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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
世界一簡単な愛してる
29/226

新しい形

 俺と、一緒になって下さい。って、恐らく京平なりの付き合ってください、だよね。

 京平、すきも愛してるも付き合っても言わずに、キスで告白するなんて。照れ屋すぎるでしょ。


「ありがとね、京平。私からも言いたい事があるんだ」

「うん、聞かせて」


 返事の前に、私も京平を愛してるって伝えたい。

 正直夢が叶った安堵感と高揚感で、胸がいっぱいなんだけど、これは伝えなきゃ。


「私ね、負けず嫌いなのもあるから、本当は甘えるの凄く苦手なんだ。なんか、ほら、負けたって感じがするから」

「ああ、自分から甘えた事ないよな、亜美は」


 それで京平にも迷惑を掛けてるんだけど、私は自分から甘える事が出来ない。

 迷惑かけたらどうしよう、とか、甘えたら負けだぞ、とか、色々考えて甘えるのを諦めちゃう。


「でも、京平はそんなとこも汲み取って、甘えさせてくれたよね。凄く嬉しかったよ」

「そうでもしないと、無理するからな。亜美は」

「京平だから、私、甘えられたんだよ」


 京平だからこそ、誰よりも味方をしてくれて安心出来る優しい京平だからこそ、私はいつも助けられて来たんだよ。


「私がいじめられてた時も本当に頑張ってくれて、夜も寝ないで……。京平はそれなのに、上手く出来なかったって、私の為に悔やんでくれて。俺頑張ったし! って、偉そうにしてもいいとこなのに」

「あの時は本当にごめん。俺が怒ってさえいなけりゃ、クラスメートとも仲良く出来たかもなのに」


 京平、まだ気にしてくれてたんだ。

 保健室登校になってからは、対象が見えなくなっていじめも落ち着いたし、自主学習も私に合ってたし、京平は休みの時に保健室へ来てくれて、勉強も見てくれてたのに。

 もう充分すぎるくらい、優しいのに。頑張ってくれてたのに。


「ううん、私の為に怒ってくれたし、私の為に悔やんでくれたし、そんな優しい人間らしい安心出来る京平が、私は大切なんだよ」

「亜美……」


 私は京平を抱きしめた。世界一の愛してるを、伝えたかったから。


「京平、目、つぶって」

「ん、どした? こうか?」


 解ってる癖に、とも思いながら、私は背伸びして、背伸びして……どうしよう、届かないや。


「で、座って」

「ふふ、はいよ」


 あ、これ、届かなかった事見抜かれてるやつだな。本当に決まらない私だなあ。

 私は、座った京平を引き寄せて、京平の唇にキスをする。

 私の愛してるの長さと同じくらいの長さで、キスが出来たらいいなと思って。

 呼吸と呼吸をもう一度、私達は分け合った。


 ただ、京平はちょっと意地悪で、私の口の中に舌を入れてきた。え、これ、どうしたらいいの?

 もうおバカ、私も舌入れちゃうもんね。どんなもんだい!


 そして私は、京平を見つめる。なんだかすごく優しい気持ちになれてる気がするよ。


「ずっと前から世界で1番愛してる。ずっと一緒にいて下さい」


 これで私の愛してるは、ちゃんと京平に伝わったかな? 少しでも伝わってるといいな。

 と、思ったら。


「うん、知ってたよ」

「え」


 嘘、あの激鈍いことを同期の麻生先生からも認定され、のばらの気持ちにも気付けずに悔やんでたあの京平が?


