入学式の後
それから私達はお昼を食べて、各々のんびり過ごしていた。
スーツから部屋着に着替えたら、緊張の糸が切れて、今、かなりうつらうつらとしている。
ああ、もうダメ。かなり眠いよ。私はソファにごろんと転がる。そしてそのまま、夢見心地になりながら眠ってしまった。
「もう、亜美ってば」
むにゃむにゃ。身体が上に上がってる。そっか、信次が私を運んでくれてるんだね。信次の手も温かいや。いつもいつもありがとね。
「いつもありがとね、亜美。おやすみ」
もう、それは私の台詞だってば。いつも美味しいご飯を作ってくれて、私が寝ちゃった時はこうやって運んでくれたりさ。
明日から信次も忙しくなるし、無理はしないで欲しいな。おやすみ。
◇
「亜美、ご飯できたぞ。そろそろ起きな」
「むにゃ。あ、京平。おはよ」
「おはよ、亜美」
時計を見るともう20時だ。今日は京平がご飯を作ったみたいだね。今日は信次のお祝いだし、カツ丼かな?
「美味しいの作ったからな」
「それは楽しみ」
そんな訳で私はむっくりと起き上がって、京平と一緒に部屋を出る。
「あ、おはよ、亜美」
「おはようございますわ、亜美」
「おはよう、亜美」
「えへへ、おはよ」
いつも暖かく迎えてくれる家族がいるって、本当に幸せだなあ。私は思わず笑う。
「今日は兄貴が特大カツ丼作ってくれたよ!」
「お、確かにカツがめちゃ大きいね」
「信次の入学祝いだしな、さ、亜美も座って」
私は血糖値を測った後、インスリンを注入する。よしよし、今日は安定しているね。
因みに血糖値を測った後のゴミは、私用の小さなゴミ箱にいれているよん。針はケースに入れておいて、後でまとめて廃棄ケースに入れているけど。
「それじゃあ」
「「「「「いただきます」」」」」
「うん、カツがめちゃくちゃジューシーだよお。卵との相性も抜群!!」
「兄貴のカツ丼最高!」
「喜んで貰えて良かった」
「おかわりですわ!」
「のばら、早!!」
皆、思い思いにカツ丼を食べてるなあ。のばらなんて、もうおかわりしてるしね。
あ、そうだ。今なら皆揃ってるよね?
「のばら、写真撮らない?」
「そうですわね。皆で撮りたいですわ」
そうと決まったらのばらは早い。三脚を瞬く間に準備して、カメラをタイマーでセットすると。
「みんな、あと10秒ですわ!」
「カツ丼食べながら撮られようかな」
「ピースピース!!」
「おお、髪型大丈夫か、私」
「亜美を後ろから抱きしめよ」
「あ、兄貴ずるい!」
ーーパシャッ!!
ちゃんと撮れたかな? どさくさに紛れて、京平が私を抱きしめてきたのは置いといて。
「いい感じに撮れましたわ」
「信次、入学おめでとね!」
「えへへ、ありがとう」
そうだ、信次に渡すものがあるんだった!
京平も準備始めてるから、私も持ってこなきゃ。
「ん。亜美と兄貴どうしたの?」
「と、お待たせ。信次の入学祝いに、私から信次にプレゼントだよ」
私は、信次に封筒を渡した。中身は。
「亜美、こんなに貰えないってば」
「いひひ、お小遣いあげたんだから、バイトもほどほどにしなよ?」
「ありがとね、亜美!」
「え、亜美、何円入れたの?」
「5万円。少ないほうだよ」
信次、色々無理をしそうだから、無理をしなくてもいいようにお小遣いをあげることにしたのだ。
入学祝いにしては少ないかもだけど、大切に使って欲しいな。
「俺は大したものじゃないけど、大学時代のレポート。参考程度に見て、勉強しろよ。今と昔とじゃ、違うとこもあるだろうけど」
「それすごく嬉しいや。兄貴もありがとね」
するとのばらも、もぞもぞし出した。あ、のばらも何か用意してたんだね。なんだろ?
