自己中な好意(京平目線)
「んー、よく寝た」
隣では今日中番の亜美が、気持ちよさそうに俺の腕の中で眠っている。
昨日はクッキー食べた後、2人でお風呂に入って、風呂上がりにお茶漬け食べながら2人で晩酌して。あ、俺はノンアル少し飲んで、その後2人でまったりして。
本当に楽しかった。亜美の笑顔も見れたし。
幸せな休日になって良かったな。
亜美、愛してるよ。俺は、亜美に優しくキスをする。
亜美の温もりが愛しくて仕方ない。亜美と眠るのが1番好きまであるから、本当は亜美を手放したくないんだけど、今日は仕事だし起きなくちゃな。
ゆっくり眠るんだぞ。亜美。もう一度だけ、ギュッと抱きしめた。
「あ、おはよ。兄貴」
「おはよう、信次」
「兄貴もう少し寝てなよ? お弁当も僕が作るからさ」
「大丈夫。昨日もたっぷり寝たからさ。亜美と信次に弁当作りたいし」
亜美が中番か遅番の時じゃないと、亜美達に弁当作れないからな。
いつもは亜美に任せきりだから、たまには、な。
本当は毎日でも作りたいんだぞ?
「じゃあ、お願いしようかな。兄貴のお弁当すきだし」
「腕によりをかけて作るからな」
今日はだし巻き卵と、梅唐揚げと、ミートボールとブロッコリーとコールスローと。色々作ってあげたいな。
こんな時間も、俺にとっては愛しい時間だよ。大切な家族のために、何かをしてる時間が。
うし、鶏肉を梅醤油に漬けて、っと。その間に、ミートボールを丸めるかな。
「兄貴楽しそうだね」
「そりゃ楽しいからな。料理好きだし」
「それじゃ、兄貴のお弁当は僕が作るからお楽しみに!」
「お、楽しみ」
亜美と信次の為に作ってるし、そりゃ、な。
信次も弁当ありがとな。
◇
「ふわあ、おはよ。京平」
「おはよ、お父さん」
朝ご飯を食べてたら、お父さんが起きて来た。今日は亜美とのばらは中番だから、これで皆起きたな。
因みに信次は、もう大学に出かけていったよ。空飛ぶんだし、そんな慌てなくていいのにな。
「お父さんにしては早いな?」
「今日は早朝会議があるからな。今日も朝ご飯は、信次が?」
「そうそう。美味いぞ」
今日は俺の好きなピザトーストにしてくれたんだ。優しい弟だよ、信次は。
手作りのコンソメスープも、野菜の出汁が効いてて本当に美味いし。
「今日は京平も一日長いし、無理するなよ」
「寧ろ慌てずに診察出来るから気は楽だけど、心配してくれてありがとな」
「薬を変えたばかりだし、何かあったらすぐ休むんだぞ」
「はは、もう2週間経ったから、大丈夫だよ」
3/28に薬が増えたんだけど、相性が悪いとかそういうことは一切無く、2週間持たせることが出来た。
少し薬も変わって、前の薬が抜けるのに約5日、新しい薬が効き始めるのに約2週間。
俺も薬の知識はあるだけに、この薬の隙間時間が正直少し怖かったけど、亜美が俺に勤務を合わせてくれたから、何とかなったかな。
亜美と眠れるときは安心出来るから。俺。
「そっか。それなら良いんだがな」
「後は悪いことがあっても落ち着いていられるか、かな。今まではそう言う時、いつも落ちてたからさ」
「コントロール出来なくなるよな、そんな時は。大切な家族がいるのに、自分なんて消えて無くなればいいのに、って思うよ」
「俺は生きてていいのかな、って良く思うよ」
「理屈じゃないんだよな、抑うつ症状は」
抑うつ症状を経験した人にしか解らない「自分なんて死んでしまえばいい」問題。
そんな感情に支配されて、身体も動かなくなるし、涙も止まらなくなる。大切な人がいるにも関わらず。
俺なんて、亜美が隣で「大丈夫」って言ってくれていたのに、抱きしめてくれているのに、「生きてていいのかな」って、ぼやいちまったし。
治療をしていてもこれだもんな。独りだったら、とっくに俺は死んでいただろう。
亜美や信次、お父さんとのばらが居てくれているから、何とかなってる。
「ごちそうさま。俺は大丈夫だからな」
「何度も言うが、無理はするなよ」
