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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
悪化する病状
30/221

初めての遅番

 私達は明日遅番って事もあり、2人で喋ったり、一緒にお風呂入ったり、キスしたり、抱きしめ合ったり、そして、一線を越えたりした。

 相当我慢させてたんだなあ、私。

 鈍くてすまんかったな、京平。


「疲れてただろうに、ごめんな」

「ううん、昼間沢山寝たし大丈夫。京平と一緒にまったり出来て嬉しいよ」


 正直寝過ぎて、まだ目が冴えている。

 そりゃ朝から18時まで寝ていればそうなるよね。

 明日が遅番で良かったかもしれない。


「明日は初遅番。頑張るぞ」

「慣れるまではしんどいかもな。無理すんなよ」

「うん。明日休憩、合うといいね」


 どうしんどいかも、経験してみなきゃ解らないけど、長年遅番をやってる京平からしんどいと聞くと、正直不安だ。

 せめて休憩時間だけでも合うといいな。


「明日は緊急外来担当だけど、合わせてみるよ」

「ありがとね、京平」

「本当に可愛いな、亜美は」


 そう言うと、京平は私を抱きしめた。

 京平に抱きしめられると、いつも私はとろけてしまう。

 包み込まれてる感じが、すきなんだ。

 そんな安心感からか、疲れからか、私はそのまま寝てしまった。

 あんなに目が冴えていたのにね。


「おやすみ、亜美」


 そして私が寝たのを確認した京平は、優しくおでこにキスをするのだった。


 ◇


 そして朝……というか、もう夕方なんだけど、15時半に私は目が覚めた。

 早目に寝た割には遅い目覚めなんだけど、まだ早いんだよなあ。

 しかも京平も寝てるしね。

 

 腕が痛くなるだろうに、京平は一晩中私を抱きしめてくれていた。

 でも、やっぱり痛かったんだろうね。京平の腕の下には枕が置いてあった。

 無理しないで、ってあれほど言ったのに。

 こうなると嬉しさよりも、心配が勝ってしまう。


 だから私は体勢を変えて、私が京平を抱きしめる事にした。

 私の体力じゃそんなに長くは出来ないけど、30分なら京平を抱きしめられるよね。

 京平がちょっとでも、休まりますように。


 でも、京平の頭の重みが私の腕に乗るから、やっぱりちょっとしんどかった。

 けどそれよりも、寝息を立てて眠る京平が愛おしくて。

 私はずっと、見つめていたんだ。


 それから、あっという間に30分が経った。

 そろそろ京平を起こさなきゃ。

 携帯のアラームが鳴り響く中、私は京平の耳元で囁いた。


「京平、16時だよ。起きて」

「ん、もう16時か。おはよ、亜美」

「おはよ。京平」


 起きてすぐに見る顔が愛しい人だと、なんだか嬉しくなるよね。私だけかな?


「亜美、いつの間に体勢変えたんだ? 痛かったろうに」

「それはこっちの台詞だよ。一晩中なんて腕痛かったでしょ。無理しないでよ」

「無理はしてないよ。亜美の寝息と温もりが、なんか嬉しくて」


 もう。起きてすぐからドキドキさせるんだから。京平の意地悪。

 私は顔を真っ赤にしながら京平を見つめる。


「寝起きから可愛いな、亜美は」

「ドキドキさせないでよ。早く起きて」


 こうして、恋人同士になってから初めての寝起きは、ドキドキしながら迎えたのでありました。


「と、血糖値は130。良かった、爆上がりしてないや」

「寧ろ低血糖になってなくて良かったよ。運動もしたし」

「こら!」


 寝起きからとんでもない事をいう京平である。

 えと、130だから普通通り注入すれば大丈夫だね。ご飯もお魚だし。


「「いただきまーす」」


 私達は朝ご飯という名前の夕ご飯を食べた。

 京平から、遅番の前は特にしっかり食べた方が良いよ、と言われたので、いつもより白米を多めに食べる。


 そんなに遅番って、大変なのかなあ?