「信次、のばらからもプレゼントですわ」
「有難うのばら。って、これワインじゃん。僕、まだ飲めないよ?」
のばらは、信次が生まれた年のワインをプレゼントしたみたい。でも、確かに信次はまだ未成年だしなあ?
「今は。ですわ。呑めるようになったら、皆で呑むのですわ」
「それなんかオシャレだね。その日が楽しみだな」
「卒業式の時に呑んでもいいかもな」
「あ、それナイスアイデアですわ!」
「楽しみだね、のばら」
最後はお父さんだね。お父さんは待ってましたとばかりに、信次に大きな包みを渡した。
「お父さんからもプレゼントだぞ」
「お、この重みは……医学書だね」
「も、あるけど、まあ見てみなさい」
信次は勢いよく包みを解くと。
「これ、アルバム……」
中は、医学書の山と、その医学書の山の1番上に、小綺麗なアルバムがあった。
信次はアルバムを開くと、小さい頃の私達の写真から、最近の写真まで、色々な写真で埋め尽くされている。
「京平が送ってくれていた写真を、少しずつまとめていたんだ。これからは、私も一緒に写っていたいな」
「うわあ、懐かしい写真もあるね」
「会えていなかったけど、そんな時でも亜美と信次のことを忘れたことはなかったよ」
「ありがとね、お父さん。お父さんも写真見るの、辛かった時期もあっただろうに、ありがとね」
お父さんも今ではあの女のことは過去に出来ているけど、昔はそうもいかなかったもんね。
だからこそ、最近まで一緒に暮らせていなかった訳だし。
それでもこうやって少しずつ、私達の写真をアルバムに纏めてくれていたんだね。
「あ、亜美の分もあるからな。写真、焼き増ししてたんだ」
「ありがとね、お父さん」
「アルバム、ついつい見ちゃうなあ」
「こら信次、もうプレゼントは全部受け取ったんだから、ご飯食べなさい!」
「勿論! というか、おかわり」
◇
ご飯を食べ終わった私は、京平と走りに行く。昼間しっかり寝たし、ご飯も食べたし、体調も万全だからね。走ることも私の病気にとっては、大事なことだからさ。
相変わらず私は京平のペースには付いていけないけど、自分のペースを保つことには慣れて来たよ。走ってるときは、走ることに集中することも、ね。
でも、走ってる京平も格好良いから、本当は間近で見たいんだけどなあ。昔一緒に出た運動会のときの京平なんて、むちゃくちゃ素敵だったんだから。
「何度も惚れちゃうな、私」
夜風が私の髪を揺らして、私の気持ちを昂らせる。京平を愛してるって、心が躍る。京平の傍に居たいって、心が騒ぐ。いつだって簡単に、私は京平に振り回されるんだ。
京平をいつだって助けたいし、いつだって守りたいし、いつだって頼って欲しいよ。
ああ、もう耐えきれないよ。私は全力疾走で京平の元に行って、京平を後ろから抱きしめた。
「亜美、嬉しいけど走ってる時は集中な」
「だって、耐えきれなくて」
すると京平は、優しく笑う。
「待って。顔を見て抱きしめたい」
京平は身体を少し捻って振り向くと、強く私を抱きしめてくれた。温かい。本当にこの場所が大好きだなあ、私。
「バカ。俺だって、結構我慢してるんだからな?」
「へえ、例えば?」
「病院でも亜美を抱きしめたくなるし、亜美を抱きしめて眠りたいよ」
「えへへ、そう思ってくれてありがとね」
私達はギュッと抱きしめあって、夜の帳に紛れていく。こんな時間も、私はとても好き。
京平と過ごしている時間は、いつだって笑顔になるし、楽しいもんね。
京平「キスもしたくなってきた」
亜美「もう、ちょっとだけだよ?」




