男の恋愛バトル
私達は、診察室を後にした。
「亜美、ごめんな、俺のせいで」
「え? 何が? 京平のせいじゃないよ。病気のせいじゃん」
「でも、結果的に勤務が」
「私、嬉しいよ。こんなに京平とシフト被るの初めてだもん。楽しみだなあ」
これは素直な私の気持ちだった。
五十嵐病院で働いて8ヶ月になるけど、こんなに沢山京平とシフト被った事ないもん。
私はのばらみたいに、シフト合わせて下さいっていう勇気もないしね。
私が京平を支えられたらいいな。
「ありがとな、亜美」
「逆に私が甘えちゃったらごめんね」
「いいんだよ、甘えてくれよ」
京平はそう言うと、私の頭をポンポンする。
患者様もいらっしゃるのに、京平ってば。
「また、昼に休憩室行くわ。亜美に会いたいし」
「いいけど、無理しないで寝た方がいいんじゃあ?」
「寧ろ、亜美が欲しいの。俺が」
そう言って京平は、会計まで歩いて行った。
反則すぎるよ。京平。照れるじゃん。
「私も戻らなきゃ」
今日は蓮の担当になったんだけど、麻生愛先生に呼ばれてた間は、看護師長にバトンタッチしていた。
私は診察室の裏口から入って、戻った旨を看護師長に伝える。
「あ、時任さんお帰り。いま検査入ったからお願いね」
「はい、有難う御座います」
「それと深川大変ね。でも時任さんが居ればあいつも大丈夫ね」
「はい、京平は私が守ります」
と、簡単な引き継ぎをして、私は患者様の検査に向かう。
今回の患者様は高熱があるとの事で、インフルエンザの検査を行った。
うん、陽性だね。その旨を患者様に伝えて、再度蓮の居る診察室に行く。
「検査の結果、インフルエンザA型です。症状の悪化が見られた場合は、すぐ来院お願いします」
「はい、ゴホゴホ」
「咳も出ていますので、咳止めもお出ししますね。お大事に」
「有難う御座います」
前に蓮に着いた時もだったけど、相変わらずインフルエンザは猛威を奮ってるなあ。
休校が増えたのは勿論の事、会社ですら立ち回らなくてって話も聞いている。
数十年前に感染症が流行った時は、マスクや手洗いがしっかりされていてインフルエンザは減少していたらしいから、そこに立ち返って欲しいよね。
「亜美、明日から深川先生と勤務が同じで、勤務時間減るらしいな」
「そうなの。でも明日は私だけ休みで、金曜の京平の休憩時間は見張りに来いって言われたよ」
「亜美も大変だな。無理すんなよ」
「ありがとね、蓮。さ、次の患者様呼ばなきゃ」
勤務が同じと言っても、今週だけはイレギュラーで、私が金日休みで、京平は木日休み。
で、金曜の京平の休憩時間に、見張り役で私も病院に行く事になった。
とは言っても、私達の定期検診の日でもあるから、そんな苦ではないけどね。
京平、病院からも大切にされてるよね。京平が頑張って来たからだね。
さ、私も頑張らなきゃね。
◇
「んー、診察終わり。休憩行こうぜ」
「蓮もお疲れ様」
ふー、色々あったけど、やっと休憩時間だ。
私は蓮と一緒に、休憩室に向かう。
休憩室に入るや否や、誰かが私の目を塞いで来た。
「だーれだ」
「京平ってば、休みの日にまで」
「へへっ。亜美に触れたいからさ」
「恥ずかしい事言わないでよ。照れるじゃん」
京平は休みの日でも変わらずに、悪戯を仕掛けるのだった。
もー、蓮の前で恥ずかしいでしょ!
「あれ、深川先生休みですよね?」
「ああ、昨日心配掛けたし、挨拶回りしようと思って」
既に挨拶回りはほぼ終わったらしく、皆、温かい目で京平を見ていた。
京平本人には言えないけど、京平泣いてたし、いつもは椅子に座って寝てるのに、ソファーに横たわってたしね。
普段真面目過ぎるくらいに仕事人間だから、皆心配していたんだろうな。
「落合くんもライムありがとな。もう体調は万全だよ」
「双極性障害の治療も頑張ってくださいね」
「ああ、流石に周知されてたか」
「いえ、個人情報ですから周知はされてないですよ。麻生愛先生から聞いたんです」
「それも個人情報流出な気がしなくもないけど、そっか」
ありゃ、麻生愛先生たら、蓮に京平の事話しちゃったのか。
でも、多分仲良いんだろうなあ、蓮と麻生愛先生。相変わらずコミュ強だなあ。
でも、急なシフト変更だから、疑問に思う人も出てくるよね。どう対処して行こうかなあ。
これは京平とも相談しなきゃ。
私達は、席に着いてお弁当を食べ始めた。
今日は、チーズ卵焼きとブロッコリーと鶏肉の照り焼きとプチトマトとふりかけご飯。
今度はふりかけがハートになっていた。
「ハートふりかけだ!!」
「可愛いだろ?」
「いつもありがとね、京平」
昨日体調が悪かった人が作ったとは思えないクオリティだし、ハートにほっこりするし、本当にいつも嬉しいな。
「んー、美味しい!! ありがとね」
「それなら良かった」
相変わらず味も良き。本当に美味しいな。
自然に笑顔が出るってこの事だね。
京平も優しく笑ってくれた。から、2倍美味しい!
