亜美に会いたい(京平目線)
亜美、日に日に、亜美のことが愛しくなっていくよ。
亜美の笑った顔を見ると、こっちまで笑顔になるし、いつも楽しい気持ちにさせて貰えるんだ。
悲しい気持ちの時も、亜美はいつもそんな俺を受け止めてくれるから、いつも思い切り泣けるんだ。
それに亜美といると安心出来る。安心し過ぎて、いつもすぐに眠たくなっちゃうくらい。
そんな亜美を、守りたいし笑わせたいな。
亜美の笑顔があれば、何にもいらないからさ。
俺の隣で、ずっと笑ってて欲しいな。
「へへ、だーれだ!」
「京平ってば、なにやってんの?」
「ん、最近亜美にこういうことしてないな、って」
「なんてね。ちょっと嬉しかったかも」
「皆居るからいこ」
「え、皆って?」
「ま、来れば解るよ」
今日は4/9。久々に亜美と勤務も合ったし、新人研修で休憩時間も久々に合うから、楽しみでしょうがなくて、今か今かと亜美を待っていたんだ。
「亜美は俺の隣ね」
「席取っといてくれたんだ。ありがとね」
「あ、時任先輩、遅いですよー」
「なるほ、皆って新人達かあ」
「フレッシュだよな」
「あ、因みに僕もいますよ」
今日は医師、看護師の新人勢と、日比野くんと一緒にご飯を食べることになった。
俺と亜美は、日比野兄弟と磯部さんと東条くんの看護師達の近くの席だ。
「本当に日比野兄弟は似ているよな?」
「兄ちゃんのがかっこいいだよ」
「顔は変わらないですよ、真」
「ん、弟にも敬語なのか? 日比野くん……って、これからは苗字呼びだと紛らわしいな」
「名前呼び捨てで構いませんよ、僕は。因みに家で厳しく躾けられて、敬語が抜けないんですよ」
「じゃあ、友くんって呼ぼうかな」
少し話し合って、これから区別を付けるためにも、友くん真くんと呼ぶことになった。
この2人、顔もかなり似てるからなあ。真くんには泣きぼくろがあるって違いしかないから、間違えないように気をつけなければ。
「わ、私も呼び捨てでいいですよ!」
「あ、ついでに俺も」
新人看護師さん達も、俺に呼び捨てで呼ばれたいのかな? なかなか可愛いとこあるじゃん。
「じゃあ、美紀さん、司くんって呼ぼうかな? 宜しくな」
「はい、宜しくお願いします!」
「宜しくです」
そんな話をしながら、俺達は弁当を食べ始めた。
すると、後ろから甲高い声で俺を呼ぶ声が聞こえる。ああ、例のあの人が現れたか。
「深川先生! まゆと一緒にご飯食べましょ!」
「ごめん、いま皆とご飯食べてるから……あと、彼女もいるし」
天王寺まゆりさん。正直、休憩時間が合う時は憂鬱で仕方ないよ。
急に抱きしめてくるとかはなくなったけど、亜美以外の人を好きになることはないから、そんなにアプローチされても鬱陶しいというのが本音だ。
「まゆのが魅力的だから、まゆと付き合って欲しいです。楽しいですよ」
「だから、彼女以外興味ないから、俺」
俺は煩わしさで、少し声を荒げてしまう。あ、流石にやり過ぎたかな?
でもこれくらい言わないと、辞めてくれなそうだしなあ。同僚になった今は、きちんと伝えないと。
「うふふ。隣空いてるんで、まゆは隣に座りますね」
強く言ったのに、引き下がらねえな?
あ、亜美が不機嫌そうな顔してる。亜美にそんな顔させたくないのに。
こんなに強引な天王寺さんを抑えるにはどうしたらいいんだ?!
俺が頭を抱えていると。
「天王寺さん、深川くんにしつこくしないように言ったでしょ?」
「あ、めぐたん主任部長。すきだからしょうがないんですよ!」
お、愛さんが止めに来てくれたぞ。助かるよ、愛さん。
「取り敢えず話し合いが必要みたいね。奢るから一緒にご飯食べに行くわよ!」
「ええ?! 深川先生と一緒に居たいですぅ!」
「深川くんも迷惑がってるわよ。引くことも覚えなさい」
「ひーん」
こうして愛さんによって、邪魔者だった天王寺さんは居なくなった。本当にありがたすぎるよ、愛さん。
「亜美、もう天王寺さんは居なくなりましたから、顔を顰めるのはやめましょ?」
「あ、顔そんななってた?」
「うん、かなりなってたぞ。ごめんな、亜美」
「京平にその気がないのは解ってたんだけど、やっぱり気になっちゃって」
亜美を心配させたくはないんだけど、天王寺さんが俺に付き纏い続ける限りは、亜美も気にしてしまうよな。本当に申し訳ない。
亜美が不安がる必要はないのだけど、いい気がしないのは確かだよな。俺だって、同じ立場ならいい気はしないし。
「いっそのこと、亜美を抱きしめれば良かったかな? 天王寺さんの前で」
「京平、それは私も恥ずかしいよ。嬉しいけど」
「ははは、取り敢えず弁当も食ったし、少し寝ようかな」
「私も傍にいるね」
「いつもありがとな、亜美」
教え疲れってやつかな。少し眠たかったから、俺は仮眠室で寝ることにした。亜美も傍にいてくれるし、幸せだよな、俺。
「結構強めに言ったんだけどな、天王寺さんには」
「中々諦めてくれないもんね」
「そうだよ。俺には亜美しか要らないのに」
「うん、私も絶対離さないもん」
亜美は優しく俺をポンポンしてくれた。
