働きすぎです(京平目線)
「私、弱い男には興味ないの。じゃあね」
「待ってくれ……亜美!」
◇
「はっ! 夢か……」
何とも目覚めの悪い夢だ。そこを言われちゃ、俺には笑っちまうくらい価値がないからな。
俺はふっと隣を見ると、亜美が私服のまま寝ている。あのまま一緒に寝てくれたんだろう。
あの後、俺を抱きしめて寝てくれたんだな。
亜美の優しい腕が、俺の頭の下にあった。
一晩中、俺の為に。本当に敵わないな。
今は夜中の3時。流石にまだ早いな。
俺は亜美を抱きしめ直して、もう一度寝る事にした。
亜美が居なくならないように。
「ありがとな、亜美」
「京平、無理しないでね……すー」
寝言で返事してる。器用だな、亜美。
目覚めの悪い夢も、簡単に否定してくれる亜美の優しさに感謝しながら、俺は亜美にキスをして、もう一度眠った。
◇
ーー混沌を隠して事と為し♫
「んー、よく寝た」
「亜美のアラーム、めちゃ煩いな。おはよ」
「あ、京平おはよ。こんくらいじゃないと起きれないからさ」
亜美なりに、起きる方法を色々考えていたんだな。
成長してるな、亜美も。
「大丈夫か、まだ大分早いぞ?」
「お風呂入り忘れてちゃって。入ったら朝ごはんでも作るよ」
「そっか、昨日はありがとな」
「どういたしまして。京平も、体調大丈夫?」
「おかげで落ち着いたよ」
亜美が居てくれて本当に良かった。
俺は、亜美をもっと感じたくて、亜美にキスをした。
亜美、愛してる。何処にも行かないでくれよ。
「京平……怯えてるの?」
「うん、ちょっと」
「安心して。何処にも行かないよ」
亜美も俺にキスしてくれる。
優しい亜美らしいキスに、俺は安心した。
「じゃあ、私はお風呂入ってくるね」
「俺は着替えたら弁当作ろ。楽しみにしててな」
こうして早起きした俺達は、それぞれ行動をする。
亜美が風呂入ってる間に、弁当完成させよ。
また覗きに来るだろうからな。
「あー、兄貴おはよ。もう弁当作ってるの?」
「おはよ信次。昨日はすまなかったな。もう体調は大丈夫だから」
「それなら良かった。お土産にケーキ買ってきたから、おやつにでも食べてね」
「マジか。めちゃ嬉しい。ありがとな」
ケーキ、最近食べてなかったなあ。
昨日は酒も呑まなかったし、頑張った自分へのご褒美として食べるとするかな。
まあ、昨日はどっちにしても呑めなかったけど。
「因みに、亜美には内緒ね」
「おう、了解」
「じゃあ、僕も朝ご飯作ろっと」
「なんか亜美がやる気だったけど」
「亜美まだお風呂でしょ?」
確かに朝ご飯作るなら、そろそろ出て来て欲しい所なんだけど、まだ亜美は鼻歌を奏でながら楽しそうに風呂に入っていた。
そんな亜美も愛してるんだけどな。
「じゃあ、信次に任せよう」
「うん、任せて!」
こうして俺達は、キッチンで各々料理をし始めた。
薬が効いたのもあるだろうけど、鬱症状が長引かなくて本当に良かった。
また亜美が私だけ家事してないって拗ねるかもしれないけど、亜美のお陰で俺が大丈夫な事を伝えようかな。
実際、かなり助けられたし。
「あー、さっぱりしたあ」
「あ、亜美、おはよ」
「やっと出てきたみたいだな」
すると亜美は予想通り、ぶーと鳴いて拗ね始めた。
「朝ご飯私が作りたかったのにー」
「亜美、お風呂長すぎなんだよ」
「は、もうこんな時間?! やらかしたあ」
あ、拗ねたと思ったら、落ち込み始めたな。
しょうがない亜美だな。
「いいんだよ。亜美のお陰で俺は助かったよ。ありがとな」
俺は亜美をポンポンする。落ち込むなよ、亜美。亜美の存在だけで、俺は救われてるからさ。
「ありがとね、京平。ちょっと元気でた」
「朝ご飯出来るまで、座って待ってな」
俺もお姫様の為に、スペシャルな弁当作んなきゃ。
今日も美味しかったって、言ってくれたらいいな。
おっと、勿論信次のも美味しく作るぞ!
