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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
生理的に無理な人
224/242

自己中な好意(京平目線)

「んー、よく寝た」


 隣では今日中番の亜美が、気持ちよさそうに俺の腕の中で眠っている。

 昨日はクッキー食べた後、2人でお風呂に入って、風呂上がりにお茶漬け食べながら2人で晩酌して。あ、俺はノンアル少し飲んで、その後2人でまったりして。

 本当に楽しかった。亜美の笑顔も見れたし。

 幸せな休日になって良かったな。

 亜美、愛してるよ。俺は、亜美に優しくキスをする。


 亜美の温もりが愛しくて仕方ない。亜美と眠るのが1番好きまであるから、本当は亜美を手放したくないんだけど、今日は仕事だし起きなくちゃな。

 ゆっくり眠るんだぞ。亜美。もう一度だけ、ギュッと抱きしめた。


「あ、おはよ。兄貴」

「おはよう、信次」

「兄貴もう少し寝てなよ? お弁当も僕が作るからさ」

「大丈夫。昨日もたっぷり寝たからさ。亜美と信次に弁当作りたいし」


 亜美が中番か遅番の時じゃないと、亜美達に弁当作れないからな。

 いつもは亜美に任せきりだから、たまには、な。

 本当は毎日でも作りたいんだぞ?


「じゃあ、お願いしようかな。兄貴のお弁当すきだし」

「腕によりをかけて作るからな」


 今日はだし巻き卵と、梅唐揚げと、ミートボールとブロッコリーとコールスローと。色々作ってあげたいな。

 こんな時間も、俺にとっては愛しい時間だよ。大切な家族のために、何かをしてる時間が。

 うし、鶏肉を梅醤油に漬けて、っと。その間に、ミートボールを丸めるかな。


「兄貴楽しそうだね」

「そりゃ楽しいからな。料理好きだし」

「それじゃ、兄貴のお弁当は僕が作るからお楽しみに!」

「お、楽しみ」


 亜美と信次の為に作ってるし、そりゃ、な。

 信次も弁当ありがとな。


 ◇


「ふわあ、おはよ。京平」

「おはよ、お父さん」


 朝ご飯を食べてたら、お父さんが起きて来た。今日は亜美とのばらは中番だから、これで皆起きたな。

 因みに信次は、もう大学に出かけていったよ。空飛ぶんだし、そんな慌てなくていいのにな。


「お父さんにしては早いな?」

「今日は早朝会議があるからな。今日も朝ご飯は、信次が?」

「そうそう。美味いぞ」


 今日は俺の好きなピザトーストにしてくれたんだ。優しい弟だよ、信次は。

 手作りのコンソメスープも、野菜の出汁が効いてて本当に美味いし。


「今日は京平も一日長いし、無理するなよ」

「寧ろ慌てずに診察出来るから気は楽だけど、心配してくれてありがとな」

「薬を変えたばかりだし、何かあったらすぐ休むんだぞ」

「はは、もう2週間経ったから、大丈夫だよ」


 3/28に薬が増えたんだけど、相性が悪いとかそういうことは一切無く、2週間持たせることが出来た。

 少し薬も変わって、前の薬が抜けるのに約5日、新しい薬が効き始めるのに約2週間。

 俺も薬の知識はあるだけに、この薬の隙間時間が正直少し怖かったけど、亜美が俺に勤務を合わせてくれたから、何とかなったかな。

 亜美と眠れるときは安心出来るから。俺。


「そっか。それなら良いんだがな」

「後は悪いことがあっても落ち着いていられるか、かな。今まではそう言う時、いつも落ちてたからさ」

「コントロール出来なくなるよな、そんな時は。大切な家族がいるのに、自分なんて消えて無くなればいいのに、って思うよ」

「俺は生きてていいのかな、って良く思うよ」

「理屈じゃないんだよな、抑うつ症状は」


 抑うつ症状を経験した人にしか解らない「自分なんて死んでしまえばいい」問題。

 そんな感情に支配されて、身体も動かなくなるし、涙も止まらなくなる。大切な人がいるにも関わらず。

 俺なんて、亜美が隣で「大丈夫」って言ってくれていたのに、抱きしめてくれているのに、「生きてていいのかな」って、ぼやいちまったし。

 治療をしていてもこれだもんな。独りだったら、とっくに俺は死んでいただろう。

 亜美や信次、お父さんとのばらが居てくれているから、何とかなってる。


「ごちそうさま。俺は大丈夫だからな」

「何度も言うが、無理はするなよ」


 ◇


 最近は焦ることなく診察出来ているから、身体の負担も大分軽減された。

 診察日も増えたから、よりゆったり患者様とも向き合えるから、患者様の気持ちに寄り添うことも出来てるしな。


「深川先生、いつも優しい笑顔をされてますね」

「うん。彼女がいつも支えてくれてるからな」


 今日は美紀さんが俺に着いてくれている。担当看護師として医者に着くのは今日が初めてらしいから、よりゆったりやってるのもあるけど、俺が笑えているのは亜美のおかげだな。

