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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
心の動く時
251/251

友との出逢い(雪目線)

 こうして、皆で観覧車に乗る。私達と、信次と海里と冴崎さん、真くんと磯部さんの組み合わせで。

 思えば私が私を貫き通してしまったから、信次、のばらさんとデートらしいことできなかったよなあ。またお詫びしなきゃ。

 

「あ、観覧車来ましたよ」


 ボーっとしすぎてた。私は慌てて観覧車に飛び乗る。あ、やばい。足を踏み外しそう……。


「っと、危なかったですね。ゆっくりいきましょう」


 あ、友が私を支えて助けてくれた。どうしよう、胸の高鳴りが止まらないよ。想いが次々に溢れ出してくるよ。

 私は顔の火照りを隠しつつ、友に手を引かれながら観覧車に乗り込んだ。


 不意に私は昔の記憶を思い出す。私がスノーって名乗っていたころのこと。


挿絵(By みてみん)


 ◇


 時は新緑鮮やかな5月、なのだが、面接会場の位置が全く判らない。私は、五十嵐病院の入り口で、迷いに迷いまくっていた。

 私は医者の試験までの繋ぎとして育児センターでバイトをしたくて、面接までこじつけたのだけど、その位置が全く解らなかった。

 病院の診察室などの配置や作り方も、アメリカにいた時とは違って、全く察しすらつかない、のだが。


「Excuse me, could you please give me directions?(すみません、道を教えてください)」


 ああ、皆はてなマークを浮かべて、私を無視していくや。当時の私は英語しか喋れなかった上に、髪はボサボサで目を覆っていた上に、分厚い丸メガネ、スーツは着ているものの、綺麗には着こなせて無かったし。

 それも今だから解ることで、昔はなんでこんなに無視されるのか解らなくて、凄く苦しくなっちゃって、その場に私は蹲ってしまった。

 今にも泣きそう。今にも倒れそう。でも、それはダメって、私なりに耐えようとしていた。

 何度もエクスキューズミーを唱えながら。

 でも、そんな時だった。


「What's the matter?(どうされました?)」


 あ、初めて私に話しかけてくれている。私はようやく顔をあげることができた。不意に、涙も溢れてくる。助けて貰えたことが、とても嬉しかったんだ。

 この人に、頼ってみよう。


「Where is the interview location for the childcare center?(育児センターの面接会場は、どこですか?)」

「This way. I'll show you the way(こちらです。案内しますよ)」


 その人は手招きをしながら、私を育児センターの面接会場、まあ育児センターだった訳だけど、そこまで案内してくれた。何度も大丈夫だよって、イッツオッケー、って言ってくれながら。多分私が不安で泣いていたんだと、心配してくれたんだろうなあ。

 当の私は気にしちゃうよなあって考えながらも、嬉し涙を止めることは出来なくてさ。

 ああ、こんな泣き顔で面接受けちゃダメなのになあ。

 と、少し涙が止まらない自分を不安視していると。


「Please have a handkerchief(ハンカチをどうぞ)

「Oh, thank you(あ、ありがとう)」


 その人はハンカチを貸してくれた。汚しちゃまずいかなあ、ってモゾモゾしてたんだけど、その人は自分の顔をちょんちょん、と指差す。

 拭いていいよって言ってくれてる気がした。

 私はハンカチで思い切り自分の顔を拭いて、いつもの私に戻ることが出来たんだ。


 こうして案内されるがままに歩いていくと、病院の入り口から50mくらい離れた先に、育児センターの入り口が見えてきた。

 なんだあ、こんなに近かったんだね。私は胸を撫で下ろす。これも、この人のおかげだね。あ、ハンカチ……は、もうぐしゃぐしゃ。このまま返す訳にはいかないよね。

 私はハンカチを洗って返したかったから、連絡先を聞こうとしたんだけど。


「If anything comes up, please feel free to contact me anytime. This is my LIME contact(何かあったときは、いつでも連絡してくださいね。これ、僕のライムです)」


 ああ、日本人はライムでよくやりとりするんだっけ? 一応入れておいてて良かったよ。私はその人のQRコードを読み取って、ライムに登録する。良かった、これでハンカチ洗って返せるね。


「Thank you very much. I'll wash the handkerchief and return it(ありがとうございました。ハンカチ洗って返しますね)」

「Thank you for your consideration. My name is Yu Hibino. I look forward to working with you(お気遣い感謝します。僕は日比野友です。これから、宜しくお願いします)」


 ひびのゆうさん、かあ。ひびのさんはそういうと、笑顔でその場を後にしていく。


 満たされた私は、私らしく面接を受けることが出来て、無事育児センターで働けることになった。

 その時に髪の毛のことを指摘されて、私がかなり場違いな存在だったことも気付くことが出来たのだけど、そんな存在だったのに、ひびのさんは助けてくれたんだ……。


 それから、ひびのさん……ライム名を読むと、日比野さんかあ。

 日比野さんのライムに、案内してくれたこととハンカチのお礼をしたのがキッカケで、私が働くうえで困らないようにって、日本語を教えてくれたんだよね。

 ハンカチは返そうとしたんだけど、今は多忙すぎて受け取れないって言われた。ん、病院で落ち合うのは難しいのかなあ?

 私に会いたくない……くらい嫌いなら、日本語なんて教えてくれないよなあ?

 そんな疑問はあったものの、日比野さんは丁寧に日本語を教えてくれた。

 あの当時はライムの電話機能でよく会話してたなあ。


「スノー、thank youはありがとうですよ」

「あ、り、が、と、う」

「お上手ですね! Perfect!」


 スノーっていうのは、私が雪だからアメリカではそう呼ばれていて、それでライム名もそれにしたんだよね。

 そんなやり取りをしている内に、私は自然に日本語が使えるようになって、仕事も順調に覚えていって、ひよこ組さん以外も担当させてもらえるようになって、そして私はこの仕事に生き甲斐を感じるようになって、気付いたら正社員になっていたよ。

 全て、日比野さんのおかげだ。日比野さんのおかげでスムーズに世界が回ってる。


 そして私は、日比野さんに恋を覚えた。優しい日比野さんに。

 次に話す時は友って呼ぼうかなって考えながら、日比野さんとのライムに夢中になっていた私は周りを全く見ていなくて。その結果、目の前にあった電柱に気付かず……。


ーーゴッチーーン!!!


 ぶつかってしまった。顔が痛いよお。

 その時、スマホが手から離れていき、掴み損ね、あれよあれよと池に。


ーーボッチャーン!!!


「Oh my god!!!」


 ◇


 懐かしいなあ。クラウドを当てにしてなくて、いつもパソコンでバックアップ取ってたうえに、スマホ買い替えの時にしかしてなかったもんだから、そのときに友の連絡先、消えちゃったんだよね。ライムも日本に来てから入れたから、全部消えちゃってさ。

 翌日から友を病院で探し回ったけど、全然見つからなくて、あの時は三日三晩泣き続けたなあ。

 そのことを勝田さん、あ、当時は小暮さんか。小暮さんに相談したら、「可愛くなって、待てばいいよ」って言われてさ。

 多分小暮さんは、友がまた病院に戻ってくること、知っていたんだよね。私も、また会えたらいいなって気持ちで、初めて自分磨きをしようと思えたんだよね。少しは可愛くなれたかな?

 あ、そういえば、友は話したいことがあったんだっけ。私は聞いてみることにした。


「友、話したいことって?」


 すると、友は確信したような顔をして。


「僕たちが会ったの、料理教室が初めてじゃないですよ、ね?」

作者「みんなはきちんと、スマホのバックアップとろうな!」

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