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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
生理的に無理な人
242/242

番外編:蓮と朱音4

 え、待て、今朱音、なんて言った? 俺を好きって。マジかよ、朱音も俺のことを好いてくれてただなんて。

 嘘だろ、俺なんて全然相手にされてないって思ってたから、嬉しすぎて涙が止まらない。

 返事しなきゃ、って解っているんだけど、涙が溢れ出すぎて、言葉が言葉にならないでいる。自分で聞いても、あぐあぐとしか聞こえねえし。

 勿論こんな俺を見て、朱音はただ困惑していた。そりゃ告白したら、普通はイエスかノーでしかないのに、俺はわんわん泣いてるしな。

 落ち着け、俺。朱音を心配させちゃ駄目だ。


「蓮、私、変なこと言い過ぎたかな」


 あ、やべえ。朱音、違うんだ。でも、声にならない。ので、慌てて俺は店内で働く友達である皓太に、「ペンとメモ持ってきて」ってライムした。

 確か今日はシフト入ってるって言ってたし。

 皓太は計らずも状況を察してくれて、すぐにメモとペンを持ってきてくれた。


「おい蓮、ペンとメモってなん……おい、お前、大丈夫か?」

「私が告白したら、泣き出しちゃって。私のせいなんです」


 俺は首をぶんぶん振る。違うんだ、すごくすごく嬉しかったんだよ。

 俺はただただ嬉しい、ってことを、友達から受け取ったメモに書き記して、朱音に渡した。くそ、まだ涙止まんねえよ。

 返事はちゃんと言葉にしたいから、続けて「落ち着くまで待ってて」とメモに残し、必死に涙を堪えようとする。ああ、鼻水まで出てきたし、格好つかな過ぎだろ。


「蓮、ちょっと外出ようか。風に当たれば涙も乾くよ。あ、もはや泪か」


 と、俺は言葉を発せないので、ただ頷いた。確かにその方が鼻もかめるし、落ち着く気はする。

 俺が頷くと、朱音が皓太に外に出る旨を伝えた後、俺の手を握りしめて俺を外まで誘導してくれた。

 ああ、朱音の手、あったけえや。だんだん落ち着いてきたよ。


「もう、こんなに泣くことないのに」


 俺の泪を、朱音が拭ってくれた。本当に情けなすぎるな、俺。俺は鼻をかみながら、深呼吸をする。うん、大分落ち着いて来たよ。


「ありがと、朱音。俺も朱音のこと、好き」

「えへへ、ありがとね。受け止めてくれて」

「違う、気付くのは遅過ぎたんだけど、ちゃんと朱音のことが好きなんだ」


 俺は朱音を抱きしめた。本当は俺から言いたかったし、もっとスマートに対応したかったんだけど、感情が収まりきらないくらい、朱音のことが好きってことだぞ?


「あはは、私も泪出て来た。絶対相手にされてないだろうなって思ってて」


 俺の腕の中で、朱音はわああっと泣き始めた。そっか、ずっと不安だったのか。それだけ前から、俺のことを好きでいてくれてたのか。

 かなり不器用にここまで来ちまったけど、なんか俺達らしいよな。


 ◇


 それから暫く俺達はお互い泣きあって、泪が枯れたところで店内に戻った。

 店内に入ると皓太が、俺の肩に手を置いて。


「おめでと、蓮」

「ありがとな、皓太」

「はは、続きのメニュー出していくから、楽しみにしとけよ」


 朱音と答え合わせしたら、朱音は俺が亜美に振られた直後、深川先生に言われて俺への気持ちに気付いたらしかった。

 ただ、伝えるのは今じゃない、憔悴した俺を励ますのが第一だと考えたらしく、俺が笑えるようになるまでは、と、告白を封印してたらしい。

 最近は俺の笑顔も増えたし、ディナーが美味しくて朱音も告白する勇気が出て、今だと思ったようだ。

 それでも駄目元だったらしく、俺が泣き出した後は、ああ私が嫌過ぎたんだって不安にさせちまったみたい。

 メモのおかげで、あ、これは。って、察せたようだけど。

 俺なんて、一週間前にようやく気付いたもんなあ。朱音、本当にありがとな。


「蓮も私を好きってことは……あ、告白考えてくれてたの?」

「実は、そう。ディナーの後、連れて行きたい場所があって。そこで、俺からも言わせて」

「ありがとね、蓮。だいすき」

「俺も。だいすき」


 付き合い始まって、早速イチャイチャし出すのも、なんか俺達らしいよな、って。


「ほらほら、冷めないうちにローストチキン食いな」

「うほ、丸ごとじゃん! ありがと、皓太」

「俺からのお祝い」

「テンションあがるね!」

「いま切り分けるからな」


 焼きたてのローストチキンが、俺達の鼻をくすぐる。お互い同じように匂いを嗅いでるの、なんか胸がほっこりするよ。

 ああ、俺、今とっても幸せだ。


ーーパシャ。


「ふふ、良い顔してんじゃん」

「だって幸せだもん」

「えへへ、私も!」

「薔薇108本用意する?」

「皓太、黙れ。送りたい気分だけどよお」


 そっか、皓太は既に気付いていたんだな。朱音も俺が好きだって。

 だからといって薔薇108本は重過ぎるんだけど、送りたくなってる自分の気持ちも確かにあって。

 朱音、重たい俺でごめんな。


 ◇


「ふー、お腹いっぱい!」

「朱音が告白してくれたから、幸せにご飯食べられたよ」

「今思えば、八割がた緊張してたもんね」

「良いとこ見せたかったんだって。俺だって好きになって貰いたかったから」

「もう好きだったけどね」


 そう話しながら、俺達はタクシーに乗り込む。ここからはちょっと離れているし、俺も散々泣いたから疲れちゃってさ。

 朱音と相談して、それならって、タクシーで星が綺麗に見られる場所に向かうことになった。

 