 亜美が支えていてくれているから、俺はいつでも頑張れるから。

 なんなら、亜美を抱きしめて、こっそり泣きながら寝たこともあるしな。亜美のおかげで、眠ることも出来たよ。多分亜美には、バレてるだろうけど。


「幸せで羨ましいです」

「俺が甘えてばかりだけどな」

「時任先輩もいつも幸せそうだから、そんなことはないですよ!」

「そっか。それなら良かった」

「さ、次の患者様呼びますね」


 ◇


 ふう。ようやく休憩時間か。昼間診察希望の患者様は少なくないから、どうしても休憩時間は遅くなっちまう。今は14時か。

 すると、そんな疲れた時に限って、会いたくない存在がやってくる。


「ふっかわせんせーい!」

「そ、そういうの辞めてって……」


 抱きしめられてしまった俺は、ガッと天王寺さんを振り払う。振り払うのは、男として乱暴かもしれなかったけど、そうせざるを得なかった。

 何故なら、かなり気持ち悪くなってしまったから。流石に2度目は耐えられなかったか。


「ひどいです、深川先生!」


 俺はその言葉を無視して、トイレへ走り出す。

 前の時も気持ち悪くはあったんだけど、亜美が倒れちゃったから、気持ち悪さを気にせずに済んだんだけど、今は亜美もいないし、寧ろ亜美への申し訳なさが相まって、より気持ち悪くなってるまである。

 やっぱり、どうでもいい人に抱きしめられるのは、気分良いもんじゃないな。

 俺はトイレでゲロゲロしながら、自らの人への潔癖ぶりにショックを受けるのであった。

 いくらなんでも、身体に現れ過ぎだよなあ。

 これが嫌だから、人とは仲良くを基本としているのだけど、天王寺さんはそんな時間を取らせてくれないし、酷いことばかりしてくるから、どうでもいい、否、嫌いな人間になってしまっているから、こうなっても仕方ないよな。


