世界一簡単な愛してる
「さあ、この後はどうしようか?」
「どっか夜景の綺麗なとこに行く予定だった!」
「どっか、とは?」
「区内の通りとか綺麗なんじゃないかな?」
という訳で、私の告白場所は区内の通りに決めた。
今はクリスマスの白いイルミネーションでキラキラしてて綺麗だから、ロマンチックだよね。
ムードも上がるよね。最高だよね。
ただ、そんな事を考えるのは、私だけじゃなかったようで……。
「めちゃくちゃ混んでるな」
「嘘、まだ12月7日なのに」
イルミネーション目当てのカップル達が、各々抱きしめあったり、自撮りしたり、キスしあったりと、大混雑だった。
こ、こんなに居るなんて聞いてないよぉ。
「これじゃ、夜景を見るどころじゃないな」
「どうしよう……」
勿論これでは、告白どころでもない。
「しゃあねえな、場所変えるか」
「え。なんかアテがあるの?」
「任せなさい。タクシー!」
京平は走っていたタクシーを呼び止め、行き先を告げる。
「見晴らしの丘までお願いします」
見晴らしの丘? 聞いた事ない場所だなあ。
どっかの公園かなあ?
疑問に思いながらも、私達はタクシーに乗り込む。
「ねえ、どんな場所なの?」
「ライトアップとはちょい違うけど、夜景は綺麗だぞ。亜美を連れてきた事は無かったもんな」
「え、他は誰と?」
「1人だよ!悲しい事言わすな」
じゃあ、自分の気持ちを穏やかにする為に、昔通っていたのかな?
そんな京平を想像すると、なんだか可愛いな。
よし、可愛いついでに、写真おねだりしてみよっと!
「現地に着いたら、京平の写真撮ってもいい?」
「だから前も言ったけど、1人で写真撮るなんてバカみたいだろ?」
「はいチーズ!ってやるからあああ」
「よりバカさが増すわ、バカ」
うう、なんか乗ってくれなそうだ。しょんぼり。
いや、しょんぼりしてる場合じゃないぞ亜美。
私には告白というミッションが待ってるのだから。
恋して11年、愛して9年の思いを乗せられるように。
あああああああ、ドキドキしてきた!
のばらも、こんな気持ちだったのかな?
「はい、着きましたー」
タクシーの運転手の声と共に、京平はサッとお金を払う。
「あ、私も出すよ」
「こういう時は素直に甘えなさい」
「あ、ありがと」
「よろしい」
結局京平は、タクシーのお金を全額出してくれた。
そういえば漫画喫茶でも、私お金払ってない!
無茶苦茶京平に甘えてんじゃん、今日!
大人の女性として、恥ずかしいやつじゃん!
私は再び、しょんぼりする。
私達がタクシーを降りると、タクシーは次の街へ旅立っていった。
で、見晴らしの丘に着いたのだけど、灯台の様な建物が立ち塞がり、とてもじゃないが夜景なんて見えなかった。
「え、夜景なんて何処にあるの?」
「こっから秘密のルートを通るんだよ」
京平は、私の手を繋ぐと、茂みが刈られた道を少しずつ選んで、まるで迷路を渡るように私を連れて行った。
そこまで入り組んだ道ではないものの、一歩間違えば迷ってしまいそうな、そんな道。
「着いたよ」
辿り着いた場所は、街全体を見渡せる場所だった。
夜の街が赤、青、白、黄色と、星のように輝いては消え、輝いては消え、煌めいている。
確かにライトアップじゃないけど、一面に広がる景色が本当に綺麗。
こんな綺麗な夜景、初めてみたよ。
「うわあ、綺麗な夜景だね」
「だろ?」
私は写真が撮りたくなって、スマホを取り出した。すると。
「後な、亜美。学習しような?」
「ん?」
「はいチーズ!!」
と、京平が言うと、その瞬間私のスマホを奪い、私を引き寄せて写真を撮った。
そうだ、確か前もこんな感じで写真撮られたっけ。
あの時は京平のスマホだったけど。
「俺、2人で撮る分には拒否ってないからな」
「ちょ、びっくりするじゃん」
「学習能力のない亜美が悪い」
ちょ、こんな場所でディスる事ないじゃん。
全くロマンチックが解らん京平だなあ。
「後で写真送れよ」
と言いながら、京平はスマホを返してくれた。
「勿論送るけどさあ」
あー。なんだかんだで嬉しいんだけど、なんだかなあって感じだなあ。
もー、京平のおばかあああああ。
と、私が心で怒っていると、京平が語り出した。
「実はここ、俺の秘密の場所。思い出の場所っていうかな」
「思い出の場所なんだね」
「そ、だから亜美を連れて来たんだ。大切な場所だから」
大切な、場所?
「俺の両親との最期の思い出がここなんだ。寂しい時は大体ここに来てたかな」
「今は、寂しくないよね?」
「だな、今は亜美がいるしな」
そんな大切な場所に連れて来てくれたんだね。
京平の「寂しくない」に、私も力になれてて良かった。
「私も、京平のお陰で今まで寂しくなかったよ。あの時、家族になってくれてありがとね」
「亜美に逢えて、本当に良かった」
京平が優しく笑った。
京平はよく笑う人だけど、こんな優しい顔、今まで見た事なかった。
何かが、いつもと違った。
「それに、今日の亜美可愛いし」
「え、なんか京平から初めて言われた気がする。可愛いって」
「今日1日ずっと思ってたよ、本当は」
朝は、馬子にも衣装とか言ってたのに。
もうのばら様様だよ。ありがとうのばら。可愛いって言って貰えたよ。
こんな私を可愛くしてくれて感謝しかないよ。
「ありがとう、なんか照れるなあ」
「本当の本当は今日だけじゃなくて、ずっと可愛いって思ってた」
「え」
それって、どう言う意味なんだろう?
やっぱり、妹としてずっと可愛いって思ってたって意味なのかな?
だとしたらちょっと凹むけど、今まで家族として凄く大切にしてくれているし、落ち込む事はないぞ、亜美。
取り敢えず、聞くだけ聞いてみようかな?
「それって、どういう意味で?」
「そろそろ気付けよな、バカ」
え、気付け、って、何に?
「目、つぶって」
私は言われるがまま、目をつぶった。
また顔でも引っ張るのかな?
すると京平は、私の顔を自分の顔に引き寄せ、私の肩を掴んだ。
京平の吐息が、私の髪をふっと撫ぜる。
かと思った瞬間、京平の唇と私の唇が優しく触れ合う。
それは、呼吸と呼吸を分け合うように。
「え」
私は驚きのあまりきょとんとしていると、京平が今までにない真摯な面持ちで、私を見つめる。
「俺と、一緒になって下さい」
こんなの聞いてないよ。夢じゃないよね?
京平は世界一簡単に、私に愛してるを告げたのだった。
亜美「……」
作者「放心状態だな。読者の皆様はとっくに勘付いてましたよね?」
信次「亜美も鈍かったんだな」
京平「ふ」
作者「兎に角おめでとうだね。次回は亜美のわかりきった返事パートです」