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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
世界一簡単な愛してる
24/225

愛が育つとき(作者目線)

 こうして亜美達は、亜美の体調も考慮して、タクシーで我が家まで向かう。

 京平はタクシーの中で院長先生に連絡をしている。京平なりに今回亜美に起きた事を、重く受け止めているのだ。


「院長と相談して、1週間有給使う事にした。その間に亜美を守るからな」

「え、病院休むの?」

「今まで私用で有給使った事ないし、家族の一大事に仕事してらんねーよ」


 とは言え、京平はどのような手段で亜美を守るのか。亜美には全く解らなかった。

 それ以前に、相手が自分の病気を理解する気がないのに解決策なんてあるのか、とさえ思っていた。


「まずは亜美の病気を理解させる事からだな。内分泌代謝科の医者を甘くみんなよ、ガキども」

「ガキども言っちゃってるよ、この人」

「すでに保健室の先生には話はつけてあるから、亜美の学校全体と保護者に俺から病気について話してみるよ」


 昔から行動の早い京平である。まずは医者として出来る事、病気について説明をする事にしたみたいだ。

 既にこの時点で内分泌代謝科に勤務して、6年になる京平なら、少なくとも担任の先生よりは詳しく話してくれるだろう。


「亜美は暫く、学校を休んだ方がいいな。問題が解決するまでは」

「え、勉強ついてけなくなるからやだよー」

「俺が教えてやるから安心しなさい」


 確かにその方が賢明だろう。今のクラスメート達は亜美を異物としてしか見てないのだ。このまま通い続けても、亜美が傷付くだけだ。


「小学生のガキどもにも理解出来るよう、話は練らなくちゃな。ふっふっふ」

「京平、怖いよ」


 と、ここまで話し終えた所で、京平は話を変える。


「ガキども対策は、まずは話すと言う事にして……亜美、何か俺に隠してないか?」

「か、隠してないよ?」

「はい嘘ー。顔に出てるし、保健室の先生から裏は取れてんだよ。うりゃー!」


 京平は、亜美の顔を勢いよく引っ張った。


「痛いなあ、突然なにすんの」

「隠し事するからだ。正直に言いなさい」

「別に。朝ご飯全部食べてないだけだもん」


 全然別に、じゃないのだが、亜美は不貞腐れながら言う。


「お皿は空だったのに……あ、俺か信次の皿に盛ったのか?!」

「何故解った。お主天才じゃな」

「バカ、やるならやるでちゃんと言いなさい。低血糖になるだろうが!」


 既になっているんだよなあ、とは言えない亜美である。


「だって、太っちゃったからダイエットしたくて」

「成長期なんだから太るのは当たり前だ。明日からはちゃんとご飯食べろよ。お兄ちゃん悲しいぞ」

「ごめんね、京平」

「約束だぞ、バカ」


 こうして、亜美のダイエット大作戦は失敗に終わったのである。そもそも成長期にダイエットなんて無理に決まってるのだ。

 その分、背丈も伸び、身体付きも徐々に女の子から女性へと近付いているのだから。


 そんな話をしている内に、タクシーは家に着いた。


「有難うございました」


 タクシーの運転手は、京平からお金を受け取ると、颯爽と去っていく。


「まだ時間早いけど、晩御飯の支度しなきゃ」

「ダーメ。亜美は休んでなさい。無理はすんな」


 こういう時の京平は、本当に頑なで何もやらせてくれない。じゃあこれなら、と、亜美は次の作戦にでる。


「じゃあ勉強……」

「いいからご飯まで寝てるんだ」

「色々ありすぎたし、眠れないよ」


 亜美は確かに精神的にも体力的にもかなり疲弊していたが、頭の中が悪い方向にばかり動いてしまい、眠る事が出来なかった。

 現に京平にも迷惑を掛けてしまっている。


「しょうがないなあ。ほら、おいで」


 京平は亜美を布団に誘う。


「寝付くまで側にいるからさ」

「有難う、京平」


 京平は、亜美を抱きしめると、そのまま頭をポンポンする。大切で愛しい亜美が、眠れるように。


「落ち着いてきたかも。おやすみ、京平」

「おやすみ、亜美」


 疲れていた亜美は、京平の腕の中で、ぐっすりと眠り始めた。


「絶対守るからね、亜美」


 ◇


 しかし、いじめ事件はそれだけに留まらなかった。


「ただいま……」

「おかえり……って、信次、どうしたんだ?!」


 信次が帰ってきた。が、全身傷だらけだった。


「なんか、あみきんのおとうとーって言われて、石なげられてにげてきた。あれ? きょーへーなかばんだったよね?」


 なんと今回の件に無関係である信次にも、いじめの魔の手が及んでいたのだ。

