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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
悪化する病状
32/221

本気モード(京平目線)

「亜美は渡さない」

「俺が、亜美の気持ちを動かしてやるからみてなよ」


 そう言って落合くんは去っていった。

 今まで人を好きになった事がない中で、亜美を愛するようになって、そして奇跡的に両思いで付き合う事になって。

 ここまで来るのに、どんだけ苦労したと思ってんだよ。

 それに、亜美は俺を裏切ったりしない。

 今までだって何度も弱い所を見せて来たのに、引くどころか助けてくれたから。


 にしても、俺の彼女は本当にモテるな。気が休まらないな。

 日比野くんも亜美がすきらしいしな。

 後、亜美の寝顔が可愛すぎるから、写真撮っとこ。

 

 ◇


「亜美、時間だぞ」

「んー、よく寝た。ありがとね、京平」


 亜美が気持ち良さそうに起きてきた。その顔を見てると、俺のが救われてる気がするよ。


「あれ? 蓮は?」

「さあ。早めに仕事に戻ったんじゃないかな」

「真面目だなあ。偉すぎる」


 亜美には落合くんの事は言えないよな。

 というより、居ないだけなのに何で亜美の中で落合くんの評価が上がってるんだ?

 俺も俺だよ、どっか行ったって言えば良かったわ。


「あ、白衣ありがとね」

「まだ遅番長いけど大丈夫か?」

「うん、京平がたっぷり寝かせてくれたもん。ありがとね」


 こう言う所が、亜美の可愛い所なんだよな。

 やばいな、今までは交わして来たんだけど、流石に照れて来た。可愛すぎるんだよ。


「いや、どういたしまして」

「ん? 京平照れてるの? 珍しい。写真撮ろ」


ーーパシャッ。


「バカ、だから1人で写真撮るのはバカみたいだと」

「隙を見せた京平が悪い」

「まあ、俺も撮らせて貰ったけどな」


 俺は撮影した亜美の寝顔を、亜美に見せた。


「ば、バカ。恥ずかしい顔撮るんじゃないの」

「隙を見せた亜美が悪い」

「うー、京平には敵わないな」

「あ、そう言えば、早く昨日の写真送ってくれよ」

「忘れてた! 京平の照れ顔と一緒に送るね」

「照れ顔はいらねえよ!」


 そんな話をしながらも、亜美からやっと写真が届いた。早速待ち受けにしよう。


「あれ、今の待ち受け、この前の」

「亜美が可愛かったから、即待ち受けにした」

「もう、照れるなあ」

「もうデートの時のに変えたけどな。ロック画面は亜美の寝顔」

「何やってんのよー!」


 何やってんの、って、惚れてるからに決まってるだろ。

 亜美以上に、愛してるやつなんかいねえよ。

 なんて、本人には絶対言えないけど。


 そんなやり取りをして、俺達は持ち場に戻った。

 

