安心出来る場所
「それじゃあ、2人とも楽しんでいらしてね」
「いってらっしゃーい」
結局のばらは、10時からの信次と海里くんの勉強会のサポートをする事になり、我が家に残った。
のばらは飛び級こそしてないが、聖カナリア高校というエリートお嬢様学校卒なので、頭はかなり良い。その為、信次もサポートをお願いしたみたい。海里くんヤバいらしいしね。
京平も、部屋に閉じ込められている間に着替えたようだけど、なんかビシっと決めちゃってんなあ。
チェスターコートにニット、スラっとしたパンツも凄く似合ってる。アクセントのグレーのマフラーも良いね。ああ、写真撮りたくなっちゃうよ。
そもそも遊びに行く事自体かなり久しぶりだ。
ずっと休みも合わなかったし、休みが合っても大体京平は寝ているし、無理はさせたくないし、で。
勇気を出して、遊びに誘えて本当に良かった。
「さてと、まずは何処に行こっかな?」
「亜美、リードするんじゃなかったのか? まだ決めてないのか」
「だって久しぶりだから、行きたいとこ沢山あるんだもん」
そう、私はリードすると言っといて、未だにいく場所を決めかねていた。
カラオケにも行きたいし、ゲーセンも行きたいし、ボウリングも良いなあ。なんて。
夜は夜景の綺麗なとこに行って、告白出来たらなあとは思っているけど。
「取り敢えず、区内に出ないとな。駅まで行こうか」
「そうだね、ここら辺じゃあんまり遊び場ないしね」
駅は我が家から徒歩15分くらい。コンビニと大体同じくらいだね。
でも、今日も冷えるなあ。一応のばらから借りた服の上に、白いロングコートは着て来たのだけど、それでも寒い季節である。お手手はポッケにインしてる。
「亜美、大丈夫か? 疲れてるように見えるけど?」
何てこったい、のばらにメイクして貰って、隈は何とか隠したのに、顔に出ちゃったかな?
京平には、一睡も出来ない事言ってないしなあ。
でも、私も言い返しちゃうもんね。
「そういう京平は隈凄いよ? 私は寒いだけだから大丈夫だよ」
「なんだ、寒いのか。右手出してみ?」
「え、右手?」
なんかくれるのかな? と思って、私は右手をポッケから出した。
「ほら、こうすりゃもっとあったかいだろ?」
「え」
京平は私の手の指の間に指を入れて握ってくれたかと思うと、その手をそのまま京平はコートのポッケにいれた。
いつもとは何か違う。これは恋人繋ぎだ。でも、これもいつもの妹スキンシップなのかな?
そうだとしても、私の顔は瞬く間に熱くなっていく。
「ありがとね、京平」
「なんなら俺も寒かったしな」
京平が優しく笑った。この笑顔に何度癒されれば気が済むんだ、私は。本当にいつも安心させてくれるのは京平なんだよな。
あれ、緊張が解けたからかなあ。安心したからかなあ。何だか、少し眠くなって来たかも。
電車に乗れば区内までは30分だから、その辺りで眠れたらいいかな?