「まさか一睡も出来てなかったとは思わなかったよ」

「朱音のこと考えてたら、眠れなくてさ。ごめん、ちょい寝かせて。疲れちゃった」

「電車でしか寝てないもんね。おやすみ、蓮」

「おやすみ、朱音」


 俺はどさくさに紛れて朱音にもたれかかる。安心出来る場所が、こんな近くにあるんだなあ。

 ああ、もう眠たくなったきたよ。ふふ、朱音がまたポンポンしてくれてるや。

 そんな朱音だからって、こんなに頼る俺も俺だけどさ。でも、落ち着くから仕方ないな。

 これからもこうやって頼るかもだけど、その分楽しませるから、覚悟しといてね、朱音。


「すー、すー」


 ◇


 俺が朱音に頼りまくりながら寝ている内に、タクシーは次第に進み、目的地に近付いていく。もう何分くらい経つかな? 結構寝た感覚はあるんだけどさ。熟睡出来たのかな。


「ふわあ」

「あ、おはよ。蓮。もうすぐ着くらしいよ」

「おお、それなら起きられて良かった」


 緊張が解けて眠れたおかげか、頭もかなりスッキリしてきた。正直、これから俺の告白をする訳だし、緊張しとけよって感じだろうけど、やっぱり、結果解ってるしな。

 でもそれで良かったかもしれない。じゃなかったら、緊張で何も言えなかったかも。情けないな、俺。

 よし、気を引き締めて、朱音に気持ちを伝えるぞ。俺は頬をパンっと叩く。


「結果解ってるし、普通に言ってくれればいいんだけどなあ」

「や。やっぱここは、さ」


 そして目的地に到着した。既に窓から、満天の星空が見えていて、テンションがあがる。


「ありがとうございました!」


 俺はクレジットカードでタクシーの料金を払うと、すぐにタクシーを出て朱音の手を取る。


「気をつけてな。結構段差あるから」

「ありがとね、蓮」


 朱音が少し赤くなった。ん、照れるようなことは何もしてないんだけどなあ?

 そんな朱音とそのまま手を繋いで、星が見えやすい場所まで歩いていく。


「ほら、朱音。空を見てごらん」

「うわああ。東京でもこんなに星、見られるんだね」


 星を見ている朱音の顔も、満天の笑みとなって、俺は少し見惚れてしまった。

 これからも朱音を笑わせてあげたいな。俺だけにその笑顔を見せて欲しいな。

 俺は朱音を抱きしめて、思ったままを告げる。


「いつも相談に乗ってくれて、安心出来る朱音を愛してる。ずっと笑わせていくから、俺と付き合ってください」


 スッと言葉に出来た。そう、俺は朱音を愛している。世界中の誰よりも。


「朱音を手離さないって、この星空と世界中の人達に誓うよ。ずっと一緒に歩いていこう」


 俺がそう言うと、朱音のやつ、またわあああと泣き出した。朱音も何か言おうとしてるんだけど、涙が泪となり、溢れ出過ぎて言葉になっていないようだった。あぐあぐって聞こえる。

 ふふ、気持ちが伝わったのは嬉しいな。俺は朱音をポンポンしながら、抱きしめ続けた。

 本当俺達、泣いてばかりだな。何なら、俺も今、泣いてるや。


 ◇


「付き合ったばかりなのに、家に泊めてくれるのか」

「蓮なら信頼出来るもん」


 俺があまりにも眠そうなのを見かねてか、朱音んちに泊まっていくことになった。

 信頼してくれたのは嬉しいけど、俺耐えきれるかなあ。いや、その前に、めちゃくちゃ眠いや。

 風呂だけは入らねえと。パンツはコンビニで買えたしな。

 なんて思ってたんだけど、足がフラフラしてきた。眠気が限界みたい。


「ごめん朱音、もう寝てもいいかな?」

「あ、蓮も着れるパジャマあるよ。服は洗って乾燥機に掛けて、明日着られるようにしとくね」

「ありがとな。じゃあ着替えようかな」


 パジャマ、と言って渡されたものは、朱音のパーカーと緩めのズボン。あ、でも確かにこれなら俺でも着られそう。何より朱音の服かあ。やべ、なんかニヤけちゃう。それに、着替えている内に安心してきて、より眠たくなってきた。

 もう寝ちゃお。ソファーとかないかな?

 俺がキョロキョロしていると。


「あ、ベッドはこっち。先に寝ててね」

「いや、何なら俺は床でもいいし、朱音が……」

「え、一緒に寝ちゃ駄目なの?」

「……いいの?」

「いいよ」


 そんな訳で朱音が洗濯機を回した後、2人でベッドに入る。お風呂は明日一緒に入ろうね、って約束しながら。


「おやすみ、朱音」

「おやすみ、蓮」


 ふわあ、駄目。もう限界。俺は瞬く間に眠りに付いた。こんなに幸せな気持ちで眠れるの、初めてかもしれない。

 明日からも朱音と幸せな日々を過ごせますように。これからも、ずっとずっと。


「んごー。朱音、愛してる」

「私もだよ、蓮」

作者「番外編はこれでおしまい。みなさま、良いお年を!」

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