飛び出していく
「うん、真が好き」
美紀さん、顔真っ赤だ。きっと今日言うって決めていたんだろうなあ。なんなら、公園の予約もしてたくらいだし、かなり前から計画してたんじゃないかな?いやあ、全然気付かなかったよ。
思わず隣にいる京平達を見たんだけど、皆冷静な顔をしてるや。あ、皆気付いていたんだね。ぶー、気付かなかったの悔しい!
「美紀さん、さっきもいったけども、おら、恋とか解んねえだよ? 美紀さんのこと、嫌いではないけんども」
「うん、知ってる。私のこと、好きではないよね」
え、美紀さん、真くんが美紀さんに気がないことを知ってて告白したの? 手応えがあって、じゃなかったんだ。でも、どうしてだろう?
「そもそも真は、恋愛感情が解らないんだよね?」
「んだな」
「だからさ、お試しで1ヶ月付き合わない? その間に、恋愛感情が私に湧かないなら、振ってくれて構わないからさ」
「それは、おらが美紀さんを、より傷付けないだか?」
確かにそうだ。少しはお付き合いできるというメリットはあるんだけど、いざ1ヶ月経って、真くんに恋愛感情が湧かなかったら、美紀さんは二度傷付くことになっちゃう。
でも、美紀さんは続ける。
「私も、私を良く知ってもらいたいからさ。ね、お願い……」
真くんは少し俯いて。
「解っただよ。恋人っぽいことは出来ねえかもしんねえけど、宜しくだよ」
「我儘言ってごめんね。ありがと……と、隠れてる皆さん、バレバレですよ?」
「何だ、気付いてたのか」
「深川先生隠れてるつもりだったんですか? 頭丸見えでしたよ」
「兄貴のバカ!」
バレた私達は、おずおずと隠れていた茂みから出て行く。
「そんな訳で、少なくとも私と真は、1ヶ月は恋人なんで、宜しくお願いします!」
「よ、宜しくだよ」
美紀さんはそう言いながら、真くんの手を握るのだけど、すごく震えてる。そりゃ、両思いではないもんね。拒絶されないか、怖いよね。
でも、真くんは優しい笑みを浮かべて。
「怖がらなくていいだよ。おら、嫌じゃないだよ」
「ありがとね、真」
「美紀さんといると楽しいから、これから楽しみだよ」
ん、意外と脈ありなのでは? いやでも、真くんは恋愛感情自体が解らないんだもんなあ。まだ友達としての楽しい、なんだろうなあ。
いやあ、友もまさか真くんに先を越されるとは思わなかったろうな。一応お付き合いだもんね。
「さ、早く戻りましょ。司達待ってるだろうしね」
◇
「ま、マジかよ、美紀」
「うん。1ヶ月だけかもだけどね」
あれ、東条くんがかなり不機嫌な顔してる。しかも、今しがた取ったお肉にも手をつけないで、頭を何度も掻きむしってるや。
そして、スッと立ち上がって。
「ごめん、俺帰るわ」
「え、どうしたの? 司!」
「自分の胸に手を当てて考えな、バカ」
「あ、送っていくだよ。司くん」
「いらねえよ」
東条くんはそう言うと、スタスタとその場を後にしていった。
美紀さんは追いかけようとしたんだけど、京平に止められる。
「美紀さん。なんで司くんがああなってるか、解る?」
「……解らないです」
「それなら余計司くんを傷付けるだけだから、そっとしてあげて」
「解りました。でも司、どうして?」
美紀さんが不安そうな顔を浮かべると。
「おらが追いかけるだよ!」
「あ、真!」
真くんは美紀さんの制止も振り切って、瞬く間に姿が見えなくなった。
私達も後を追わなきゃ。と、走り出そうとした所で。
「亜美、ここは真くんに任せよう。2人で話し合う必要もあるだろうしな」
「でも、急にあんな不機嫌な顔して……放って置けないよ」
「大丈夫。2人が帰って来たら笑わせられればいいんだよ」
つまり、京平的には私は話し合いには邪魔、だってことだね。でも、2人で話し合うことがあるってなんなんだろうなあ。
「しばらく待ってましょう。真くんならきっと大丈夫ですわ」
「そうだね、皆揃わないと楽しくないもんね」
「まあ、司くんが戻らなかったら片付けになるし、火は一旦消しとくかな。焼く気分でもないし」
京平はそう言いながら、炭を水の入ったバケツに次々と入れていく。確かに今の状態で、楽しくBBQって気分にはならないしね。
「亜美、ちょいこっちおいで」
「ん、どしたの、京平」
「いいから」
京平は私の手を掴むと、私を森の奥へと連れていく。そこで、ゆっくりと語り始める。
「一体どうしたの?」
「状況が状況だから、今の状態を説明するけど、司くんはおそらく美紀さんのことが好きなんだ」
「ほええ。って、え?!」
え、東条くん、美紀さんのこと好きだったの?!
またまた気付けなかったよ。何か私、前々から思ってたけど、色々と鈍いなあ。
「だから不機嫌になって、逃げ出したって訳。美紀さんが自分に気が無いって知ったショックもあったろうしな」
「そっか。だから、敢えて真くんだけ行かせたんだね」
「そ。司くんはかなり言いたいことがあるだろうしな」
でも、京平は何で私だけ呼び出したんだろう? 皆にも共有が必要なのでは?
「え、だって知らないの亜美と美紀さんだけだし」
「なんと」
「美紀さんにこれを言うのは違う気がしたから、亜美だけ呼び出したのさ」
「まあ、そりゃそうだよね」
それは東条くんが美紀さんに伝えなきゃいけないこと、だしね。今となっては、振られてしまう可能性が高いのだけれど。
「さ、そろそろ戻ろうか。話も終わったし」
「うん。共有ありがとね」
「何とかなるといいんだけどな」
友と蓮も、私が京平と付き合うって伝えた時は東条くんと同じ気持ちだったのかな?
私の場合は、前々から京平のことが好きだって相談してたから、下手したらもっと前から……。
今更ながら、申し訳ないことをしてしまったなあ。しかも2人とも、不機嫌になったりせず、普通におめでとうって言ってくれてたしなあ。
そんなことを思いながら、皆の元に戻った。
「時任先輩お帰りなさい、愛の語らいでしたか?」
「こんな時にそんな話はしねえよ」
「それもそうですよね。真も司も大丈夫かなあ?」
確かに。どんな話をしているんだろうか。
亜美「東条くん、大丈夫かなあ」
京平「真くんを信じよう」