「嘘おっしゃい」

「や、本当。俺が凹んでた時、"だってそれも含めて京平じゃん。私はそれも受け止めたいから。でも、そんな時は側にいるから"って、そんなの愛してるやつにしか言わないだろ。ありがとな」

「え、じゃあ昨日の……」


 そっか、昨日京平と話してた時点で、京平は私の気持ちに気付いてくれていたんだ。

 思い返せば、だからこそ手を頻繁に恋人繋ぎしてくれたり、抱きしめられたり、なんなら告白の時にキスしてくれたのか。


「ギリギリになっちゃったけど、亜美の愛してるに気付けて良かった」

「本当にギリギリすぎるよ。でも、ありがとね」


 まさか気付いてくれてるとは思わなかったよ。


「という訳で、亜美のが鈍いって事になるな」

「グサッ」

「ぶっちゃけ、「目、つぶって」の時点でも気付いてなかったろ?」

「グサッグサッ」

「激鈍亜美ちゃんだな。マジかよって思ったわ」

「本当だね、自分の事なんだけど、やばい笑える」


 本当におかしいよね。京平めちゃめちゃアピールしてくれてたのに、全然気付いてなかったよ。

 ただただ嬉しいって気持ちでいっぱいだったよ。


「俺だってずっと前から亜美の事、想ってたんだからな」

「私は9年前からだもん」

「マジかよ。俺も9年前から……じゃあ、俺達無駄に9年間両片思いしてたって訳?」

「お互い遠回りしてたんだね」


 本当に上手く出来ないね、私達って。

 でも、今になったからこそ、私も京平も、よりお互い寄り添い合える気もするんだ。

 ん? 9年前は私、12歳だよね?

