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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
新人看護師と新人医師といっちゃってる新人精神科医
222/225

お料理会(信次目線)

「よし、お弁当完成っと!」

「のばらも洗濯物干し終わりましたわ」


 いよいよ今日はお料理会の日。今日はこそっと亜美のアラームを切って、亜美と兄貴のお弁当を作ったよ。洗濯はのばらが担当してくれた。

 たまには、亜美も寝かせてあげたかったし、昨日亜美は早起きして、僕の為にエビフライを揚げてくれたしね。美味しかったなあ。

 お料理会は、昼と夜の2回やることになって、夜からは亜美と兄貴も参加するみたい。

 さ、亜美と兄貴を起こしに行くか。


「亜美、兄貴、朝だよ」

「むにゃ、まだアラーム鳴ってないよ」

「もう6時だよ」

「嘘、やば、寝過ごした!」

「ふわあ、おはよ。亜美、信次」

「大丈夫、朝の家事は僕達がやったからさ」


 アラームを切ったことは内緒にして、と。

 亜美と兄貴は慌てて起き上がって、食卓に向かった。


「どうしてアラーム鳴らなかったんだろ?」

「無意識に消したんだろ、きっと」

「疲れてたのかなあ、私」

「帰ったら早めに寝なね、亜美」

「そうですわ。毎朝かなり早起きしてますもの」


 亜美が疲れているのは確かだもんなあ。目の下の隈、隠しきれてないもん。

 明日は亜美も休みだし、早めにゆっくりして欲しいよ。勿論、兄貴と一緒に、ね。


「いったっだっきまーす! ああ、だし巻き卵が染みるよお。美味しい」

「俺もいただきます。ふー、信次の味噌汁って、なんかほっとするんだよな」

「いただきますわ。むしゃむしゃ。ご飯おかわりですわ!」

「のばら早いよ!」


 僕もいただきますして、朝ご飯を食べ始める。今日は卵焼きも上手に焼けたし、お味噌汁も豆腐とワカメでシンプルに仕上げたし、上々だね。

 皆も喜んで食べてくれてるから良かった。


「そう言えば、お料理会では何作るの?」

「昼は生姜焼きで、夜はオムライスだよ」

「やった! 楽しみだよ!」

「亜美はオムライス好きだもんな」

「今日のお料理会、お父さんも参加してくれるんだ。10時くらいには起こしてあげよっと」


 お父さんも平日は、かなり忙しく働いているから、土日はなるべく寝かせてあげたいしね。兄貴も亜美も働いてるから、鬱で苦しんでるお父さんが無理に働く必要はないのにさ。

 まあ、それを言ったら、兄貴も双極性障害を患いながら頑張っているけど。

 皆、無理しないで欲しいよ。そのためにも、早く僕は立派な医者にならなきゃね。


「ごちそうさまでした! お弁当も楽しみだな」

「亜美ってば、朝ご飯食べたばかりでしょ?」


 ◇


 それから亜美と兄貴は病院に向かい、僕とのばらはお料理会の準備をした後、お父さんを起こして、2人で勉強をする。


「のばらも指導係になりましたし、頑張りますわ」

「お互い医学書で勉強するの、って初めてだよね。そう言えば」

「ふふ、今まで信次は受験勉強ばかりしてましたものね」


