お料理会(信次目線)
「よし、お弁当完成っと!」
「のばらも洗濯物干し終わりましたわ」
いよいよ今日はお料理会の日。今日はこそっと亜美のアラームを切って、亜美と兄貴のお弁当を作ったよ。洗濯はのばらが担当してくれた。
たまには、亜美も寝かせてあげたかったし、昨日亜美は早起きして、僕の為にエビフライを揚げてくれたしね。美味しかったなあ。
お料理会は、昼と夜の2回やることになって、夜からは亜美と兄貴も参加するみたい。
さ、亜美と兄貴を起こしに行くか。
「亜美、兄貴、朝だよ」
「むにゃ、まだアラーム鳴ってないよ」
「もう6時だよ」
「嘘、やば、寝過ごした!」
「ふわあ、おはよ。亜美、信次」
「大丈夫、朝の家事は僕達がやったからさ」
アラームを切ったことは内緒にして、と。
亜美と兄貴は慌てて起き上がって、食卓に向かった。
「どうしてアラーム鳴らなかったんだろ?」
「無意識に消したんだろ、きっと」
「疲れてたのかなあ、私」
「帰ったら早めに寝なね、亜美」
「そうですわ。毎朝かなり早起きしてますもの」
亜美が疲れているのは確かだもんなあ。目の下の隈、隠しきれてないもん。
明日は亜美も休みだし、早めにゆっくりして欲しいよ。勿論、兄貴と一緒に、ね。
「いったっだっきまーす! ああ、だし巻き卵が染みるよお。美味しい」
「俺もいただきます。ふー、信次の味噌汁って、なんかほっとするんだよな」
「いただきますわ。むしゃむしゃ。ご飯おかわりですわ!」
「のばら早いよ!」
僕もいただきますして、朝ご飯を食べ始める。今日は卵焼きも上手に焼けたし、お味噌汁も豆腐とワカメでシンプルに仕上げたし、上々だね。
皆も喜んで食べてくれてるから良かった。
「そう言えば、お料理会では何作るの?」
「昼は生姜焼きで、夜はオムライスだよ」
「やった! 楽しみだよ!」
「亜美はオムライス好きだもんな」
「今日のお料理会、お父さんも参加してくれるんだ。10時くらいには起こしてあげよっと」
お父さんも平日は、かなり忙しく働いているから、土日はなるべく寝かせてあげたいしね。兄貴も亜美も働いてるから、鬱で苦しんでるお父さんが無理に働く必要はないのにさ。
まあ、それを言ったら、兄貴も双極性障害を患いながら頑張っているけど。
皆、無理しないで欲しいよ。そのためにも、早く僕は立派な医者にならなきゃね。
「ごちそうさまでした! お弁当も楽しみだな」
「亜美ってば、朝ご飯食べたばかりでしょ?」
◇
それから亜美と兄貴は病院に向かい、僕とのばらはお料理会の準備をした後、お父さんを起こして、2人で勉強をする。
「のばらも指導係になりましたし、頑張りますわ」
「お互い医学書で勉強するの、って初めてだよね。そう言えば」
「ふふ、今まで信次は受験勉強ばかりしてましたものね」
兄貴も言っていたけど、のばらはやっぱり天才だよなあ。
採血も完璧だったし、この今の勉強でも、要点をスラスラ書けている。
医学書の内容は双極性障害だったんだけど、兄貴の病気だから、のばらも頭に入れてくれたんだね。
僕もこの病気に関しては、いくらでも書けるんだけどさ。
「ふう、もう11時ですわ。もうそろそろ皆様やって来ますわね」
「エプロン足りるだろうか。忘れる人もいるよな?」
「皆には持ってくるように言ってあるから大丈夫だよ、お父さん」
お父さんもわくわくしながら、お料理会の準備をしてくれてる。既に三角巾とエプロンはバッチリ装備済みだね。
そろそろ僕達もエプロンに着替えなきゃ。僕とのばらは勉強用具を片付けて、手を洗って、エプロンを纏う。
そうしているうちに、だんだん人も集まって来たよ。