「おお、京殿戻ったか。じゃあ我もそろそろ帰るとするかのお」

「麻生ありがとな、休憩行かせてくれて」

「京殿は付き合いたて。気を使うのは当然ぞ」

「亜美も疲れてたみたいだし、本当助かったよ」


 因みに麻生にだけは前々から亜美を愛してる事、そして昨日から付き合い始めた事は報告済みだ。

 麻生はこう見えて結婚もしているし、相談相手にちょうど良かったから。

 麻生は何度も、「亜美殿は普通に京殿を愛してるじゃろ?」って、俺に言ってくれていたんだけど、俺は中々それを信じる事が出来なくて。

 告白前日にやっと確信に変わるって、亜美ほどじゃないけど、俺やっぱ鈍いよな。


「じゃあ京殿、後4時間頑張るのじゃぞ」

「おつかれ、麻生」


 さあて、緊急外来の混み具合は……中々いらっしゃいますな。

 これは久々に、本気モードで行くしかないか。

 ただ、それに唯一着いてこれる看護師長はもう帰っちゃったんだよなあ。

 確かのばらさんが応援で来てくれてるのと、元々俺に着いてる5年目の佐藤さんがいるから、あともう1人いれば何とか回せるな。

 冷やかされるだろうけど、亜美を呼ぶか。

 俺は亜美の携帯に電話を架けた。


「もしもし、亜美?」

『もしもし時任です。あ、京平か。どうしたの?』

「応援要請。緊急外来のヘルプに来て」

『了解。いまこっちは落ち着いてるから大丈夫だよ。すぐ行くね』


 これで本気モードで行ける準備は整ったな。


「のばらさん、患者様どんどん呼んでって。応援呼んだから焦らないでね」

「かしこまりましたわ」


 それから俺は、緊急外来にいる患者様の診察を開始する。

 患者様全員の顔を見てトリアージして、順番に呼んでいく。

 既に何が悪いか解ってる患者様は、簡単な問診をしてすぐに処置をする。

 俺の今の実力なら、外科以外は適切な処置も出来る。間違った事はしちゃいけない。


「京平、はや」

「久々に深川先生の本気モードを見ましたわ。亜美、気合い入れるわよ」

「うん、がんばる!」


 こうして瞬く間に、入院となった患者様を運ぶ為のベッドも運び込まれ、次々と患者様達を運んでいく。

 検査の結果、緊急外科手術が必要となった患者様も、今日は院長が執刀してくれるから安心だ。

 早急に、でも焦らずに。的確に、診察する。


 良かった、本気モードで。中々に緊急性の高い患者様は今日は多かった。

 1秒でも無駄には出来なかった。

 亜美達が頑張ってくれたお陰で、滞りなく検査も出来たようだしな。

 こうして、緊急外来も無事に落ちついた。


「皆さんお疲れ様。皆さんのお陰で無事回す事が出来ました」


俺はお礼を言って検査室に入ったんだけど、皆明らかに疲労困憊だ。

 元々疲れの見られた亜美は勿論、のばらさんですら座り込んでいる。

 慣れてるはずの佐藤さんも、ぐったりだ。


「のばらもまだまだですわね」

「私、もっと頑張らなきゃ」

「2人より先輩なのに、情けないな。私」


 自分達に余裕がない事を自ら戒めて、彼女達は次に繋げようとしている。

 本当に3人とも、立派な看護師だ。信頼出来る。

 にしても、亜美も良く着いてこれたな。のばらさん休憩に出すし、いつもよりはもう少し早めにしてやるか。


「患者様の数も落ち着いてきたから、のばらさんは休憩行っといで。こっからは普通より少し早いモードにするから」

「有難うございますわ。いって参りますわ」

「亜美、いけるか?」

「大丈夫、いけるよ」


 亜美の負けず嫌いが発揮されてきたね。

 キツそうな顔してんのに、泣き言言わないとこも亜美のすきなとこだな。


 こっから看護師は2人。より丁寧に的確に、だ。

 亜美と佐藤さん。佐藤さんも普通モードなら行けるから余裕はあるかな。


「じゃあ、改めて宜しくお願いします」


 俺は再度診察を開始する。全員、助ける。


「ここ押すと痛いですか?」

「そこはそうでも……」

「じゃあここは?」

「痛たたたたー」

「盲腸の可能性が高そうですね。すぐレントゲン回して」

「了解しました」


 という具合に、診察を進めていく。

 さっきよりはゆっくりではあるものの、のばらさんが抜けてる分、亜美と佐藤さんはキツいだろうな。

 でも、悪いけど手はこれ以上抜かないからね。ちゃんと着いて来いよ?


 ◇


「やっと患者様居なくなったね、佐藤さん」

「時任さんも、まだ1年目なのにお疲れ様」


 俺が検査室に行くと、2人ともぐったりしている。

 時間にして1時間くらいだったけど、2人の実力を考えたらキツいモードだったからな。


「亜美はもう戻っていいよ、ヘルプありがとな」

「京平もお疲れ様」

「佐藤さんもいまは患者様居ないから、呼吸が落ち着いたら医療品整理ね」

「了解しました」


 ふー、しかしやっと落ち着いたな。

 最近は寒いのもあって、急な発熱もあるのだろう。

 事実、半分くらいはインフルエンザだったしな。

 でも週の初めから本気モードは、ちょいかっ飛ばしすぎたかも。

 久々に仕事中に眠い。果てしなく眠い。


「深川先生、戻りましたわ」

「おかえり、のばらさん。見ての通り今は患者様いないから、戻っていいよ」


 しまったな、のばらさんに戻っていいよ、って連絡しとくべきだったな。

 俺、余裕が無くなってんな。もう若くねえな。


「あら、深川先生お疲れじゃなくて?」

「や、気にしないで。若くねえな、ってショック受けただけ」

「それなら良いのだけど、ご無理はなさらぬように」


 そう言って、のばらさんも戻っていった。

 