 兄貴も言っていたけど、のばらはやっぱり天才だよなあ。

 採血も完璧だったし、この今の勉強でも、要点をスラスラ書けている。

 医学書の内容は双極性障害だったんだけど、兄貴の病気だから、のばらも頭に入れてくれたんだね。

 僕もこの病気に関しては、いくらでも書けるんだけどさ。


「ふう、もう11時ですわ。もうそろそろ皆様やって来ますわね」

「エプロン足りるだろうか。忘れる人もいるよな?」

「皆には持ってくるように言ってあるから大丈夫だよ、お父さん」


 お父さんもわくわくしながら、お料理会の準備をしてくれてる。既に三角巾とエプロンはバッチリ装備済みだね。

 そろそろ僕達もエプロンに着替えなきゃ。僕とのばらは勉強用具を片付けて、手を洗って、エプロンを纏う。

 そうしているうちに、だんだん人も集まって来たよ。


「こんにちは、お久しぶりです。信次くん」

「日比野さんいらっしゃい。エプロンに着替えて待っててくださいね」


 まずは日比野さんがやってきて。


「時任くん、取り持ってくれてありがとね。日比野さんもういるかなあ?」

「金田さんいらっしゃい。もう日比野さんいますよ」

「よし、話しかけるぞ! 頑張るね!」


 海里のことを思うと、あまり頑張って欲しくないけど、取り持った手前、何も言えないんだよなあ。そんな噂をしていたら。


「おっす、信次。今日は何作るんだ?」

「豚の生姜焼きとオムライス。海里なら余裕でしょ?」

「勿論! 金田さんもう居る?」

「うん、もう居るし海里で最後だから早く着替えてね」


 よし、集めるだけ集められたし、後は楽しくお料理会が出来たらいいな。皆美味しく作れるように、サポートして行かなきゃね。


 海里もエプロンに着替え終わって、ようやくお料理会が始まった。

 なんだかんだで3人で始まる前まで話してたみたいで、すっかり仲良くなってたよ。


「うう、信次、玉ねぎが目に染みるよ」

「しまった。冷蔵庫から暫く出してたから、温まっちゃったかな? 僕が切るよ」

「や、父さん頑張るぞ」


 そう言いながらお父さんは、目を赤くしながら、玉ねぎを綺麗に切ってくれた。


「じゃあ、フライパン2つに分けて、肉と玉ねぎを炒めようか」

「のばらやりますわ!」

「あ、僕もやります」


 そんな訳で、のばらと日比野さんが、お肉と玉ねぎを炒めてくれることになった。

 しかし、日比野さんは。


「ああ、日比野さん油敷きすぎですよ!」

「え、そうなんですか?! どうしましょう……」

「油ポットに油を入れとけば大丈夫っす! 俺が入れるよ」

「ありがとうございます、海里くん」

「呼び捨てでいいっすよ」


 早速日比野さんがやらかしたけど、皆でサポートし合って、事なきを得ていた。

 海里のやつ、日比野さん歳上なんだから、ちゃんと敬語使えよ、全く。

 でも、日比野さんそう言えば、料理全然出来ないんだよなあ。焼くのは焦げたら全てが終わるから、選手交代と行きますか。


「そうだなあ、肉焼くのは海里に任せて、日比野さんはその間に、生姜をすり下ろして下さい」

「すり下ろし、って、どうすれば?」

「一緒にやりましょ、日比野さん」


 お、金田さん一歩リードかな? 海里、少しは頑張れよ、もう!