「はい、亜美、コーヒー飲んで待っててね。あとちょいだから」
「ありがとね、信次」
「あ、信次、俺も後で欲しい」
「朝ご飯の時に出すから安心して」
よし、弁当は無事出来たぞ。亜美、今日も驚いてくれるといいな。
「信次の夜の弁当は冷蔵庫に入れたからな」
「ありがとね、兄貴。僕も今、朝ご飯できたよ」
「じゃあ、並べとくな」
「あ、私も手伝う!」
亜美と俺と信次で朝ご飯を並べて、ようやく我が家の朝ご飯が始まる。
「「「いただきまーす」」」
「はい兄貴、コーヒー」
「ありがとな、信次」
こういう一家団欒っていいよな。
すごくホッとするから、安心出来る。
家族に本当に救われてるな。俺。
「あ。京平、口元になんか付いてる」
と言いながら亜美が、俺の口元に付いたご飯をそのまま取って食べた。
「おい、朝から照れるだろ」
「へへ、京平の味だね」
「朝からバカップルだなあ」
今は彼女の亜美にも、こうやって救われてる。必要としてくれる事が嬉しいよ。
「そうだ、俺昨日弁当食ってねえや。鞄に入れっぱなしだし流石にやばいかな」
「あ、それなら私が冷蔵庫に入れといたよ」
「ナイス亜美。今から食べよ」
食欲も無事に戻ってきたようで、朝ご飯と弁当を俺はペロリと完食した。
元気な身体って、本当に有難い。
「ごちそうさまでした」
「兄貴早」
「今日は俺も病院行くし、支度すっかな」
「昨日体調崩してたし、その方がいいよね」
信次にはまだ言えないよな。病気の事。
余計な気を使わせちまうだけだろうし。
とは言え、一瞬だけ希死念慮もあったんだよな。
そろそろ話した方が良いのかな。
「ごちそうさまでした。私も支度しよっと」
亜美も洗面台にやってきた。
「ねえ、信次には話さないの?」
「余計な心配させるだけだろ」
「既に信次だって心配してるよ。信次からみたら原因不明の体調不良って事になるし」
そうだよな、俺が体調崩してるとこ、信次も見てるんだよな。なんなら、亜美より見せてる。
薬も飲みやすくなるし、ちゃんと言おうかな。
「夜に話そうかな」
「うん、それがいいよ。京平落ちた時、変な事ばっか考えるもん」
「確かに変な事ばっかになるな」
「私達が大丈夫だよ、って何度も言うからね」
本当に亜美には敵わないな。
そんで、沢山寝たからだろうけど、俺達の寝癖もいつもより酷いな。
「ありがとな、亜美。寝癖直せよ」
「京平もね、あはははは」
そんなに笑う事ないだろ、って思ったけど、確かにこれは笑えるな。
俺も、めちゃくちゃ笑った。
「あー、腹痛え。確かにこれはヤバいわ」
「ね、ヤバいでしょ。てか、私もヤバい。あはははは」
「亜美もヤバいな、やべ。もう無理」
本当に亜美は、俺に笑顔をくれるな。
こんなに笑ったの久々だ。
「何急に笑ってんの、兄貴達」
「亜美の寝癖がやばすぎてよ」
「京平もやばいじゃん」
「確かに2人ともやば。ちょ、笑いが止まらないよ」
なんか俺達らしいな、くだらない事で笑うとこが。
でも、そんなとこが、家族のそんなとこが、俺はすきだな。
これからもそんな家族でいれたらいいな。
俺も、もっと頑張らなきゃ。
「はいはい、もう時間ないから寝癖直して、早く病院行っといで」
「「はーい」」
おっと、俺は兎も角、亜美はギリギリだな。
「やば、笑いすぎた! 寝癖直しいいい」
「ほい、寝癖直し掛けたから櫛でとかしな」
「ありがと、京平」
亜美は寝癖を直すと、慌てて家を出ていく。
「いってきまーす!」
「「いってらっしゃーい」」
「僕も今、洗濯物干せたから、いってきまーす!」
「いってらっしゃーい」
一般診療は8時から。それまではのんびり過ごすかな。
まずは風呂入って、その後はシフト作りでもしようかな。
来週から俺も無茶な勤務にならないようにしないと。
あ、ライムも結構来てるな。突然帰ったからな。
風呂入ったら、ライム返そうかな。
◇
ふー、ライム返してたらいい時間になった。
なんだかんだ心配して貰えて嬉しいけど。
俺、休憩室でごろ寝してたし。
ライムの内容もほとんどが、なんで泣いてたか、だった。
結構見られてるもんだなあ。
もうそうならないように、精神科で薬増やしてもらったり、カウンセリングで原因を突き止めないと。
さーて、病院に行くかな。
病院に行くと、早速俺に声を掛けてくれる人がいた。
「あ、深川先生、昨日は大丈夫でした? 泣いてらっしゃいましたよね」
「佐藤さんおはよ。ちょっと持病でな」
「もしや、精神病ですか? 鬱症状が強いと大変ですよね」
「あ、当たりだけど、良く解ったね」
まさか佐藤さんに当てられるなんてな。