「ちょいコーヒーでも飲むか」


 今なら患者様も居ないしな。一服するなら今しかない。


 実は俺はお小遣い制で、毎月信次から三万貰ってる。

 俺も双極性障害があるし、気を抜いたら医学書を無計画に買っちまうから、今年から頼んだ。

 が、亜美とのデートで使いきっちまったから、今は一文無し。

 信次にそれを言ったら、「計画性なさすぎ!」って怒られたけど、代わりにコーヒーを水筒に淹れてくれた。

 ふー、保温性の水筒強いわ。あったかい。

 淹れてくれた信次にも感謝だな。


 さてと、残り時間はカルテの整理と確認でもやるかな。

 後少し、俺も頑張らなきゃだ。


 ◇


「ふいー、遅番終了、っと。あれから混み合わなくて良かった」

「深川先生お疲れ様です。変わりますね」

「おお、鈴木くん、後は頼んだぞ」


 因みに五十嵐病院の勤務体系は、正確には4つある。

 早番、中番、遅番の他に、特早番がある。

 これは、朝5時から17時までの勤務体で、主に家庭事情や遅番が出来ない人が回してる。

 が、シフトを作ってる俺の立場だと、たまに自分をそこに入れないと回せない事もあるんだよな。

 変なシフトにしなきゃ起きれるからいいけどさ。


 さー、サッサと帰って、ご飯食べて寝るか。

 亜美の体調も心配だしな。


「あ、京平おつかれ」

「亜美、おつかれ」

「眠そうだね。帰ったらすぐ寝なね」

「そう言う亜美も、かなり疲れた顔してるぞ」

「じゃあ、着替えたら緊急外来前で待ってるね」


 俺が無理させたのが1番だけど、相当疲れてるな、亜美。

 初めての遅番だというのに、信頼という理由だけで亜美をヘルプに呼んだのを後悔した。

 そもそも、亜美は休憩全て寝てるのにあの疲れ具合……遅番はやっぱりキツいよな。


 そんな事を考えながら、着替えが終わった。


「あ、京平おまたせ」

「ん、俺も今来たとこだよ。帰ろっか」


 と、言いながら俺は、亜美をお姫様抱っこする。

 このお姫様は、明らかに無理してらっしゃるから、家まで運んで差し上げよう。


「ちょ。京平、流石に恥ずかしいよ」

「疲れてるんだから無理すんな、寝てていいぞ」

「これじゃあ、寝たくても寝れないよ」


 亜美はかなり照れていた。こんな早い時間に起きてるやつはほぼ皆無なんだから、心配する事ないのにな。


「今日は無理させてごめんな、初めての遅番だったのに」

「寧ろ、この程度で根を上げてちゃダメでしょ」

「負けず嫌いだな。今日は俺ですらしんどかったし、弱音吐いていいんだぞ」

「じゃあ、帰ったら一緒にお風呂はいろ」

「俺を照れさすんじゃないよ、バカ」


 本当に、今、最高に幸せだ。

 亜美が居れば、俺はいくらでも頑張れるよ。

 こうやって一緒に話してる時間が、愛しい。

 

 同じくらい、俺も亜美を幸せにしたい。

 いや、絶対幸せにする。


 そんな事を思いながら、亜美を抱きしめてた。

亜美「お姫様抱っこは照れるってば」

京平「素直に運ばれな。疲れてるだろ」

亜美「京平だって眠いのに、ありがとね」

京平「どういたしまして」


作者「いやあ、甘いなあ。ラブラブやな」

のばら「微笑ましいですわ」


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