番外編:蓮と朱音4
え、待て、今朱音、なんて言った? 俺を好きって。マジかよ、朱音も俺のことを好いてくれてただなんて。
嘘だろ、俺なんて全然相手にされてないって思ってたから、嬉しすぎて涙が止まらない。
返事しなきゃ、って解っているんだけど、涙が溢れ出すぎて、言葉が言葉にならないでいる。自分で聞いても、あぐあぐとしか聞こえねえし。
勿論こんな俺を見て、朱音はただ困惑していた。そりゃ告白したら、普通はイエスかノーでしかないのに、俺はわんわん泣いてるしな。
落ち着け、俺。朱音を心配させちゃ駄目だ。
「蓮、私、変なこと言い過ぎたかな」
あ、やべえ。朱音、違うんだ。でも、声にならない。ので、慌てて俺は店内で働く友達である皓太に、「ペンとメモ持ってきて」ってライムした。
確か今日はシフト入ってるって言ってたし。
皓太は計らずも状況を察してくれて、すぐにメモとペンを持ってきてくれた。
「おい蓮、ペンとメモってなん……おい、お前、大丈夫か?」
「私が告白したら、泣き出しちゃって。私のせいなんです」
俺は首をぶんぶん振る。違うんだ、すごくすごく嬉しかったんだよ。
俺はただただ嬉しい、ってことを、友達から受け取ったメモに書き記して、朱音に渡した。くそ、まだ涙止まんねえよ。
返事はちゃんと言葉にしたいから、続けて「落ち着くまで待ってて」とメモに残し、必死に涙を堪えようとする。ああ、鼻水まで出てきたし、格好つかな過ぎだろ。
「蓮、ちょっと外出ようか。風に当たれば涙も乾くよ。あ、もはや泪か」
と、俺は言葉を発せないので、ただ頷いた。確かにその方が鼻もかめるし、落ち着く気はする。
俺が頷くと、朱音が皓太に外に出る旨を伝えた後、俺の手を握りしめて俺を外まで誘導してくれた。
ああ、朱音の手、あったけえや。だんだん落ち着いてきたよ。
「もう、こんなに泣くことないのに」
俺の泪を、朱音が拭ってくれた。本当に情けなすぎるな、俺。俺は鼻をかみながら、深呼吸をする。うん、大分落ち着いて来たよ。
「ありがと、朱音。俺も朱音のこと、好き」
「えへへ、ありがとね。受け止めてくれて」
「違う、気付くのは遅過ぎたんだけど、ちゃんと朱音のことが好きなんだ」
俺は朱音を抱きしめた。本当は俺から言いたかったし、もっとスマートに対応したかったんだけど、感情が収まりきらないくらい、朱音のことが好きってことだぞ?
「あはは、私も泪出て来た。絶対相手にされてないだろうなって思ってて」
俺の腕の中で、朱音はわああっと泣き始めた。そっか、ずっと不安だったのか。それだけ前から、俺のことを好きでいてくれてたのか。
かなり不器用にここまで来ちまったけど、なんか俺達らしいよな。
◇
それから暫く俺達はお互い泣きあって、泪が枯れたところで店内に戻った。
店内に入ると皓太が、俺の肩に手を置いて。
「おめでと、蓮」
「ありがとな、皓太」
「はは、続きのメニュー出していくから、楽しみにしとけよ」
朱音と答え合わせしたら、朱音は俺が亜美に振られた直後、深川先生に言われて俺への気持ちに気付いたらしかった。
ただ、伝えるのは今じゃない、憔悴した俺を励ますのが第一だと考えたらしく、俺が笑えるようになるまでは、と、告白を封印してたらしい。
最近は俺の笑顔も増えたし、ディナーが美味しくて朱音も告白する勇気が出て、今だと思ったようだ。
それでも駄目元だったらしく、俺が泣き出した後は、ああ私が嫌過ぎたんだって不安にさせちまったみたい。
メモのおかげで、あ、これは。って、察せたようだけど。
俺なんて、一週間前にようやく気付いたもんなあ。朱音、本当にありがとな。
「蓮も私を好きってことは……あ、告白考えてくれてたの?」
「実は、そう。ディナーの後、連れて行きたい場所があって。そこで、俺からも言わせて」
「ありがとね、蓮。だいすき」
「俺も。だいすき」
付き合い始まって、早速イチャイチャし出すのも、なんか俺達らしいよな、って。
「ほらほら、冷めないうちにローストチキン食いな」
「うほ、丸ごとじゃん! ありがと、皓太」
「俺からのお祝い」
「テンションあがるね!」
「いま切り分けるからな」
焼きたてのローストチキンが、俺達の鼻をくすぐる。お互い同じように匂いを嗅いでるの、なんか胸がほっこりするよ。
ああ、俺、今とっても幸せだ。
ーーパシャ。
「ふふ、良い顔してんじゃん」
「だって幸せだもん」
「えへへ、私も!」
「薔薇108本用意する?」
「皓太、黙れ。送りたい気分だけどよお」
そっか、皓太は既に気付いていたんだな。朱音も俺が好きだって。
だからといって薔薇108本は重過ぎるんだけど、送りたくなってる自分の気持ちも確かにあって。
朱音、重たい俺でごめんな。
◇
「ふー、お腹いっぱい!」
「朱音が告白してくれたから、幸せにご飯食べられたよ」
「今思えば、八割がた緊張してたもんね」
