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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
新人看護師と新人医師といっちゃってる新人精神科医
217/242

入学式の後

 それから私達はお昼を食べて、各々のんびり過ごしていた。

 スーツから部屋着に着替えたら、緊張の糸が切れて、今、かなりうつらうつらとしている。

 ああ、もうダメ。かなり眠いよ。私はソファにごろんと転がる。そしてそのまま、夢見心地になりながら眠ってしまった。


「もう、亜美ってば」


 むにゃむにゃ。身体が上に上がってる。そっか、信次が私を運んでくれてるんだね。信次の手も温かいや。いつもいつもありがとね。


「いつもありがとね、亜美。おやすみ」


 もう、それは私の台詞だってば。いつも美味しいご飯を作ってくれて、私が寝ちゃった時はこうやって運んでくれたりさ。

 明日から信次も忙しくなるし、無理はしないで欲しいな。おやすみ。


 ◇


「亜美、ご飯できたぞ。そろそろ起きな」

「むにゃ。あ、京平。おはよ」

「おはよ、亜美」


 時計を見るともう20時だ。今日は京平がご飯を作ったみたいだね。今日は信次のお祝いだし、カツ丼かな?


「美味しいの作ったからな」

「それは楽しみ」


 そんな訳で私はむっくりと起き上がって、京平と一緒に部屋を出る。


「あ、おはよ、亜美」

「おはようございますわ、亜美」

「おはよう、亜美」

「えへへ、おはよ」


 いつも暖かく迎えてくれる家族がいるって、本当に幸せだなあ。私は思わず笑う。


「今日は兄貴が特大カツ丼作ってくれたよ!」

「お、確かにカツがめちゃ大きいね」

「信次の入学祝いだしな、さ、亜美も座って」


 私は血糖値を測った後、インスリンを注入する。よしよし、今日は安定しているね。

 因みに血糖値を測った後のゴミは、私用の小さなゴミ箱にいれているよん。針はケースに入れておいて、後でまとめて廃棄ケースに入れているけど。


「それじゃあ」

「「「「「いただきます」」」」」

「うん、カツがめちゃくちゃジューシーだよお。卵との相性も抜群!!」

「兄貴のカツ丼最高!」

「喜んで貰えて良かった」

「おかわりですわ!」

「のばら、早!!」


 皆、思い思いにカツ丼を食べてるなあ。のばらなんて、もうおかわりしてるしね。

 あ、そうだ。今なら皆揃ってるよね?


「のばら、写真撮らない?」

「そうですわね。皆で撮りたいですわ」


 そうと決まったらのばらは早い。三脚を瞬く間に準備して、カメラをタイマーでセットすると。


「みんな、あと10秒ですわ!」

「カツ丼食べながら撮られようかな」

「ピースピース!!」

「おお、髪型大丈夫か、私」

「亜美を後ろから抱きしめよ」

「あ、兄貴ずるい!」


ーーパシャッ!!


 ちゃんと撮れたかな? どさくさに紛れて、京平が私を抱きしめてきたのは置いといて。


「いい感じに撮れましたわ」

「信次、入学おめでとね!」

「えへへ、ありがとう」


 そうだ、信次に渡すものがあるんだった!

 京平も準備始めてるから、私も持ってこなきゃ。


「ん。亜美と兄貴どうしたの?」

「と、お待たせ。信次の入学祝いに、私から信次にプレゼントだよ」


 私は、信次に封筒を渡した。中身は。


「亜美、こんなに貰えないってば」

「いひひ、お小遣いあげたんだから、バイトもほどほどにしなよ?」

「ありがとね、亜美!」

「え、亜美、何円入れたの?」

「5万円。少ないほうだよ」


 信次、色々無理をしそうだから、無理をしなくてもいいようにお小遣いをあげることにしたのだ。

 入学祝いにしては少ないかもだけど、大切に使って欲しいな。


「俺は大したものじゃないけど、大学時代のレポート。参考程度に見て、勉強しろよ。今と昔とじゃ、違うとこもあるだろうけど」

「それすごく嬉しいや。兄貴もありがとね」


 するとのばらも、もぞもぞし出した。あ、のばらも何か用意してたんだね。なんだろ?