「こんにちは、お久しぶりです。信次くん」
「日比野さんいらっしゃい。エプロンに着替えて待っててくださいね」
まずは日比野さんがやってきて。
「時任くん、取り持ってくれてありがとね。日比野さんもういるかなあ?」
「金田さんいらっしゃい。もう日比野さんいますよ」
「よし、話しかけるぞ! 頑張るね!」
海里のことを思うと、あまり頑張って欲しくないけど、取り持った手前、何も言えないんだよなあ。そんな噂をしていたら。
「おっす、信次。今日は何作るんだ?」
「豚の生姜焼きとオムライス。海里なら余裕でしょ?」
「勿論! 金田さんもう居る?」
「うん、もう居るし海里で最後だから早く着替えてね」
よし、集めるだけ集められたし、後は楽しくお料理会が出来たらいいな。皆美味しく作れるように、サポートして行かなきゃね。
海里もエプロンに着替え終わって、ようやくお料理会が始まった。
なんだかんだで3人で始まる前まで話してたみたいで、すっかり仲良くなってたよ。
「うう、信次、玉ねぎが目に染みるよ」
「しまった。冷蔵庫から暫く出してたから、温まっちゃったかな? 僕が切るよ」
「や、父さん頑張るぞ」
そう言いながらお父さんは、目を赤くしながら、玉ねぎを綺麗に切ってくれた。
「じゃあ、フライパン2つに分けて、肉と玉ねぎを炒めようか」
「のばらやりますわ!」
「あ、僕もやります」
そんな訳で、のばらと日比野さんが、お肉と玉ねぎを炒めてくれることになった。
しかし、日比野さんは。
「ああ、日比野さん油敷きすぎですよ!」
「え、そうなんですか?! どうしましょう……」
「油ポットに油を入れとけば大丈夫っす! 俺が入れるよ」
「ありがとうございます、海里くん」
「呼び捨てでいいっすよ」
早速日比野さんがやらかしたけど、皆でサポートし合って、事なきを得ていた。
海里のやつ、日比野さん歳上なんだから、ちゃんと敬語使えよ、全く。
でも、日比野さんそう言えば、料理全然出来ないんだよなあ。焼くのは焦げたら全てが終わるから、選手交代と行きますか。
「そうだなあ、肉焼くのは海里に任せて、日比野さんはその間に、生姜をすり下ろして下さい」
「すり下ろし、って、どうすれば?」
「一緒にやりましょ、日比野さん」
お、金田さん一歩リードかな? 海里、少しは頑張れよ、もう!
そんな訳で、海里は黙々とお肉と玉ねぎを焼く羽目になったのであった。
今のうちに調味料も準備しとかなきゃね。僕はお父さんと、醤油と酒とみりんを準備する。適量、適量。
「あ、信次くん。調味料の分量は?」
「1つのフライパンが大体3人前なので、醤油大さじ2杯と料理酒3杯とみりん大さじ1杯です」
「メモメモ。真にも作ってあげたいですからね」
「喜ぶと思いますよ」
「父さんもメモしたぞ!」
そうそう、目分量じゃなくて、ちゃんと測れば失敗はないからね。
「信次ー、そろそろ調味料と生姜入れどきだぞ」
「のばらのフライパンもですわ!」
「あ、今すり終わりました!」
こうして、フライパンに調味料と生姜を入れて炒めて、生姜焼き本体が完成した。
「やべ、美味そう」
「あ、しまった! キャベツ切ってなかったや。ちょっとまってね」
いけないいけない、うっかりしてたよ。僕は素早くキャベツを千切りにする。
「やっぱり、信次くんは上手ですね」
「慣れるまでが難しいですからね、千切りは」
「そうそう、九條リ音は未だに千切り出来ないらしいっす。旦那のが上手いらしいっす」
「うう、父さんはマスターするぞ」
僕はキャベツの千切りを、二つのお皿に盛り付ける。後は主役の生姜焼きを乗せるだけだ。
