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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
生理的に無理な人
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伝わったかな?(京平目線)

 俺が病院に行くと、病院では天王寺さんと俺の話で盛り上がっていた。

 結局天王寺さんは、俺にした態度を咎められて、二日間の自宅謹慎になったようだ。愛さんもかなりご立腹のようで、減給も検討しているとの事。

 そこまでしなくても良い気はするけどな。

 問題は、何故俺がぶっ倒れた? に焦点が当たる。

 まあ、普通は抱きしめられただけで、気持ち悪くなったりはしないしな。繊細すぎる自分が疎ましいよ。

 ああ、それよりアイスコーヒー美味い。信次が昨日の夜、作ってくれたんだよ。ありがたいわ。


「それよりじゃないよ! 深川くんをあんなに追い詰めるなんて、許せないよ!」

「お、愛さん。でも今は元気だし、俺と天王寺さんが会わないようにしてくれれば、充分というか」

「そうそう。それを実現するために、深川くんのシフト貰いに来たんだったわ」

「ちょうどコピーしといた。でも、一度だけ天王寺さんと話し合いたいから、天王寺さんの謹慎開ける明日の午前中、時間空けといて」


 既に院長にも相談済みで、明日の午前中に、院長室を借りることになっている。

 理由は簡単、俺が仮に吐いたとしても、安心な部屋だからだ。

 他の部屋は清潔に保たなければいけないが、院長室は院長が嫌じゃなければ大丈夫だしな。院長には申し訳ないけど。

 洗面器も沢山用意してくれるらしい。地味にありがたい。絶対使うし。


「深川くんも頑張るわね。あの子のために、ここまでしなくて良いのに」

「自分の気持ちの問題だから、気にしなくていいぞ」

「変わってくれるといいわね」

「話を聞いてくれたらいいんだけどな」

「じゃ、今日もお互い診察頑張ろうね」

「おう」


 変わってくれたら、また患者様として向き合えるようになるのかな。

 もう生理的にキツいと、心で根付いてしまってるから、無理なのかな。

 どちらにしても、人として、医者として、今のままの天王寺さんではダメだから、導けるといいな。


 よし、診察頑張るぞ。


 ◇


「ふー。午前中も何とか終わったな」

「お疲れ様だよ、深川先生」


 今日は真くんが初めての担当だから、丁寧に診察してたけど、人当たりの良い真くんだから、安心して任せることが出来たよ。今年の看護師達も、皆優秀でなによりだ。

 12時ごろに亜美から、お父さんとクッキー焼いたから、昼に持ってくねってライムが来てたし、昼休憩を楽しみにしてたんだよな。

 さあ、ようやく昼休憩だ。亜美はもう待ってくれてるかな?

 俺が休憩室に入ると、亜美は座って待ってくれていた。俺はすぐに亜美の元へ向かう。


「亜美、お待たせ」

「京平、お疲れ様。はい、クッキーだよ」

「疲れてるから、甘いものは嬉しいよ。ありがとな」


 愛してる亜美の手作りクッキーだから、尚のこと嬉しいしな。亜美、いつもありがとな。

 今日の弁当も亜美が作ってくれたし、俺幸せ過ぎるな?


「京平もお弁当ありがとね」

「なんだ。まだ食べてなかったのか」

「京平と食べたかったんだもん」

「待たせてごめんな、亜美」

「診察だもん、仕方ないよ」


 ここ最近は、亜美や信次に頼ってばかりで申し訳ないよ。でも、だからこそ笑えてるからな。いつも有難う。

 こうして、2人仲良くお弁当を食べ始める。


「亜美の唐揚げ美味い」

「京平のだし巻き卵も、すっごく美味しいよ! 私、こんなに深み出せないもんなあ」

「え、亜美のも美味いぞ。いつも嬉しくなるし」


 亜美が作ったくれた、ってだけで美味いよ。嬉しいよ。こうやって、彼女の弁当を食べられるって幸せだよな。思わず俺は、亜美の頭を撫でる。


「もう、京平は私に甘すぎるよ」

「ん、結構厳しい方だぞ?」

「またまたあ」

「あー、弁当美味かった。クッキー食べよ」

「ホットコーヒーもあるよ」

「お、気が効くじゃん」


 クッキーだけじゃなくて、ホットコーヒーまで。俺が落ち込んだ時、亜美も信次もいつもこうやって慰めてくれる。それが本当に嬉しくて。

 自分のご機嫌取りが苦手だしな、俺。だからって、こんなにそれを亜美と信次にやらせてるのは、本当は良くないよなあ。


「京平どした? 考え事?」

「あ、いや、俺の機嫌取りを亜美や信次にやらせちまってるよな、って」

「え。そんなつもりはなかったけど。ただ、やりたくてやってるよ、私」

「え、そうなの?」

「少なくとも、このクッキーは作りたくて作っただけだよ?」


 そっか。ただ亜美が優しいだけか。いつも助けられてるな、俺。


「クッキー美味いよ」

「いっぱい食べてね!」


 ◇


 それから翌日、いよいよ天王寺さんとの話し合いが始まる。そして。


「私、邪魔じゃないかな?」

「寧ろ亜美が居ないと俺がキツい」


 最初は愛さんに同席を頼んでいたんだけど、診察が嵩んでいて厳しいとのことで、亜美に立ち会って貰うことにした。

 正直、亜美と一緒にいる時が1番安心出来るから。

 なんで同じ人間なのに、こうも安心感が違うんだろうな?

