任くん。うちの早織を有難う御座いました」

「いえいえ、助けるのは人間として当然の事ですから」


 なんか自然にこの言葉が出た。

 やっぱり僕、兄貴に似てるんだろうな。


「さ、穂波殿は検査室に向かってくれたまえ。信次殿、本当に感謝するぞ」

「当たり前の事をしただけです。それでは僕は失礼します。お大事にして下さいね」


 そう言って僕は緊急外来を後にする。

 後にした途端、気が抜けたのか、その場にへたれ込んだ。

 息も荒くなった。普通に酸欠だね。バカだな、僕。

 でも形はどうあれ、早織ちゃんを緊急外来にすぐ運べて良かった。

 後は兄貴を始めとする、内科の先生達にお任せしよう。


 同時に、僕は悔しさも覚えていた。

 何故、僕じゃ助けられないのか、と。

 医者じゃないから当たり前なんだけど、医者じゃない自分に酷く苛立っていた。


 やっぱり僕は、1秒でも早く、医者になりたい。

 人を、助けたいから。

 この気持ちを、兄貴達に伝えたいな。

 伝わるといいな。


 あれ、段々意識が遠のいていく……。

 戻らな……。

作者「皆は法則を無視して、全力疾走しちゃだめよ。ちなみにアデノウイルスは最近妹が罹患したので、使いました。高熱が出るタイプだったみたいで大変だったみたい」

朱音「感染力が強いし、いま流行ってるから、皆様も気をつけてね」

蓮「溶連菌も今流行ってるな。すぐ病院行くんだぜ」

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