 そんな訳で、海里は黙々とお肉と玉ねぎを焼く羽目になったのであった。

 今のうちに調味料も準備しとかなきゃね。僕はお父さんと、醤油と酒とみりんを準備する。適量、適量。


「あ、信次くん。調味料の分量は?」

「1つのフライパンが大体3人前なので、醤油大さじ2杯と料理酒3杯とみりん大さじ1杯です」

「メモメモ。真にも作ってあげたいですからね」

「喜ぶと思いますよ」

「父さんもメモしたぞ!」


 そうそう、目分量じゃなくて、ちゃんと測れば失敗はないからね。


「信次ー、そろそろ調味料と生姜入れどきだぞ」

「のばらのフライパンもですわ!」

「あ、今すり終わりました!」


 こうして、フライパンに調味料と生姜を入れて炒めて、生姜焼き本体が完成した。


「やべ、美味そう」

「あ、しまった! キャベツ切ってなかったや。ちょっとまってね」


 いけないいけない、うっかりしてたよ。僕は素早くキャベツを千切りにする。


「やっぱり、信次くんは上手ですね」

「慣れるまでが難しいですからね、千切りは」

「そうそう、九條リ音は未だに千切り出来ないらしいっす。旦那のが上手いらしいっす」

「うう、父さんはマスターするぞ」


 僕はキャベツの千切りを、二つのお皿に盛り付ける。後は主役の生姜焼きを乗せるだけだ。


「うう、重たいですわ」

「のばら、僕が」

「あ、僕やりたいです!」

「じゃあ、日比野さんお願いします」


 のばら力ないから、フライパンは重たいよなあ。海里と日比野さんは、綺麗に生姜焼きをお皿に盛り付けてくれた。

 なんだ、日比野さん、盛り付け上手じゃん。


「ご飯も盛れたぞ、信次」

「じゃあ、食卓に運んで、早速食べよ!」


 皆の協力のおかげで、とっても美味しそうな豚の生姜焼きが出来上がったね。うーん、この匂いもいいんだよなあ。


「「「「「「いただきます」」」」」」

「とっても美味しいですわ。豚肉のジューシーさと生姜と醤油の香りがたまりませんわ」

「本当ですね。簡単な工程だったのに、奥深いですね。すごく美味しいです」

「次は父さん1人で作れたらいいな」

「ブラボー! 美味しく出来たわ」


 ん、ブラボー? 皆が目を丸くしていると。


「雪ちゃんアメリカ育ちだもんね。普段は結構英語使うのかな?」


 あ、海里が珍しくフォローに入った。確かに金田さんはアメリカ育ちだもんね。そりゃ、日常会話くらいは英語が出てもおかしくないよな。


「えへ。確かに普段家では、英語も使うよ。幼稚園から大学までアメリカで育ったからさ」

「へえ、大学ま……大学?!」

「え、僕と同い歳ですよね? まさか飛び級?」

「大学卒業したのは2年前かな。一応医師免許も、アメリカのだけど持ってるよ」

「さ、才女過ぎますわ」


 金田さん、すごい頭良かったんだ。しかも、アメリカで飛び級なんて、かなり難易度高いはずなのに。一から英語を覚えて、だもんね。しかも医師免許まで。


「でも、医者にはならなかったんですね」

「日本で医者になろうと思って、資格試験受かるまで五十嵐病院でバイトする予定だったのが、今の職場のが気に入ってさ。資格試験辞めて、育児センターの正社員面接に切り替えちゃった」

「天職だったんですね」

「うん。子供達の笑顔を見るのが、本当に愛おしいんだ」


 そっか。金田さんのこと知らなかったけど、色々あったんだなあ。ちょっとしたバイトのつもりが、育児センターの正社員になっちゃうなんてね。


「そんな金田さんのような人がいるから、皆安心して、子供達を預けられるんでしょうね」

「えへ。日比野さんにそう言って貰えて嬉しいな」

「あ、全然友って呼び捨てで構いませんよ」

「じゃあ、友って呼んじゃお。私のことも、雪って呼んでね」

「あ、俺のことも海里って呼べよ」

「宜しくお願いします。雪、海里」


 3人ともかなり仲良く話しているから、僕がのばらにあーんされてるのにも気付いてないや。ああ、のばらのあーん嬉しいな。


「信次、次はのばらですわ」

「はい、あーん」


 ◇


「ただいまー」

「ああ、兄貴おかえり」

「そろそろオムライスの準備しようぜ」

「え、まだ亜美が帰ってないけど」

「亜美には食べてもらいたいから、さ」


 そんな兄貴の提案で、僕達は早速オムライス作りを開始する。

 兄貴は亜美に、ふわふわオムライスを作りたいらしく、1人で黙々と調理に取り掛かっていた。


「流石深川先生、手際いいですね」

「亜美の好きなものだしな」

「さ、こっちで僕もオムライス教えるね」


 それから、卵を溶いたり、玉ねぎをみじん切りにしたり、にんじんを切ったり、グリンピースを解凍したり、ケチャップを用意したり、皆で協力しあって、オムライスを作っていった。

 炒めるときも1人ずつやったんだけど、少し焦がしてしまったり、フライパンが上手く動かせないとか、色々あったんだけど、その都度僕が教えながら、皆それぞれのオムライスが出来たよ。