「はあ……」


 ダメだ。まだ気持ち悪いのが治らなくて、食欲も湧かないや。疲れているし、もう寝ちまおう。

 信次、弁当は夜食べるよ。ごめんな。

 幸い、天王寺さんは、今愛さんが叱ってくれているし。

 仮眠室に向かおうとすると。


「深川先生、私はこんなに深川先生のことを愛してるんですよ!」

「ちょ、天王寺さん?! なにそれ!」


 俺は絶句した。何故なら、天王寺さんが出して来たのは、亜美に捨てるよう促したあの団扇。俺の顔がデカデカと写ってる団扇だったから。

 亜美が持ってるのでも嫌だったのに、嫌いな天王寺さんが持ってるとなると、ダメージも倍増する。気分も悪くなって来た。


「なんで、それを天王寺さんが……」

「拾ったんですう。深川先生を捨てるおバカが、この世にいるなんて信じられないですう」

「拾う方がどうかしてるぞ……まあいいや、愛さん、後は任せた」

「深川くん、解ったわ。ゆっくり休んで」

「深川先生、まゆとお話ししましょうよ?」


 勿論天王寺さんは無視する。構ってられない。

 でも確か団扇は、信次が燃えるゴミの日に捨てたはずなんだけど。

 信次、生ゴミと一緒に捨てとけよ。そうしたら、拾われずに済んだのに。

 いいや、もうそんなことより休みたい。かなり気持ちが悪い。こんなに人の気持ちを考えられない人が、この世にいるなんて。

 それに、なんだか身体も怠くなってきたし。


「ちょっと、深川くん、帰った方がいいんじゃない? 顔、真っ青よ?」

「少し寝ていれば何とかなるよ。眠れたらいいけど」

「無理しないでよ?」

「はは、解ってるよ」


 ああ、愛さんが心配するくらい真っ青なのか、俺。早く横にならなきゃ。


 俺は仮眠室に行き、アラームを掛けてそのまま横たわる。

 正直、眠れない。絶対寝た方が良いのにさ。こんな時、亜美が居たら良かったんだけど。

 気持ち悪いのもあったから、横になって楽にはなったけどさ。

 仕方がないから気持ちを落ち着かせる為に、亜美の写真を眺めた。

 写真の亜美は、満面の笑みを浮かべている。ふふ、少し俺の気持ちも和らいだよ。

 いつだって亜美に助けられてるな、俺。

 そんなふうに、亜美の写真を眺めていると、どこからか、駆け足が聞こえて来た。


「大丈夫だよ、京平」

「ん、亜美……って、なんで亜美が?」


 俺は、慌てて飛び起きる。

 何故だ、亜美はまだ勤務時間のはずなのに。


「麻生愛先生から、京平が体調悪いって聞いて、早めに休憩時間取ったんだ」

「無理すんなよ、バカ」

「無理したのは京平でしょ? すぐ帰れば良かったのにさ」


 ああ、そう言えば愛さんの「帰った方がいい」を無視して、今ここで寝てるんだよな。俺。

 亜美を使って、俺が帰るように仕向けたかったんだろうな。

 でも、帰る訳にはいかないよ。


「今日は診察の日だから、頑張りたくて」

「そっか。それならまだ時間あるから、ゆっくり眠るといいよ。私も傍にいるから」


 亜美はそう言うと、俺の上半身をベッドに戻して、俺の身体を優しくポンポンしてくれた。

 亜美に迷惑を掛けているのは百も承知なんだけど、やっぱり亜美がいると安心出来るよ。

 そして、苦しかったから、素直に泣いた。


「大丈夫、大丈夫だよ。京平」

「亜美以外に抱きしめられたくなかったよ。気持ち悪くなって……苦しくて」


 あ、亜美には何があったかまだ話せてないのに、余計なこと言っちまったな。

 でも亜美は、そんな俺を問い詰めることなく。


「そんなの気持ち悪くなって当然だよ。ゆっくり休んでね」

「ありがとな、亜美。俺、亜美が居ないともうダメみたいだ」


 ごめん。本当なら戻って良いよって言うべきところなのに、亜美に頼らないと、上手く休めないみたい。眠れないみたい。

 亜美が居てくれたから、苦しさも少し和らいだのだし。

 頼りない俺でごめん。何度も頼ってごめん。でも謝っても、亜美は不機嫌になるだけなんだろうから、言わないけどさ。


「亜美のおかげで少し眠れそう」

「良かった。おやすみ、京平」

「おやすみ、亜美」


 俺は亜美の手を握って、眠りについた。


 ◇


 アラームがけたたましく鳴り、俺は目を覚ました。あれから、ぐっすり眠れたみたいだ。

 隣では亜美が、優しい顔をしてポンポンし続けてくれている。


「あ、おはよ。京平」

「おはよ、亜美。ずっと傍にいてくれたんだな」

「当たり前でしょ? ふふ、顔色良くなったね」

「1時間半くらいだけど、熟睡出来たからな」


 身体も軽くなったよ。さっきまでの怠みが嘘みたいだ。


「もうちょっとだけ頑張ってね、京平」

「うん、ありがとな。亜美」

「じゃ、私も戻るね。まだ15分休憩あるから、京平のお弁当楽しみにしてるね」

「無理せず余分に休憩しろよ?」

「ダメ。迷惑かけちゃうもん」


 後で看護師長に、亜美に別で休憩時間をって、お願いしとかなきゃ。

 どうせ亜美のことだから、そうでもしなきゃ無理しちまうからな。


 俺達は仮眠室を出て、それぞれの持ち場に戻っていく。

 幸い、天王寺さんも居なかったしな。

 んー、亜美のおかげで気持ち良く眠れたし、体調も回復したよ。

 そんな訳で戻ったんだけど。


「深川先生、帰らなかったんですか?!」

「もう体調はバッチリだぞ?」

「あんなに真っ青だったじゃないですか! 無理しないでください」


 美紀さん、涙目だ。休憩時間一緒だったし、俺の真っ青な顔、見ていたんだろうな。心配してくれてありがとな。


「無理はしてないよ。彼女のおかげで眠れたし」

「時任先輩、めちゃ駆け足で仮眠室行ってましたもんね」

「いつも助けられてるよ、俺」

「本当に支えあってますよね。2人とも」


 支え合い、かあ。俺も亜美を助けられてるのかな?