 当時付き合っていたら、京平ロリコンになっちゃう。


「9年前だと京平ロリコンになってたから、良かったんじゃない? よく考えたら」

「亜美だから惚れたんだよ、悪いか! ロリコンじゃねえよ。どんだけ自制するのに苦労した事か」

「じゃあ、私達の部屋を分けたのも?」

「俺が耐えきれそうになかったから! 俺も男だ、許せ」


 そうだったのか。

 突然、亜美も来年中学生だし部屋そろそろ分けるか、って言われた時は、辛すぎてめちゃくちゃ泣いたんだけど、そう言う意味で私を守ろうとしてくれてたんだね。

 お主も可愛いとこあるじゃないか。


「後、俺達これから付き合うんだし、亜美はもうちょっと甘えろよ?」

「そういう京平は、もっと自分を大切にしてね? 無理しないで」

「じゃ、そう言う時は甘えにいくわ」

「根本的な解決じゃ無い気がするけど、いいよ」


 これから恋人になる上で、今まで出来なかった事も出来たりして、戸惑う事もあるだろうけど、私達らしく寄り添えたらいいね。

 私も、無理しないで甘えられたらいいな。


「これからも一緒にいてね」

「絶対離さない」


 京平は、私を抱きしめた。

 離さない、の言葉は、京平の想いと共に腕を通して伝わってきたよ。

 私も、京平を抱きしめた。

一緒にいてね、って気持ちが、私も腕を通して伝えられているといいな。


 ◇


「「ただいまー」」

「ほ、ほはえりははひ」


 信次は何か食べていたのか、きちんと喋れてない状態でお帰りを言ってくれた。


「あ、お邪魔してまーす」

「のばらもいますわ」


 どうやら、皆で晩御飯を食べていたみたいだ。

 もう21時なのに、やっとご飯とはかなりお疲れ様だね。勉強も大変だなあ。


「え、いま晩御飯なの?」


 京平もかなりびっくりしている。


「海里がやばくってさ。ね、のばらさん」

「修羅場を越えましたわ……」

「サーセン、おふたりとも。感謝してまーす」


 教える側は、かなり壮絶な何かがあったらしい。

 のばらも信次も、かなり疲れた顔をしている。


「お、何作ったんだ? 信次」

「兄貴達には申し訳ないんだけど、すき焼き。のばらさんが良い肉買って来てくれてさ」

「のばら財閥ですわ」


 自分で財閥って言っちゃうのばらであった。

 恐らく、晩御飯の材料の買い出しを頼まれて、食欲に負けて自腹切って良いお肉買ったんだろうなあ。

 また機会があればのばらに聞いてみよっと。


「マジか。たまたまなんだけど俺達もすき焼きだったよ」

「なーんだ、申し訳ない気持ちで食べてて損した。今からいっぱい食べよ」

「まだお肉ありますわよ」

「割下また作らなきゃだね」


 まさか晩御飯が被るなんて、どんだけ仲良し家族なんだろうね、私達。


「そうだ、皆に話しておきたい事があるんだ」

「え、兄貴どうしたの?」


 話しておきたい、と言いつつ、京平は顔を真っ赤にして、何も話そうとはしなかった。否、話せなかった。

 その代わりに、必死の思いでピースしていた。

 京平は、やり遂げたって顔をしている。


「京平、ちゃんと話した方が」

「なんか照れるんだよ。これで伝わるだろ?」


 伝わる訳がない。コミュ障が過ぎる。

 皆頭にクエスチョンマークを浮かべていた。


「えー、私から話します。私達、付き合う事になりました」


 やだ、確かに言うのめちゃめちゃ照れる。後追いで顔が真っ赤になってきた。

 私は恥ずかしい気持ちになって、そのまま腰が抜けてしまう。床に両太ももがくっつく。

 そんなリアル腰抜けな私に、飛びついてきたのはのばらだった。


「亜美よかった、おめでとうございますわ」

「のばら、ありがとね」

「心配してたのですわ。確かに深川先生は亜美の事、凄く優しい目で見てたけど、それでも何があるか解らないから不安でしたの」


 のばらは早口で捲し立てると、わんわん泣き出した。 

 のばらは昨日同じ相手に告白して玉砕してるから、私に恨み節のひとつくらい吐いたっていいのに、そうじゃなくて私の為にこうやって泣いてくれている。

 本当にのばら、ありがとね。私、夢が叶ったよ。

 のばらと友達になれて、本当に良かった。


「深川先生は、亜美の事を愛していたのですわよね?」

「のばらさん、知ってたのか?」

「ずっと見てましたもの。解りますわ。そして、こんな素敵な女性は他にいないのですわ」


 振られるのは解ってた、って昨日のばらは言ってたけど、京平が私を愛してる事を解っていたんだね。

 私より鋭いとは、やりおるなのばら。ほらそこ、亜美は鈍すぎって言わないの!


「じゃあ、兄貴が前に眠れなかったの、って」

「亜美が酔いながら、愛してる人がいるって言ってるのを聞いて、絶句して眠れなくなって」

「完全な両片思いじゃん」


 ああ、私の酔いどれ発言は、京平を勘違いさせるだけじゃなく傷付けていたのか。

 本当に京平には申し訳ない事をしてしまったなあ。

 

「でも、デートしてくれるなら、まだチャンスはあるんじゃね? って、気持ちを持ち直した」

「その時点で気付いてよ、兄貴!」

「気付いたぞ、昨日ちゃんと」

「遅いよ、激鈍兄貴!」

「遅くねえよ。亜美なんて"目、つぶって"の時点ですら」

「はいはいはい、2人とも落ち着こうね?」


 京平め、自分が激鈍言われたからって、私の超絶激鈍をバラす事はないじゃないか。

 確かに私のが激鈍だった事は事実だし、やらかした本人も笑えるレベルだけどさああ。

 な、何とか、誤魔化せた、よ、ね?