◇
最近は焦ることなく診察出来ているから、身体の負担も大分軽減された。
診察日も増えたから、よりゆったり患者様とも向き合えるから、患者様の気持ちに寄り添うことも出来てるしな。
「深川先生、いつも優しい笑顔をされてますね」
「うん。彼女がいつも支えてくれてるからな」
今日は美紀さんが俺に着いてくれている。担当看護師として医者に着くのは今日が初めてらしいから、よりゆったりやってるのもあるけど、俺が笑えているのは亜美のおかげだな。
亜美が支えていてくれているから、俺はいつでも頑張れるから。
なんなら、亜美を抱きしめて、こっそり泣きながら寝たこともあるしな。亜美のおかげで、眠ることも出来たよ。多分亜美には、バレてるだろうけど。
「幸せで羨ましいです」
「俺が甘えてばかりだけどな」
「時任先輩もいつも幸せそうだから、そんなことはないですよ!」
「そっか。それなら良かった」
「さ、次の患者様呼びますね」
◇
ふう。ようやく休憩時間か。昼間診察希望の患者様は少なくないから、どうしても休憩時間は遅くなっちまう。今は14時か。
すると、そんな疲れた時に限って、会いたくない存在がやってくる。
「ふっかわせんせーい!」
「そ、そういうの辞めてって……」
抱きしめられてしまった俺は、ガッと天王寺さんを振り払う。振り払うのは、男として乱暴かもしれなかったけど、そうせざるを得なかった。
何故なら、かなり気持ち悪くなってしまったから。流石に2度目は耐えられなかったか。
「ひどいです、深川先生!」
俺はその言葉を無視して、トイレへ走り出す。
前の時も気持ち悪くはあったんだけど、亜美が倒れちゃったから、気持ち悪さを気にせずに済んだんだけど、今は亜美もいないし、寧ろ亜美への申し訳なさが相まって、より気持ち悪くなってるまである。
やっぱり、どうでもいい人に抱きしめられるのは、気分良いもんじゃないな。
俺はトイレでゲロゲロしながら、自らの人への潔癖ぶりにショックを受けるのであった。
いくらなんでも、身体に現れ過ぎだよなあ。
これが嫌だから、人とは仲良くを基本としているのだけど、天王寺さんはそんな時間を取らせてくれないし、酷いことばかりしてくるから、どうでもいい、否、嫌いな人間になってしまっているから、こうなっても仕方ないよな。
「はあ……」
ダメだ。まだ気持ち悪いのが治らなくて、食欲も湧かないや。疲れているし、もう寝ちまおう。
信次、弁当は夜食べるよ。ごめんな。
幸い、天王寺さんは、今愛さんが叱ってくれているし。
仮眠室に向かおうとすると。
「深川先生、私はこんなに深川先生のことを愛してるんですよ!」
「ちょ、天王寺さん?! なにそれ!」
俺は絶句した。何故なら、天王寺さんが出して来たのは、亜美に捨てるよう促したあの団扇。俺の顔がデカデカと写ってる団扇だったから。
亜美が持ってるのでも嫌だったのに、嫌いな天王寺さんが持ってるとなると、ダメージも倍増する。気分も悪くなって来た。
「なんで、それを天王寺さんが……」
「拾ったんですう。深川先生を捨てるおバカが、この世にいるなんて信じられないですう」
「拾う方がどうかしてるぞ……まあいいや、愛さん、後は任せた」
「深川くん、解ったわ。ゆっくり休んで」
「深川先生、まゆとお話ししましょうよ?」
勿論天王寺さんは無視する。構ってられない。
でも確か団扇は、信次が燃えるゴミの日に捨てたはずなんだけど。
信次、生ゴミと一緒に捨てとけよ。そうしたら、拾われずに済んだのに。
いいや、もうそんなことより休みたい。かなり気持ちが悪い。こんなに人の気持ちを考えられない人が、この世にいるなんて。
それに、なんだか身体も怠くなってきたし。
「ちょっと、深川くん、帰った方がいいんじゃない? 顔、真っ青よ?」
「少し寝ていれば何とかなるよ。眠れたらいいけど」
「無理しないでよ?」
「はは、解ってるよ」
ああ、愛さんが心配するくらい真っ青なのか、俺。早く横にならなきゃ。