折角のデートなのに眠くなるなんて、私のバカバカ。
と、チラリと京平を見てみたんだけど、あれ? 京平も眠そうだ。
京平も安心したのかな。だとしたら嬉しいな。
これは私が起きてなきゃだ。京平は今週の激務後だから、無茶苦茶眠いはずだしね。
と、2人で眠そうな顔をしながら駅に着いた。
こんなに眠そうな顔して歩いてる2人とか、中々居ないよなあ。
「区内は300円か。亜美、シイカ持ってきたか?」
「うん。持ってるよ。チャージもあるよ」
「俺チャージがないなあ。ちょっとチャージするから待っててな」
待っててな。と言ってる癖に、京平が手を離す事は無かった。寧ろ、力もさっきより入ってるくらい。チャージしづらいだろうに。
私から手を離そうかとも思ったんだけど、やっぱり離したくないんだよな。つい、手を握り返した。
「お待たせ。じゃ、行こっか」
こうして、駅に着いても、改札を通り抜ける時も、私達は手を繋いでいた。
どんな風に見られてるんだろうなあ。
電車は朝早い事もあって、難なく座る事が出来た。私も京平も、混み合ってる時は座らないタイプなので、眠たい今は地味にありがたい。
こんな感じで座っていると、少し寝息が聞こえてきた。ああ、やっぱり。京平は寝てしまったようだ。でも手は離さないって、どう言うこっちゃ。
京平の身体は電車が揺れるたびに少しずつ動いていき、気付いたら、私に寄り掛かっている。
お疲れ様だったね、京平。少しの時間だけど、安心して眠れてるといいな。
あ、そうだ。どうせ私達睡眠不足なんだから、この後は漫画喫茶に行こうかな。
少し広い部屋なら2人揃って休めるし、そんな部屋が無くても、京平だけは寝かせてあげられるかも。
よし、やっとプランがひとつ決まったぞ。
と、思ったら、何か眠気がさっきより増してきたぞ。ダメだ、凄く眠いや。少しだけ、私も寝よっと。
◇
「亜美、亜美、次の駅で区内だぞ」
「ん、うーん。おはよ、京平」
あ、気付いたら私、京平に寄り掛かって寝てるじゃん。こんなはずでは……バカバカバカ。
「ごめん、京平」
私は普通に座り直す。
「謝んなよ。俺も今起きたとこだし。ありがとな、亜美」
お礼を言われる事なんて、何も出来てないのにな、私。
こうやって元気付けてくれるのも、いつも京平だったね。
「ただ、俺こそごめん。正直、結構眠いかも。この後、漫画喫茶でもいいか?」
「うん、私もそのつもりだったから。ゆっくり休もうね」
お互い、考える事も一緒なんだね。なんだかほっこりするね。
「あ、着いた。降りるぞ、亜美」
「うわっと。京平早いよ」
「ごめんな、ゆっくり歩くな」
私達はゆっくりと、駅近の漫画喫茶まで向かった。この時間なら、よっぽどの事がない限りは空いてるはず。
後は広い部屋があれば、尚良しなんだけどなあ。と、思いながら歩いていると、漫画喫茶に着いた。
「いらっしゃいませー。お二人様ですか?」
「はい、大人2名で、出来れば少し広い部屋って空いてますか?」
私がそういうと、店員さんが……。
「ちょうどカップルシートが空いてますので、そちらにお通ししますね。14番の席へどうぞ」
「は、はひ」
カップル、ではないのだけど、いいのかなあ。でも私も出来れば寝たい。ので、それは黙っといた。でも、カップルに見えたのだとしたら、嬉しいな。ちょっと申し訳ない気持ちもあるけれど。
「ふー、やっと着いたな。亜美といると安心するから、眠たくなっちゃうんだよな。すまんな」
「や、私も京平となら安心できるしね」
お互い安心出来ているんだね。なんだか嬉しいな。
「あ、亜美のコート貸して」
「え、良いけどどうするの?」
「布団にすんの」
「はい、どうぞ。それじゃ、お休み。京平」
と、声を掛けたら、身体にふぁさっと何かが掛かった。
「亜美には俺のコート貸してやる。風邪引いちゃうし」
「あ、ありがと。京平」
京平のコート、京平の匂いがする。凄く安心するなあ。
「こうやって亜美と寝るの久しぶりだな」
「部屋分ける前以来だもんね」
「昔はこうやって、亜美を寝かしつけていたんだぞ」
と、京平がいうと、急に抱きしめてくる。
「寧ろ俺が安心してるかも。じゃ、お休み」
抱きしめられたままの私は、心臓がバクバクして止まらなかった。
確かに昔はこうやって寝た事もあったけど、今はこんな事されてないから慣れないよ。なんだかんだで嬉しいんだけどさ。
だから、抱き返しといた。
そんな状態で、早くも京平は寝息を立てている。私も、京平の温もりにすごく安心したから寝よっと。
◇
そして、私は夢をみた。私が京平を愛するキッカケになった、あの日の夢を。
作者「デート編開始ですな」
亜美「京平がいつもとなんか違う気がする」
のばら「メイク効果がでたのですわ」
作者「一方で、のばらも信次と仲良くなったね」
信次「いやあ、海里がやばすぎて」
海里「数三やぶぇ!」