「遅番って何が大変なの?」

「次第に眠くなってくるとこかな。夜から朝だしな」

「なるほどん」

「でも無理はするなよ。体質的に遅番は無理って人も普通にいるしな」

「心配してくれてありがとね。頑張るぞ!」


 夜から朝までの勤務は、そもそも生まれて初めてだから、体質的にどうなのかは解らないけど、やれるだけ頑張ってみよっと。

 

「ただいまー」

「あ、信次おかえり」


 そんな事を話している内に、信次が帰ってきた。

 今日は信次もバイトがあるから、家族皆で病院まで行く日だね。


「そっか、今日は兄貴も亜美も遅番か」

「信次もバイトの日だもんな」

「うん。やっと慣れて来たって感じだよ」

「と、ごちそうさまでした。って、亜美大丈夫か?」

「あ、まって。ごちそうさまでした」


 白米多めなのに、いつも通りのペースで食べてしまった。やっちまったぜ。

 早く歯磨きして顔洗って、寝癖直さなきゃ。


「ほい、歯ブラシ」

「ありがと京平」


 こういうルーティンは、付き合ったとて変わるもんじゃないな。

 でも、だからこそいいな、なんて思っていたり。


「よし、準備できた」

「時間ギリだからちょい急ぐぞ」

「あ、京平待ってってばあ」


 私は慌てて走っていくのであった。てか、置いていかないでぇ。


「ふー、なんとか追いついた」

「あ、亜美、追いついたか」

「むちゃむちゃ走ったよ」


 もう息がめちゃ上がってる。普段運動してないしなあ。


「信次、家族揃ってるし、宇宙人ごっこやろうぜ」

「じゃあ、亜美を真ん中に挟まないとね」

「え」

「「せーの!」」


 私は強制的に、京平と信次の間に挟まれて、2人で私の両腕をそれぞれの腕で引っ掛けたかと思うと、2人で私をぶらーんとした。


「ちょ、何するの!」

「亜美が1番小さいから仕方ない仕方ない」

「嫌だったら育つんだな」


 もー、2人して何してんのよ!

 しかも、私もう21歳だから、これ以上背は伸びないよ!

 まさか、この歳になって宇宙人ごっこやらされるとは思わなかったなあ。


 てか信次、また背が伸びたなあ。

 私は160センチくらいだけど、もう170はあるんじゃないかな?

 京平は180あるけど、信次もそれくらい伸びるかな?

 

 そんなふざけた事をされながらも、私達は病院に着いた。


「じゃ、皆がんばろうな」

「京平、無理しないでね」

「亜美こそ初遅番なんだし、無理しないでよ?」

「解ってるって」


 そんな事を言い合いながら、私達はそれぞれの更衣室へ向かった。


 ◇


 今日の私の勤務は巡回勤務となった。

 初遅番という事で、今回はのばらに教わりながら業務に就く。

 遅番は検査等はほぼないのだが、ナースコールが鳴った時は、早番や中番の時より緊張が走るらしい。


「理由としましては、単純に医師の数が少ないですからですわ。担当医がいれば安心できるところなのだけど、いなかった時は冷や汗が出るのですわ」

「私達で何とかなることばかりじゃないもんね」

「でも大抵は何とかなりますわ。安心なさって」


 のばらに言われると心強いね。

 よし、ナースコールが鳴ったら直ぐに助けにいくようにしなきゃ。

 夜はただでさえ、不安がいっぱいだもんね。


「巡回の引き継ぎは22時くらいになるかしら? それまではナースコールを気にする事と、場合によっては緊急外来のヘルプにいったりですわ」

「ヘルプに入ったりもするんだね」

「緊急外来は、混み合う時はすごく混み合うのですわ。看護師も人数が居た方がスムーズになるのですわ。特に、担当医が深川先生の時は、ですわ」

「ほえ? なんで?」


 京平が担当医だと、何故沢山の看護師が必要になるのだろうか?