 京平は信次を抱きしめると、また震え出した。正直、怒りを抑えるので精一杯である。


「あいつら、亜美だけじゃなく信次まで……」

「きょーへー、くるしいよ。どうしたの?」


 京平の心の中は憎しみでいっぱいだ。何よりも大切な家族をこんな目に合わせられて、冷静でいられる訳がなかった。

 もし仮にいじめっ子が側にいたら、生きては帰れないレベルだっただろう。


「ごめんな信次、力入りすぎた。大丈夫、お兄ちゃんが守るからな」

「ありがと、きょーへー」


 そして、信次にも亜美にあった事を話した。


「それなら、ねえちゃんにはぼくのことはいわないで。よけいくるしくなっちゃうから」


 幼いながら、信次の目は男の目をしていたし、本気だった。


「解った。俺との秘密な」

「やくそくだよ」

「それは兎も角、傷の手当てしないとな。さー、傷口洗うぞ」

「いたいのやだー」


 さっきの男の目はどこへやら。傷口が痛むのを恐れた信次は、涙目になる。

 が、京平お兄ちゃんは容赦なく信次を捕まえて、お風呂場で傷口を石鹸で優しく洗うのだった。


 ◇


「亜美、起きれるか?」

「京平、ごめんね……私のせいで。京平……」


 どんな夢を見ているのかは解らないが、夢の中でも京平に謝っていた亜美である。


「だから謝るなよ、生きてるだけじゃないか」


 そんな亜美の寝言にさえ、京平は反応せずにはいられなかった。

 最近低血糖が多いとは言え、亜美は生きる為に精一杯糖尿病の治療に取り組んでいる。本当に贔屓目なしに頑張ってる。

 そんなただ頑張ってる亜美を苦しめるだなんて……。差別とは本当に恐ろしいものだ。


 亜美が頑張っている事を、京平なりに伝えようと思っているが、差別心にどこまで立ち向かえるか。

 そこは話してみないと不透明だが、心配な部分だ。

 京平はそれでも戦うしかない、と腹に決め、亜美を強く抱きしめた。これ以上、亜美を傷付けさせる訳にはいかない。

 

「あ、おはよ。京平」

「ん、起きたか。おはよ」


 強く抱きしめたからか、亜美が起きて来た。顔に涙痕をいっぱい付けているのが、京平は悲しかった。どんなに酷い夢を見たのだろうか。


「どうしたの? 京平?」

「なんでもないよ、晩御飯食べれるか?」

「あんまり、食欲ないかも」


 無理もない。罵倒や差別心と戦った亜美の心は、疲弊しきっている。ご飯どころじゃないはずだ。

 それでも何とかご飯を食べさせないと。


「じゃあ卵粥作るから、それだけ食べてな」

「ありがとね、京平」

「少し待っててな、すぐ作るから」

「うん、待ってるね」


ーー良かった、お粥なら食べられそうだ。


 京平は安堵しながら、信次にもその事を伝える。


「亜美、食欲ないみたいだから卵粥食べさすよ」

「ねえ、きょーへー。ぼくもてつだっていい?」

「よし、一緒に作ろっか!」


 これが信次が、生まれて初めて京平との共同ではあるが作った料理になる。

 信次は不慣れながら卵を割ったり、卵を混ぜたりと初めてにしてはかなり上出来なお手伝いだった。


「ぼくがてつだったことは、ねえちゃんにはないしょね」

「なんだ。それも内緒なのか。了解」


 話せばいいのにな、とも思う京平だったが、信次はかなり照れくさそうにしていたので、黙っといてあげる事にした。


「亜美、卵粥できたぞー」

「ありがとね、京平」

「上半身だけ起きれるか」

「うん、大丈夫だよ」


 亜美はかなり辛そうではあったが、なんとか上半身をあげる事ができた。

 これなら卵粥を食べさせる事が出来る。

 京平は、卵粥をふーふーしながら、亜美に食べさせる。

 亜美は京平のおかげで、無事卵粥を食べる事が出来た。


「あ、注射と血糖測定してなかったや」

「俺がやっとくから心配すんな。眠れそうか?」

「うん、京平ありがとね」


 やっと亜美が笑った。家で少しずつ亜美の心の傷を癒していければ、と、京平は思う。

 

 京平は亜美が寝静まった後、亜美の耳たぶで血糖測定を行った。120。うん、丁度良い。

 そして亜美の腕に、インスリン注射を打つ。

 これを普段亜美は、1人で行っているのだ。


 そんな亜美の為に、ガキどもを納得させなくては。

 京平は強い気持ちで、説明用のプレゼン資料を夜なべして制作していくのであった。

作者「因みに、信次に起きたことは実話なのじゃ。いじめっこゆるさぬ。私の可愛い妹にまで!」

のばら「いじめって本当に怖いのですわ」

京平「この時の俺、若いから冷静だよな。今なら普通にぶちのめしてるから」

亜美「何かが退化してるよ、この人」

信次「色々あったからなあ」

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