新しい形
俺と、一緒になって下さい。って、恐らく京平なりの付き合ってください、だよね。
京平、すきも愛してるも付き合っても言わずに、キスで告白するなんて。照れ屋すぎるでしょ。
「ありがとね、京平。私からも言いたい事があるんだ」
「うん、聞かせて」
返事の前に、私も京平を愛してるって伝えたい。
正直夢が叶った安堵感と高揚感で、胸がいっぱいなんだけど、これは伝えなきゃ。
「私ね、負けず嫌いなのもあるから、本当は甘えるの凄く苦手なんだ。なんか、ほら、負けたって感じがするから」
「ああ、自分から甘えた事ないよな、亜美は」
それで京平にも迷惑を掛けてるんだけど、私は自分から甘える事が出来ない。
迷惑かけたらどうしよう、とか、甘えたら負けだぞ、とか、色々考えて甘えるのを諦めちゃう。
「でも、京平はそんなとこも汲み取って、甘えさせてくれたよね。凄く嬉しかったよ」
「そうでもしないと、無理するからな。亜美は」
「京平だから、私、甘えられたんだよ」
京平だからこそ、誰よりも味方をしてくれて安心出来る優しい京平だからこそ、私はいつも助けられて来たんだよ。
「私がいじめられてた時も本当に頑張ってくれて、夜も寝ないで……。京平はそれなのに、上手く出来なかったって、私の為に悔やんでくれて。俺頑張ったし! って、偉そうにしてもいいとこなのに」
「あの時は本当にごめん。俺が怒ってさえいなけりゃ、クラスメートとも仲良く出来たかもなのに」
京平、まだ気にしてくれてたんだ。
保健室登校になってからは、対象が見えなくなっていじめも落ち着いたし、自主学習も私に合ってたし、京平は休みの時に保健室へ来てくれて、勉強も見てくれてたのに。
もう充分すぎるくらい、優しいのに。頑張ってくれてたのに。
「ううん、私の為に怒ってくれたし、私の為に悔やんでくれたし、そんな優しい人間らしい安心出来る京平が、私は大切なんだよ」
「亜美……」
私は京平を抱きしめた。世界一の愛してるを、伝えたかったから。
「京平、目、つぶって」
「ん、どした? こうか?」
解ってる癖に、とも思いながら、私は背伸びして、背伸びして……どうしよう、届かないや。
「で、座って」
「ふふ、はいよ」
あ、これ、届かなかった事見抜かれてるやつだな。本当に決まらない私だなあ。
私は、座った京平を引き寄せて、京平の唇にキスをする。
私の愛してるの長さと同じくらいの長さで、キスが出来たらいいなと思って。
呼吸と呼吸をもう一度、私達は分け合った。
ただ、京平はちょっと意地悪で、私の口の中に舌を入れてきた。え、これ、どうしたらいいの?
もうおバカ、私も舌入れちゃうもんね。どんなもんだい!
そして私は、京平を見つめる。なんだかすごく優しい気持ちになれてる気がするよ。
「ずっと前から世界で1番愛してる。ずっと一緒にいて下さい」
これで私の愛してるは、ちゃんと京平に伝わったかな? 少しでも伝わってるといいな。
と、思ったら。
「うん、知ってたよ」
「え」
嘘、あの激鈍いことを同期の麻生先生からも認定され、のばらの気持ちにも気付けずに悔やんでたあの京平が?
「嘘おっしゃい」
「や、本当。俺が凹んでた時、"だってそれも含めて京平じゃん。私はそれも受け止めたいから。でも、そんな時は側にいるから"って、そんなの愛してるやつにしか言わないだろ。ありがとな」
「え、じゃあ昨日の……」
そっか、昨日京平と話してた時点で、京平は私の気持ちに気付いてくれていたんだ。
思い返せば、だからこそ手を頻繁に恋人繋ぎしてくれたり、抱きしめられたり、なんなら告白の時にキスしてくれたのか。
「ギリギリになっちゃったけど、亜美の愛してるに気付けて良かった」
「本当にギリギリすぎるよ。でも、ありがとね」
まさか気付いてくれてるとは思わなかったよ。
「という訳で、亜美のが鈍いって事になるな」
「グサッ」
「ぶっちゃけ、「目、つぶって」の時点でも気付いてなかったろ?」
「グサッグサッ」
「激鈍亜美ちゃんだな。マジかよって思ったわ」
「本当だね、自分の事なんだけど、やばい笑える」
本当におかしいよね。京平めちゃめちゃアピールしてくれてたのに、全然気付いてなかったよ。
ただただ嬉しいって気持ちでいっぱいだったよ。
「俺だってずっと前から亜美の事、想ってたんだからな」
「私は9年前からだもん」
「マジかよ。俺も9年前から……じゃあ、俺達無駄に9年間両片思いしてたって訳?」
「お互い遠回りしてたんだね」
本当に上手く出来ないね、私達って。
でも、今になったからこそ、私も京平も、よりお互い寄り添い合える気もするんだ。
ん? 9年前は私、12歳だよね?