「信次はのばらの食べてくださいまし」

「うん。のばらは僕のを食べてね」

「じゃあ、俺は亜美を迎えに行ってくるよ」

「亜美、昼間かなり眠そうだったの?」

「うん、昼間は仮眠室で寝かせたけど、まだ眠そうだったしな。きっと疲れ切ってるよ」


 亜美、本当に無理ばっかりするんだから。

 僕のエビフライの為に、あんなに早起きしてさ。絶対それが影響してるよ。そうでなくても、日々の仕事だって大変なのにさ。

 今日は亜美の為に早起きしたけど、こんなんじゃ、全然恩は返せてないな。また亜美にお弁当作ってあげよ、っと。


 ◇


「ただいまー」

「おかえり。兄貴、亜美」

「すやすや」


 亜美は兄貴の背中で、気持ちよさそうに眠っていた。やっぱり疲れ切っていたんだね。


「亜美、夜ご飯たべよ」

「むにゃ。あ、ただいま。信次」


 亜美はむっくりと起き上がって、兄貴の背中からゆっくり降りていく。

 2人は手を洗って、食卓に向かっていく。


「亜美、お疲れ様です」

「あ、友。オムライス上手に出来た?」

「ちょっとチキンライス焦がしちゃいましたが、バッチリです」

「時任さん初めまして。金田雪です」

「信次から話は聞いてるよ。宜しくね」

「俺は海里っす」

「知ってるよ!」


 よしよし、皆揃ったね。皆でいただきますして、各々オムライスを食べ始めた。


「うわ、ふわふわだよ。すごく美味しい!」

「成功して良かったよ」

「あ、やっぱり京平作なんだね。さっそくあのお店のふわふわを取り入れたんだね」


 兄貴、優しい顔して笑ってるや。亜美に対する愛情が、日に日に溢れかえっているよね。

 僕とのばらも、こんな風に愛を紡いでいきたいな。


「友のオムライス貰うね」

「ああ、雪。僕の食べかけですよ?」

「えへへ、美味しいよ」

「じゃあ、俺は雪ちゃんの貰お」

「ああ、海里! 勝手にいいい」


 あ、海里が金田さんに殴られてるや。そりゃ好きでもない相手と、間接キッスは嫌だろうしな。

 なんか金田さんも、段々素が出て来てるよね。こんな性格だったんだなあ。恋愛に関しては、手段も選ばないし。


「お腹いっぱい。おやすみ」


 ああ、亜美、限界だったか。お腹いっぱいになって、眠たくなっちゃったんだね。


「俺も亜美と寝てくるよ。明日休みだしな。皆、おやすみ」


 兄貴は優しく笑って、亜美を抱き抱えて部屋に入っていく。そっか、亜美と一緒に眠りたいんだね。


 最近兄貴、自然に笑うことが増えたんだよね。あと、体調を気遣って眠ることも。

 少しずつだけど、自分を大切にしてくれている。自分を好きになってくれている。

 亜美が良い方向に、兄貴を変えてくれたんだね。


「深川先生、あんなに時任さんのこと、愛してるんだね」

「すごく優しい笑顔をするんですよね、亜美には」

「愛って、優しいんだな。そんな気がする」


 そんな話をしながら、お料理会はお開きとなった。

 日比野さんと金田さんと海里はライムの交換をして、名残惜しそうに帰路に着く。

 どことなく海里が、真剣な目をしていたのは気のせいかな? あいつが真剣になること自体、ほとんどないもんなあ。


「ふう、無事終わったあ」

「お疲れ様ですわ、信次」

「あ、のばら。コーヒーありがとね」


 のばらが淹れてくれたコーヒーで、僕は一息つく。上手く取り持てたよね? 大丈夫だよね。


「明日はのばらとお料理会しましょうね」

「そうだね。のばらの好きなグラタンでも作ろうか」

「楽しみですわ」


 明日はのばらとゆっくり楽しみますか。今日という日は、のばらとのコーヒータイムでおしまいにして、ね。

 あ、嘘。お風呂は入りたいな。あと、洗い物もしなきゃ。

作者「皆は千切りできるかな? 因みにみじん切りはもっと出来ないぜ!」

のばら「のばら、がんばりますわ!」

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