俺は仮眠室に行き、アラームを掛けてそのまま横たわる。
正直、眠れない。絶対寝た方が良いのにさ。こんな時、亜美が居たら良かったんだけど。
気持ち悪いのもあったから、横になって楽にはなったけどさ。
仕方がないから気持ちを落ち着かせる為に、亜美の写真を眺めた。
写真の亜美は、満面の笑みを浮かべている。ふふ、少し俺の気持ちも和らいだよ。
いつだって亜美に助けられてるな、俺。
そんなふうに、亜美の写真を眺めていると、どこからか、駆け足が聞こえて来た。
「大丈夫だよ、京平」
「ん、亜美……って、なんで亜美が?」
俺は、慌てて飛び起きる。
何故だ、亜美はまだ勤務時間のはずなのに。
「麻生愛先生から、京平が体調悪いって聞いて、早めに休憩時間取ったんだ」
「無理すんなよ、バカ」
「無理したのは京平でしょ? すぐ帰れば良かったのにさ」
ああ、そう言えば愛さんの「帰った方がいい」を無視して、今ここで寝てるんだよな。俺。
亜美を使って、俺が帰るように仕向けたかったんだろうな。
でも、帰る訳にはいかないよ。
「今日は診察の日だから、頑張りたくて」
「そっか。それならまだ時間あるから、ゆっくり眠るといいよ。私も傍にいるから」
亜美はそう言うと、俺の上半身をベッドに戻して、俺の身体を優しくポンポンしてくれた。
亜美に迷惑を掛けているのは百も承知なんだけど、やっぱり亜美がいると安心出来るよ。
そして、苦しかったから、素直に泣いた。
「大丈夫、大丈夫だよ。京平」
「亜美以外に抱きしめられたくなかったよ。気持ち悪くなって……苦しくて」
あ、亜美には何があったかまだ話せてないのに、余計なこと言っちまったな。
でも亜美は、そんな俺を問い詰めることなく。
「そんなの気持ち悪くなって当然だよ。ゆっくり休んでね」
「ありがとな、亜美。俺、亜美が居ないともうダメみたいだ」
ごめん。本当なら戻って良いよって言うべきところなのに、亜美に頼らないと、上手く休めないみたい。眠れないみたい。
亜美が居てくれたから、苦しさも少し和らいだのだし。
頼りない俺でごめん。何度も頼ってごめん。でも謝っても、亜美は不機嫌になるだけなんだろうから、言わないけどさ。
「亜美のおかげで少し眠れそう」
「良かった。おやすみ、京平」
「おやすみ、亜美」
俺は亜美の手を握って、眠りについた。
◇
アラームがけたたましく鳴り、俺は目を覚ました。あれから、ぐっすり眠れたみたいだ。
隣では亜美が、優しい顔をしてポンポンし続けてくれている。
「あ、おはよ。京平」
「おはよ、亜美。ずっと傍にいてくれたんだな」
「当たり前でしょ? ふふ、顔色良くなったね」
「1時間半くらいだけど、熟睡出来たからな」
身体も軽くなったよ。さっきまでの怠みが嘘みたいだ。
「もうちょっとだけ頑張ってね、京平」
「うん、ありがとな。亜美」
「じゃ、私も戻るね。まだ15分休憩あるから、京平のお弁当楽しみにしてるね」
「無理せず余分に休憩しろよ?」
「ダメ。迷惑かけちゃうもん」
後で看護師長に、亜美に別で休憩時間をって、お願いしとかなきゃ。
どうせ亜美のことだから、そうでもしなきゃ無理しちまうからな。
俺達は仮眠室を出て、それぞれの持ち場に戻っていく。
幸い、天王寺さんも居なかったしな。
んー、亜美のおかげで気持ち良く眠れたし、体調も回復したよ。
そんな訳で戻ったんだけど。
「深川先生、帰らなかったんですか?!」
「もう体調はバッチリだぞ?」
「あんなに真っ青だったじゃないですか! 無理しないでください」
美紀さん、涙目だ。休憩時間一緒だったし、俺の真っ青な顔、見ていたんだろうな。心配してくれてありがとな。
「無理はしてないよ。彼女のおかげで眠れたし」
「時任先輩、めちゃ駆け足で仮眠室行ってましたもんね」
「いつも助けられてるよ、俺」
「本当に支えあってますよね。2人とも」
支え合い、かあ。俺も亜美を助けられてるのかな?