当時付き合っていたら、京平ロリコンになっちゃう。
「9年前だと京平ロリコンになってたから、良かったんじゃない? よく考えたら」
「亜美だから惚れたんだよ、悪いか! ロリコンじゃねえよ。どんだけ自制するのに苦労した事か」
「じゃあ、私達の部屋を分けたのも?」
「俺が耐えきれそうになかったから! 俺も男だ、許せ」
そうだったのか。
突然、亜美も来年中学生だし部屋そろそろ分けるか、って言われた時は、辛すぎてめちゃくちゃ泣いたんだけど、そう言う意味で私を守ろうとしてくれてたんだね。
お主も可愛いとこあるじゃないか。
「後、俺達これから付き合うんだし、亜美はもうちょっと甘えろよ?」
「そういう京平は、もっと自分を大切にしてね? 無理しないで」
「じゃ、そう言う時は甘えにいくわ」
「根本的な解決じゃ無い気がするけど、いいよ」
これから恋人になる上で、今まで出来なかった事も出来たりして、戸惑う事もあるだろうけど、私達らしく寄り添えたらいいね。
私も、無理しないで甘えられたらいいな。
「これからも一緒にいてね」
「絶対離さない」
京平は、私を抱きしめた。
離さない、の言葉は、京平の想いと共に腕を通して伝わってきたよ。
私も、京平を抱きしめた。
一緒にいてね、って気持ちが、私も腕を通して伝えられているといいな。
◇
「「ただいまー」」
「ほ、ほはえりははひ」
信次は何か食べていたのか、きちんと喋れてない状態でお帰りを言ってくれた。
「あ、お邪魔してまーす」
「のばらもいますわ」
どうやら、皆で晩御飯を食べていたみたいだ。
もう21時なのに、やっとご飯とはかなりお疲れ様だね。勉強も大変だなあ。
「え、いま晩御飯なの?」
京平もかなりびっくりしている。
「海里がやばくってさ。ね、のばらさん」
「修羅場を越えましたわ……」
「サーセン、おふたりとも。感謝してまーす」
教える側は、かなり壮絶な何かがあったらしい。
のばらも信次も、かなり疲れた顔をしている。
「お、何作ったんだ? 信次」
「兄貴達には申し訳ないんだけど、すき焼き。のばらさんが良い肉買って来てくれてさ」
「のばら財閥ですわ」
自分で財閥って言っちゃうのばらであった。
恐らく、晩御飯の材料の買い出しを頼まれて、食欲に負けて自腹切って良いお肉買ったんだろうなあ。
また機会があればのばらに聞いてみよっと。
「マジか。たまたまなんだけど俺達もすき焼きだったよ」
「なーんだ、申し訳ない気持ちで食べてて損した。今からいっぱい食べよ」
「まだお肉ありますわよ」
「割下また作らなきゃだね」
まさか晩御飯が被るなんて、どんだけ仲良し家族なんだろうね、私達。
「そうだ、皆に話しておきたい事があるんだ」
「え、兄貴どうしたの?」
話しておきたい、と言いつつ、京平は顔を真っ赤にして、何も話そうとはしなかった。否、話せなかった。
その代わりに、必死の思いでピースしていた。
京平は、やり遂げたって顔をしている。
「京平、ちゃんと話した方が」
「なんか照れるんだよ。これで伝わるだろ?」
伝わる訳がない。コミュ障が過ぎる。
皆頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「えー、私から話します。私達、付き合う事になりました」
やだ、確かに言うのめちゃめちゃ照れる。後追いで顔が真っ赤になってきた。
私は恥ずかしい気持ちになって、そのまま腰が抜けてしまう。床に両太ももがくっつく。
そんなリアル腰抜けな私に、飛びついてきたのはのばらだった。
「亜美よかった、おめでとうございますわ」
「のばら、ありがとね」
「心配してたのですわ。確かに深川先生は亜美の事、凄く優しい目で見てたけど、それでも何があるか解らないから不安でしたの」
のばらは早口で捲し立てると、わんわん泣き出した。
のばらは昨日同じ相手に告白して玉砕してるから、私に恨み節のひとつくらい吐いたっていいのに、そうじゃなくて私の為にこうやって泣いてくれている。
本当にのばら、ありがとね。私、夢が叶ったよ。
のばらと友達になれて、本当に良かった。
「深川先生は、亜美の事を愛していたのですわよね?」
「のばらさん、知ってたのか?」
「ずっと見てましたもの。解りますわ。そして、こんな素敵な女性は他にいないのですわ」
振られるのは解ってた、って昨日のばらは言ってたけど、京平が私を愛してる事を解っていたんだね。
私より鋭いとは、やりおるなのばら。ほらそこ、亜美は鈍すぎって言わないの!