「うう、重たいですわ」
「のばら、僕が」
「あ、僕やりたいです!」
「じゃあ、日比野さんお願いします」
のばら力ないから、フライパンは重たいよなあ。海里と日比野さんは、綺麗に生姜焼きをお皿に盛り付けてくれた。
なんだ、日比野さん、盛り付け上手じゃん。
「ご飯も盛れたぞ、信次」
「じゃあ、食卓に運んで、早速食べよ!」
皆の協力のおかげで、とっても美味しそうな豚の生姜焼きが出来上がったね。うーん、この匂いもいいんだよなあ。
「「「「「「いただきます」」」」」」
「とっても美味しいですわ。豚肉のジューシーさと生姜と醤油の香りがたまりませんわ」
「本当ですね。簡単な工程だったのに、奥深いですね。すごく美味しいです」
「次は父さん1人で作れたらいいな」
「ブラボー! 美味しく出来たわ」
ん、ブラボー? 皆が目を丸くしていると。
「雪ちゃんアメリカ育ちだもんね。普段は結構英語使うのかな?」
あ、海里が珍しくフォローに入った。確かに金田さんはアメリカ育ちだもんね。そりゃ、日常会話くらいは英語が出てもおかしくないよな。
「えへ。確かに普段家では、英語も使うよ。幼稚園から大学までアメリカで育ったからさ」
「へえ、大学ま……大学?!」
「え、僕と同い歳ですよね? まさか飛び級?」
「大学卒業したのは2年前かな。一応医師免許も、アメリカのだけど持ってるよ」
「さ、才女過ぎますわ」
金田さん、すごい頭良かったんだ。しかも、アメリカで飛び級なんて、かなり難易度高いはずなのに。一から英語を覚えて、だもんね。しかも医師免許まで。
「でも、医者にはならなかったんですね」
「日本で医者になろうと思って、資格試験受かるまで五十嵐病院でバイトする予定だったのが、今の職場のが気に入ってさ。資格試験辞めて、育児センターの正社員面接に切り替えちゃった」
「天職だったんですね」
「うん。子供達の笑顔を見るのが、本当に愛おしいんだ」
そっか。金田さんのこと知らなかったけど、色々あったんだなあ。ちょっとしたバイトのつもりが、育児センターの正社員になっちゃうなんてね。
「そんな金田さんのような人がいるから、皆安心して、子供達を預けられるんでしょうね」
「えへ。日比野さんにそう言って貰えて嬉しいな」
「あ、全然友って呼び捨てで構いませんよ」
「じゃあ、友って呼んじゃお。私のことも、雪って呼んでね」
「あ、俺のことも海里って呼べよ」
「宜しくお願いします。雪、海里」
3人ともかなり仲良く話しているから、僕がのばらにあーんされてるのにも気付いてないや。ああ、のばらのあーん嬉しいな。
「信次、次はのばらですわ」
「はい、あーん」
◇
「ただいまー」
「ああ、兄貴おかえり」
「そろそろオムライスの準備しようぜ」
「え、まだ亜美が帰ってないけど」
「亜美には食べてもらいたいから、さ」
そんな兄貴の提案で、僕達は早速オムライス作りを開始する。
兄貴は亜美に、ふわふわオムライスを作りたいらしく、1人で黙々と調理に取り掛かっていた。
「流石深川先生、手際いいですね」
「亜美の好きなものだしな」
「さ、こっちで僕もオムライス教えるね」
それから、卵を溶いたり、玉ねぎをみじん切りにしたり、にんじんを切ったり、グリンピースを解凍したり、ケチャップを用意したり、皆で協力しあって、オムライスを作っていった。
炒めるときも1人ずつやったんだけど、少し焦がしてしまったり、フライパンが上手く動かせないとか、色々あったんだけど、その都度僕が教えながら、皆それぞれのオムライスが出来たよ。
「信次はのばらの食べてくださいまし」
「うん。のばらは僕のを食べてね」