 最近は子供みたいに、亜美に甘えっぱなしな俺ではあるけれど。


「そうだったら嬉しいな」

「さ、患者様呼びますね!」


 ◇


 んー、ようやく診察が終わった。診察の合間に、亜美に休憩時間を、って看護師長に連絡したけど、看護師長も元々そのつもりだったみたいで、亜美も無事休めたみたい。

 亜美は最初、「休憩余分には要らないです!」って、ごねたみたいだけどな。素直に休めよ、亜美。


「お疲れ、美紀さん」

「やっと診察終わりましたね。深川先生は、帰ったらすぐ休んでくださいね?」

「ふわあ、そうするよ。若干眠いし」


 眠れたとはいえ、昼間あれだけ体調を崩したのもあって、体力も残りわずかだしな。

 帰ったら少し寝て、飯食らおう。


「でも、天王寺さんには困ったもんですね」

「それな。キツく言っても辞めてくれなくてな……」

「思いやりのない愛なんて、最低なだけなのに」

「正直あの人には幻滅したよ」


 明らかに体調を崩した俺に対して、追い討ちまで掛けられたしな。

 仮眠室に行こうとしてる人間を呼び止めるなよ。って、感じだ。


「愚痴ってごめんな。お疲れ」

「あ、お疲れ様です。深川先生!」


 天王寺さんは何とかしなきゃなんだけど、策が全く浮かばない。あんなに自己中な人間に対して、策なんて存在するんだろうか?

 正直、もう患者様としても会いたくないまであるし。

 何か手を打たなきゃ、俺がやられちまうから、考えなきゃなんだけどな。


 俺は更衣室にいって着替えて帰路に着く。

 ああ、疲れた。色々あり過ぎた。

 飯は亜美が家族ライムに送ってくれたメッセージをみた信次が、バイト前にご飯を作ってくれたみたいだから、帰ったらすぐ寝よう。

 正直、飯食べる体力も無いんだよな、もう。


「ただいま」

「おか……京平、疲れ切ってるな。昼間体調を崩した影響か」

「うん、そうかも。ごめん、ちょっと寝てから飯食うよ」

「それがいいな。おやすみ、京平」

「おやすみ、お父さん」


 俺は手を洗って、食べ損ねた弁当を冷蔵庫に入れて、すぐ布団に潜り込む。そして、亜美の枕を抱きしめた。

 亜美の匂いがふわあって舞って、俺を癒してくれる。

 本当俺、亜美に頼りっぱなしだよ。あんなに頼ったのに、亜美を抱きしめたくて仕方ない俺がいるし。

 でも、亜美に頼ると安心して眠れるんだよ。亜美って凄いな。


 良く考えれば、亜美が俺の彼女になってくれたことも奇跡だよな。まともに告白すら出来なかったのに、亜美が汲み取って受け止めてくれたから、今があるんだし。

 今思えば、付き合っても無いのにキスするなんて、俺もどうかしてるよな。したかったからしたんだけど。

 双極性障害だと伝えても、引くどころか受け止めてくれたことが本当に嬉しくて。

 そんな亜美だから好きになったんだし、そんな亜美だからこそ付き合いたくてたまらなかったけど、好きとか付き合ってとか、恥ずかしくて言えなかったから、キスしようかな、って。

 我ながら不器用が過ぎるよ。


「亜美、いつもありがとな。おやすみ」


 何度感謝してもしきれないよ。亜美には。


 ◇


「京平、体調大丈夫?」

「ん、ああ亜美。おはよ」


 亜美だ。俺は起き上がって、勢い良く亜美を抱きしめた。ずっと、ずっと、こうしたかったんだ。


「おはよ。ご飯は食べられそう?」

「信次が作ってくれた弁当食えてないから、それを食べるよ。後、わがまま言ってもいい?」

「ん、何でも言って!」

「亜美の卵粥も食べたい」

「えへへ、任せて。出来上がったらまた起こすから、それまで休んでてね」

「ありがとな、亜美」


 そうか、亜美が帰ってきたということは、もうそんな時間か。

 結構寝たんだけど、まだ身体が少し怠くてさ。完全に見抜かれてるわ、俺。

 そんな体調だからこそ、亜美の卵粥が食べたくてさ。

 亜美の卵粥を楽しみにしながら、もう少し眠っておくかな。亜美を抱きしめたら、かなり落ち着いてきたし。

 亜美、愛してるよ。おやすみ。

作者「思いやりを忘れたら、どんなに優しい人でも、その人のことを嫌いになっちゃうよね。付き合ってる時でも、忘れちゃいけないことだしね」

亜美「京平は私が守るもん!」

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