「じゃあ、兄貴が前に眠れなかったの、って」
「亜美が酔いながら、愛してる人がいるって言ってるのを聞いて、絶句して眠れなくなって」
「完全な両片思いじゃん」
ああ、私の酔いどれ発言は、京平を勘違いさせるだけじゃなく傷付けていたのか。
本当に京平には申し訳ない事をしてしまったなあ。
「でも、デートしてくれるなら、まだチャンスはあるんじゃね? って、気持ちを持ち直した」
「その時点で気付いてよ、兄貴!」
「気付いたぞ、昨日ちゃんと」
「遅いよ、激鈍兄貴!」
「遅くねえよ。亜美なんて"目、つぶって"の時点ですら」
「はいはいはい、2人とも落ち着こうね?」
京平め、自分が激鈍言われたからって、私の超絶激鈍をバラす事はないじゃないか。
確かに私のが激鈍だった事は事実だし、やらかした本人も笑えるレベルだけどさああ。
な、何とか、誤魔化せた、よ、ね?
「亜美、兄貴、おめでとう。まさかの両思いだったなんてね」
「ありがとね、信次」
「あ、俺からもおめでとうっす」
「海里くんもありがと」
良かった、何とか誤魔化す事には成功したぞ。
「あ、後、色々あって京平は今日から断酒する事になったから、信次も見張っといてね」
「じゃあ、のばらさんに兄貴の酒全部あげるね。良いお肉買って来てくれたし」
「有難うございますわ。山田をここまで迎えにこさせなきゃですわ」
「お、俺のた、楽しみが……」
やっぱり簡単には酒への未練は消せないか。でも、断酒頑張ってほしいな。
「来週はレモンパイ焼くから、断酒頑張ってよね」
「お、ありがとな、亜美。頑張るよ」
「来週は僕が買い物に行かなきゃ。亜美だと買いすぎる……」
「多い分には俺食べるぞ?」
「兄貴は食べ過ぎ!!」
◇
「それではお邪魔しましたわ。お酒も有難うございますわ」
「お嬢様、酒類は私が車に積みますゆえ、車にお乗り下さい」
「有難う、山田。じゃあ、また明日ですわー」
「また明日ね、のばら」
一足先に、のばらは執事の山田さんが来たので帰宅していき……。
「じゃあ、俺も帰ります。お二人ともお幸せに」
「ありがとな、海里くん」
海里くんものばらが帰った後、続けて帰っていった。
「さて、今からが忙しいぞ」
「え、何が?」
信次が腕まくりし始めた。
え、何か忙しくなることなんてあったっけ?
京平も私も、解らないでいた。
「亜美と僕の部屋入れ替えるの。恋人同士なんだから一緒に居なきゃじゃん?」
「そこまで気を使わなくても」
「ダメだよ。多分兄貴が限界。夜な夜な亜美の部屋に忍び込んでたし……」
「おいこら黙れ信次、てか気付いてたのかよ」
え、京平ってば、私の部屋に忍び込んでたの?
でも、寝れてない時は巡り合ってないし、私が寝れてないのとか、どうやって見抜いたんだろう?
いや、そこじゃなくて、何で忍び込んでいたのだろう?
「で、何してたの?」
「亜美の寝息が聞こえる時は、忍び込んでおでこにキスしてました」
「何してんの兄貴、バカじゃないの?!」
「これでも耐えた方だ。許せ」
あ、あれ、夢じゃなかったんだ。
本当に京平がキスしてくれていたんだね。
「亜美、照れるとこじゃないよ! 引くとこだよ!」
「や。だって、素直に嬉しくて」
「このバカップルめ!」
という訳で夜22時から、私と信次の部屋の入れ替えが始まった。
京平の私物の方が多いからそうなったみたいなんだけど、私達のが長くこの家にいるのに、京平の私物のが多いってなんか不思議だね。
当然、その原因となった変態彼氏の京平は、めちゃめちゃに働く事になった。
なんなら荷物は全部京平が運んで、私達は掃除しかしてない。
あ、彼氏って響き、なんかいいね。変態だとしても。
「ふー。なんとか終わった。てか亜美、私物少なすぎない?」
「あんまり自分のものに興味がなくて」
「そう言えば初任給も、僕達にプレゼント買って来てたもんね」
「いつもお世話になってるもん、当たり前だよ」
洋服は京平達が居ないと買えないし、メイクも買い足したり変えたりしないという、女らしさゼロの私は、確かに私物が少ない。
代わりに本は結構あるんだけど、京平のがその3倍は本があるらしくて、本棚も余裕で持ち上がったみたい。
医学の勉強用具、まだ取られたまんまだし、これを機に買い直そうかな?
「さ、あとはお2人でごゆっくり。僕お風呂に入るから」
「ありがとな、信次」
こうして、私達家族は、またひとつ形が変わったけれど、相変わらずで本当に良かった。
「これからは彼女としてよろしくね」
「俺も、至らないけど彼氏としてよろしくな」
作者「というわけで、やっと亜美と京平が結ばれました。おめでとん」
亜美「記念日は12/7っと」
京平「色々至らない俺だけど、亜美を幸せにする」
のばら「亜美を泣かせたら承知しませんわよ」
信次「亜美はずっと兄貴を想ってたんだからね」
京平「笑わせてあげたいな。もっと沢山」
作者「亜美は結ばれましたが、物語はまだまだ続きます」