 思いやりの差だろうな。亜美の優しさに、敵う人なんて居ないと思うし。

 改めて、亜美を愛しいって感じているよ。

 そして遂に、あの人がやってきた。


「深川先生……」


 俺は吐きそうになるけど、亜美の手を握って、何とか堪えた。意気消沈としてる相手を見ても吐きたくなるなんて、相当生理的に天王寺さんがダメになってるな、俺。

 天王寺さんは俺を見るなり、頭を下げてくる。


「ごめんなさい。私、自分のことばっかりで。好きって気持ちが抑えられなくて」

「最初に言ったよね? そう言うのはやめて、って」


 ちょ、俺、語気が強いぞ? 叱りたいわけじゃないのに、嫌悪感がかなり滲み出てしまった。

 ちゃんと話さなきゃいけないのに。

 すると、亜美が。


「京平は私のことを大事にしてくれてるから、天王寺さんのそう言った行動が、かなりストレスになっていたと思うんです。私も、些細なことで倒れてしまいましたし」


 亜美、亜美がそこまで言う必要はないのに。俺を庇ってくれてるのが伝わってくる。


「時任さんが引いてくれたら、それで済んだ話なのに」

「引きません。私、京平のこと、愛してますから!」


 あ、即座にヒートアップした。天王寺さん、壊滅的に空気が読めない人なんだな。

 亜美に対して、そんな言葉を投げかけるだなんて。

 正直、俺も許せないけど、もう天王寺さんに対する嫌いメーターは、限界を振り切ってるから、もはや何も感じないな。でも、亜美は守らなきゃ。


「俺も亜美を手放す気はないし、正直言って、天王寺さんのことは、もう生理的に無理なんだ。何があっても、貴方を選ぶことはないよ」

「でも、私だって、深川先生のこと、好きなんだもん!」


 そう言いながら、天王寺さんは泣き出した。けど、泣き出されたって、揺らぐことはないよ。

 俺は、洗面器に少し吐いたあと、淡々と告げることにした。


「天王寺さん、医師以前に人間として、思いやりってすごく大切なんだ。それひとつで、人は人を好きになったり、逆に嫌いにもなったりするんだ。俺は既に亜美がいるから、そういうのやめてって言ったよね? それを無視されたら、付き合う以前に、人として好きになれると思う?」

「思いやり、ですか?」

「そ。天王寺さんにそれがなかったから、もう俺は天王寺さんに会いたくないんだ」


 うう、話しかける度に気持ち悪くなってくるな。亜美が俺の手を握り続けてくれてるから、何とかなってはいるけど。

 いや、なってねえか。吐いてるし。う、また吐きたくなってきた。

 俺はもう一度洗面器に吐き散らかした後、天王寺さんに告げる。


「これが最後。これからは思いやりを持って生きて欲しい。そんな医師に、なって欲しいから」

「もう、会えないんですか?」

「診察中に吐くようじゃ、診察にならないからね。異能の薬は、俺が責任持って指示するから安心して」

「正直、今までこれでなんとかなってきたし、寧ろ喜ばれてきたので、よく分からないんですけど、思いやりが分かるようにはなりたいです」

「少しずつ、だな」


 そう言った後、俺はまた吐き散らかす。ああ、亜美が背中をさすってくれてるよ。

 正直、良く解らないって反応ではあったけど、伝えたいことは、何とか伝えられたかな?

 本当は亜美を自分より可愛くないって言ったこととか、亜美の目の前でよくもハグしてくれたな? とか、言いたいこともあるけど、これ以上歪(いが)みあっても、気持ち悪くなるだけだな。

 亜美のが100億倍可愛いわ、ばーか!


 俺と亜美は、解らない顔をした天王寺さんを置き去りにして、院長室を後にした。

 あ、洗面器片付けてないや。医師会合のとき、院長に謝っとこう。


「亜美、ありがとな」

「私がいても京平吐いてたし、私何も出来てないよ?」

「いや、亜美がいたから、想定の10分の1くらいしか吐いてないし、俺を庇ってくれただろ?」

「ヒートアップしちゃうかな、って思って。私がヒートアップしたけど」

「ありがとな、いつもいつも」


 亜美には、何度有難うを言っても足りないよ。いつも亜美がいるから、何とかなってるから。


「どういたしまして」

「看護師長には俺から話しておくから、このまま休憩入ろ。亜美と一緒に過ごしたい」

「もー、わがままだね。でも、私も」


 時刻は11時半。ちょっと早いけど、亜美をもう我慢出来ないよ。一緒に何気ない話しながら、弁当食いたいよ。


「今日は唐揚げ沢山入れたからね」

「お、楽しみ」


 嫌いな人、好きな人と人間沢山いるけれど、亜美のことは永遠に、愛してる人なんだろうな。こんなに愛しい人、他には居ないよ。

京平「飯食ったら、亜美と話したいな」

亜美「だめ、京平疲れた顔してるよ。仮眠室で寝るんだよ」

京平「亜美と過ごしたいのに」

亜美「傍にいるから安心して」

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