「めぐたんに新人の頃良く付けられてたんです。それで詳しくなったんです」
「なるほど。確か佐藤さんが内科所属になったのは今年からだもんな」
「ちゃんとめぐたんに、診てもらうんですよ!」
まさか佐藤さんから、めぐたん呼びを聞くとは。
まるで麻生と話している感覚になるな。
「では深川先生、お大事にです」
「おー、ありがとな」
佐藤さんと別れた後、俺は精神科に向かう。
受付を済ませたけど、予約外だから時間掛かるだろうな。
待合室は混み合うから、社員証使って休憩室に行こうかな。
席は患者様に使って欲しいしな。
と、思って移動しようとしたら、また誰かが声を掛けてきた。
「京殿、体調はもう大丈夫かの?」
「麻生、お前今日中番なんじゃ?」
「めぐたんが早番だから、一緒に来たのじゃ」
「体力キツくなるだけだろ。頑張るな」
しかも麻生のヤツ、白衣着てる。なんだかんだで前残業させられてる。
昨日俺の代わりに緊急外来全回ししたのに、元気だな、麻生。
「あ、京殿はすぐ呼ぶようめぐたんに伝えてあるから、待合室で待たれよ」
「え、患者様を差し置いてか?」
「京殿なら瞬で終わるらしいからな、めぐたん曰く」
「なるほど、でもありがたいな」
という訳で麻生に促されて、待合室で待つ事にした。
患者様に申し訳なくて立ってたんだけど、なんか視線が俺に向くなあ。特に女性の視線というか。
寝癖直しきれてなかったか?
だとしたら、かなり恥ずかしいやつだな。
仕方ないから、髪をかきあげて誤魔化した。
誤魔化せてるといいな。
そんな恥ずかしさと戦っていると、俺の番号が早くも呼ばれた。助かった。
俺は診察室に逃げるように入っていく。
「来たわね、深川くん」
「お願いね、愛さん」
「なんか素早く入ってきたけど、どうしたの?」
「なんか視線、特に女性がめちゃ俺を見てきてさ。寝癖が直ってなかったかな?」
「なんかムカつくから理由は教えないどくわ。寝癖はないわよ」
ムカつくって何なんだよ! とは思ったけど、寝癖がないなら良かった。
「で、診察およびカウンセリングだけど、明らかに働きすぎ! という訳で、もう既に院長と相談して、深川くんの勤務は早番オンリーで17時までにするから」
「は?! それ来月からだよね?」
「明日からです。シフトも新しいの院長がもう作ったから。はいどうぞ」
亜美も言ってたけど、やっぱり働きすぎなのか。俺。
本当だ、俺だけ早番オンリー。しかも2時間短い。だけど流石院長、ちゃんと回るように組んである。
「と、時任さん呼ぶね」
愛さんはそういうと、携帯を架ける。
「もしもし時任さん、精神科の麻生愛です」
『時任です。なんでしょうか?』
「深川先生が今来院してるんだけど、時任さんにも話しておきたいことがあるから来て欲しいの。精神科の14番ね」
『解りました。看護師長にも伝えて直ぐに行きます』
亜美に何を話すんだろう?
暫くして、亜美が駆け足でやって来た。
「お待たせしました。麻生愛先生」
「この前の落合先生の診察以来ね。まあ座って」
「はい」
亜美は心配そうな顔で俺を見つめて来た。
「今、深川くんは、働きすぎなのと飲酒が主な原因で、鬱症状になりやすくなってるわ」
「ですよね。私からも言ってるんですが、無理しまくってて。お酒は私から止めるように言ってから、飲んでないはずです」
「あら、私が言っても止めなかったのに。流石時任さん」
愛さんには悪いけど、やっぱり亜美から言われると俺の中でずっしりくるんだよな。
亜美がちょっと照れてる中、愛さんは続けた。
「で、勤務時間を短くしたのだけど、鬱症状はまだ出るだろうから、見張り役として、時任さんも深川くんと同じ勤務になるんでよろしく!」
「え、ま、京平どんな勤務になったの?」
「ああ、時任さんの新しい勤務表はこれね。これも院長が作ってくれたわ」
亜美は勤務表をみて絶句していた。
折角遅番に慣れようって頑張ってたのに、俺のせいでとんでもない事になっちまったな。
「今月はそれで様子見して、それでもダメなら薬増やす事も考えます」
「今から薬増やすのは……」
「黙れ深川。働けなくしてもいいんだぞ? 休職にしようか?」
「はい、従います……!」
俺のせいで、亜美まで巻き込んじまった。
亜美、またしても、ごめんな。
京平「また俺のせいで、亜美に申し訳ないことを」
愛「深川くん希死念慮出てるもん。見張り役大事」
風太郎「確かに。泣いてたからな」
作者「亜美はどう思っているんやろな」
朱音「めぐたん、辛辣ね」
愛「ああ、深川くんだしね」
京平「俺の扱い?!」