「じゃあ、俺は亜美を迎えに行ってくるよ」
「亜美、昼間かなり眠そうだったの?」
「うん、昼間は仮眠室で寝かせたけど、まだ眠そうだったしな。きっと疲れ切ってるよ」
亜美、本当に無理ばっかりするんだから。
僕のエビフライの為に、あんなに早起きしてさ。絶対それが影響してるよ。そうでなくても、日々の仕事だって大変なのにさ。
今日は亜美の為に早起きしたけど、こんなんじゃ、全然恩は返せてないな。また亜美にお弁当作ってあげよ、っと。
◇
「ただいまー」
「おかえり。兄貴、亜美」
「すやすや」
亜美は兄貴の背中で、気持ちよさそうに眠っていた。やっぱり疲れ切っていたんだね。
「亜美、夜ご飯たべよ」
「むにゃ。あ、ただいま。信次」
亜美はむっくりと起き上がって、兄貴の背中からゆっくり降りていく。
2人は手を洗って、食卓に向かっていく。
「亜美、お疲れ様です」
「あ、友。オムライス上手に出来た?」
「ちょっとチキンライス焦がしちゃいましたが、バッチリです」
「時任さん初めまして。金田雪です」
「信次から話は聞いてるよ。宜しくね」
「俺は海里っす」
「知ってるよ!」
よしよし、皆揃ったね。皆でいただきますして、各々オムライスを食べ始めた。
「うわ、ふわふわだよ。すごく美味しい!」
「成功して良かったよ」
「あ、やっぱり京平作なんだね。さっそくあのお店のふわふわを取り入れたんだね」
兄貴、優しい顔して笑ってるや。亜美に対する愛情が、日に日に溢れかえっているよね。
僕とのばらも、こんな風に愛を紡いでいきたいな。
「友のオムライス貰うね」
「ああ、雪。僕の食べかけですよ?」
「えへへ、美味しいよ」
「じゃあ、俺は雪ちゃんの貰お」
「ああ、海里! 勝手にいいい」
あ、海里が金田さんに殴られてるや。そりゃ好きでもない相手と、間接キッスは嫌だろうしな。
なんか金田さんも、段々素が出て来てるよね。こんな性格だったんだなあ。恋愛に関しては、手段も選ばないし。
「お腹いっぱい。おやすみ」
ああ、亜美、限界だったか。お腹いっぱいになって、眠たくなっちゃったんだね。
「俺も亜美と寝てくるよ。明日休みだしな。皆、おやすみ」
兄貴は優しく笑って、亜美を抱き抱えて部屋に入っていく。そっか、亜美と一緒に眠りたいんだね。
最近兄貴、自然に笑うことが増えたんだよね。あと、体調を気遣って眠ることも。
少しずつだけど、自分を大切にしてくれている。自分を好きになってくれている。
亜美が良い方向に、兄貴を変えてくれたんだね。
「深川先生、あんなに時任さんのこと、愛してるんだね」
「すごく優しい笑顔をするんですよね、亜美には」
「愛って、優しいんだな。そんな気がする」
そんな話をしながら、お料理会はお開きとなった。
日比野さんと金田さんと海里はライムの交換をして、名残惜しそうに帰路に着く。
どことなく海里が、真剣な目をしていたのは気のせいかな? あいつが真剣になること自体、ほとんどないもんなあ。
「ふう、無事終わったあ」
「お疲れ様ですわ、信次」
「あ、のばら。コーヒーありがとね」
のばらが淹れてくれたコーヒーで、僕は一息つく。上手く取り持てたよね? 大丈夫だよね。
「明日はのばらとお料理会しましょうね」
「そうだね。のばらの好きなグラタンでも作ろうか」
「楽しみですわ」
明日はのばらとゆっくり楽しみますか。今日という日は、のばらとのコーヒータイムでおしまいにして、ね。
あ、嘘。お風呂は入りたいな。あと、洗い物もしなきゃ。
作者「皆は千切りできるかな? 因みにみじん切りはもっと出来ないぜ!」
のばら「のばら、がんばりますわ!」