「良いとこ見せたかったんだって。俺だって好きになって貰いたかったから」
「もう好きだったけどね」
そう話しながら、俺達はタクシーに乗り込む。ここからはちょっと離れているし、俺も散々泣いたから疲れちゃってさ。
朱音と相談して、それならって、タクシーで星が綺麗に見られる場所に向かうことになった。
「まさか一睡も出来てなかったとは思わなかったよ」
「朱音のこと考えてたら、眠れなくてさ。ごめん、ちょい寝かせて。疲れちゃった」
「電車でしか寝てないもんね。おやすみ、蓮」
「おやすみ、朱音」
俺はどさくさに紛れて朱音にもたれかかる。安心出来る場所が、こんな近くにあるんだなあ。
ああ、もう眠たくなったきたよ。ふふ、朱音がまたポンポンしてくれてるや。
そんな朱音だからって、こんなに頼る俺も俺だけどさ。でも、落ち着くから仕方ないな。
これからもこうやって頼るかもだけど、その分楽しませるから、覚悟しといてね、朱音。
「すー、すー」
◇
俺が朱音に頼りまくりながら寝ている内に、タクシーは次第に進み、目的地に近付いていく。もう何分くらい経つかな? 結構寝た感覚はあるんだけどさ。熟睡出来たのかな。
「ふわあ」
「あ、おはよ。蓮。もうすぐ着くらしいよ」
「おお、それなら起きられて良かった」
緊張が解けて眠れたおかげか、頭もかなりスッキリしてきた。正直、これから俺の告白をする訳だし、緊張しとけよって感じだろうけど、やっぱり、結果解ってるしな。
でもそれで良かったかもしれない。じゃなかったら、緊張で何も言えなかったかも。情けないな、俺。
よし、気を引き締めて、朱音に気持ちを伝えるぞ。俺は頬をパンっと叩く。
「結果解ってるし、普通に言ってくれればいいんだけどなあ」
「や。やっぱここは、さ」
そして目的地に到着した。既に窓から、満天の星空が見えていて、テンションがあがる。
「ありがとうございました!」
俺はクレジットカードでタクシーの料金を払うと、すぐにタクシーを出て朱音の手を取る。
「気をつけてな。結構段差あるから」
「ありがとね、蓮」
朱音が少し赤くなった。ん、照れるようなことは何もしてないんだけどなあ?
そんな朱音とそのまま手を繋いで、星が見えやすい場所まで歩いていく。
「ほら、朱音。空を見てごらん」
「うわああ。東京でもこんなに星、見られるんだね」
星を見ている朱音の顔も、満天の笑みとなって、俺は少し見惚れてしまった。
これからも朱音を笑わせてあげたいな。俺だけにその笑顔を見せて欲しいな。
俺は朱音を抱きしめて、思ったままを告げる。
「いつも相談に乗ってくれて、安心出来る朱音を愛してる。ずっと笑わせていくから、俺と付き合ってください」
スッと言葉に出来た。そう、俺は朱音を愛している。世界中の誰よりも。
「朱音を手離さないって、この星空と世界中の人達に誓うよ。ずっと一緒に歩いていこう」
俺がそう言うと、朱音のやつ、またわあああと泣き出した。朱音も何か言おうとしてるんだけど、涙が泪となり、溢れ出過ぎて言葉になっていないようだった。あぐあぐって聞こえる。
ふふ、気持ちが伝わったのは嬉しいな。俺は朱音をポンポンしながら、抱きしめ続けた。
本当俺達、泣いてばかりだな。何なら、俺も今、泣いてるや。
◇
「付き合ったばかりなのに、家に泊めてくれるのか」
「蓮なら信頼出来るもん」
俺があまりにも眠そうなのを見かねてか、朱音んちに泊まっていくことになった。
信頼してくれたのは嬉しいけど、俺耐えきれるかなあ。いや、その前に、めちゃくちゃ眠いや。
風呂だけは入らねえと。パンツはコンビニで買えたしな。
なんて思ってたんだけど、足がフラフラしてきた。眠気が限界みたい。
「ごめん朱音、もう寝てもいいかな?」
「あ、蓮も着れるパジャマあるよ。服は洗って乾燥機に掛けて、明日着られるようにしとくね」
「ありがとな。じゃあ着替えようかな」
パジャマ、と言って渡されたものは、朱音のパーカーと緩めのズボン。あ、でも確かにこれなら俺でも着られそう。何より朱音の服かあ。やべ、なんかニヤけちゃう。それに、着替えている内に安心してきて、より眠たくなってきた。
もう寝ちゃお。ソファーとかないかな?
俺がキョロキョロしていると。
「あ、ベッドはこっち。先に寝ててね」
「いや、何なら俺は床でもいいし、朱音が……」
「え、一緒に寝ちゃ駄目なの?」
「……いいの?」
「いいよ」
そんな訳で朱音が洗濯機を回した後、2人でベッドに入る。お風呂は明日一緒に入ろうね、って約束しながら。
「おやすみ、朱音」
「おやすみ、蓮」
ふわあ、駄目。もう限界。俺は瞬く間に眠りに付いた。こんなに幸せな気持ちで眠れるの、初めてかもしれない。
明日からも朱音と幸せな日々を過ごせますように。これからも、ずっとずっと。
「んごー。朱音、愛してる」
「私もだよ、蓮」
作者「番外編はこれでおしまい。みなさま、良いお年を!」