最近は子供みたいに、亜美に甘えっぱなしな俺ではあるけれど。
「そうだったら嬉しいな」
「さ、患者様呼びますね!」
◇
んー、ようやく診察が終わった。診察の合間に、亜美に休憩時間を、って看護師長に連絡したけど、看護師長も元々そのつもりだったみたいで、亜美も無事休めたみたい。
亜美は最初、「休憩余分には要らないです!」って、ごねたみたいだけどな。素直に休めよ、亜美。
「お疲れ、美紀さん」
「やっと診察終わりましたね。深川先生は、帰ったらすぐ休んでくださいね?」
「ふわあ、そうするよ。若干眠いし」
眠れたとはいえ、昼間あれだけ体調を崩したのもあって、体力も残りわずかだしな。
帰ったら少し寝て、飯食らおう。
「でも、天王寺さんには困ったもんですね」
「それな。キツく言っても辞めてくれなくてな……」
「思いやりのない愛なんて、最低なだけなのに」
「正直あの人には幻滅したよ」
明らかに体調を崩した俺に対して、追い討ちまで掛けられたしな。
仮眠室に行こうとしてる人間を呼び止めるなよ。って、感じだ。
「愚痴ってごめんな。お疲れ」
「あ、お疲れ様です。深川先生!」
天王寺さんは何とかしなきゃなんだけど、策が全く浮かばない。あんなに自己中な人間に対して、策なんて存在するんだろうか?
正直、もう患者様としても会いたくないまであるし。
何か手を打たなきゃ、俺がやられちまうから、考えなきゃなんだけどな。
俺は更衣室にいって着替えて帰路に着く。
ああ、疲れた。色々あり過ぎた。
飯は亜美が家族ライムに送ってくれたメッセージをみた信次が、バイト前にご飯を作ってくれたみたいだから、帰ったらすぐ寝よう。
正直、飯食べる体力も無いんだよな、もう。
「ただいま」
「おか……京平、疲れ切ってるな。昼間体調を崩した影響か」
「うん、そうかも。ごめん、ちょっと寝てから飯食うよ」
「それがいいな。おやすみ、京平」
「おやすみ、お父さん」
俺は手を洗って、食べ損ねた弁当を冷蔵庫に入れて、すぐ布団に潜り込む。そして、亜美の枕を抱きしめた。
亜美の匂いがふわあって舞って、俺を癒してくれる。
本当俺、亜美に頼りっぱなしだよ。あんなに頼ったのに、亜美を抱きしめたくて仕方ない俺がいるし。
でも、亜美に頼ると安心して眠れるんだよ。亜美って凄いな。
良く考えれば、亜美が俺の彼女になってくれたことも奇跡だよな。まともに告白すら出来なかったのに、亜美が汲み取って受け止めてくれたから、今があるんだし。
今思えば、付き合っても無いのにキスするなんて、俺もどうかしてるよな。したかったからしたんだけど。
双極性障害だと伝えても、引くどころか受け止めてくれたことが本当に嬉しくて。
そんな亜美だから好きになったんだし、そんな亜美だからこそ付き合いたくてたまらなかったけど、好きとか付き合ってとか、恥ずかしくて言えなかったから、キスしようかな、って。
我ながら不器用が過ぎるよ。
「亜美、いつもありがとな。おやすみ」
何度感謝してもしきれないよ。亜美には。
◇
「京平、体調大丈夫?」
「ん、ああ亜美。おはよ」
亜美だ。俺は起き上がって、勢い良く亜美を抱きしめた。ずっと、ずっと、こうしたかったんだ。
「おはよ。ご飯は食べられそう?」
「信次が作ってくれた弁当食えてないから、それを食べるよ。後、わがまま言ってもいい?」
「ん、何でも言って!」
「亜美の卵粥も食べたい」
「えへへ、任せて。出来上がったらまた起こすから、それまで休んでてね」
「ありがとな、亜美」
そうか、亜美が帰ってきたということは、もうそんな時間か。
結構寝たんだけど、まだ身体が少し怠くてさ。完全に見抜かれてるわ、俺。
そんな体調だからこそ、亜美の卵粥が食べたくてさ。
亜美の卵粥を楽しみにしながら、もう少し眠っておくかな。亜美を抱きしめたら、かなり落ち着いてきたし。
亜美、愛してるよ。おやすみ。
作者「思いやりを忘れたら、どんなに優しい人でも、その人のことを嫌いになっちゃうよね。付き合ってる時でも、忘れちゃいけないことだしね」
亜美「京平は私が守るもん!」