「信次、のばらからもプレゼントですわ」

「有難うのばら。って、これワインじゃん。僕、まだ飲めないよ?」


 のばらは、信次が生まれた年のワインをプレゼントしたみたい。でも、確かに信次はまだ未成年だしなあ?


「今は。ですわ。呑めるようになったら、皆で呑むのですわ」

「それなんかオシャレだね。その日が楽しみだな」

「卒業式の時に呑んでもいいかもな」

「あ、それナイスアイデアですわ!」

「楽しみだね、のばら」


 最後はお父さんだね。お父さんは待ってましたとばかりに、信次に大きな包みを渡した。


「お父さんからもプレゼントだぞ」

「お、この重みは……医学書だね」

「も、あるけど、まあ見てみなさい」


 信次は勢いよく包みを解くと。


「これ、アルバム……」


 中は、医学書の山と、その医学書の山の1番上に、小綺麗なアルバムがあった。

 信次はアルバムを開くと、小さい頃の私達の写真から、最近の写真まで、色々な写真で埋め尽くされている。


「京平が送ってくれていた写真を、少しずつまとめていたんだ。これからは、私も一緒に写っていたいな」

「うわあ、懐かしい写真もあるね」

「会えていなかったけど、そんな時でも亜美と信次のことを忘れたことはなかったよ」

「ありがとね、お父さん。お父さんも写真見るの、辛かった時期もあっただろうに、ありがとね」


 お父さんも今ではあの女のことは過去に出来ているけど、昔はそうもいかなかったもんね。

 だからこそ、最近まで一緒に暮らせていなかった訳だし。

 それでもこうやって少しずつ、私達の写真をアルバムに纏めてくれていたんだね。


「あ、亜美の分もあるからな。写真、焼き増ししてたんだ」

「ありがとね、お父さん」

「アルバム、ついつい見ちゃうなあ」

「こら信次、もうプレゼントは全部受け取ったんだから、ご飯食べなさい!」

「勿論! というか、おかわり」


 ◇


 ご飯を食べ終わった私は、京平と走りに行く。昼間しっかり寝たし、ご飯も食べたし、体調も万全だからね。走ることも私の病気にとっては、大事なことだからさ。

 相変わらず私は京平のペースには付いていけないけど、自分のペースを保つことには慣れて来たよ。走ってるときは、走ることに集中することも、ね。

 

 でも、走ってる京平も格好良いから、本当は間近で見たいんだけどなあ。昔一緒に出た運動会のときの京平なんて、むちゃくちゃ素敵だったんだから。


「何度も惚れちゃうな、私」


 夜風が私の髪を揺らして、私の気持ちを昂らせる。京平を愛してるって、心が躍る。京平の傍に居たいって、心が騒ぐ。いつだって簡単に、私は京平に振り回されるんだ。

 京平をいつだって助けたいし、いつだって守りたいし、いつだって頼って欲しいよ。


 ああ、もう耐えきれないよ。私は全力疾走で京平の元に行って、京平を後ろから抱きしめた。


「亜美、嬉しいけど走ってる時は集中な」

「だって、耐えきれなくて」


 すると京平は、優しく笑う。


「待って。顔を見て抱きしめたい」


 京平は身体を少し捻って振り向くと、強く私を抱きしめてくれた。温かい。本当にこの場所が大好きだなあ、私。


「バカ。俺だって、結構我慢してるんだからな?」

「へえ、例えば?」

「病院でも亜美を抱きしめたくなるし、亜美を抱きしめて眠りたいよ」

「えへへ、そう思ってくれてありがとね」


 私達はギュッと抱きしめあって、夜の帳に紛れていく。こんな時間も、私はとても好き。

 京平と過ごしている時間は、いつだって笑顔になるし、楽しいもんね。


京平「キスもしたくなってきた」

亜美「もう、ちょっとだけだよ?」

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