「亜美、兄貴、おめでとう。まさかの両思いだったなんてね」

「ありがとね、信次」

「あ、俺からもおめでとうっす」

「海里くんもありがと」


 良かった、何とか誤魔化す事には成功したぞ。


「あ、後、色々あって京平は今日から断酒する事になったから、信次も見張っといてね」

「じゃあ、のばらさんに兄貴の酒全部あげるね。良いお肉買って来てくれたし」

「有難うございますわ。山田をここまで迎えにこさせなきゃですわ」

「お、俺のた、楽しみが……」


 やっぱり簡単には酒への未練は消せないか。でも、断酒頑張ってほしいな。


「来週はレモンパイ焼くから、断酒頑張ってよね」

「お、ありがとな、亜美。頑張るよ」

「来週は僕が買い物に行かなきゃ。亜美だと買いすぎる……」

「多い分には俺食べるぞ?」

「兄貴は食べ過ぎ!!」


 ◇


「それではお邪魔しましたわ。お酒も有難うございますわ」

「お嬢様、酒類は私が車に積みますゆえ、車にお乗り下さい」

「有難う、山田。じゃあ、また明日ですわー」

「また明日ね、のばら」


 一足先に、のばらは執事の山田さんが来たので帰宅していき……。


「じゃあ、俺も帰ります。お二人ともお幸せに」

「ありがとな、海里くん」


 海里くんものばらが帰った後、続けて帰っていった。


「さて、今からが忙しいぞ」

「え、何が?」


 信次が腕まくりし始めた。

 え、何か忙しくなることなんてあったっけ?

 京平も私も、解らないでいた。


「亜美と僕の部屋入れ替えるの。恋人同士なんだから一緒に居なきゃじゃん?」

「そこまで気を使わなくても」

「ダメだよ。多分兄貴が限界。夜な夜な亜美の部屋に忍び込んでたし……」

「おいこら黙れ信次、てか気付いてたのかよ」


 え、京平ってば、私の部屋に忍び込んでたの?

 でも、寝れてない時は巡り合ってないし、私が寝れてないのとか、どうやって見抜いたんだろう?

 いや、そこじゃなくて、何で忍び込んでいたのだろう?


「で、何してたの?」

「亜美の寝息が聞こえる時は、忍び込んでおでこにキスしてました」

「何してんの兄貴、バカじゃないの?!」

「これでも耐えた方だ。許せ」


 あ、あれ、夢じゃなかったんだ。

 本当に京平がキスしてくれていたんだね。


「亜美、照れるとこじゃないよ! 引くとこだよ!」

「や。だって、素直に嬉しくて」

「このバカップルめ!」


 という訳で夜22時から、私と信次の部屋の入れ替えが始まった。

 京平の私物の方が多いからそうなったみたいなんだけど、私達のが長くこの家にいるのに、京平の私物のが多いってなんか不思議だね。

 当然、その原因となった変態彼氏の京平は、めちゃめちゃに働く事になった。

 なんなら荷物は全部京平が運んで、私達は掃除しかしてない。

 あ、彼氏って響き、なんかいいね。変態だとしても。


「ふー。なんとか終わった。てか亜美、私物少なすぎない?」

「あんまり自分のものに興味がなくて」

「そう言えば初任給も、僕達にプレゼント買って来てたもんね」

「いつもお世話になってるもん、当たり前だよ」


 洋服は京平達が居ないと買えないし、メイクも買い足したり変えたりしないという、女らしさゼロの私は、確かに私物が少ない。

 代わりに本は結構あるんだけど、京平のがその3倍は本があるらしくて、本棚も余裕で持ち上がったみたい。

 医学の勉強用具、まだ取られたまんまだし、これを機に買い直そうかな?


「さ、あとはお2人でごゆっくり。僕お風呂に入るから」

「ありがとな、信次」


 こうして、私達家族は、またひとつ形が変わったけれど、相変わらずで本当に良かった。


「これからは彼女としてよろしくね」

「俺も、至らないけど彼氏としてよろしくな」

作者「というわけで、やっと亜美と京平が結ばれました。おめでとん」

亜美「記念日は12/7っと」

京平「色々至らない俺だけど、亜美を幸せにする」

のばら「亜美を泣かせたら承知しませんわよ」

信次「亜美はずっと兄貴を想ってたんだからね」

京平「笑わせてあげたいな。もっと沢山」


作者「亜美は結ばれましたが、物語はまだまだ続きます」


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