「深川先生は、兎に角トリアージ……治療優先度を決めるのが凄く早いし上手いのですわ。加えて、診察の早さ、丁寧さも、他の医師とは比べ物になりませんわ。のばらもようやく、深川先生の「少し本気モード」に着いていけるようになりましたわ」


 ああ、そういう事か。

 京平は身内贔屓を絶対しない。寧ろ厳しいくらいだ。

 私が京平の担当になった時は、初めから普通モードで対応された。

 この普通モードでも、他の医師と比べたらかなり早い。

 一般の新人看護師は、優しいモード一択らしいのに。

 最初は着いていけなくて困らせたりもしたけど、今は普通モードでも余裕があるくらいだ。

 次担当になったら、もう少し早くしようかなって言われたなあ。


 緊急外来となれば、緊急性が高い患者様が多くなる為、より早く診なくてはならない。

 早く診れる、という事は、その分検査を行う患者様も増える為、検査要員の看護師はいくらいても困らない。という訳だ。

 でものばらは、京平の少し本気モードに着いていけてるんだ。

 私も、もっと頑張らなきゃ。


「でも焦っちゃダメよ、亜美。私達看護師が1番大事にしなきゃいけないのは」

「患者様を安心させる事、でしょ?」

「その通りですわ。だから、深川先生の担当になっても、それは忘れちゃいけないのですわ」


 うん、解ってる。

 私が入院してた頃、京平から安心感をもらえたように、私も患者様に安心して貰わなきゃ。

 そうやって患者様を助ける為に、私は看護師になったんだから。


「さ、のばら達はナースステーションに戻るのですわ」

「はい、のばら先輩!」

「って、亜美、それは照れますわ」


 ◇


 そんな事をしている内に、1回目の休憩時間になった。

 そう言えば、京平が遅番で麻生先生を紹介された時も19時半だったけど、遅番って考えるとちょっと早めの休憩時間だよね。

 そういう意味でも、遅番は体力を使うんだろうなあ。


 そんな心持ちで休憩室に入ると……。


「亜美、おつかれ」

「おあ、京平、おつかれ」


 京平が後ろから肩をポンポンして、私を出迎えてくれた。

 休憩時間合わせてくれたんだね。ありがとね、京平。


「もう信次も休憩室いるよ」

「了解、行こっかのばら」

「かしこまりましたわ」


 京平に案内され、信次がいる机に私達も座った。


「あ、亜美とのばらさん、お疲れ様」

「信次くんもお疲れ様ですわ」

「おつかれ、信次」


 信次も大分バイトに慣れて来たみたいで、体力的にもまだ余裕がありそうだ。

 家事もやってるし、倒れちゃわないか心配だったけど、良かった良かった。


「亜美は遅番どう?」

「寧ろこの後が大変そうだけど、頑張るよ」

「無理すんなよ、亜美」

「そうですわよ。遅番は長いのですわ」


 皆、私が初遅番なのを知っているから、私を気遣ってくれてる。本当にありがたすぎる。


「ねえ、京平、ちょっとお願いがあるの」

「お、なんだ? 珍しいな」

「この後頑張らなきゃだから、頭ポンポンして」

「ほいよ」


 この後忙しくなるなら、今の時間は寝とかなきゃね。

 何気、初めて自分から京平に甘えられたかも。

 突然頼んだのに、甘えさせてくれてありがとね。

 うん、この頭ポンポンが安心するの。

 安心するから眠れるんだよね。


「すぅー、すぅー」

「おやすみ、亜美」

「あれ、兄貴泣いてるじゃん! どうしたの?」

「亜美が、あの亜美が、初めて自分から俺に甘えてくれた。やべ、嬉しすぎて涙止まんねえわ」

「そんなに?!」


 そんな事を言いながら、京平は私に白衣を掛けてくれる。

 私はというと、京平の涙を知る事なく、ぐっすり眠りについていた。

 京平の匂いがする白衣、やっぱりすきだなあ。

 

 おやすみ、京平。

作者「因みに京平は魔法使いだった、という設定がありまして。脱魔法使いできて良かったな。京平」

亜美「マジでか」

京平「若い時にまともな恋愛できなかったしな」


のばら「亜美、遅番に耐えられるかしら」

亜美「今日はのばらもいるから大丈夫!」

のばら「亜美、嬉しいですわ」

信次「本当に兄貴のポンポンですぐ寝るよね、亜美は」

京平「可愛いよな」

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