「亜美の食べてる顔、可愛いよな」
と、蓮が珍しく私を可愛いとか言い始めた。
ん? それを聞いた京平がなんかムスっとしてる。
わ、話題を変えなきゃ。えーと。
「いやー、お弁当が美味し過ぎるからね」
「そりゃ、俺が作ってるからな」
あんま話題変わってない気がするけど、京平の顔がドヤ顔になったから、まあいいか。
でも、何で京平、蓮に対抗心燃やしてるんだろ?
蓮の事だから、深い意味は無く言ったと思うんだけどな。
「へー、深川先生料理出来るんですね」
「まあ、嗜み程度だけどな」
嗜みだなんて謙遜しちゃって。
お弁当、めちゃくちゃ美味しいって言ってんだから自信持ってよね。
「京平のご飯はとっても美味しいよ」
「ありがとな、亜美」
また京平が優しく笑った。
本当この人の笑顔は破壊力がありすぎるよ。私の心臓がバクバクしてる。
愛してるが、日に日に大きくなっていくよ。
「俺、全然料理できねーからな。凄いなあ」
「そう、京平はすごいんだから!」
「亜美がドヤ顔すんなよ」
だってそんな人が私の彼氏だよ?
自慢したくもなるじゃないの。こんなに素敵な人なんだから。
「亜美も凄いぞ。食欲なくても食べられる料理が作れるからな」
「へー、亜美も料理作るんだ。意外」
「意外って何よー!」
もー、蓮ってば失礼すぎる。
私こそ嗜み程度だけど、料理くらい作れるんだからね!
「じゃあ、今度作って来てよ。確かめてやるよ」
「いいよ、普通になら出来るもんね!」
「よし、決まりな。俺、土曜早番だし、楽しみにしてっからな」
「金曜日にお弁当箱ちょうだいね!」
全く! 亜美ちゃんの実力を見せてやるんだから。
あれ? 京平がまたムスっとしてる。何が気に食わないのよ。もー!
蓮にああ言われたら、引き下がれないじゃん。
「亜美、俺の分も作ってよ」
「うん。というかこれから京平の分は私が作ろうか? 早起きしたいし」
「マジか。ありがと亜美」
したら今度は何か蓮がムスっとしてる。
ただの恋人同士の戯れに、何で不機嫌になるのよ!
この2人、何かがおかしいよ。
「亜美、ちょっと眠いから、頭ポンポンして」
「もー。だから昼は寝れば? って言ったのに。しょうがないなあ」
私は京平の頭をポンポンする。
京平の温もりが、なんか心地良いや。京平はすぐ寝息を立てて眠った。
「昨日体調悪かったしね。おやすみ、京平」
私は、自分のカーディガンを京平に掛けた。
ちょっと京平がニヤリとしたのは、気のせいかな?
「俺、コーヒー飲んでくるわ。また後でな」
「明日弁当箱忘れないでねー」
「おう」
何でだろ。蓮は不機嫌な顔のまま、休憩室を後にした。
本当に何に対して不機嫌なのかが解らないから、困ったもんだよね。
解らないと言えば、京平も何で蓮に張り合うのかな? 蓮はただの友達なのにな。
今日の2人は、解らない事だらけだよ。
「2人とも体調不良なんかな?」
あり得る。京平は昨日あんなに体調崩してたから、まだどっか調子悪いかもしんない。
だから、今寝てるんだろうし。
蓮は蓮で、コーヒー飲んで来るって言ってたから、寝不足なのかもしれない。
後で一応聞いてみようかな。
とりあえず私は、時間が来るまで、京平をポンポンしてよ。
触れたいのは、私もおんなじなんだぞ。京平。
◇
「京平、そろそろ休憩時間終わるから、家に帰って寝た方がいいよー」
「ん、おはよ、亜美」
「おはよ、京平」
寝起きの顔も可愛いなあ、思わず笑ってしまう。
「まだ挨拶出来てない人いるから、挨拶し終わったら帰るよ。亜美は引き続き頑張ってな」
「うん、がんばる!」
「と、カーディガンありがとな。寒くなかったか?」
「大丈夫、暖房効いてるしね」
本当は看護師の制服が半袖だから、ちょっと寒かったけど、そこは京平の寝顔で温まったから大丈夫なのだ!
ひっひっひ、しかもこっそり写真撮っちゃったもんね。手帳にまた挟もうっと。
「あ、後、シフトの事聞かれたらどうしよう?」
「とりあえずは家族の看病って言えば? 俺も病気の事は、少なくとも内科には伝えたいけど、先に信次に話したいから」
「うん。解った。そうしとくね」
そうだね、まだ信次に言えてないもんね。
信次、どんな反応するのかな。
京平が傷付かないといいけどな。
「じゃあ、俺は挨拶回り終わったら帰るわ。亜美も無理すんなよ」
見渡すと、さっきは居なかった人もちらほらいた。
その人達にも京平は挨拶したいのだろう。
「京平も帰ったら、寝ておくんだよ?」
「もう大丈夫だって。晩ご飯作って待ってるな」
「お、それは楽しみ!」
夜、どうなるんだろう?
京平にとって、良い結果になりますように。
作者「醜い争いすぎる」
京平「嫉妬くらいするさ」
蓮「深川先生には負けたくない」
作者「亜美は鈍感だから気付いてないしなあ」
亜美「鈍感じゃないもん!」
京平「え?!」