うざったいこともあったけど、やっぱり亜美がいると強張った心も和らぐよ。ふわあ、もうこれは眠りに落ちる寸前だな。
「おやすみ、亜美」
「おやすみ、京平」
亜美、愛してるよ。なんでいつもそれだけなのに、いつも伝えられないんだろうな。俺って。
ふわあ、おやすみ。
◇
「京平、そろそろ時間だよ」
「うーん、おはよ。亜美」
「京平、おはよ」
眠っている俺を、亜美が起こしてくれた。幸せ過ぎる目覚めだよ。
「この後も研修頑張ってね」
「ありがとな。頑張るよ」
次に亜美と会えるのは家か。かなり寂しいんだけど、仕事はしないとな。
俺は亜美の手を少し握った後、仕事に戻っていく。
研修室に戻ると、既に池林くんと小森さんは、自習をしながら待機してくれていた。
「あ、深川先生! 次は私達の席に来て、一緒にご飯食べましょうね!」
「うす」
「ああ、次は一緒に食べような」
因みに五十嵐病院の研修医制度は少し特殊で、まずそもそもインターンに来た人しか採用しない。そのインターン期間でローテート、必須科目の外科、内科、小児科、産婦人科、精神科、救急、地域医療といった科を回り、面接の時にはもう希望の科を決めてもらっているのだ。
そうすることで、より専門的に診れる医者を育てていく、という訳だ。
ただ、緊急外来に入ることもあるので、座学、実習を通して、ローテートも行われる。
いや、正確にはローテートじゃないかな。それぞれの科に行くんじゃなくて、受けもってる指導医……つまり俺達が教えなくてはならないので、知識がかなり必要だ。
俺は残念ながら、外科の実習がてんで駄目なので、外科の実習だけは鈴木先生に担当して貰っている。
「さ、座学始めるぞ。来週から実習も始まるからな」
◇
「レポートは明日鈴木先生に提出な」
「今回も範囲広いですねえ。でも深川先生は解りやすく教えて下さるので、スラスラ書けそうです。後は予習もしなきゃですね!」
「うす」
実習来週からだけど、池林くんは大丈夫かな? 結局今日、「うす」しか言ってないもんなあ。コミュニケーション能力が心配過ぎる。
「俺は明日休みだけど、昼は病院にいくから、一緒にご飯たべような」
「嬉しいです!私、いろんなお話を深川先生としたかったんです。楽しみだなあ」
「うす」
まだまだ話せていないことも沢山あるもんな。折角なら仲良くなりたいし、明日は色々話したいな。
亜美のことばかり話さないようににしないと、だけど。
明日だって、亜美に会いたくて病院に行くようなもんだしな。
「それじゃあ、お疲れ様」
「深川先生、お疲れ様です」
「うす」
今日の勤務も終わったし、今晩は何を作ろうかな。そんなことを考えながら、ロッカーに向かう。
肉じゃがも久しぶりにいいかもな。なんなら、カレーも最近作ってないし。
夜ご飯のことばかり考えていたんだけど、そんな中、後ろから声が聞こえた。
「深川先生、お疲れ様です」
「ああ、美紀さん。お疲れ様」
「そうだ、少し相談に乗って欲しいです」
「お、なんだなんだ?」
そう言われて、ロッカーに向かっていた足は休憩室に動いていく。
「で、相談ってなんなんだ?」
「実は私、好きな人がいまして……時任先輩と付き合ったとき、どう告白したのかな、って思いまして」
やばい、これはかなり恥ずかしいぞ。亜美が俺を好きだって確信があったから、好きとも愛してるとも付き合ってくださいとも言わず、キスして気持ちを伝えた、だなんて。
よく考えなくても、同意なしでキスしちまってるもんな。よくはないよな。
流石にこれを話すのは恥ずかしいから、少し嘘を吐くか。
「普通に自分の気持ちを伝えたよ。それが届いたから、今に至るって感じかな?」
「素直に伝えたってわけですね。なるほど」
「少しは参考になったかな?」
「はい、有難うございます。近々告白しようと思います!」
まずは好きになってもらう努力を、と言いかけて俺は口を紡ぐ。
そもそも俺だって、好きになってもらう努力はしてないし、なぜ亜美がこんな俺のことを愛してくれているかも、全然解らないから。
亜美は俺のこと優しいって言うけど、ただ気が弱いだけだし、人はかなり選ぶ方だし。
どんなとこを愛してくれているのかな、亜美は。
◇
「ただいま」
「お帰り、京平」
信次はもうバイトに行ってるかな。
今日は信次の好きな肉じゃがにしようかな。美味しい白滝もこの前買えたしな。
俺は手を洗って、エプロンを付けて、調理に取り掛かる。
「おお、私も教わりたいが、まだ仕事がああ」
「またの機会だな。楽しみに待っててな」
俺は手際良く材料を切って、白滝の灰汁を取って結んで、材料を軽く炒めて、醤油、酒、みりんを入れて煮込み始める。
後はほうれん草のお浸しでも作ろうかな?
それと、大根のお味噌汁にしようかな。
「おお、良い匂いがしてきたな」
「うん、もうすぐ出来るよ」
なんだか亜美に会いたくなってきた。後数時間で会えるのに、さ。
「お父さん、ご飯作り終わったから、少し寝るよ」
「おやすみ、京平」
亜美が居ない時間がどうにも寂しくて、俺は寝ちまうことにした。
起きる頃には亜美の笑顔が見れますように。
おやすみ。
京平「亜美、会いたいよ。むにゃむにゃ」




